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きみの物語  作者: りいち
28/32

第28話:いざ、氷柱島へ!

「お姉ちゃん、何してたの?」


「え、」



目の前に、水着姿の淳子がいる。

辺りを見渡すと、海。紛れもなく、異世界へ行く直前に、私が家族と来ていた海だ。

そして私もまた、あの時と同じ水着を着て、砂浜に立っていた。

ああ、そういえばあの日も太陽が眩しかったっけ。


「ねぇ、顔色悪いよ」


「えと……」


え、なんで?いつまに?

だって、私……アジトで寝てたはずなのに。

元の世界に戻れたの?


まぁいいや、と淳子は言う。さほど興味がなさそうに、お母さんのもとへ駆けて行った。


時間はあの日から進んでいないようだ。妹も、遠くから手を振る母も、そして私も、あのときのまま。


「……はは。こんないきなり戻るんだ」


沸いてきたのは元の世界に戻れた嬉しさではなく、あっちの世界に残してきたものへの寂しさだった。

だって、みんなにお別れも言ってない。

私の使ってた物とかそのままだし、こんな突然戻されたって、困るよ……。


「お姉ちゃん!そろそろ行こうかって、ママが」


「……あ、」


淳子がそう言って呼ぶので、仕方なく砂浜を蹴って、二人のもとへ行こうとした。


瞬間、


「え」









いきなり背中にくる強い衝撃。

飛び込んできたのは先程の青空とはうってかわって暗い天井。

私の体は、アジトの自分の部屋にあった。

そして、ベッドから落ちたようだった。



「なんだ、夢か……」


あ、私今ホッとしてる。

元の世界に戻っていなかったという事実にただ、安心してる。


「……それにしても、妙にリアルな夢だったな」


痛めた腰をさすりながら、立ち上がった。

寝起きの頭でしばらくぼーっとしていると、予告もなしにドアが開いた。


「起きろレン!バカンスだぁー!」


「……」


突然現れたのは飛翔とアル。

リアクションする間もなく、二人は異様なテンションで騒ぎ始めた。


「いつまで寝てんだ!さっさと着替えろよ!置いてくぞ」


「え、なんで?どこに?」


「いいから早く準備してこいよ。みんなもう待ってるから」


アルがものすごい笑顔で言い、飛翔を連れて部屋から出ていった。

訳もわからず、とりあえず適当に着替えて居間へ行った。


居間にはもう全員集まって、何やら浮き足立った雰囲気が漂っている。


「おはようございますレンさん」


「おはよう、鬼大。ねぇ、どっか行くの?」


すると、ミナミがお洒落な自前のコーヒーカップ(こっそり使おうとしたら殺されそうになったことがある)でハーブティを飲みながら、一枚の紙を渡してきた。



それは、リーダーからの置き手紙だった。


「えーなになに……『みんなへ。いつも頑張って任務をこなしているみんなにパパからご褒美です。みんなが行きたいとしつこく言っていた氷柱島へのスペシャルツアーをプレゼントします。もちろん宿もパパが手配したのでご心配なく。6人分の最高級ホテルだよ。パパ頑張ったよ。給料のことは忘れて、たまには羽を伸ばしてきなさい』って、なにこれ」


