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第四章 『対戦カード』

 片方は凛々しい女性で、周囲にラッパやらトライアングルと様々な楽器を浮遊させている。

 これが全部神獣級の武器ならば注意するべきだろう。

 もう一人の二本の刀を携えた男はザ・サムライである。ちなみにかなり年を食っており、白い髭が伸びている。

 これまでのガブリエルのファンタジー感を覆した斬新な騎士だ。

 ただ、本気の戦いなので笑えない。


 彼らは翼をはためかせるが、アクウィールから降りるとそれをしまった。

 騎士の誇りと言う奴なのだろう。

 ならば最初から一対一にして欲しいと思ってしまうがそれは傲慢だろう。

 大人しく疑似創造書庫を剣にする。

 と、


「地に伏せ、神に刃向かう反逆者たちよ」


 いきなり女性の騎士がラッパに息を吹きかける。

 抜刀が戦いの合図だったのだろう。

 僕らが来るであろう攻撃のために身構える。


 しかし、攻撃は予想だにしないところから襲いかかったのだ。

 

 突如として身体中から力が抜け落ち、僕は地面へと崩れていく。

 

「えっ」


 謎の力が働いた。

 それも何かの打撃のような一カ所による痛みでは無く身体中、小指にも等しく謎の重圧がかかる。

 何が起こったのは分からなかった。

 ただ、身体から力が抜けると言うよりは地面に引き寄せられるに近いか。

 磁石にくっつく鉄のように強力な力が僕を無理やり地に縛り付けたのだ。

 それを理解した時には僕は床に倒れ伏し、爆音寺やアクウィールも同じくであった。 


「これ......俺がやられた奴と同じだぞ」


「てことは道中の生き残りか。なら、アクウィールのブレスで」


「今ボクがブレスすれば君たちがかっちこちだよ」


 氷竜としてのアクウィールの口はガブリエルたちとは真逆、つまり僕らに向いている。

 

「なら雷霆で焼き払う」


「だと俺が死ぬぞ兄貴」


『そもそも今の君はMP回復は早いけど最大値が減っていってるからあんまり無理はしないでよ』


 口々に言い合うが解決策が出ない。

 このままではガブリエルに殺される。

 僕は彼らがくる前に何とか起き上がりたいと腕に力を入れるが体は微動だにしない。

 これでは格好の的である。

 

 しかし、ガブリエルが襲ってくる事はなかった。

 彼らは僕たちを見ていない。更に上だ。

 何を見ているんだ?

 僕が疑問に思っているとサムライの男は眉を潜め、女性のガブリエルへと微かに込めた苛立ちをぶつける。


「なぜ手を抜いておる? 最大出力でやらんか戯けが」


「黙っててください、老人様。天国への門が近いんですか、おめでとうございます。あなたのような憐れな朴念仁でもいけるんですね神話の世界」


「今はふざけておる場合では無いであろう。結論を述べよなんちゃって宗教娘が」


「ああんっ!? 聞き捨てならない台詞ですね。こっちは憐れな男と言う汚物から離れたくて神の使いになったはずなのに周りにはいつも神話の掃き溜めが......耐えられませんからもう。......あ、後最大出力です」


「結論の方を付け足しのように言うとはなんたるものか。ともかく奴が異常ということなのだろう」


 と、二人のなんちゃってコントが終わり、それを退屈げに聞いていたメイヤの剣がいつの間にか死神が扱う鎌に変わっている事に僕は気付いた。

 三日月のように湾曲した刃は血塗られたように赤く光るっている。

 見ているだけで魂が吸われるような感覚を覚える。

 大きさ的にはメイヤよりも大きいのだが彼はそれをペンでも扱っているかのような気軽さで回していた。

 

「なぁー終わったか遺言? 死神さんは魂を食らいたくてうずうずしてるんだぜ。二人同時でいいからかかって来いよ」


 鎌をがつんがつん床にたたきつけ宣言するメイヤに女性のガブリエルが静に告げる。


「あなたの強さは前々からガブリエルの間でも注目されてましたよ。その強さは異常だと」


「つーてもお前のやってる事、結局は音で空気を操って重力を何倍にもしたような状態にしてるだけだろうこっちの世界の無茶ぶり法則的には。なら重力を感じない霊になっちまえばいい。あいにく地獄からの産物は四次元ポケット並みに豊富だからな」


「なるほど。つまり一度見せた手の内は対策をとれてしまうと。あなたの能力については謎が多い。召還系という事くらいしか」


「限度はあるがね。まあそんなわけで逃げるなら生かすよ。ただし、ちょいとばかり道案内してもらうけど」


「それは遠慮します。こっちにも羞恥心はありますので。辱めを受けるくらいならば死にます。ええ、本当に」


「なら今すぐ殺すけど」


 メイヤは自身の魔術により、地獄から黒い炎を召喚し、それを鎌に纏わせる。

 完全に殺す気でいる。

 鎌を伝う炎は常時空気を焼き焦がし、それでも足りないのか更なる餌を求めて揺らめき出す。

 圧倒的だ。

 ガブリエルを前にしても揺るがぬその強さ。

 

 しかし、女性のガブリエルも退かない。

 むしろ、どこか楽しげだ。

 まるで初めから勝つことがわかっているゲーム盤を眺めるかの余裕。

 

「ええ。ですがまだ始まってもいません。私達でも勝てると思うのですがアンゴルモア様が許してくださらない。あなたとの対戦カードは誰にするか本当に苦労しました。タイプ的に相性が良く、なおかつ勝てる見込みの高そうな者と難しい条件を」


 ニヤリと女性騎士は笑う。

 それが危険だと僕は直感した。

 神獣とバカスカ戦い、その顔をされた後で無事だった事が無かった。

 

 と、上からゴオオオッッと風なのか大地なのかが揺さぶられる音が周囲に響く。

 不気味かつ身震いしてしまうそれの正体を確かめようと未だ続く重圧の中、首だけを回す。

 すると、

 見えたのは一人のピエロのマスクを被った者と石の中に閉じ込められたであろう少女。

 少女の方は栞であった。

 まだ無事であったと喜びたいところだが、隣にいるピエロの強烈な気配がその意識を削がせる。

 女性のガブリエルは一礼して、紹介する。

 降臨する最強のガブリエルの名を。


「ならばいっそのことご自身が出れば良いのではと。最強のガブリエルにして絶対強の象徴であるボルスの記憶を司る唯一無二の存在」


 そして、その先を女性のガブリエルは躊躇い無く言う。

 僕らにとっての悪の権現。

 メイヤにとっては殺し尽くしても足りないほどの憎悪を燃やす存在。

 そう、


「アンゴルモア様自ら反逆者たちに終止符を下しになります」


 その男は以前と変わらぬ陽気さで腕に引っ掛けてある杖を回転させるのだった。

 それだけでディオロスの一撃よりも恐ろしく、アクウィールのブレスよりえげつない攻撃が鉄槌の名の下にメイヤにくだる。



 


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