第四章 『二人の音使い』
「舐めんなッ!」
メイヤは鎌で何かを攻撃する。
一見空気を切っているだけにしか見えない。
しかし、メイヤの体が浮いたかと思うとそのまま距離のあった壁へと弾かれる。
ダメージの軽減に成功したらしく、メイヤはすぐさま上空にいるピエロに攻撃しようと床を駆ける。
しかし、そんなメイヤに第二、第三と連続してピエロは攻撃した。
ピエロ本人はただ杖を回すだけ。
それだけであのメイヤが防御で手一杯となる。
分からない。
メイヤは防いでいるが僕は奴の攻撃がどう来ているのかすら分からなかった。
これがボルスの力だと言うのか。
次元が違うとはこの事を言うのだ。
ピエロ男もといアンゴルモアはなかなか倒れないメイヤに少し苛ついたのか更に攻撃の手を速め、ここまで聞こえる声で叫ぶ。
「やれやれ阿呆なお方だ。素直に私らの言う事を聞いていれば良かったものを。がっかりなのですぞ。神の力が手に入ったと言うのに」
「ほぼ操り人形でだろ。僕を二分かつしたり、いきなりガブリエルたちの襲撃場所に落としたりと散々だったぞ! それで信じろってのも無理な話だっつーの」
「まあそうなんですがね。いやはや、あなたのおかげでこんなにも夢石が集まった。みてくだされ! こんなにも人の負の感情が世界なは存在しているのですぞ」
ピエロ男は両手を広げ、内側の壁を埋め尽くす発光する夢石を見せびらかす。
「カウントダウンは始まってるのですぞよ。この娘を餌に我らが破滅の象徴を召喚します。長った日々も今日、いや明日になる丁度に終わりますぞ。あなた方が抵抗するのならボルス本人を調教するまでなのです。そのための夢石を回収したのですから」
より一層青白く発光する負の産物たち。
そのエネルギーを上へと送っており、いよいよまずくなってきた。
ボルスが召喚されると栞の命が危ない。
かといって今、僕らの前にいるのはボルスの力を持つ最強のガブリエルなのだ。
あれほど破格だと思われたメイヤも防戦一方であり、本気を出せばかなりやばい。
栞が目の届くところにいるのにこの手で掴めないのが悔やましい。
必ず助けるから、今行くから。
「こんな縛り!」
僕は有らん限りの力で体を起こそうと躍起になる。
だが、どうしても起き上がらない。
この世界は想像が力になるのに。
いや、僕は想像出来ていないだけなのか。
僕にとっての栞を助けるとはこんな重力の縛りに負けるような物だったのか。
違うだろう。
考えろ。感情粒子の流れを。
これを操作出来れば突破口が開けるのだ。
ガブリエルは楽器を使った。ならば音として空気を操作していると考えるべきか。
ならその想像を越えろ。
と、僕がイメージを開始する頃、ぬおーというかけ声で爆音寺が一足早く立ち上がる。
「こっちも音の能力だかんな」
僕も負けじとなんとか起き上がる。
まだ震える足に鞭を打って僕は動かす。
「グングニル、楽器の方を貫け。この重力みたいのを優先的にだ」
黄金期の槍へとさせた疑似創造書庫を女性のガブリエルへと投げ放つ。
見事にラッパを砕き、返ってくるグングニルと共に迷焦の体からは重みが抜ける。
巨竜であるアクウィールも翼を伸び開く。
「メイヤ、そっちは何分耐えられる?」
「んな、気軽にッ! あと、二分。というよりまずこいつから叩いて欲しいんだが」
「ならアクウィール頼む。爆音寺は楽器の方、僕はサムライで」
僕が言う前からそのつもりだったらしく、瞬く間に戦闘が勃発していく。
僕は疑似創造書庫を剣にし、サムライのガブリエルと対峙、すぐさま切りかかる。
向こうは二本抜刀する。
手数が足りない。
僕は創造魔法でもう一つ剣を生成していく。
一時的とはいえ無いよりはましだ。
更に氷のコーティングで強度の補強。
僕は二年半培ってきた技術を存分に奮っていく。
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迷焦はサムライと切り結んでいた。