つーか、パパて。


「昨日ボスの奴、帰ってきてただろ。朝起きて気付いたが、その手紙残して行きやがったんだ」


いつものソファーを陣取ったグンゼが苦笑いしながら答える。


普段働いてばかりのみんなは、そりゃもう嬉しそう。氷柱島がどんなところかは知らないけど、相当楽しみにしてるみたいだ。

アルなんて、子供ように無邪気な笑顔を振り撒いている。


なるほど。さすがボス。このご機嫌取りで給料未払いをぼかすつもりだよ。

そしてまんまとひっかかってるよ。


「はい、これレンの分な」


「え?」


渡されたのは、何やら大きめのリュック。

中を見ると衣類が入っていた。どうやら、氷柱島は年中冬のかなり寒い島らしい。常夏のこことは大違い。


「氷柱島は、雪がすっげー積もってんだぞ!レンは見たことあるか?雪!俺初めて見るんだ!」


「ふうん。アルは南国育ちなんだ」


「ご飯もおいしいみたいですよ」


「へぇー!楽しそうだね!」


「女も可愛いって噂だしなァ」


「あんたの思考はそればっかりだよ」



わいわいと騒ぎ合うみんなの傍らで、一人浮かない顔をしているミナミに気が付いた。


「あれ、ミナミどうしたの?なんかあんまり行きたそうじゃないね」


「……いや、別に」


やっぱり何だかぎこちない返事。いつものミナミじゃない、何か不安そうな表情だ。

グンゼが呆れながら言った。


「てめぇのことだ。どうせ、肌が乾燥するとか髪が痛むとか言うんだろ」


「まぁ、そんなとこだな……」


ミナミは力なく苦笑いしたけど、あまり話したがらないようなので深くは追及しなかった。







私達はアジトを出たあと、水上バイクでトレード島へ向かった。


ものすごーく寒いと噂の氷柱島へは普通の水上バイクじゃ凍えてしまうということで、寒い土地でも使える乗り物をレンタルすることにした。


「うわあ、やっぱり都会だね」


「トレード島にはなんでもあるからな」


「おい、こっちだお前ら」


みんなに着いて向かった店には大小様々な船が売っていた。

水上バイクもあれば、キリオくんが乗っていたような大きな飛行船まである。

店先にズラリと並んだバイクを横目に私達は店の中に入る。


「いらっしゃーい」


店の奥からだるそうにそう言ったのは一人の若い兄ちゃん。両腕や顔にまで大量の入れ墨が彫られている随分ファンキーな男だ。


「おい、このギア、スピード二倍だってよ!買おうぜ!」


「無免許が何言ってるんですか、飛翔さん」


「おっ、新作の水上バイクだってよ。かっけー。鬼大、俺らのバイクもそろそろ買い換えねぇか」


「何言ってるんですかグンゼさん、まだ使えます。贅沢言わないで下さい」


「んだよ、ケチな奴だな」


組織の財布係りは鬼大だ。まぁ、そうだろうな。他のやつらに任せたらあっという間に破産だよ。


「うおー!見ろよアル!これラジオついてんぞ!」


「こっちはロケットついてるって!すっげー!」



テンションの高い男どもを見ながら鼻で笑ってやった。

やっぱり男って、こういうの好きだよな。

鬼大がひとり溜め息を吐いた。

そしてファンキーな店員に話しかける。


「6人乗りで長距離用の飛行船をレンタルしたいんですが」


「うーん、どこまで?」


「氷柱島まで」


「そうだねぇ……これなんかどう?」


そう言って男が見せたのは、飛行船のパンフレット。私はこっちのお金のことは分からないけど、鬼大の反応を見るとどれもべらぼうに高いようだ。


「うーん、もう少し安くなりませんかね」


「6人乗りじゃあ、どこ行ってもこの値段が妥当だと思うよ」


「そうですか……」


困りましたねぇ、と首を傾げる鬼大。パンフレットを見ながらあれでもないこれでもないと呟いてる。貧乏って大変だな。


「おい鬼大!このバイク買ってくれ!写真機能ついてんだぜ!これで運転中の俺の勇姿が撮れるだろォ」


「飛翔さん、少し黙っててもらっていいですか」


それまで退屈そうに座っていたミナミがふとやってきた。

私の肩からパンフレットを覗きこみ、ふんと鼻で笑う。


