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『蘇る記憶の一ページ』

 先輩はいつもより綿密に準備を行っているようです。

 私がいろいろ言ったからでしょうか。

 とにかくさっき先輩が弄っていたのはワイヤー。

 つまり、トラップ系で攻める、いや先輩の事だから同時か時間差で攻めるはずです。

 でも、今細工くしたり、止めようとしたら気づかれるに決まってます。

 やはりお父さんが来る前にやるしか無いですね。

 

 問題はどうやって先輩にお父さん殺しを辞めさせるかに限ります。

 さっきの考えでは先輩は向こうで死の恐怖を味わう事で変わったと言っていました。

 やはりあの手を扱うしかないと。 

 こうなったらお父さんにわざと......いやそんな迷惑はかけられません。

 先輩からしたらお父さんは強過ぎるボスキャラ。傷をつけれなければ血を見る事も無かったはず。

 有効だと思うんですけどお父さんのその後が心配になります。

 

 と、何度目かの聞き覚えのある車が近づく音が。間違い。あれはお父さんのだ。

 

「えっ、もう帰ってきたんですか?!」

 

 早い。早すぎる。

 日本人は生真面目だと知っていましたが家族愛ありすぎるでしょ!

 声とのギャップさありすぎです。

 毎回、風呂はまだか、今日も旨い、仕事に言ってくるの固定文連発で家族交流一切してなさそうなあんたがッ!


(まずい、速く行かないと)


 駆け出した足は妙に重く感じ、心臓は不気味に鼓動する。

 階段を一段ずつ降りるのも億劫で一気にジャンプする。

 着地に耐えられず転んでしまうがすぐに立ち上がった。

 認識として頭に入るのはリビングに入るお父さんが私に振り返った事。

 その後ろで先輩が物干し竿にナイフを取り付けた槍で襲おうとした事だ。


 まずい。

 私はわき目もふらず走り出す。

 先輩に向かって。


 お父さんは槍を掴み取ろうとして、横から飛んでくるナイフの存在に気づく。

 ワイヤーを張り詰めた状態で切ったりすれば、飛び道具のようにくくりつけた物が飛ぶ。

 ナイフを正確にお父さんに仕掛けるとなると、そうとう研究したに違いない。見事に死角をついてくる。


 更に先輩は先端に針のついた、エアガンで一発。

 お父さんが元軍人であるならこの針には毒が塗ってあると思うに違いない。だからそれをエアガンを避けて僅かに無理な体勢で防ぎきるはずだ。

 しかし、それが先輩の狙いだ。

 体勢の崩れたお父さんに至近距離からのナイフを与えるために。

 既に撃ち終えたエアガンを捨て、ポケットの口が切れるや黒い得物が顔を覗く。

 それはメスの医療に使われるようなように小さく、鋭さを持っていそうなサバイバルナイフ。

 それをお父さんの心臓に向けていたのだ。

 私は走った。

 息が苦しいのなんか気にならないくらいに。

 ここで先輩が人を殺せばもう、あの姿が見れなくなってしまう。

 多少血を出して貰えば先輩は辞めるだろう、そんな考えはもはや私の中に無かった。 

 お父さんを、家族を傷つけちゃ駄目ですよって、誰よりも身内を大切にしてた先輩自身にそんな事させちゃいけない。

 私は遠距離担当と言う昔の事を忘れ、前に、ナイフを持つ先輩の腕を掴んだ。

 貧弱な私の力じゃ軌道を変えるくらいしか出来ないですが、それでもお父さんを傷つけるよりはましです。


「えっ、レナ......」


 先輩の見開いた目が怯えの表情でこちらを見ている。今頃手から体へと死の恐怖が駆け巡っているだろう。

 私に刺さったナイフを介して。

 結局私はお父さんに傷つけないために自分の体にナイフを誘導してしまったのだ。

 お腹に刺さるナイフは冷たく、そこから漏れ出る私の血が生命の消失を物語る。

 

「レナ。何で、僕、君を」


「ごめんなさい先輩。計画止めさせちゃって。でも、先輩にお父さんを殺して欲しく無いから」


「馬鹿、そんな事どうでも......」


 ナイフから手を離す先輩の顔には困惑や恐怖、後悔、絶望などの感情が渦巻く。

 人が死ぬ事をまじかで知ってしまい、動けなくなる先輩。それも自身でやったとなればそうとうなものになってしまう。


 私の身体からはすぐに激痛が走る。

 刺さったナイフと共に床に崩れる。

 