ガブリエルの方の技術はさすがのもので、なおかつ一撃は重く鋭い。
だがしかし、迷焦はそれになんとか食らいつく。単に身体能力云々では無い。
彼もガブリエルと戦い、勝ってきたのだ。
それに迷焦は自分よりも強い者との戦いばかりをしている。
言うなればレベルが上がっているわけで、更に戦いの中で迷焦の集中力は上がっていく。
それは剣戟の速度によって表れ、連続的な金属音を散らす。
更に迷焦は氷魔法で動きの阻害も行う。
一瞬の間に幾度となく火花がほとばしり、剣筋がお互いの色の弧を描く。
流れるような光の残像と共に光を放つ迷焦の眼孔。
栞を救うためとガブリエルを殺す。
二つの気持ちがトリガーとなり、迷焦を再び氷と化させる。
迷焦から出る冷気が周囲の熱を奪い、瞬く間に二人の吐息を凍らせた。
「お主は何故そこまで食らいつく。我らガブリエルの目的のために幼き命を淘汰するのは良き事とは思わん。しかし、ボルスの力があれば世界を変えられる。お主も周りにある夢石の数を見たであろう。全部とは言わん。だが半分近くは本来の不幸によるものだ。それを無くしたいとは思わんのか」
しかし、迷焦は答えない。
いや、答えるまでも無いのだろう。
不幸は必ず存在する。
生き物がいればそうはなる。
迷焦はそんな何かを成し得るという考えははなから諦めている。
だから答えるまでもない。
「そうか、答えぬか。一人のためにそこまでも。さすがは我らが恐れるボルスの器と言ったところか。良かろう。我を倒して行くがよい」
無情の迷焦は感情の無い瞳で倒すべき相手を捉えるのだ。
爆音寺は楽器使いの女性と戦う。
ガブリエルの攻撃方法は浮遊している楽器を鳴らす。
奏でられる音が武器となっているのだ。
時に耳を引き裂かんとする音を。
時に感情の操作を。
時に衝撃波を。
時に死の旋律を。
自身に癒やしの旋律を施すなどパターンが豊富であった。
彼女は音の使い手である。
そして、それは爆音寺も同じだった。
「邪魔くせぇッ!」
爆音寺は猪突猛進で楽器に拳を食らわせる。
爆音寺の音の使い方は豪快であり、ガブリエルの繊細さとは縁遠い。
超音波を利用した破壊が楽器の一つを死滅させる。
だが、同時に爆音寺には無い繊細さが功を奏す事もある。
「マンドラゴラの悲鳴を」
ガブリエルの指揮と共に爆音寺に向け、大音量、それこそ耳元で爆発があったかのような凄まじい音量がなだれ込む。
「またこれかよ。めんどくせえ」
耳を塞ぎ、顔を苦しめる爆音寺。
女性の騎士はここで終わらない。
流れる動作で次の攻撃に移行する。
「カスタネット。牙を向け」
その場で耳を塞ぐ爆音寺に突如として巨大なカスタネットが現れ、そのまま爆音寺を食らう。
「旋律よ、かの反逆者の心を浄化せよ」
奏でられる音色が爆音寺の耳を通して心を惑わせる。
音楽とは時に人の感情さえにも影響を及ぼすものだ。
「理性が外れて同士討ちでもしてくれればよいが」
結果はそう上手くはいかなあ。
巨大な貝を壊して這い出る爆音寺。
その瞳には戦いへの高揚はあれどそれは女性自身に向けられている。
「やはり同じ音の使い手。使う種類は違おうとも相性は悪いですか」
「いいね。俺はこういうのを待ってたんだ。欲を言うなら壮大な物語なんぞいらねえから戦い尽くしたい気分だ」
「そうか。なら期待に応えさして頂きましょう。男という掃き溜め。本来なら愛しい私の楽器になど触れさせたくも無いですが」
パチンッ。
女性の仕草と共にラッパが列を成して現れてくる。
まるで銃のように。
「あなたに接近戦は不利です。ですのでどうぞ遠距離からの演奏を」
ラッパからちらりと光が見えると思うと、一斉に光線が爆音寺めがけて襲いかかる。
「おー。おーまいごっと」
変なニュアンスで紡がれる爆音寺の英語?
熱光線を彼は必死に避けるのだった。




