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きみの物語  作者: りいち
24/32

第24話:三度目の正直

すっかり日も沈んだ頃。

私はキリオくんと組織内にあるカフェにいた。

キリオくんが私の世界のことをやけに聞きたがるので話していたら、あっという間に数時間が過ぎていたのだ。


キリオくんは私の言葉に目を輝かせる。

彼が特に気に入ったのは、学生の象徴、体育祭の話だった。


「へぇー、体育祭かぁ。楽しそうなことをするんですね。ガッコウという組織は」


「めんどくさい時も多いけどね」


「たとえば?」


「んー、まず毎朝起きるのがめんどくさい!」


「あはは。それガッコウ関係ないじゃないですか。面白いなぁレンさん」


「えー、関係あるよ。遅刻したら怒られるもん。他にもいろいろ決まりがあってさー。楽しいけどほんと、めんどくさい」


「分かります。組織ってそういうものですよね。カリブでも、規律を乱した者は3日間独房に入れられて拷問を受けるんです」


「ごめん。怒られるとか甘えたこと言ってまじごめん」


カリブに比べたら、学校は保育園です。すいませんでした。なんかすいませんでした。





すると、ツナミさんがこちらへ歩いてくるのが分かった。

あ、と言うと、キリオくんもつられてツナミさんの方を見る。


「キリオ、ちょっといいか」


「なんですか、ツナミさん」


「いいからこっち来い」


仕方ないなぁとこぼしながらキリオくんは立ち上がる。

私に向かって微笑んだあと、すぐに戻りますと言い残してツナミさんとカフェを出ていってしまった。

一人残された私。

カフェには数人ほど他にもいるが、誰も私の存在など視界に入っていない。

仕方なく待っていると、十分くらいしてからキリオくんとツナミさんが戻ってきた。

いつも冷静なキリオくんの表情に、何だか焦りが見える。


「レンさん、僕と一緒に来て下さい」


「え?あ、うん」


カフェを出て、廊下を早歩きで進んでいく。

エレベーターで一番下までおり、建物の正面出入口から外に出て、二人は門の方に向かった。私も黙ってついていく。


「ねえ、どこに行くの?」


「実はさっき、この内部に侵入しようとした男がいて。門番がそいつを捕まえたんですが……」


門番?あのチャラそうな門番が?意外にやるな、あいつら。


でも、どうして私まで?


考えているうちに門の近くに着いた。


確かにそこでは、短髪の方の門番が一人の男を足蹴にして押さえている。短髪の下で力なく倒れているのは木の枝のように痩せ細った男だった。

しかし、その手には鈍く光るナイフが握られている。


「あ、こいつッスよ、こいつ。あー、侵入者とか久しぶり。マジ焦ったッスわぁー」


「いいからこいつが持っていたものを見せろ」


ツナミさんが言うと、もう片方の門番があるものをツナミさんに渡した。


「これだ」


ツナミさんがそれをキリオくんと私に見えるように突き出す。私は思わずあっと声をあげた。


「これ……私の写真!」


そう、いつかキリオくんが見せてくれた私の盗撮写真。え、でもよく見たら可愛い。この私、ちょー可愛い角度で撮られてる。誰が撮ったか知らないけどカメラマン、ナイス。


キリオくんは顔をしかめて写真を見つめたあと、倒れている男の髪の毛を乱暴に掴んで引き上げた。


「どういうつもりだ。なんでお前がこの写真を持ってる」


ひどく冷たいキリオくんの声。

男は見た目が子供だと油断したのか、ニヤリと笑ってから、ペッと地面に唾を吐いた。


キリオくんはそれを見てから、男の髪の毛を掴んだまま思いっきり地面に打ち付けた。男が叫び声を上げるのと同時に、男の額から血が吹き出す。

痛々しい姿は見ていられなった。


「よく考えて返事をしろ。二度は言わない」


男はすっかり怯えきったようだった。震えながら血塗れの顔を上げる。


「俺は頼まれただけだ!そこの女を連れてくるように」


「誰に」


「女だ」


「女?」


「あぁ……女、いや、男だったかな?」


「おい、ふざけてると……」


男は急に高笑いをはじめた。気が狂ったように同じ言葉を繰り返したあと、飛び出しそうなくらい目をカッと開く。そしてぐったりと首をうなだれ、動かなくなった。全てが一瞬だった。


