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きみの物語  作者: りいち
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第17話:さらば美少年


 カリブ本部に連絡を入れてから約10分。驚くべき早さでアジトに乗り込んできたのはひとりの男。


「すいませんでしたぁ!」


 そう叫ぶや否や見事に土下座を決める。なに、この人……と私が引き気味でいると、今まで座っていたキリオくんが短く溜め息をつく。

 きっとこの人が、キリオくんを迎えにきたカリブ本部の人なのだろう。

 いやそれにしても随分と人相の悪い男だ。坊主頭で、こめかみから後頭部にかけて大きな傷がある。間違ってもかの有名な某男性アーティストグループにいるサングラスのあの方ではない。

 目つきは鋭く、並大抵じゃない修羅場をくぐり抜けてきたのだろうということは素人の私から見ても容易に想像がついた。

 まぁ、そんな方が今両手ついて頭下げてるんですけどね。


「本当にこの度はうちのクソガキが迷惑かけて申し訳ない。ここはどうかカリブと陽炎の昔からのよしみとして許して頂けたら……」


 見た目とは裏腹にかなり丁寧な人だ。

そんな彼を見て、グンゼや他のみんなも仕方ないといった様子で頷いた。


 するとキリオくんが立ち上がり、土下座の彼の前に仁王立ちになる。


「もういいですから、顔を上げて下さい、ツナミさん」


「てめぇ、キリオ。誰の為に頭下げてると思ってんだ、コラ」


「やれやれ。出来の悪い上司を持つと苦労しますよ」


「そりゃこっちの台詞だろうが!てめぇいい加減にしろよ!少しは俺の言うこと聞けよ!」


 そんな2人のやりとりを見て、思わず笑ってしまった。同じ組織の上司ですら手を焼いてるなんてかなりの大物のようだね、キリオくん。


 ツナミさんと呼ばれたキリオくんの上司は、私の顔を見た途端眉をしかめた。何だろうとしばらく固まっていると、何かを思い出したかのように、あぁ と呟く。


「あんた、写真の……」


 どうやら私の写真が裏社会で出回っているというのは本当らしい。それにしても小娘一人の写真で騒がれるなんて、どんだけ有名なんだ、チーム陽炎。

 複雑な気持ちで頭を下げれば、横からアルが入ってきた。


「この子はただの居候だ。組織には関係ない」


「あぁ、だろうな」


「だから写真なんてもんが出回るのも心外だ。誰がいつ撮ったか知ってるか?」


「さぁな。陽炎を恨んでる奴はそこら中にいるだろう。誰がやっても不思議じゃねぇ。その女が大事なら、しっかり捕まえておくことだ」


 そしてツナミさんはもう一度私に視線を戻してから、名前はなんだと聞いてきた。


「……レンです」


「そうか。まぁいざとなれば俺たちも協力する。今日は悪かったな」


「いえ……」


 見た目ほど恐い人じゃないみたいで安心した。

 ツナミさんはみんなに向かってもう一度頭を下げたあと、キリオくんの首根っこを掴んで立ち上がった。背が高く、小柄なキリオくんと並ぶとそれが更に強調される。


「ほら行くぞ、キリオ」


「はいはい……。じゃあレンさん、機会があればまた」


「うん、またね!」


 すると後ろから心の廃れた男たちが文句を垂れ始めた。


「俺たちに挨拶は無しかよ」


「あぁ、いたんですかグンゼさん」


「さっきからいただろ!」


「じゃあお元気で。残り僅かな人生楽しんで下さい」


「何で死ぬ前提なんだよ!ざけんなクソガキ!待てこら……」


 グンゼの叫びも虚しく、ツナミさんとキリオくんは一瞬にしてアジトから去ってしまった。すげぇ瞬身だよ。さすが殺し屋の大御所。


「ツナミも苦労してんなぁ」


 静かになったアジトの中で、溜め息混じりに飛翔が呟く。全くそのようだね。


「でもキリオくん可愛いよね。美少年だし。あんな弟欲しいよ」


「俺は絶対嫌だ。一日五回は殺してしまいそうだ……」


「俺もストレスでハゲそう……」


「もはや疲れた」


 口々にそう言うとグンゼ、アル、飛翔の3人は肩を落として自室へと戻っていく。


 私はみんなが出て行った扉を、何をするでもなく、ぼーっと見つめていた。


 すると突然、居間の扉が開く。驚いて肩をびくりと反応した。誰かと思えばグンゼだ。


 どうかしたのかと問えば、彼は扉から顔を出したまま、あーやら えーとやら何か言いにくそうに言葉を濁した。


「なに?」


 私も、もう一度聞く。


「その、お前は残念かもしれねぇけどよ、」


「うん」


「もうキリオの奴が俺たちの周り彷徨かなくてもいいようにするから」


「え?」


「だからっ、あいつの力は借りねえってこと。だれの仕業か知らねえが、写真なんてのも撮らせねぇ」


「……うん?」


「あー! 理解力のねえ女だな」


「は? なにそれっ」


「俺達が守って、やるから。とにかく、お前は何も、心配しなくていい、から……」



 途切れ途切れに言う不器用なところがまたグンゼらしい。

嬉しかった。私なんて別世界の人間で、陽炎のみんなにとったらどうでもいい存在のはずなのに。

グンゼやみんなだけじゃない。今日1日守ってくれたキリオくんがいたから私は危険な目に合わずにすんだ。誰かの優しさの上に生かされているという事実がこんなに尊いものだなんて、今まで考えたこともなかったんだよ。



「心配なんてしてないよ」



わざと明るくそう言うと、グンゼは少しだけ頬を緩めた。



「だってお姫様を守るのは君たちの役目でしょ!」


「誰がお姫様だコラ。頭かち割るぞ」


「あんたさっき守るって言ったばっかだよ」


「……寝る」



グンゼはただ一言そう言うと、居間を出て行った。

残された私はただ漠然とさっきの彼の言葉を思い出す。

照れたようなグンゼの顔を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれた。


グンゼって、よく分かんない。

冷たい時はとことん冷たい。ブスやら貧乳やら容赦ない。

なのに時々、本当に優しくなるんだ。

すごく不器用で、はた目には分かりにくいけど、私には分かる。



グンゼはどうして殺し屋なの?



そう訊いたら、いつか彼は答えてくれるだろうか。





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