第9話:クーラー買うのもひと苦労
「暑い」
「……」
「暑いよ」
「……」
「ねぇ、暑」
「次言ったら殺す」
ドスの効いた声でグンゼが言うから、すぐそこまで来ていた言葉を慌てて飲み込んだ。
今この島は常夏、周りはジャングル。にもかかわらず居間にあったアジト唯一のクーラーが、昨夜アルという名のお茶目なクソバカによって壊されたのだ。もちろんみんな怒り奮闘。本人曰わくリモコンの電池を変えようとしたら動かなくなり、本体を軽く叩いたらぶっ壊れたそうだ。軽くないよね、確実に。
只今私はこのサウナ状態の居間で非番のグンゼと2人、何をするでもなく暇を持て余している。アルとミナミは朝から仕事、鬼大は港町へ買い出し、飛翔はなぜか一人、朝早くにからアジトを出たようだ。グンゼが言うには女の所らしい。
まぁ飛翔はバカだけど確かに顔は整ってるし彼女がいてもおかしくない。
「飛翔の彼女か、見てみたいなぁ」
「彼女じゃねぇよ」
「え?」
「アイツは遊び人だからな。島の外に何人も女作って暇になれば出掛けてらぁ」
「うわ、最低だよ」
やっぱりホスト面だもんな、アイツ。あんな見事に見た目通りの男初めてみたよ。
グンゼは少し笑ったあと、それでいいんだよと呟いてからソファーに寝転んだ。
「殺し屋が特定の女なんか作るもんじゃねぇんだ。適当に遊ぶくらいが丁度良いんだよ。女ができたら死ぬのが怖くなる。そうなっちゃこの仕事は終わりだ」
「……」
「相手残して自分一人逝くのも、耐えられねぇ」
「……」
私がその言葉に何も返すことができなかったのは、その時のグンゼがすごく悲しそうな顔をしていたから。
グンゼを見ると、ソファーの上に寝転び、じっと目を閉じ寝る態勢に入っていた。よくこんな暑い部屋で寝れるよ。
「……」
グンゼは今までそうやって生きてきたのかな。大事な人も好きな人も作らずに、自分の感情を殺して。そして多分、これからも。
(……そういえば写真)
いつかグンゼの部屋で見つけた写真の女の人のことを思い出した。可愛くて小さくて笑顔の似合う花のような人だった。グンゼにとってあの人はどういう人だったんだろう。そしてあの女の人は今、どこにいるのかな。聞いてみたいような……少し怖いような。
そこまで考えた時、急に飛び起きたグンゼに驚いて小さく悲鳴を上げる。寝ていたはずの彼は不機嫌そうに頭を描いたあと、暑いと呟いた。あ、やっぱり暑かったんだ。
「もう我慢ならねぇ」
彼は懐から自分の携帯電話を取り出しどこかに電話をかけ始めた。
「おい、もう仕事終わっただろ。クーラー買ってこい」
乱暴な物言いで通話相手に怒鳴りつけるグンゼ。受話器から漏れる声を聞き、電話の相手がアルだということが分かった。
「あぁ?当たり前だろ、テメェが壊したんだから。知るかよ、そんなこと。金ならボスの部屋にある。いいからさっさと戻ってこい」
一方的に言ったあと、電源を切って携帯電話を放り投げた。有無を言わせぬ迫力に私も苦笑いを零す。
「汗ひとつかいてないくせに」
「当たり前だろ。美形は汗かかねぇんだよ」
「うわ、自分で言ったよ」
「汗なんてかくのは貧乳でうるさいブスくらいだ」
「それ明らかに私のことだよね、私限定だよね」
「ただいま……」
力なく首をうなだれ、突然居間に入ってきたのはアル。随分早いな、と機嫌良く言うグンゼに苦笑いで返し床にペタリと座り込んだ。仕事を済ませ、太陽がサンサンと照りつける中、急いで帰ってきたんだろう。彼のこめかみを汗が一筋流れる。そして見るからに暑そうなスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながら後ろに倒れた。
「何休んでんだ」
「え?」
クーラー買いに行けよ。その為に帰って来たんだろ」