「これじゃあ氷柱島は無理だな。おい、鬼大。行き先を変更だ」


「ええ!?そんな急に」


「俺の言うことが聞けないのか、ブタ野郎。変更と言ったら変更だ」


いやどんだけ行きたくないんたよ、こいつ。


反論できない鬼大の代わりに私や他のみんなが批判を浴びせる。


「ミナミ自己中だよ!」


「なんだと小娘」


「そうだそうだ!今更変更なんか認めねーぞ!」


「行きたくない奴は留守番してろ!」


「ふん…愚民共が」


みんなに責めらせてさすがにミナミも引き下がった。

でも、実際問題乗り物がない。


「どうする?」


「おい鬼大、てめーヘソクリ出せよ。知ってんだぞ、主婦みたいなことしやがって」


「いや適当なこと言わないでくださいよ」


「じゃあ、じゃんけんで負けた奴二人泳いで行こうぜ」


「凍死しますけど」


ろくな意見が出ないまま時間だけが過ぎていく。

店員も退屈そうにやりとりを見ていた。


すると、店のドアが開いた。

店員の表情がガラリと変わる。さっきまでやる気のなさが滲み出ていたのに、新しく入ってきた客を見た途端に背筋をピンと張り、笑顔まで作った。


どんな客が来たのか気になって振り返ると……


「あ、キリオくん?!」


「え、レンさん?」


入ってきたのは、キリオくんだった。

私につられて皆もキリオくんを見る。彼は、ツナミさんではなく知らない少年といた。


「いやー!よくいらっしゃいましたキリオさん!」


店員がペコペコしながらキリオくんに近付く。どうやらここの常連らしい。私達への対応と比べると月とスッポン。


「この前、メンテナンスを頼んでいた飛行船を引き取りに来たんですが」


「はい!できておりますよ!それはもうピカピカに!少々お待ちを!」


店員は張り切ってそう言うと、奥へ入って行った。


キリオくんは陽炎達に氷のような目で一瞥くれたあと、私に向かってにこりと笑う。


「嬉しいなぁ。こんなに早くまたレンさんに会えるなんて」


「いやぁ」


相変わらず照れること言うな。


先程までギアがどうとか騒いでいた飛翔が寄ってきて、キリオくんの肩に腕を回す。誰に対してもボディタッチの多い男だ。


「よぅキリオちゃァん。ちょっと背ェ伸びたんじゃねーのォ。俺女装したお前とだったらデートしてやってもいいよォ」


「僕を視界に入れるな変態」


今日も愛らしい顔して毒舌が光ってる。








「慰安旅行に氷柱島……ですか」


ふうん、とキリオくんは唸った。


「ついに死に場所を見つけたんですね、レンさん以外の皆さん」


「おい、今すぐここをテメェの墓場にしてやろうか」



やだなー冗談ですよ、と笑うキリオくんは無駄に爽やか。

すると、キリオくんの後ろに隠れるようにして立っていた少年が顔をのぞかせた。目が丸くてはっきりした顔立ち。背はキリオくんより少し高い。


「キリオ様、この方々は……」


「ああ、紹介するよ。この人達が有名な殺し屋、陽炎」


「ええ!?」


少年は驚いてメンバーを見渡した。

すごいすごい、と随分興奮している少年を見て、少し照れている五人。


「キリオ様はこんな有名な方々と友達なんですね!さすがキリオ様だ!」


どうやら、この少年はかなりキリオくんになついている様子。


「僕はリングと言います!この度、尊敬するキリオ総隊長様の部下としてお供させて頂きました!」


「へぇ。こんな奴尊敬してんのか、性格歪むぞ」


「あなたに言われたくありませんよ、グンゼさん」


すると、店員が戻ってきた。

キリオくんに鍵を渡しながら言う。


「お待たせしました。まず鍵をお返し致します。飛行船はあちらに……」

















「ありがとうございます」


鍵を受け取ったキリオくんとリングが店員のあとを着いて行こうとする。

その瞬間、アルの手がキリオくんの右腕を勢いよく掴んだ。

怪訝そうにキリオくんは振り向く。


「なんですか、アルさん」


「何人乗りだ……」


「はい?」


「お前の飛行船は何人乗りだと聞いてる!」


「………十人ですけど」


じ、じゅうにん……だと!?