 そこでお父さんは初めて私が置かれた状況を知り、とっさに先輩を突き飛ばす。

 すぐに救急車への通報を始める。

 お母さんは来た途端に床に尻餅し、それから声が聞こえない。

 私は痛みに耐えるよう無理やり笑顔を作り、先輩へと震える手を伸ばした。

 

「先輩、これで......わかったでしょう。これをあなたはお父さんにしていたん、ですよ。もう終わりに......してください。あなたが一人が弟さんの事で背負う必要は無いん、です。家族で背負うべく......なんですよ」


「喋っちゃ駄目だよ、こんな、僕のせいで......ごめん、ごめん」


 先輩は罪悪感から私の手を掴もうとはせず、ましてやその場から立ち上がる事すら出来ていなかった。

 握ってよ先輩。私死ぬならせめて先輩と触れ合いたいよ。

 この傷なら死なないと分かってはいるのだ。

 ただ、なれない痛みが冷静さをかき、私に死の恐怖を植え付ける。

 どうしようもなく先輩が恋しく感じるのだ。

 這いつくばってでも先輩に手を伸ばそうとする。

 先輩の顔がどんどん破顔していく。

 先輩の荒い呼吸が、不安が、目に見えて陰を濃くした。

 私が近づく事に先輩は距離をあける。

 逃げるかのように。距離から。


「止めろ静次、頼むから来ないでくれ!」


 怯え、耳を手で覆う先輩は必死に何かから逃れようとしている。

 弟の静次さんの事で一番苦しんでいたのはやはり先輩であった。

 私の姿が弟に重なってしまうほどに。

 

 でも、私は......弟さんじゃない。


「私を見てください! 私は、レナです。誰かと重ねないでください。お願いですから私の手を握って......ください」


 ここにきて口から吐血する。

 痛みは氷のように冷たく、なのに私の意識だけが朦朧としだす。

 私はそれでも先輩へと手を伸ばし続ける。

 

「お願いですから......笑って、ください。もう、悲しそうなあなたを見たく無い。先輩には私がいます。だから......過去に捕らわれないで、前へと歩んでください」

 

 平常時にこんなセリフは痛いだけだ。

 でも、今はこんな言葉が一番だと私は思っている。

 私は痛みと悲しみの粒を瞳から零し、床に落ちる。

 そして、それは先輩にも同じだった。

 私以上に子供っぽい先輩は嗚咽は漏らさず、ただ涙を流し、すがりつくように私の手をとった。

 私の小さな手がせわしなく濡れる。

 でも、それは温かく、優しいものでした。

 

