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きみの物語  作者: りいち
25/32

第25話:おうちに帰ろう

キリオくんのはからいにより、私たちには大きな部屋が用意された。馬鹿どもが騒いでも大丈夫なようにと。


建物全て銀色で統一されていたのに対し、ここは壁も天井も普通のクリーム色。大きな丸テーブルが中央にあり、備え付けのチェアは細かな装飾が施され、豪華だった。


「こんな普通の部屋もあったんだね!」


私はぐるぐるとその部屋を見渡して歩く。


「ええ。空き部屋なんです。すぐ料理を持ってこさせますね」


そしてますます調子に乗りはじめる飛翔。


「おい、アル。キリオの部屋探しに行こうぜ」


「めんどくせーし何より興味がねー」


「おまっ……!この女顔がエロ本見てんのか見てねーのか興味ねーっていうのかよ!」


「ねーよ」


アルが呆れたようにイスに腰掛ける。

ミナミは既に席に着き、難癖つけて鬼大をいじめている。


「飛翔さん、出口はあちらですよ」


「おい、露骨に帰そうとすんな」


「……チッ」


こいつらといると、キリオくんの腹黒い部分が露になってくるよ。


「ていうかさぁ、君たち仕事は?王女様のハート誰が射止めるか争ってたんじゃないの?」


私も席についた。するとアルが笑う。


「レンが心配で、みんな超特急で片付けてきたんだよ」


「そうそう、コイツが早く帰るってダダこねるからよォ。なァ、グンちゃん?」


そう言いながら、飛翔がグンゼの肩に腕を回す。グンゼの表情が途端に不機嫌になる。


「はぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねーよ!触んな!」


「照れんなって!心配だったんだろォ?」


「誰がこんな女心配するか。おい、てめーも勘違いしてんじゃねーぞ、ブス」


するわけないだろ、癖毛。


「で、王女様はどうだったの?誰が射止めたの?まぁ、どいつも無理だと思うけど一応聞いとくよ」


すると、それにはミナミが答えた。


「あんなもんただの噂だ。実際は真逆だった。どうやら婿が欲しくて王女の側近が流したガセらしい。俺の方が百倍美しかったというのはわざわざ言うことでもないな……」


「本当に言うことでもないよ」


あぁ、でも納得。だからこいつら仕事切り上げたのか。これだから男って……。


「そうなんだよォ。せっかくくどく気満々だったのによォ。しかもすっげー態度わりーんだ、これが」


「ふーん」


こいつらにも一応、好きなタイプとかあるんだろうか。まぁ、絶対に興味ないけど。


すると、部屋の扉が開いた。

入ってきたのは、三人のシェフ。

みんなそれぞれ、たっぷり料理の乗ったワゴンを押している。いい匂いが鼻をかすめる。随分豪勢な。


すると、後ろからはツナミさんが現れた。


「よう。エスから目一杯もてなせと言われてな。カリブ自慢のシェフが腕を奮ってやったぞ」


「さすが金持ち組織のボスは違うな」


「あぁ、うちのボスなら足を踏み入れた時点で金をとっているところだ」


「でしょうね」


手際のよいシェフたちによってテーブルにズラリと並べられた美しい料理。餓えた男たちはみんな肉に目を光らせている。


ついでに、とキリオくんとツナミさんも席についた。

シェフが、召し上がってくださいと言い終わらないうちに手をつけるみんな。恥ずかしい奴らだよ。

でも……


「うめー!こんな良いもん食ってんのかカリブ!」


「うちは万年鬼大の手料理だからな」


「なんですかその言い方。たまにはみなさんも作ってくださいよ」


「愚かな。料理などすれば俺の手が荒れるだろう。そんなことも分からないのかクズめ」


「……そうですね」


「あ、グンちゃん。そっちの皿取ってくれよ」


「その呼び方やめろ。殺すぞ」


「骨が!喉に刺さったぁ!」


「慌てて突っ込むからだろ馬鹿」


