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疑いと真実と少女と仲間  作者: 袖下
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プロローグ

―深夜2時波田公園付近―



「起きてぇ!ねーぇ、起きてってばぁ!!」

人気の全くなくなった深夜の住宅街に甲高い少女らしき声が響き渡った。



閉店しシャッターの下りた喫茶店、家人の寝静まった家、チカチカと明滅を繰り返す自動販売機、誰かが乗り捨てたまま放置された自転車。

昼間ならば人と同じく「生」きていたであろう物達が、静かにただ「死」んでいる。



「起きて起きて起きて起きてぇーっ、てば!」

裸足に、白いワンピース。

まるでボールが弾むように、少女が暗い路地から転がり出てきた。肩にかかる長さの黒髪は艶やかだが彼女の激しい動きのせいでぐしゃぐしゃに乱れている。


しきりに誰かを起こそうと叫ぶ彼女の姿は「異様」と表現せざるを得ない。

深夜、住宅街、路地、ワンピース少女。

どれも日常見慣れた光景だ。全てが合わさらなければ。

せめてその起こそうとしている「誰か」の姿があれば「理由」としては成り立ちそうなものを。





小学校高学年くらいか。何故か冷静にそう私が目星を付けた瞬間

目が合ってしまった。


「ひっ...」

自分より遥かに年下の少女に対して息を飲んだ自分に驚いた。

履いていたミュールが足元でカツン、と音を立てる。1歩、少女から後退する。



「おねーさん...」

私をじっと見つめる少女の顔。目星通り小学生辺りだ。大きく丸い目に小さな鼻、口はあんぐりと開いている。こんな状況じゃなければただの美少女に遭遇したOLで済んだだろうし、この後寄るつもりのコンビニでお気に入りのプリンとゼクシ〇を買って帰ることも可能だったはずだ。



「おねーさん、起きてるの?」

「はぇ!?」



起きてるの、とは?このド深夜に何故起きているのかということ?私が何故社畜かということ?アラサーなのに彼氏の1人も作らない独り身で、仕事一筋を理由に何故生きているのかってこと?


いや、待って


突然の少女からの質問を理解出来ずひたすら自分を卑下するのはやめよう私



「おっ、...起きてるよ?お姉さんね、お仕事だったの。忙しかったのよ?コピー機はエラー吐くし人事の大谷さんが寿退社したからお局様のエリさんも1日機嫌悪いしさシュレッダーも詰まるしその詰まったシュレッダーを誰も掃除しないもんだからぜーーーっんぶ私に後から後から任せられていったの!!あ、あな...あなたは...?」



毅然としていつもの様にただの少女に大人である自分が恐れを抱いている事を悟られないように早口で捲し立てた私の努力は、最後の最後に出てしまった震えた声で全て台無しになった。



そんな苦労が水の泡となって弾ける私に反して、目の前の少女の顔がぱぁっと明るく弾けた。


「起きてるのね!!おねーさん!起きてるのね!!」

「え、えぇ...そうよ起きてる、うん起きてるわ」

「やったぁあ!!きゃああ!」


こくこく頷くと、まるで死んだ人が生き返ったみたいな反応。ぴょんぴょんと跳ねる彼女のワンピースの裾が翻る。

瞬間、腕をがしっと掴まれた。



「ぅんえ!?」

「じゃあ来て!!リンリに知らせなきゃ!!」



リンリって?

そう思った私の返事も待たずにワンピース少女はグイグイと、いや、私の右腕を掴んで私の周りをグルグルと回りながら前へ歩き出した。

遠心力かな、すごい。

普通に引っ張られるよりも回る力を足されているからなのか、驚くくらいの力で体が持っていかれる。




多分、この時に緊張感は死んだ。

非日常に手を引かれ、私は薄暗い路地へとミュールの踵を鳴らしつつ入り込んだ。

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