「……」
グンゼの言葉にブツブツと文句を零しながらも体を起こすアルは、クーラー代を取りに疲れた足取りでボスの部屋へと向かった。
「そういえばボスの部屋ってどこにあるの?」
「廊下の突き当たりに二階へ続く隠し扉がある。物置なんかもある二階の、一番奥がボスの部屋だ」
「まじかよ」
隠し扉なんてまるで忍者屋敷だ。今度行ってみよう、こっそり。
数分後、再び居間に戻ってきたアルは両手に碁盤を抱えていた。先ほどとはうってかわって新しい遊びを見つけた子供のようににんまりと笑う。私もグンゼもその様子に思わず顔をしかめた。
「ボスの部屋にあった」
どん、と重そうなそれを私達の目の前に置く。間違いなく、碁盤。そして箱に入った黒と白の碁石がそれぞれ同じ数ずつ。
「五目並べか、懐かしいな」
「昔はよくやってたのにな」
アルとグンゼの表情が柔らかくなる。グンゼは何かを思い出すように黒の碁石を指で転がした。
「どうした、レン」
ぼーっとしていた私の顔をアルが心配そうに覗き込んできた。慌てて顔を上げ、何でもないと笑顔を作る。
おかしい。私は思った。碁盤を見た瞬間に妙な違和感を覚えたのだ。本当にここは、別世界なのだろうか。
五目並べも碁盤も、私の世界にちゃんと存在する。それだけじゃない、携帯電話や食べるもの、何もかもが似すぎているのだ。勿論私の世界にないものもある。例えば海面を浮く水上バイク。それに殺し屋なんて職業が表の世界で普通に成り立っているのも私の世界じゃありえない。だけど……いや。
頭の中で答えの見つからない自問自答を繰り返していると、2人の何気ない会話をキャッチした。どうやら五目並べのルールも私の知っているものとほぼ同じらしい。
「意外に強いの鬼大だよな」
「弱いのはお前だったよな、アル」
「いやいや、飛翔よりは強かったって」
「まぁ、飛翔に負けたら人間終わりだろ」
「間違いないな」
「あ、あと弱いっつったらルイも……」
「……」
そこまで言って、グンゼはハッとしたように言葉を止めた。なぜかアルまで黙り込む。グンゼは何かを押し殺すように口を閉じると「何でもない」と小さく呟いた。
ルイ。その名前が出ただけで2人を取り囲む空気ががらりと変わったことに私は戸惑いを隠せなかった。昔を懐かしむ空気は一気に冷たく張り詰めたものになってしまったのだ。
持っていた黒い碁石を箱に戻すグンゼ。アルも腰を上げた。
「クーラー買いに行ってくる」
無理矢理貼り付けた笑顔でアルは言い、静かに居間を出て行った。
「ご、五目並べしない?」
別に何か聞き出したかったわけじゃない。そりゃ聞きたいことが無いと言ったら嘘になるけど、少なくともこのタイミングで聞く勇気はなかった。聞いても答えてくれないことは分かっていたし、私だって一応それくらいは分かる。ただ気まずい沈黙に耐えられず、とっさに思いついた台詞がこれだっただけ。深い意味なんてないし困らせたりするつもりも、なかったのに。
「お前も暇ならアルと一緒に行って来いよ」
グンゼは私の方を見なかった。
その横顔に、出て行けと言われているようで、胸が痛かった。わけもわからず泣きそうになるのをぐっと抑えて立ち上がる。
「……行ってきます」
「あぁ」
居間を出る時、「悪い」とグンゼが小さく呟いた。何が悪いのか、誰に対しての悪い、なのか。私にはよく分からなかったけど、謝るグンゼが悪いわけではないことは何となく分かった。少なくとも、グンゼだけが。 私にはまだまだ……知らないことが沢山あるのだ。
アルを追いかけようと、急いで外へ出た。走ろうとしたけど、その必要はなかったようだ。アルはアジトのすぐ前に立っていた。太陽の下、ジャングルに不似合いな黒いズボンと真っ白なシャツを着たのまま。ネクタイをしていない、はだけたシャツのボタン。飛翔といいアルといい、なぜこいつらがスーツを着るとホストになるんだろう。顔か、顔なのか。
