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答え合わせ。そして、新たなトラブル

 後日、旦那様の書斎に呼び出され、労をねぎらわれた。


「先日はご苦労。いやはや、盲点だったよ。実に素晴らしい妙手だった」

「いえいえ、たいしたことでは」

「いや、なかなか面白い発想だ。駆け落ちという強硬手段に出たコーツ君を、クエイク家の養子にするとは」


 

 旦那様が口にした通り、俺のアイデアとは、テラ家の四男コーツをクエイク家に養子に出すという方法だった。

 三家の思惑を含めた、詳しい流れは以下の通りだ。



 アスル家は金が欲しい。それを理由にクエイク家に娘を嫁がせたい。

 つまり、クエイク家の人間であれば誰でもよい。


 

 クエイク家はアスル家の家柄としての格が欲しい。

 とにかく、アスル家と続柄になりさえすればいい。


 

 テラ家の四男コーツは跡取りでないため、養子に出しても問題はない。

 跡取りとは無縁なのは、アスル家のアリサ、クエイク家のディルも同様だ。


 

 テラ家からクエイク家の子となったコーツは、政略結婚のため、アスル家の三女アリサと結婚。

 めでたく、クエイク家とアスル家は家族となる。

 ディルの方は、今回の件に特に不満を漏らしている様子はないらしい。

 やはり、政略結婚に乗る気が無かったのだろう。


 

 テラ家は息子を養子に出したとはいえ、血のつながった息子。親戚とはちょっと違うが、深い縁のある関係として良き交流が保てる。


 つまり、三家はテラ家≒クエイク家=アスル家という式で結ばれる。


 

 これで各位憂いなく話が丸く収まる。

 三家は争うことなく、血の結束で結ばれるというわけだ。


 


 思いつきのようなアイデアだったが、話はうまくまとまり、面子の保つための愚かな戦争を避けることができた。


「ヨシト、君のおかげで心配事が一つ減った。礼を言うよ」

「いえ、拾って頂いた恩がある身です。少しばかりでありましょうが、恩が返せたというのならば幸いです。それに、俺のアイデアは旦那様の尽力あってこそですから」


 

 テラ家のコーツを、クエイク家の養子に出す。

 それをクエイク家、アスル家に納得させる。


 

 言葉にすると簡単なことだが、実際に行おうとするのは容易いことではない。

 利を説いて、何とか説得したのだろうが、骨の折れることだったのは間違いないはず。

 俺のアイデアが現実化できたのは、旦那様の働きがあってこそだ。


 

 特にテラ家の当主フラインツは、四男コーツを溺愛している。

 そんな息子を、他家に手放せという話によくぞ乗らせたもんだ。

 旦那様は親バカの説得に、さぞかし苦労したであろう。

 一体、どのような説得をしたのか?

 説得の内容が少々気になる。



「アイデアを出した身でありながら恐縮ですが、一つ質問をよろしいですか?」

「なにかね?」

「フラインツ様をどうやって説得したのですか? 溺愛する息子さんを手放すよう説得するのは骨が折れたでしょうに」

「ふふ、それは溺愛していたからだよ」


「というと?」

「フラインツ殿は、コーツ君の幸せを願っていたからね。コーツ君の愛が成就するようにと、ね」

「な、なんといいますか……真に、ばか親で親ばかですね」

「ははは、ま、私がそういう方向に話しを持っていったのだがね」

「ふふ、なるほど」


 

 おそらくフラインツは、コーツを養子に出すことを相当渋ったに違いない。

 だが、旦那様はコーツとアリサの情を説き、説得したようだ。

 息子が愛した女性と添い遂げられるようにと……。

 もしかしたら、フラインツ自身も、己を納得させる理由に息子への愛を使ったのかもしれない。

 でなければ、不毛な戦争へと繋がってしまう。



 兎にも角にも、フラインツの本当の気持ちはどうであれ、全ては丸く収まった。

 話は終わった思い、退室前に俺はぺこりと頭を下げようとした。

 しかし、旦那様にはまだ要件が残っている様子。


「ん、話はまだ終わってないぞ。君に礼状が届いている。三通ほど」

 三通? テラ家、アスル家、クエイク家の三家からだろうか?

 しかし、貴族様がわざわざ奉公人である俺に礼状など認めるだろうか? 

 それ以前に、旦那様が彼らに、アイデア元が奉公人だと口が裂けても伝えることがないはず。

 無駄にプライドの高い彼らが下賤の身である奉公人のアイデアだと知ったら、この話に乗るはずがない。

 だから、旦那様が俺の存在に触れる事はないはずなのだが……。


 

 俺は蜜蝋で封がされてある、上品な意匠が施された二通の封筒と、無地の封筒を受け取った。

 蜜蝋で封をされた二通の手紙うち一通にはコーツの名。もう一通にはアリサの名が記されてあった。



「これは?」

「君には、先に謝っておく。申し訳ない……」

「え?」

「むぅ……本来、君のことは黙っているべきだろうが、彼らには仲を取り持った真の立役者を知って貰いたくてね」

「はぁ、そうですか……」


 

 旦那様は二人に、俺の手柄であることを伝えたかったようだ。

 だがそれは、俺にとってかなり迷惑な話だった。

 貴族の二人に恩を売れたのは良いことかもしれない。

 しかし、大人しく暮らしていたい俺にとって、あまりよろしくないこと。

 


 今回の件で暗躍していた連中もいるだろう。

 戦争で一儲け企んでいた連中や、これを機に各家々に取り入ろうとした連中などなど。

 彼らの悪巧みを俺のアイデアが、台無しにしてしまった。

 もし、この件が二人から漏れたら、そんな連中にどんな恨みを買うか。



「コーツ君もアリサ君も、君に大いに感謝しているそうだ。今後、何かあれば彼らの助力を得られるかもしれないぞ」

 俺の心の内など知らぬ旦那様は、能天気にメリットだけを伝える。俺としては、デメリットの方が大きそうだと不安に感じているのに……。



 二通の封筒を開き、手紙に目を通す。中身はなんのことはない礼状。封筒に手紙を戻して懐に仕舞う。

 次に、残りの無地の封筒を開こうとしたときだった。

 旦那さまが奇妙な言葉を発した。


「読み終えたら、すぐに処分してほしい。先程の手紙も一緒にね」

 そういって、銀皿とマッチを机の上に置いた。読んだあとに、すぐここで燃やしてくれということみたいだ。


 

 あからさまに怪しい手紙に、俺は眉間に皺を寄せて旦那様を見た。旦那様は、少し困ったような顔を見せている。

 どう考えても、良い手紙とは思えない。かといって、読まないわけにもいかない。

 気乗りはしないが、封筒から手紙を取り出して読んでみることにした。



「うん~っと、この度は……おかげで……え? ちょっと、この手紙はっ!?」

 俺は途中で文を読み飛ばして、文末の最後に書かれてあったサインを見た。

 どういうわけか、サインだけは別の者が書いたかのように文字が崩れていたが、読めないものではなかった。

 その、サインの主は……。


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