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第一章 『一年前、迷焦が夢を諦めた理由』後編

“神獣”

 それは聖域を守護する世界に100といないエリア守護者。

 RPGでいうボスモンスターである彼らは圧倒的な力を持ち、自分たちが住まう域。領域を荒らすやからを排除する習性を持つ。

 そのため神獣が住まう領域はドリムなどが寄りつかず、食物などが豊作になるなど人々からは崇拝の対象となっている。

 

 しかし神獣を使って作る武器は最強クラスの性能を誇るため一部の冒険者はこぞって神獣を狙う。

 もっとも、力が強すぎるために返り討ちにあう者のがほとんどだが。



******


 灰色の雲がびっしりと空を覆い、雨を降らしている。

 海は荒れ狂ったように波が激しくのたうち回る。岸壁に幾度となく波がぶつかり、終いには岸壁の一部をもさらってしまう。


 そんなにさなか無道迷焦はポツポツと海に浮き出る岩の一つに立ち、海竜と思しき姿をした怪物と戦っていた。


“レヴィアタン”

 一つの海を支配する神獣にして、双頭といかなる武器を通さぬ鱗を持つと言われる怪物。

 渦巻きを作り出し、通りかかる船を海に引きずり込むという。


 迷焦は迫り来る脅威に対し魔法を言う。


『眠れ』


 途端、荒れ狂っていた海はその形を保ったまま凍りだす。

 そこらの船よりもはるかにでかいレヴィアタンをそれ以上の大きさの氷の波で押さえ込む。

 氷壁に閉じ込められるレヴィアタンは必死にもがき、氷壁を壊そうとする。


 魔法の反動からか息を荒らす迷焦は今にも氷壁をぶち壊しそうなレヴィアタンに向かって走り出す。


 問題は一つ。

 どんな武器をも通さぬ硬さを持つ鱗。それは非常に厄介だが、万能というわけではない。その硬さゆえに細部まで覆う事が出来ず、鱗同士の間には小さな隙間がある。


 迷焦は愛剣アクウィールの形状を槍へと変化させる。 

 そしてそのまま爆発させる勢いで足場を蹴り、氷壁を壊すレヴィアタンへと飛び込む。

 

 狙いは鱗の隙間。針に糸を通す正確さで隙間に槍を突き刺す。血飛沫が舞い、迷焦の頬に飛び散る。

 そして槍をさらに斜めに差し込み、鱗を剥ぎ取ろうとてこの原理を使う。


 メリメリと音をたて、巨大な鉄板が剥がれ落ちる。中から柔らかそうな肉が露わになる。


 そこにさらなる攻撃を仕掛けようと槍を振りかざすとそこで完全に氷壁を壊したのか、レヴィアタンが体をうねらせ迷焦をはねのける。バランスを崩しながらも岩に着陸する。


 レヴィアタンはよほど激高しているのか今までで最高の速度で迷焦に襲いかかる。荒れ狂う海の支配者は何者にも止められない天災と呼べるほど絶望的な力だ。

 対して海竜を怒らせた張本人は死闘の戦いで見せる冷徹な表情を見せるだけだった。

 投げ槍の構えになり、ウィークポイントに狙いを定める。


『眠れ』


 囁くなり、青く光る槍をレヴィアタンへと放つ。

 その一撃は光の矢となり鱗の無くなった場所に吸い込まれる。


 ディオロスを超える事が今の迷焦を突き動かす源だった。

 最終試練の前に立ちはだかる壁。それを乗り越えなこれば迷焦の冒険は始まらない。

 そのためにまずは神獣に勝とうと何度目かわからない戦いに挑むのであった。



******


 ディオロスとの戦い後、力をつけるために日々修行する迷焦だが、毎日の時間をそれに費やしては金がそこを尽きてしまうため、平日はちゃんと仕事をするのである。王立統制院は給料がいいから迷焦は入ったという節がある。

 

 そんな迷焦はいつものように可愛い後輩のラルに愚痴を聞いてもらうのだ。


「また負けたし。攻撃力が足りないよまったく。どいつも頑丈な体しやがって」

 

「先輩また一人で神獣と挑んだんですか! これで四度目ですよ。何度死にかけて来れば気が済むんですか! 毎週のようにボロボロの姿の先輩を見るこっちの身にもなってください!」


「いや、その......ごめん。......でもでも今回のレヴィアタンはほんとに惜しかったんだよ。......ちょ、泣く素振り見せないで。わざとでもいたたまれないから!」