 私は近くに来た先輩へ最後の力を振り絞り、腕を高く、先輩の頭へ伸ばした。

 よしよしと頭を撫で、赤子のように泣く先輩をこちらに向けさせる。人差し指を先輩の口元に当て、私はこういうのだ。


「お願いですから家族の喧嘩は駄目ですよ......後輩、命令です先輩」


 私の思考はそこでぷつりと途切れる。

 ゆっくりと、意識の底に落ちていった。



************


 レナが倒れたその夜。

 僕はようやく降りた入室への許可を聞くなり、いの一番にレナの元へと向かった。

 鼻孔に纏わりつく薬品の臭い。

 ドアを開けるとその色が甘い香りへと変わる。

 これまで気付く事の無かったレナの匂いだ。

 病室へと足を入れるとベットの中でレナが僕を待っていた。

 いつもの幼い顔は月光により、凛々しく染まっている。

 兄が言うのもあれだが、その姿は既に絵として完成されており、妹の別の魅力を引き出していた。


「はぐしてお兄ちゃん」


「初っ端から何言ってんだよ。でも、無事で良かった、本当に良かった」


 明かりがついていたら兄の醜態を晒す事になっていたに違いない。

 一度したとはいえ軽く平常心を保つ。

 窓から注ぐ光はほど良く病室を明るくするが、レナの顔が見えにくいとスイッチを探す。

 と、それをレナが制する。

 電気の光は眩しいからだと。

 椅子に座ると、レナが手を動かし、「ベットに座って」と言うので恐る恐る座らせてもらう。

 僕にはまだ罪悪感が残っている。

 あの後親父と久しぶりに話し、謝った。

 あの糞親父は笑っているのか怒っているのかわからなかったがただ一言、「迷うのが人間だ」と。

 でも、僕が一番気にしているのはレナだった。

 僕の手で妹を殺しかけてしまったから。

 それを償おうと思う。

 どれだけ罵られようと。

 レナのおかげで助かった自分も確かに存在するのだから。


「ごめんな。僕、どんな言う事も聞くからレナに償いたい。殴るなら殴れ、高級バックが欲しいなら数ヶ月待って!」


 頭を下げる。

 シンプルだった。

 そして、返ってきた答えもシンプル、いやド直球であった。

 最初に感じたのは胴に当たる柔らかな感触と心地よい温かさ。

 レナが僕に抱きついていると脳が結果をはじき出すまでにたっぷり二秒もかかってしまう。


「えっと、これは?」


「見てわからないのですか先輩。これはハグです」


「いや、そう言うんじゃなくて」


「えっへへ、先輩と触れあえてるよぉ。頑張った私。偉い偉い」


 はしゃぐ妹。

 妹の顔が僕の胸でアツい息を吐きかけてくる。

 罰を受けるはずの僕は発展途上にしては優秀すぎるあれを押し当てられ、どちらかと言うなら吉である。まあ妹に欲情する性癖は無いんだけどさ。

 問題は、

 

 なんでこうなった?


「あの、僕の罰は?」


 困惑しながら尋ねるとレナは不適に笑う。

 小悪魔らしき可愛らしい企み顔をし、指を三本立てる。


「なら一つ、私はお兄ちゃんを先輩とも呼べる。二つ、二週間に一度は二人でデートする。三つ目は私に対する罪悪感を全て忘れるって言うのでお願いしますよ。後輩命令です」


 上目遣いで言われた。

 それで償えるなら安すぎるもんだ。

 三つ目が一番重要なはずだが、僕は思わず言ってしまう。


「二つ目のなんだよ、デートって」


「先輩は家庭の家族を知らないでしょうけど、兄妹はこれくらい普通ですよ? それにお願いだからいいんです。」


「そう、なんだ。家族って仲良いんだな」


「そうなんです。身内は全てにおいての至高です。特に妹という存在は。キスしてもいいんですよ、いいえしてください! これが四つ目のお願いです」


「えっ、存在しない四つ目?! 兄妹だよ、それに相手僕でいいの?」


「いいんです! キスとは誓いの意味で良く使われており、その......変な意味とかは無いですからね」


「何故急に頬を赤くする?」


 レナの頬は月光だけが頼りの暗い部屋でもよく分かるほど赤く、光を反射して、綺麗なものだった。

 こんな美少女の兄が僕でいいのだろうかと思ってしまう。ましてやキスなんて、したこと無いのに。

 

「その前に一ついい? レナ。僕は君に感謝してる。救ってくれてありがとう。こんな兄だけどこれからもよろしく」


「どええっ。ここに来て褒め殺しですか! 先輩大好きですッ!」


「僕もだよ。今度は兄が支えてやるから」


 というとレナが一瞬冷めるのだが、なぜだろう。


「えーと。じゃあ行くよ」


「はい、その、お願いします」


 もじもじと目を閉じるレナに僕は躊躇いを感じてしまう。

 妹とはいえ僅かでも僕の心臓が速まってしまった事を許してくれ。

 僕は月光からレナを隠すようその柔らかな唇を塞ぐ。 

 多分一瞬だった。

 僕が恥ずかしさのあまりすぐに引いてしまったからだ。

 ウブな兄でごめんよ。

 僕は心で謝る。

 

 と、何語か聞き取れない歓喜の叫びを妹が上げる。


「ああ、私は今先輩を物にしている。人生一番の祝福だよぉ。栞ちゃんにも出来なかった事を私は成し遂げたんだー!」


 ハイテンションな妹。

 ふと、レナが発した単語の一つがどうしてもうずく。

 栞。

 本を挟むあれとは違う何か。知らないけど懐かしいと思えるその響きが僕の記憶になんと、フラッシュめいた映像を見せ始めたのだ。


 小さな泉を囲うよう生えそびえる樹木たち。

 場所はわからないが日本では無い。

 幻想的過ぎる。

 一本一本が巨木であり、根っこにはまだ幼さの残る少女が座っていた。

 白のワンピースがそよ風に揺れ、同時に銀髪からエメラルドの瞳がこちらを優しく愛でる。

 人間離れした美しさだと思った。

 直感する。この子が栞だと。

 それだけでは無い。

 懐かしい。

 少女が伸ばした手を僕は掴もうと、そして、すぐにその光景は病室に戻ってしまった。

 僕をどうしようも無く悲しい気持ちがこみ上げてくるのを堪えられなかった。

 あの少女に会いたい。そう強く渇望する。

 なぜだかわからないが僕は今日何度か分からぬ涙を、もしかしたら一番になるほどの勢いで流した。

 ぽっかりと抜け落ちたような心の温かさ。

 それを補うよう妹が更に強く僕を抱きしめる。

 それに甘えてしまう。

 何かに飢えた僕はただひたすらに泣き続けた。


 栞、君はどこにいるの?


