第四章 『立ち向かえ』
圧倒的な光量の元に床が焼け、間一髪の爆音寺は逃げ惑う。
(さて、どうしたもんか。これじゃいずれやられる)
と、どこからか爆音寺に長槍が投げられる。
爆音寺はとっさにこれが迷焦が作った創造魔法である事を理解し、受け取る。
「ほんじゃ行くぜ」
駆ける爆音寺。幾重もの光線を避け、自身の能力、全身から物質を壊す超音波を発生させる。
それはもちろん今受け取った槍にも適応される。
長槍が爆音寺の新たな手となってガブリエルとの距離を詰める。
「チェックメイトだ! 俺の最強伝説の糧になれ」
「ふざけるな阿呆」
女性のガブリエルは数多の楽器を飛び道具として爆音寺を妨害しようと試みる。
だが、
「こんな壁は無いにも等しいんだよ」
ひさびさに乗ってきた爆音寺。
彼は拳で床を粉砕し、その衝撃波で楽器を無力化する。
大量の破片が滝のベールのよう二人の間に境界線を引く。
そして、それを貫かんと前に繰り出される爆音寺の槍が女性のガブリエルの心臓を射抜くのだった。
弾ける効果音と共に女性騎士の体は霧散し、床に落ちる楽器だけが彼女の生きた証となった。
戦い終えた爆音寺はすぐに迷焦へと駆け寄る。
「兄貴もう終わったのかよ。はえーな」
「まあ。それよりあっちの手伝いに行こう」
迷焦の視線の先、メイヤとアクウィールが見事な連携でアンゴルモアに立ち向かっていた。
空中を駆けるアクウィールの背からメイヤは漆黒の炎を繰り出す。
アンゴルモアが攻撃の際、二手に別れて攻撃の制限。
メイヤは黒炎を宿した剣でアンゴルモアに攻め、着実にダメージを与える。
「おら、召喚フェニックス」
フェニックスはアンゴルモアに食らいつこうとする。
更に迷焦も空中に足場を作って素早く駆け上がり、アンゴルモアにゲイ・ボルガと呼べる槍で追撃を行う。
しかし、
「どうやら理解して頂けないようだ。私は神の片割れなのですぞ」
と、突如として発生した光の爆発がフェニックスを消し去る。迷焦には杖を衝突させ、そのまま弾き飛ばす。
一瞬で蹴散らされ、衝撃の嵐が吹き荒れる。
しかし、それすらも勝利の糧にしようとは閃光に隠れ奇襲を試みるメイヤ。
その剣はアンゴルモアの腕を切り落とすべく滑る、
が。
攻撃は思いも寄らぬところから来る。
メイヤの足がなぜか切り裂かれる。
それも刀で斬られたかのように。
「私たちには勝てませぬぞ」
アンゴルモアは動きに隙の生まれたメイヤに蹴りを食らわし、アクウィール共々地に叩き落とす。
それを壁に撃墜され、なんとか地面に戻ってきた迷焦が見ていた。そして、とっさに倒したはずのサムライに視線を向ける。
「くそっ、うち漏らした」
サムライは変わらずの場所で倒れているが刀は既に振り終えられており、奴の能力が発動したのだと悟る。
迷焦は苛立ちのあまりサムライに剣を突き刺し、荒く魔法を唱えて凍らせる。
「メイヤ、アクウィール!」
迷焦と爆音寺は二人に駆け寄る。
「やべーな。蹴りだけでこの威力。こりゃ奥の手出さなきゃいけないか」
「冗談言ってる間に立ってメイヤ。一度撤退するよ」
「奴らが逃がしてくれると思うか。下はもうガブリエルがわんさかだぞ。逃げる場所なんてねえよ」
下から聞こえる大量の怒声。
バリケードを破ってガブリエルがこちらへと向かっている。
迷焦は上を見るがあるのは高くにある天井。
その前には高らかに笑うアンゴルモアが。
「器の二人よ。大人しく器となるのが身のためですよ。儀式場まで案内して差し上げるので。最後にここにいる眠り姫にもあわせて差し上げますよ」
結晶の中で意識の無い栞をコツコツとアンゴルモアの杖が叩く。
それだけで迷焦の表情が怒りに悶えそうになるが太刀打ち出来る相手では無いと堪える。
メイヤはボロボロの身体を起こし、譫言のように呟く。
「せめて少しの間奴らの手の届かないところに隠れれれば手を考えられそうなんだけどな」
「でも、場所なんて......ここなは壁しか」
迷焦が悔やむように唇を噛み締める。
ここで終わってしまうのかと、
「場所ならあるぞ迷焦」
その声の主は二メートルはある巨にを天使の翼。
折れてしまったであろう巨剣を構え、迷焦の前に立つ。
ディオロスと言う男が。
「ここの更に上に庭園がある。儀式場でもあるあの場所なら下手に奴らも動けまい。時間なら稼ぐぞ」
「ディオロス、なんで」
いきなり現れたディオロスはガブリエルを裏切って迷焦たちを守ろうとしている。
それに疑問を感じた迷焦に、最大のライバルに彼は告げる。
「ガキ共が世話になったからな」
「でもそれじゃディオロスは」
「気にするな」
ディオロスは巨剣を携え、アンゴルモアに向ける。
アクウィールは迷焦たちを背中に放り投げ、すぐさま飛翔する。
なだれこむガブリエルたちと小さくなるディオロスの姿。
それを確認し、迷焦は剣を取る。
目の前のアンゴルモアに向けて。
「馬鹿な野郎もいたもんですねぇ。まあ私しめが抑えれば関係ないことなのですが」
「やって見ろよピエロッ!」
迷焦は疾風の速さで空を駆けるアクウィールの背でアンゴルモアの攻撃を受け止める。
一撃受けるたびにアクウィールのバランスが目に見えて崩れ、迷焦自身もあまりの力に舌を巻く。
それでも迷焦は未だアクウィールに張り付く速度を叩き出すアンゴルモアをどうにか落とそうと氷の障壁、創造魔法による剣の雨、切り結ぶ際にわざと向こうの体勢が崩れる動きをするなどを行う。
しかし、神とはどこまでも異常なのかそれが全く聞いていないように思えるのだ。
そもそも速度が落ちていない。
「神とはこの世界の支配者なのです。それがこの程度の攻撃で。神の力を得れば私なんぞ屁でも有りませんよ。ですから儀式を」
「やかましいわッッ!」
まだ交渉を諦めていないアンゴルモアを至極目障りに思う迷焦。
彼の激昂があまりにも強いのか剣に纏った氷が新たな刀身となり、巨大な剣へと姿を変える。
そのままアンゴルモアへとツッコミとストレスによる報復を兼ねて振り下ろす。
「だから無駄だと、ぎゃはっ」
アンゴルモアは油断していたのか氷の巨剣がピエロを弾く。しかも何気に深くまで切り裂いていた。
そのままピエロとの距離が目に見えて開き、アクウィールの声と共に迷焦たちはラストスパートを切る。
迷焦は遥か遠くとなった栞を見据え、「必ず迎えに行くから」と再び前を向いた。
そして、聖母マーデラスの最上階にして、儀式場でもある庭園へと到着するのであった。
夜のはずなのに陽光が自然豊かな公園を映し出し、暖かな雰囲気をかもちだす。
そこで迷焦の目を引くのは一本の大樹とその下にあるベンチ、そして、一粒の水滴の付いた石碑だった。