私が近づくとアルは少しだけ微笑み、ゆっくりと歩き出した。
「何で私が来るって分かったの?」
「なんとなく。グンゼに行けって言われたんだろ」
「……うん」
「ごめんな、レンにまで気使わせて。グンゼはいい奴だけどさっきはその……何て言うか。俺が悪いんだ、余計な物持ってきたから」
「……」
「帰る頃にはきっといつものグンゼに戻ってるよ」
「……アルはグンゼのこと、よく分かってるんだね」
アルが立ち止まって振り向いた。「なに?」と言えば、私の目をじっと見つめたあと、真剣な顔で問う。
「もしかしてレン、グンゼのこと好きなのか?」
「え、何で?そんなわけないじゃん」
「……」
「やだなぁ、私の好きなタイプはもっと優しくて暴言吐かない心の広い人だよ」
「たとえば、アルみたいな」、自分でも呆れるくらいサラリとそう言えば、彼は驚いたように「え、」と目を見開いた後再び背中を向けて歩き出した。何だ何だ、まずいこと言ったのか私。
無言のままジャングルの中を進み、そのまま砂浜をてくてくと歩く。水上バイク置き場まで来た時、エンジンをかけながらふいにアルが口を開いた。
「なぁ……レン」
「んー」
「さっきのって、」
「え?」
「……やっぱいいや」
ふい、と私から目をそらすと、乗れよと短く言った。よく分からないけど特に聞き返す理由もない私は素直に頷き後部座席にまたがる。アルの腰に手を回し、出発しんこーと声を上げた。
「子供かよ」
水上バイクは地面から離れ、ゆっくりと海面を揺れて行った。
着いた島は港町。いつかグンゼと買い物に来た島だ。相変わらず人が多く騒がしい。活気溢れる町中を私とアルが並んで歩く。
「港町なんて久しぶりに来たな。ここは近いし何でもあるから俺達よく来てたんだ」
「へぇ」
さすがアルは迷うことなく進んで行く。
途中女の人とすれ違うたびに必ず相手はアルを振り返っていた。やっぱり彼の愛嬌あるルックスは目を惹くのだ。それを本人に伝えると、「グンゼなんかがスーツ着て歩いたらもっとすごいぞ」と謙虚に笑った。さすが、よくできた子だよ。
「あ、ちょっとここ寄っていいか?」
アルが一軒の店を指差した。人通りの少ない一角にある店。言っちゃあ何だけどかなり見た目怪しい店だ。古びた建物の外壁には蔦が絡んでるし、映画なんかに出てくる幽霊屋敷のような雰囲気がある。
少しも躊躇することなく店の敷居をまたぐアル。続いて私も店内へ入った。照明は暗く、小さな壊れかけの蛍光灯のみが無造作に天井からぶら下がっている。商品らしきものも何もないそこは、お香のような匂いが漂っていた。ただあるのは、壁に掛かったよく分からない絵や記号を書いた紙。
木でできたカウンターには、両肩に派手な入れ墨の入った痩せた男が頬杖をついていた。
「いらっしゃい」
口角を釣り上げて笑う男の声は意外に高い。顔馴染みなのか、アルはいつものように笑いながらカウンターに近づいた。
「そろそろ来ると思ってたよ、アル。いいタイミングだ。そっちの可愛らしいお嬢さんは新しい彼女かい?」
「そんなんじゃねぇよ、早く頼んでた品出してくれ」
男は再びニヤリと笑うと店の奥へ消えた。おかしな男だ、どこを見ていても焦点が合ってないように見えた。 俺から離れるな、と低く呟いたあとアルは安心させるように大丈夫だと優しく笑う。私は言われた通りなるべくアルの近くに寄った。間もなくして男が戻ってきた。手にナイフを持っている。刃の部分が複雑な形をした、どちらかと言うと鎌のようなナイフだ。
アルはそれを受け取り、確かめるように重さを確かめた。
「どうだい」
「いいね。手によく馴染む」