「大丈夫ですかアルさん」



いつも通りのみんな。すっかり見慣れたやりとり。

それを見るだけで、こんなに安心するなんて。


「ん?どうした、レン。食べないのか」


なんとか骨を取って少し涙目のアルが尋ねてくる。

続いて鬼大も


「早く食べないとなくなっちゃいますよ」


「そうだぞ小娘」


「うん……あのさ」


みんなが私の方を見る。とても不思議そうに。


「その、ありがと、ね」


言った瞬間、恥ずかしくってうつむいた。

ぽかんと口を開ける一同。

部屋は少しの間静寂に包まれた。


「別に礼なんて……」


「そうですよレンさん。いきなりどうしたんですか」


「いや、なんとなく。なんかさ、家族、みたいだなーって」


「嬉しいこと言うじゃねェか。レンちゃんよォ。なんなら今夜一緒に寝てやろうかァ」


「黙れよ変態。いちいち卑猥なんだよお前」


「つれねぇなァ」


飛翔が下品に笑った。つられて私も、笑った。

やっぱり私は……みんなと一緒に馬鹿な話してるのがいいや。










「そういえばキリオ。お前総隊長に就任するんだってな」


食事の途中でアルが言うと、キリオくんはチラリとツナミさんを見てから曖昧に頷いた。


「どこでそんな情報仕入れたんですか」


「さっき門番の二人が話てんの聞いた」


「おいおい、こんなガキに総隊長なんてやらして大丈夫なのか。カリブも相当人手不足だな」


こんな嫌みを言うのはグンゼだ。

それにはツナミさんが答える。


「お前らんとこほどじゃねぇよ。キリオは適任だ。この俺が推薦したんだからな」


キリオくんは苦笑いを溢す。

私はそれとなく尋ねてみた。


「キリオくん、あんまり嬉しそうじゃないね」


「……僕は今まで通り自由にお仕事をするのが楽で良かったんですけど。ツナミさんも余計なことしてくれましたよ」


「そう言うなキリオ。これはお前の為でもあるんだ」


「はいはい。分かってますよ」


そしてキリオくんは急に真面目な表情を作るとおもむろに持っていたフォークを置く。

呑気に食事を続ける陽炎たちに向かって言った。


「みなさん……実は、」


何事かと全員キリオくんに注目を集めた。どうしたんだろう。


「実は今日、レンさんを狙う男がカリブ本部に侵入してきました」


「なんだと?」


グンゼが怪訝そうに顔をしかめる。


「レン、怪我は」


アルが青い顔して尋ねてきた。


「あ、うん。だいじょう……」


言い終わらないうちに再びキリオくんの声。


「大丈夫じゃありません。敵はレンさんのことを調べあげています。もしレンさんが一人で陽炎のアジトにいたら……今頃どうなってたか分からない」


その言葉に陽炎たちは口をつぐんだ。キリオくんは少し怒っているようだ。ツナミさんも何も言わない。

私は自分か狙われている明確な理由も分からず、この重苦しい雰囲気にオロオロするしかなかった。

でも、確かにキリオくんの言う通り、一人だったら殺されていたかもしれない。カリブにいたから、助かったのだ。

そう思うと、じわじわと恐怖が沸き上がってきて少し目眩がした。



「……そいつはどこにいる。俺がぶっ殺してやるよ」


「早まらないで下さい、グンゼさん。男は自殺しましたよ。多分、そうするように操られていたのでしょう」


「ということは、黒幕がいるということか」


今度はミナミが言う。彼はどんな時も冷静だ。

キリオくんはゆっくり頷いた。


「悪かったな、キリオ。お前に連絡して正解だった。助かったよ」


アルの言葉にも、キリオくんの表情は少しも緩まなかった。


「僕はこれから、仕事が増えます。お節介な上司のおかげで。今回のように、あなた方の代わりにレンさんを守ることができないでしょう」


キリオくん……


「だから、約束して下さい。二度とレンさんをひとりにしないと」


キリオくんの強い言葉に、みんなは少し戸惑っている。

しばらく沈黙を見送ったあと、先に口を開いたグンゼ。