 僕の泣き声は月光に飽和されることなく、ただ、その場に残り続けた。


 その後、家族との中も良くなり結構楽しく過ごしている。

 ただ、あの少女の詳細はいまでもわからない。



************

 

 これは迷焦の知らない時の話。

 真夜中には病院内は静まり返っていた。

 無道レナとかかれた病室内には先ほどと変わらず月光がさし、ベットで寝落している二人の姿を映し出す。

 仲良さげに満足そうな笑みを浮かべているがふと、少年の瞳孔が開く。

 起き上がるやパソコンを取り出し、何やら検索をし出す。

 『夢世界ハルシオン』とかかれたそれに対する答えはわんさかと画面を埋め尽くす。


「ゴロゴロでるわ。何々、異世界に行く方法っだははまじでやってる。馬鹿だ、馬鹿共の宝庫だ! どうして噂に食らいつくのかね、まあ実際あるんだけど」


 片手でで笑いを堪え、もう一方で今度は感情粒子と検索をする。

 パソコンから放たれる光に反射しているのは迷焦の顔だ。

 でも、違う。

 鋭さというものなのか、とにかく獰猛に感じられる。

 そもそも迷焦はハルシオンでの記憶を失っているためにこの単語を知らないはずなのだ。

 だとすると、誰なのか。

 迷焦の顔をした少年がぽつりと画面の文面を読んで呟いた。


「感情粒子。感情、記憶で構成させられた粒子。仕組みは解明されていないが感情の高まりと共にその数が増える。それが魂だとも言われている。あり得ねえ」


 少年は読み上げた文面を即座に否定する。


「そんなもんいつ発見された? 大体向こう側からしておかしいんだ。夢の総合ネットワーク? 夢っていうのは脳の情報処理の余剰だろうが。外部には持ってけねえ。だが、幽体離脱がほんとうにできりゃ話は変わるんだろうけど。いや、僕の存在が事実の確定を告げる、か」


 一人で納得し、次々と画面を下に走らせる。


「それより栞まで到達するにはどうするかだ。前見たくなるのはごめんだ。かと言って二重人格となった今じゃ裏の僕の活動時間はかなり少ない。表のこいつがある程度思い出さねえ限りこっちからの接触は出来ないとなると、さぁてどうすっかな」


 彼の正体は迷焦である。

 正確にはもう一人。

 向こう側で人格を分けられた存在。

 メイヤと名乗る者は画面に小さく書かれた言葉に目をやり、そして見開いた。

 


『夢界コロシアム。2046の今ですら成し得ていないVRMMO。これは夢が舞台のアクションゲームである』


 

「良い成績が収められればあなたの探し人も見つけられるでしょう......か。また戻ってくんのかここに。やっぱりここに戻ってきちまうのか」


 メイヤは嬉しそうに笑う。

 野獣の如き瞳が次なる戦いの到来を告げていた。

 



どうも。『夢界交差のハルシオン』をここまで呼んでくださった方々ありがとうございます。

 反省点上げたらきりがないですが、僕の場合、場面転換が違和感のないようが出来ません。


 まあ自虐は受けないのでここまでで。

 

 次は普通に高校生活を送る無道迷焦、彼は一人の少女の事を探していた。

 そこで彼は夢界コロシアムと呼ばれる世界で、二度目の戦いを繰り広げていく。


 っていうVRMMO感四割、学園と日常六割でやっていきたいと思います。

タイトルはまだ考えてませんが、上がった(?)スキルを生かして面白い話を作りたい!


 ので、呼んでくださったらありがたいです。

 ちなみにこちらの『夢界交差のハルシオン』

 の更新は番外編など書くかとがあるとおもいます。


 読んでくださったり、ポイントや感想をくださった皆様。

 本当にありがとうございます。

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