「軽いし切れ味は最高。肉にくい込む感触が残らないくらいよく切れる。あんたにピッタリさ」
「いくらだっけ」
「いや、金はいらないよ」
「え?」
「それ」
男は猫背にして上目遣いでアルを見る。骨と皮のような細い腕を伸ばし、アルの左胸に人差し指を立てた。それを振り払うこともせずにアルは男をじっと見る。
「アルの心臓でいいよ」
「悪いけど今はまだやれないよ」
「いいさ。時がくれば俺の方から取りに行く」
「あんたに出来るかな」
アルは器用にナイフを折りたたむとズボンのポケットに無造作に入れた。
男は爪を噛みながらチラリと私を見た。何を言うわけでもなくすぐに視線をそらしたあと、何事もなかったかのように話題を変える。
「ドン・ホーは元気かい?」
「あぁ、相変わらず飛び回ってるよ」
「いいね。アイツはそういう男だ」
クツクツと喉を鳴らして笑う男。何がそんなに面白いのか、嬉しそうに笑っていた。
また来るよ、とアルは言い、私の背中を押して店の出口へと歩いた。
「また、っていつのことだい」
「数ヶ月、あるいは数年後」
男はまた、クツクツと笑った。
「ドン・ホーって誰?」
店を出てすぐに私は聞いてみた。
「ボスのことだよ」
「変な名前」
「いや、本名じゃない。仕事用の仮名だ。他にもスライ、ドラゴン、レッドボム、あとは……」
「幾つ名前持ってんの、あいつ」
「ボスは顔が広いし殺し屋以外にも色んな裏の仕事をしてる。素性を常に隠す為に必要な分だけ名前があるらしい」
「ふーん、じゃあ本名は?」
「昔聞いたけど教えてもらえなかった。ボスの本当の名前は誰も知らないんだ。だからみんなボスって呼んでる」
意外と謎の多い男だ、ボス。
すると、ふと背中に視線を感じ後ろを振り返った。さっきの店の入り口に、カウンターの男が立っていた。私たちを見てニヤニヤと笑う男に気味悪さを覚え、途端にぞくりと全身を鳥肌が走る。
アルが小声でレン、と呼んだ。見るなということだろう、慌てて前を向き、アルから離れないよう急ぎ足で店を離れた。
角を幾つも曲がって人通りの多い場所に出る。安心した途端に思わず息を吐いた。
「何あの人!怖いよ!気持ち悪いよ!」
物凄い勢いで訴えるとアルは少し困ったように笑う。自分でも気付かないうちに声を荒げていたせいで、道行く人が何人もこちらを見ていた。
「あれは殺し道具を売ってる専門店。あの男自身元は有名な殺人鬼だった。殺した相手の肉を食べてたから食人鬼でもあるな。……そして今でもボスや俺達の命を狙ってる」
食人鬼?ないないないないありえない。何それ意味分かんない、つーか気持ち悪い。
「……大丈夫なの?そんな人の店に行って」
「大丈夫、こっちが隙さえ見せなきゃ。あいつも慎重な男だからさ」
「私隙だらけだったんですけど……」
「だから俺が隣りにいて、レンのこと守ってただろ」
「……」
なるほど、あの時離れるなと言ったのはそういうことだったのか。うわ、やべ。一瞬アルが物凄く素敵に見えてしまった。
当然深い意味はなかったのだろう、アル本人は既に話題からそれ、キョロキョロと電気屋を探し始めた。
「レン、疲れてないか?」
「うん、ありがとう」
そっか、と言ったものの、歩幅を合わせてくれるアル。本当に何でこんないい人が殺し屋なんだろうか。公務員や政治家なんていうお偉い職業の人間にもびっくりするくらい汚い人間がいるっていうのに。殺し屋らしからぬアルの振る舞いに少しだけ戸惑いを感じた私だった。
「おう、遅かったなお前ら」
夕方、アジトへ戻るとグンゼがそう言って私とアルを迎えた。グンゼだけではなく、ミナミも鬼大もいる。意外にもグンゼは鬼大と五目並べをしていた。
うちわ片手にあぐらをかき、珍しく楽しそうな顔をするグンゼを見るとなぜか安心する。強いと噂の鬼大に負けたようで、チッと舌打ちをひとつした。