「分かったよ」


続いてアルや他のみんなも、


「約束する」


「しゃーねぇなァ!ま、レンちゃんの為だ」


「今後全員での長期任務はどうしましょうか」


「任せたぞ、鬼大」


「いや、殺す気ですかミナミさん」


キリオくんと目があった。

彼は頬をゆるめると、少しだけ目じりを下げて微笑んだ。









宴もタケナワということで、おいとますることにした。

お腹一杯になったみんなはだらだらと部屋を出ていく。

私もたらふく食べたから苦しい…。鬼大の手料理以外のもの久しぶりに食べたよ。


再び銀色の廊下を歩き、建物を出る。キリオくんとツナミさんは、門の近くまで見送りに来てくれた。


「じゃあな、また飯食いに来るわ」


「分かりました。命に代えても入らせないよう門番に言っておきます」


「笑顔で言うんじゃねーよ」


あーあ、とキリオくんが溜め息を吐く。


「レンさんが、陽炎じゃなくてカリブに居候してたら良かったのに」


キリオくん……なんて可愛いこと言うんだろう。


「なんだキリオ、お前こんなブスがタイプなのか」


癖毛バカ(グンゼ)とは大違いだよ。



みんなは先に、カリブ本部の近くの港にとめてあるという水上バイクを取りに行った。

キリオくんとツナミさんに深々と頭を下げてみんなのところへ行こうとした。


「レンさん」


「ん?」


「しばらく会えないかもしれないですけど、気を付けて下さいね」


「あ、そっか。キリオくんこれから総隊長だもんね。忙しくなるのかぁ」


「ええ……空気の読めない上司を持つと苦労しますよ」


「そりゃ俺の台詞だコノヤロウ」


「陽炎に飽きたら、いつでも遊びに来て下さいね。今度はツナミさんがいない時にでも」


「降格させようかな…」


ツナミさん、終始キリオくんのペースに振り回されっぱなしだよ。


「キリオくんも、頑張ってね。その、辛いことも、あるかもしれないけど……」


そう言うと彼は、花のように明るく笑って握手を求めてきた。

照れながらも差し出された手を握る。温かい、男の子の手だ。



「じゃあね!二人とも今日は本当にありがとう!」


「お気をつけて」


手を降ってから、背中を向けて走る。

私を待つ、五人の馬鹿の元へ。










「あいつらが羨ましいか、キリオ」


「いえ……僕にはツナミさんがいますから」


「お前、」


「嘘ですよ気持ち悪い」


「……」






「あー、今回の仕事は疲れたなーしかし」


「飛翔さん途中でヤル気なくして寝てたじゃないですか」


「愚かな。ボスにまた給料減らされるぞ」


「そうでなくても安いのにな」


「つか、今月の給料まだかよ」


「そろそろじゃないか?」


「あ、レン。おーい、遅いぞ!」



港には、もう既に水上バイクに跨がって私を待っているみんなの姿が。


「乗れよ」


グンゼが顎で後ろを指す。うん、と大きく頷いてから私はグンゼの背中に腕を回した。


バイクは一斉に浮き上がり、海の上へと出る。生温い潮風が心地よい。



ふと振り返ると、さっきまでいたカリブ本部がもう随分と小さくなっていた。


「……」


「なにボケッとしてんだ。振り落とされても知らねーぞ」


グンゼにそう言われ、慌てて前を向く。こいつなら本当に落としかねないよ。


「それにしてもレンさん、本当に大丈夫だったんですか?」


前を行く鬼大が心配そうにこちらを見た。

続いてミナミも。


「どういうことなのだろう。レンを狙う敵とは」


「コソコソと悪趣味な奴らだ。こうなりゃ本格的に探しだしてぶっ殺してやるよ」


「おう、レンちゃんは俺が守る。あ、惚れた?」


「惚れるか変態」


でも……ありがとう。

素直にはなかなか言えないけど。

みんなの優しさが、痛いくらいだよ。













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