この瞬間、みんなの脳裏に同じ考えが浮かぶ。

キリオくんはそれを察したらしく、早々と立ち去ろうとしたが、今度は鬼大が立ちはだかった。


「どいてくれませんか。あなたの巨体すごく邪魔なんですけど」


「どきません。その飛行船の鍵を渡してくれるまでは絶対にどきません」


「……どこまで惨めなんですか、あなた達は」


本当にね。


そこですかさずアルとグンゼが入る。


「まぁまぁ、ケチくさいこと言うなよ。いつも遊んでやってんだろ?」


「ちょっと借りるだけだから。な?」


キリオくんは冷たい視線で二人を見る。

肩を組んできたアルの腕をさっと振り払った。


「お断りします。あなた達に貸せば無事にはすまないでしょうから」


「お前!俺達が借りたものもちゃんと返せねーいい加減な大人だと思ってんのか!」


「はい、思っています」


ぎゃーぎゃーと言い合う様子を見ていると、肩を叩かれ振り向いた。

飛翔がにやりと笑いながら私に耳打ちする。


「えー、私が?」


「絶対うまくいくぜェ」


「そうかなぁ」


私は飛翔に言われた通り、キリオくんに近付いた。



「キリオくん、私からもお願い。飛行船、貸して」


「レンさん……」


キリオくんが困ったように、少しだけ目尻を下げる。

そして、猫のような瞳でキッと飛翔を睨み付けた。


「ずるいですよ。レンさんを使うなんて」


「だってレンちゃんも旅行行きてぇよなァ?」


「え、うん…まぁ」


ほらなァー!と、勝ち誇ったように飛翔が言う。

リングが心配そうにキリオくんの方を伺い始めた。


「……分かりました。レンさんの頼みなら仕方がありませんね」


いやっほーう!と馬鹿達の雄叫びが店内に響いた。キリオくん、なんか、ほんとごめん。


「ただし、条件があります。運転は鬼大さんかアルさんがして下さい。特に飛翔さん、グンゼさんは絶対に操縦席に近付かないように」


「名指しかよ」


「大丈夫大丈夫!さすがに借りもんで無茶しねーって!」


「あんたのその軽さが心配ですよ」


やれやれ、とため息を吐くキリオくんを見ていると、どっちが子供か分からない。


「ごめんね、キリオくん」


「いいんですよ、レンさん。その代わり今度は、カリブの慰安旅行にも来て下さいね」


「わーい!絶対呼んでね!」


「はい、もちろん。可愛いなぁ、レンさんは」


「キリオくん……」


君の方が百倍可愛いよ。


「けっ。さっさと行くぜ、うすら寒いガキ共が」


グンゼがチッと舌打ちをする。

そして私達は、無理矢理借りたキリオくんの飛行船を引き取りに、店の裏にあるという飛行船置き場へと向かった。











「まじかこれ……」



数々の飛行船が並ぶ広い倉庫の中。一際大きい飛行船が、キリオくんのものだった。

この間私を迎えに来てくれた時に乗っていた飛行船とは比べ物にならないくらいデカイ。

もしかすると、陽炎のボロアジトよりデカイかもしれない。

楕円形のそれは、磨かれたばかりでピカピカと輝いていた。


「キリオ様の飛行船は、超高級合金を仕様した特注品なんですよ」


リングはまるで自分のことかのように誇らしげだ。


呆然とする一同。

アルが最初に口を開いた。


「これ……お前個人の?」


「ええ。経費で落としました」


「ふーん……儲かってるネ……」


「まぁ、それなりに」



うちなんか、最近は三食カレーだっていうのに。同じ殺し屋組織でも、上がアレだとこんなに格差が……。


「ほぅ。やるな小僧」


ミナミが珍しく感心しながら船体に触れる。

何だか本当にUFOみたいだ。


「それにしてもデケェなぁ」


「ええ、バスルームとマッサージ部屋付きですから」


「どっかのマダムか、お前は」


「最近は忙しくて帰る暇もないので」


「大変だねぇ、総隊長も」


「こんなデカイ飛行船墜落したら村いっこ潰せそうだな」


