花火は好きかい?
花火は好きかい?
どうした意図なのかを推し量る事ができずにきょとんとしていると、彼は少し照れ笑いを浮かべながら、これは借りた本のお礼と一言付け加えて白く長細い小箱を開けてみせた。
小箱には太めなのが四本、細めなのが四本の手持ち花火。薄橙の模様をあしらった白と赤の筒が竹籤の先端についていて、普段見かける子ども向けのものとは違い、火を灯さずとも儚さがあると言ったらよいか、素朴な美しさがあった。
そう高価なものじゃないけれどこれはなかなか良いものだよ、取り寄せしていたのが昨日届いた。こっちは和火と言って、材料は木炭と硝石と……硫黄だっけ、古くからある製造を再現したもので、火花は赤橙色だけの味わい深い色合いらしい。と彼は矢継ぎ早にだけどなんとも嬉しげに語った。
きっと気に入ると思う。それじゃと手を振り振り。私が「ありがとう」と礼を言う間もなくそそくさと彼は去ってしまった。これはまた早いなと可笑しく思う。初夏とはいえ季節はまだ梅雨に入ったばかり。でも、今日の空はいつもより青い。