 神獣に挑んで生きていた者はそう多くなく、前代未聞の単独戦闘なんてどれほど危険かを迷焦は理解出来ていない。

 ゆえに実はラルがガチで泣こうとしている事もわかっていないのだ。


 もっとも、その恐ろしさを知らない事が迷焦を生かす事に繋がっているのだが。


 それよりも瞳に涙を溜め、スタンバっているラルをどうにかしなきゃと迷焦はあれこれ考える。迷焦は戦闘こそ得意だが、こういった事は点でだめなのだ。

 

 見かねた金髪の残念イケメンことユーリがにやりと笑う。


「おいおい後輩を泣かすなよ。ここはあれだ。『もうお前を悲しませたりしないから』と抱いてやれ。夢と希望が詰まった行為だ」


「そんで二人は結ばれると。......んなわけあるか! わいせつ行為で現行犯逮捕ですよ! そこには夢も希望もないじゃないですか!!」


 犯罪者となった未来を想像して絶望する迷焦とさすがにぶたれる程度だろと他人事のように呟くユーリ。

 そんな朝の仕事をほっぽりだして騒ぐ二人の姿を見て、この班の聖母こと仕切りやのヒサミ咲蓮は引きつる笑顔を向けるのであった。


「何々。ヒサミもしかして自分だけ相手にされなくて拗ねてるのかにゃ? 」


「なっ! 別にそんな事は。それよりなんでユーリ君の口調が変わってるのよ。まさか私を小馬鹿にするためだけに!?」


「ふ、ふ、ふ。今日の俺は一味違うにゃ。なにせ、ヒサミの弱点を発見したんだからにゃあ」


「弱、弱点! まさかあれがばれたんじゃ......ユーリ君たんま。お願い。言わないでー」


「キラッ、ヒサミ先輩の弱点!? 気になります。ユーリ先輩、後輩権限使います! 教えてく~ださい☆」


「なあっ、ラルさんまで......わああ、そんなキラキラな目を向けないで。迷焦君、二人の対処手伝ってー」


 とまあいつものパターンに入り、ヒサミはユーリとラルに翻弄され、迷焦が助太刀する。

 