待ってましたと言わんばかりにグンゼを押しのけ、今度はミナミが碁盤に向かった。
「次は俺が鬼大と対戦する。さぁ勝負だ、不細工鬼大」
「ミナミさん、激辛です……」
その様子を見て私もアルも笑う。良かった、いつもと同じ雰囲気だ。昼間のことはもう、グンゼも気にしていないようだった。そもそもあの偉そうな男が落ち込むなんてらしくないのだ。
「そういえばお前らクーラー買ってきたんだろ」
「そうだ。早く取り付けろ。こう暑くては美容に悪い」
「どうしたんですか、2人共黙って」
「……」
思わず顔を合わせる私とアル。
実はあのあと電気屋へ行ったものの、予想以上に高いクーラーに面食らった私たち。ボスの部屋からとってきたお金を見るとギリギリ、もうほんっとギリギリ足りなかった。それでも無理矢理買おうとするアル。「買わなきゃあいつらに殺されるんだ」と青い顔して電気屋の親父の胸ぐらを掴んでいたけど無理なものは、無理。仕方なくこうして戻ってきたのだった。
一応わけは話したけど、勿論納得なんてしていない3人。ダラダラと冷や汗が伝う。やばい、逃げようかな。
刹那、前方から碁石を箱ごと投げつけてくるミナミに湯のみをぶん投げてくるグンゼ。見事に全てアルにヒット。突然の攻撃に抵抗できず、鈍い音を立ててアルは後ろへ倒れた。
「テメェは何の為に出掛けたんだコラァ!五目並べして暑さ誤魔化してたこっちの身にもなれ!」
「グンゼの言うとおりだ愚か者。誰が本気で五目並べなんかするか。黒でも白でもどっちでもいいわ、こんなもん」
「え、自分普通に楽しんでたんですけど……。お2人も結構楽しそうじゃありませんでした?」
「黙れ、言うな」
どっちだよ。結局楽しかったんだ。
チンピラ代表グンゼが倒れたアルに馬乗りになる。懐から中刀を取り出すと鞘を投げ捨て鈍く光るそれをグンゼの頬にピタリと当てた。
「おうコラ、誰がクーラー壊したか言ってみろ」
ドSだよ、確実。
「本当ごめんって!金がなかったから仕方ないだろ!」
「あぁん?金がねぇなら店の親父ぶっ殺してでも値引きしろよ。テメェ何の為に殺し屋やってんだよ」
少なくとも値引きする為ではないよね。
可哀想なアルを見ながら私は呆然と突っ立っていた。すると今度はグンゼの視線が私を捉える。
「おい、テメェも何無関係みたいな顔してんだよ、レン」
「だからぁ、お金が足りなかったんだから仕方ないだろハゲ。いいからその危ない物片付けてよ。いやむしろお前の脳みそが一番危ないよ」
「何だとコラ。電気屋の親父ひとり色仕掛けできねぇ幼児体型が。悔しかったら誘惑してクーラーのひとつくらい貢がせてみろ、バカ」
「失礼なこと言うなよ!それに幼児体型じゃないよ!くびれだってあるんだから!」
「よし、俺が確認してやる。脱げ」
「アンタいつか刺されるよ、ほんと」
「なら俺が確認してやる、脱ぐがいい」
「アンタも何便乗してんの、ミナミ」
ぎゃあぎゃあと騒いでいたメンバーだが、クーラーの代わりに花火を買ってきたと言えばピタリとやまった。ほら、と袋詰めにされた大量の花火を取り出し見せると、大人しくなる。好きなのか、花火。
「ねっ、これで遊んで暑さなんか吹き飛ばしちゃおうよ」
「……別に遊んでやってもいいけど」
素直じゃないグンゼは少しはにかみながら唇を尖らす。え、なに?あんたそんなキャラだっけ?花火に心奪われるようなキャラだっけ?やばい、一瞬可愛いと思ってしまった自分がいる。
「じゃあ外が暗くになったらみんなでやりましょうか」
「そうだな。今頃女にうつつを抜かしている飛翔のバカは放っておいて、俺とグンゼとアル、そしてレン。みんなでやるか」
「ミナミさん、私の名前入ってないんですけど」
やっぱり鬼大は哀れだった。