「墜落どころか、かすり傷ひとつでもつけたらあんたらのアジトに火つけますからね」


「さらりと恐ろしいこと言ったよこの子」


じゃあ行きましょうか、と鬼大。

大きな飛行船を前に浮き足立つみんなの中で、ミナミだけがやはり浮かない顔をして、渋々乗り込んでいた。


「レンさん、お気をつけて!」


「うん!ありがとう!お土産屋買ってくるからね!」


私がそう言うと、キリオくんはふいを突かれたように目を丸くした。

もしかしたら、初めてなのかもしれない。お土産屋って。


そして彼は少し遅れて微笑んだ。


「楽しみに待ってます」


とても綺麗な笑顔だった。

この時は、キリオくんがどうなるかなんて、分からなかった。


彼のその笑顔が失われるなんて、一体誰が想像できただろう。










飛行船内は、ザ・バブルだった。


きらきら輝くシャンデリア。

本皮の高級シートが弧を描くように長いソファーを形作っている。

そしてその先には操縦席。


反対側の自動ドアが開くと廊下があり、部屋が2つあった。

まず片方のドアを開ける。


広々とした中にはベッド。横にマッサージチェア。

今度は別のドアを開けると、お風呂、トイレ、サウナ付き。


「なにここ、ホテル?」


悔しいのか、グンゼが舌打ちしながらソファーにどかっと腰を下ろす。


「すごーい。冷蔵庫までついてるよ!」


「ガキには贅沢すぎるな。あー疲れた。ババア、お茶」


「お前は久々に実家に帰ってきては羽をのばす次男坊か」


この野郎。誰がババアだ、誰が。


行きはアルが、帰りは鬼大が運転することになった。

飛翔はどうしても操縦席に座りたいようで、『頼む!ちょっとだけだから!』を連呼していたが、全員から猛反対されていじけていた。

当然だ。無免許に借り物を運転させるほどみんな馬鹿じゃない。


アルがエンジンを入れて少しすると機体がゆっくりと浮かび始めた。

こんなに大きい飛行船を運転するのは初めてなようで、かなり真剣な表情のアル。


「俺は少し寝る……鬼大、着いたら起こせ」


終始乗り気じゃないミナミはとぼとぼと出ていった。


「なんだあいつ。まだ不貞腐れてんのか。やっぱりガキだな」


「そんなに嫌なんですかね、ミナミさん」


「そんな事よりよォ、俺に運転させろよ。レンちゃん惚れるぜェ」


「アルー、運転大丈夫?」


「無視かーい」








「見てみてアルー!雪だよ、雪!」


「あぁ……うん」


二時間も乗っていると、外の景色も大分変わってくる。

小窓からはちらほらと雪が見え始めた。


馴れない大型飛行船の運転で疲れきったのか、アルは鬼大と運転を代わり、操縦席から離れたソファーに寝転んだ。

あんなに見たがっていた雪も、今はどうでもいいらしい。全く、だらしない奴だよ。


「あー肩凝るわ。レン、揉んで」


「えー嫌だよ」


「ケチ」


アルは再びソファーに突っ伏す。

ミナミはベッドルームに籠ったままだ。

飛翔はいつものごとく、鼻歌混じりで女とメール。

グンゼは退屈そうに外の雪景色を見ている。


「グンゼは、雪初めて?」


「え?」


ボーッとしていたのか、話しかけると少し驚いたような表情をした。

そして再び視線を外へやると、唇を緩める。


「いや、どうだろうな。ずっと昔に見たような記憶があるが、よく思い出せない」


「えー、絶対見てたら思い出せるでしょ」


「……いちいち覚えてられねぇよ。そんなことまで」


「あぁ、脳みそ小さそうだもんね」


「お前と違って小顔だからな、俺は」


「まぁ羨ましい。叩きわったろか」


「はぁ……うるせぇブスだぜ」


「おいコラ」




頼むから静かにしてくれ、とアルが呟いた。









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