 迷焦が最終試練という途方もない夢に挑もうとするのは、ひとえに仲間たちの存在なのだ。


 賑やかになるいつもの職場。そこに扉を開く音が聞こえ、彼らの賑わいは一瞬にして静寂に変わる。


 入ってきたのは迷焦を負かし剣帝となった、顔に古傷のある男。ディオロスその人だった。

 ディオロスと後ろの二人は明らかに高級品であるとわかる鎧を着ている。

 彼は前に乗り出し、猛々しい声をこの部屋に放つ。


「罪人無道迷焦! 神獣を傷つけその地域の結界を弱めたため、そなたを粛正する!」


 こういう時の粛正は処刑宣告を意味する。

 迷焦は敵意むき出しの表情で腰の剣に手をおく。

 そんな迷焦をラルが押しのけ、彼らに抗議する。


「そんなのおかしいですよ! 大体取って付けたように罪だのなんだの。あなたたちはそんなに向こうから来た人を排除したがるんですか!」


 ディオロスは元々怖い顔であったが、真面目で人に優しいだった。しかし今はそんな素振りを見せず、抗議して来たラルをにらめつける。


「お前も死にたいらしいな。ならば迷焦共々死ね」


 巨剣を取り出したかと思うと次の瞬間、無防備なラルに剣帝の一撃が襲いかかる。

 それを迷焦がラルを庇うようにして剣をぶつける。

 しかし、ディオロスの一撃は山のように重く、さらに二人をぶっ飛ばす。以前よりも明らかに攻撃の威力が増している。


 二人がぶち当たった壁が崩れ、彼らは倒れ伏してしまった。

 その後迷焦はラルを支えつつよろよろと起き上がると、ディオロスをにらめつける。


「ディオロスさん、あなたガブリエルになったんですね。怪力系の記憶を引き継いだんですか?」


「ほう、わかっているのか。そうだ。俺は剣帝になった後ガブリエルへと昇格し、軍神アレスの力を得たのだ」


「でも、その力は一部だけであなたはアレスの怪力の部分だけを取得したというわけか。たいした怪力馬鹿だな」


 ガブリエルの特徴は神(人の信仰、想像で作り上げた)の記憶の一部を引き継ぎ、通常では想像出来ない力を発揮させると言うものだ。


 でも今の迷焦にはディオロスがガブリエルになろうと、力をつけようと関係なかった。


「だけどこれだけは忘れんな! 僕の仲間を傷つけてただですむと思うなよ怪力男」


 誰が見ても迷焦はぶち切れていた。迷焦はただでさえガブリエルを毛嫌いしているのに仲間を傷つけられたとなればその怒りはかなりのものとなる。


 敵へ向ける冷徹な目をディオロスに向ける。


「死ね!」


 迷焦はいきなりディオロスの目の前に現れたかと思うと首へと剣を振り抜く。

 ディオロスは間一髪でよけ、迷焦にパンチを喰らわそうとする。

 迷焦は驚異的な身体能力でそれを回避、ディオロスは巨剣を振り回すがそれも全部避けまくる。


 元々迷焦の身体能力はかなり優れているが感情を爆発させたのだ。

 身体能力だけならガブリエルよりも上だ。

 獣のごとき反応速度で攻撃を避け、手数で上回る。


「お前、ちょこまかとめざわりだ」


「黙れガブリエル」


 迷焦はわざと巨剣に当たるように体を動かす。そして氷魔法で体にバリアを張り、巨剣の勢いを相殺する。

 がら空きとなった顔面目掛け剣を振る。


 だが、迷焦の攻撃は不発に終わった。ディオロスは迷焦の腹にパンチを喰らわせる。迷焦はそのままうずくまる。


 その後ディオロスは背後にアレスの化身を出現させたかと思うと、災害規模の爆発が起こりこの場所一帯を崩壊させた。


 辺りにはがれきが散乱し、災害の跡地のようになっている。迷焦は傷だらけの体を起こし、周りを見ると倒れ伏す仲間の姿を目にするのだった。

 

 これがガブリエルの力。神の力を身につけし、法を統べる者。


 ディオロスはこの惨状を見て、言葉を吐き捨てる。


「ざっとこんなものか。さすが俺の力だ。いいか迷焦。これがお前との差だ。お前が罰を犯すならいくらでも相手になるぞ」


 言い放ったディオロスは護衛の二人と共にこの場を去った。


 ディオロスのその言葉は迷焦の心を深くえぐった。

ガブリエルは異世界から着たものが最終試練へと挑戦する事をよしとしない。

 これから先、最終試練に挑むものならまたガブリエルが迷焦を襲い、仲間を傷つけるのだ。


 (だめだ。僕の身勝手でまた仲間が傷つく。なら、最終試練は......僕の夢は)


 迷焦は傷だらけの仲間たちを見る。今回は生きてたけど次もそうとは限らない。


 空は曇りだし、雨が降る。迷焦の心を映し

出した鏡のようだ。


 雨で濡れる迷焦の瞳から出たのが雨なのか涙なのかはわからない。だが、彼は確かにこういった。


「もう、最終試練は......僕の願いは諦める......。だから仲間には手を出さないで」


 迷焦が最終試練に挑むのもハイリスクな戦闘をする事もそれからはなかった。


 人は何かを切り捨てる。迷焦が自分の夢を諦めた瞬間だった。それは迷焦にとって大切な事を捨てる行為だが、それでも彼は諦めたのだ。



******


 そして現在、迷焦は栞の頼みを聞いて返事をしだすところだった。


『ワタシと一緒に最終試練を目指そうよー』


 その言葉に迷焦は体の中に熱いなにかが動くのがわかった。

 安定よりも挑戦。迷焦は以前のように挑戦したいのだ。

 それで死んでもくいはない。そう思いたいのだ。


(でも、僕の身勝手でまた仲間を......)


 近くにいるユーリはお前に任せると言っている。

 (ごめん、みんな。僕は......挑戦したい)


 迷焦は栞に向け、精一杯の笑みを見せる。 


「ああ、よろしく。僕はもう逃げないよ」


 栞にはまだチート能力を上手く操れる技量はない。戦力にはなりそうにない。それでも修行すればかなりの物になる。


 こうして迷焦は再び最終試練へと向かうのであった。そしてガブリエルであるディオロスに再び挑もうとする迷焦だった。



******


 とある草原はそよ風により、なびいている。

 栞は慌ただしく揺れる髪を気にせず寝っ転がっている迷焦を見る。


「あのさぁ迷焦。なんで素性も知らないワタシと共に戦おうなんて思ったの? 他にもチート能力者はたくさんいるのに」


 迷焦の方は風の心地よさにうとうとしながらその瞳を開く。


「いや~。僕も君のように曲げない意志を持とうかとね。こんな短い人生なんだよ。未練が残らないように全力で生きようと思っただけだよ。それに」


 まだ互いは最終試練を目指す理由を話し合っていない。それでもいいのだ。ただお互いが悔いの残らないようベストを尽くす。

 

 迷焦は過去の師匠の言葉を借りた。それが今の気持ちだから。


「何事も一歩前に踏み出さなきゃ始まらない。僕はただ踏みだす事によって人生の選択肢を増やしたいだけだよ」


 迷焦は微睡みの中、小さく微笑んだ。


どうも。昨日投稿出来ずに申し訳ありませんでした。

ガブリエルって強いですね。

これから迷焦たちは最終試練へとようやく挑むわけです。

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