キリオくんは冷静に男の首筋に指を当てた。


「死んでますね」


その言葉を聞いて私は反射的に目を瞑る。

それに気付いたツナミさんが私の肩を支えて離れた場所に移動させてくれた。


「多分、自白すると死ぬように何らかの仕掛けをされていたんでしょう。薬かな?ツナミさん、こいつ一応解剖班に回しましょうか」


「そうだな。おい、あと頼んだぞ」


門番は軽いノリで返事をする。そして、私たち三人は、その場から離れた。


私とキリオくんはカフェに戻り、一休み。ツナミさんはふらっとどこかへ行ってしまった。


私はテーブルに突っ伏したまま動かなかった。


「レンさん、すみません。怖い思いをさせてしまって」


優しいキリオくんの言葉も、今は何だか遠くに感じる。

この世界に来て、人が死んだ瞬間を見たのは三度目だ。私はショックで、しばらく口がきけなかった。

死ぬ直前、男の開かれた眼に自分の姿が写っていたことが恐ろしい。

そして男に対してひどく残酷な目をしたキリオくん。彼の冷たい声には、一切の感情が込められていなかった。

初めてキリオくんに会った時にも感じた、あのねばりつくような恐怖。それを再び間近で見てしまった。

やっぱり、この子は、殺し屋だ。

きっと今更、普通の中学生のようにサッカーをしても野球をしても、私の隣で微笑む少年が最後に行き着く場所は結局同じなのだろう。







次に私が顔を上げたとき、ガラス張りの窓から見える外には月が出ていた。


「え、夜!?」


「そうですよ」


キリオくんは変わらずに微笑む。どうやら間抜けな私はそのまま眠っていたらしい。何てことだ。


「ごめん!起こしてくれたら良かったのに!」


「いえ。嫌なことがあった時には、寝るのが一番ですから」


そんなことを真面目に言ってのけるキリオくん。やはり大人だ。少なくとも私よりは。


「レンさんの寝顔も見れましたしね」


「……よだれ垂らしてなかった?」


「……いえ。別に」


おーい。何で目を反らしたの?ねぇ何で?


すると、電子音がどこからか聞こえてきた。どうやらキリオくんの携帯電話のようだ。

彼は電話に出てすぐ、ものすごーく嫌そうに美しい顔を歪めたあと、携帯を切った。そして溜め息。


「はぁ……」


「ど、どうしたの?」


「実は門番からまた侵入者が来たとの報告を受けたんです」


「え!」


「しかも迷惑なことに、僕の名前を出してるみたいで……」


今度はキリオくんを狙った輩?本当に殺し屋組織って大変だな……。








「……って、お前らかーい」


門番のもとへ行くと、五人の馬鹿面が見事にズラリと並んでいたことに驚いた。

そう、門番がキリオくんに報告した侵入者とは、陽炎達のことだったのだ。

しかしみんなえらくボロボロ。揃いのスーツは破れや汚れが目立つ。いつになくだらしない。


門番二人がが困ったようにこちらをみる。


「あー、キリオさん。どうにかしてくださいよ、こいつら」


「なんかー、キリオさん育てたのは俺だとか言ってんすよ」


誰がだよ。


「おー、レンちゃん。俺に会えなくて寂しかっただろォー」


飛翔が下品に笑いながら言った。


「いや、あんたのことなんかまじで1ミリも考えてなかったよ」


すると、今度はグンゼがふてぶてしく言った。


「おうブス。迎えに来てやったぞ」


「開口一番がそれかい」


ミナミは眠そうに目を擦り、鬼大はにこにこ笑っている。アルは私を見て安心したようだった。


「しぶとく生きてたんですか、みなさん」


キリオくんが素晴らしい笑顔で皮肉る。さすがだよ。


「しっかし初めて来たなぁ。カリブ本部」


「そうでしょうね、別に来ていただく用事もなかったので」


「お前はとことんムカつくな、キリオ」


大人げないよ、陽炎。


するとそれまで黙っていたミナミが口を開いた。


「せっかく来てやったんだ。晩飯食わせろ」


「頼んだ覚えはありませんが」


「火つけるぞ」


「新手の嫌がらせですか」


キリオくんは濃い溜め息を吐いたあと、分かりましたと頷いた。


そして、なぜかカリブの夕飯にご一緒させて頂くことになった一同。

鬼大は、久しぶりに人の手料理が食べられると喜んでいた。健気なやつだよ。

それを見ていた門番二人が不思議そうに訪ねる。


「もしかして、キリオさんの友達っすか」


「僕にこんな下品な友達はいない」


「はあー?こっちこそ願い下げだよ、なぁグンゼ」


「たりめーだ。俺らを誰だと思ってやがる。天下の陽炎だぞ」


グンゼは得意気に髪をかきあげる。

門番はマジっすかマジっすかとうるさい。


「そういうことで、俺ら次から顔パスな」


「うちの門番に変なこと吹き込まないで下さい、グンゼさん」


こうして迷惑な大人たちは、門をくぐった。




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