第三章 『正体』
今回はガブリエルとか裏の世界の奴らとかそういう説明が主です。
ただこれからの都合上全部は説明出来ないので予想したりしてお楽しみください。
「千穂とネル。隠密のプロがなぜ表に来ている?」
「戦力が足りないって素敵な理由らしいですよ。ちなみに僕も」
最後の方をため息混じりに答えるリオン。
すると、千穂が顔をしかめる。その言い方ではまるで自分たちが埋め合わせのように感じるからだろう。
「あたしもネルちゃんも弱くは無いからね! 無駄話してないでさっさと持ち場にいきなさい。ガブリエル共がアクションを起こしすまではそこで待機。ガブリエルは泳がせて、群がる奴らだけ排除してよね。ちなみにあたしとネルちゃんはガブリエルたちが動いてくれるまでは監視だからむやみな接触はNG」
「わかってるってば。子供な僕でも自分のやることくらいは理解してる。天界に夢石が集まりつつある。彼らが動くとしたら今日か明日。僕らはガブリエルの計画を丸ごと利用............うん、問題ないよ」
リオンは一瞬躊躇した顔を見せるがすぐに人形めいた笑みを浮かべた。
零夜の方は楽しければいいかとそもそも話を聞いていなかった。
彼は傭兵という戦闘担当としてただ戦えばいいのだから細かな計画など覚える必要がない。
ただ自己の目的のために戦う。これから起こるビッグイベントを観賞し、ガブリエルたちを壊滅させる力をつけるために。
表の世界は何も気づかぬまま、彼らの計画は着実に進行していく。表の世界“ハルシオン”、裏の世界“ダストレーヴ”、ガブリエルたちの天空都市“天界”の三つの世界を巻き込む形で。
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「つまり。リオンたちがその別の世界からの侵略者でもうその進行は始まっている。そう解釈していいんだよね?」
ある部屋の一室。唯一の窓からは斜陽がこじんまりとした部屋をオレンジに染め上げ、影を二つ引き伸ばす。
一人一室与えられているはずの選手の控え室には現在二人の参加者がいる。
一人は無道迷焦。氷の精霊竜アクウィールを使役する王立治安院の特別戦闘班の一人にして身内依存ぎみの少年。
もう一人は二メートルは超えるであろう巨漢にごつい顔。そして、その正体はガブリエルのディオロスである。
迷焦は五階層での戦いを終え、今日の日程は終了のはずなのだが議題となっている別世界の者たちについてディオロスに話を聞かせてもらっている。
「ああ。それに零夜という奴が最後に見せた黒い瘴気。あれは奴らが扱う破綻者の力の証拠だ」
「だとして、彼らは世界征服でも企むっていうの? 目的がいまいちわかんないんだけど」
普段から新聞や朝のニュースに目を通さない系の迷焦は社会に疎い。
そのため、未だに各地の勢力や思惑も理解していないと言う致命的な欠点がある。つまりは頭は現高校生ほど優れてはいない。悪く言えば力で解決しちゃえば問題ないよね的思考なのだ。
そんな迷焦からしてみればなんで敵は剣帝試練に参加して、本気を出さずに負けたのかわからない。ガブリエル以上の戦力があるのなら畳みかければいいのではと思ってしまう。
実は彼らの動きがこの世界の裏側に関わるのだが当然迷焦は知らない側だ。
だから知っているであろうディオロスに聞くのだ。
「それにアンゴルモアとかいう親玉だっけ? ガブリエルもガブリエルで何を企んでいるわけ?」
再び質問をする。答えてくれるとは思っていない。口封じとばかりに殺されるかもしれない。
だから迷焦は常に柄に手を置く。いつでも剣を抜けるように。
ディオロスの口は重い。
それはつまり、
(やっぱり今回の一見はガブリエルが全面的に絡んできてるか......まあ元々ガブリエルがしでかした事だし。だとしてガブリエルは向こう側で何をしたかったんだ。普通に生活する程度の資源なら事欠かないだろうに)
だとすると別の何かを求めた?
破綻者の力を宿す別世界からの侵略者に遥か上空から何かを企むガブリエル。
二つの戦力は何を求め、何をしたい?
お互いに戦争状態であるならば真っ先に欲しい物とは何か?
戦いの際で相手に押されている中で迷焦なら何を求める?
それは迷焦でも自ずと導き出せた。
(力。互いにせめぎ合っている今なら力を求めるはず。それもわかりやすい存在......まさか!)
戦況を変えてしまうような圧倒的な力が。
ガブリエルレベルの圧倒的な何かが。
あるではないか。神話の中にも登場し、今でさえ人々の間で語り継がれる伝説の存在が。
ガブリエルの総力の半分をいとも簡単に殲滅した存在。
そして、迷焦たちチート能力者が願いを叶えるための終着点。
そう。この世界が何よりも恐れ敬う。
この世界を作りし創造神にして破壊の象徴。
「ボルス(神)、もしくは最終試練そのもの。まさかお前たちは神の力を手に入れようって言うって言うのかッ!!」
次元が違う。単純な一対一の戦闘では無く、戦争。そのためなら世界を滅ぼす可能性の力までもを使うと言うのか。
迷焦は否定して欲しくてディオロスに懇願するような目を向けるが彼は目を伏せた。
やがて静まり返ったこの部屋に長い吐息が響き渡る。
「そうだ。少なくともガブリエル側はボルスの召喚。それを行おうと永年研究してきた。数百年前から」
「......」
「詳しい事は言えんがそれがもうすぐ完成する。後は妖精の写し身の少女と大量のエネルギー」
ふいにディオロスはポケットから一つの石を取り出す。
夢石。ドリム、もしくは破綻者を倒した際にドロップする結晶。なので負の感情の塊であろうと推測でき、なぜか高く売れる石。
これがどうかしたのかと迷焦が尋ねたところディオロスは夢石を少年に手渡した。
「これがエネルギーの正体だ」
「はぁ? これが?」
こんな物がガブリエルが必要とするエネルギーなの。こんなものドリムを倒せば簡単に手に入る。
疑問しか残らないのだがディオロスはいたって真面目のようだ。
「お前はこの石の性質を理解しているか?」
「いや、ドリムとかから手に入るから負の感情が詰まっているのと高く売れるとしか。だいたいそんなエネルギーがあるなら今頃電気なりに使われてると思うんだけど」
「それは楽に大量に回収するべくガブリエル側が仕組んだ事だ」
「確かに」
迷焦は窓縁に手をかけ、外を見る。正確には下。感情粒子を視力の強化に当て、数百メートル下に地上にある馬車に何か運ばれているところを見る。
箱に入れられ運ばれているのは四階層で倒したドリムたちの大きな夢石だ。
これらは王国に輸送されるらしいが使い道を迷焦は聞いた事が無い。
王国では宝石として使われてるのかな~と深く考えた事は無かったがディオロスの話を聞いてからそれに疑問を持ち始めた。
迷焦同様、世間は夢石を金になる石。冒険者たちの食い扶持
「その通りかもしれないね」
「ああ、この石には莫大なエネルギーが秘められている。これを大量に集めボルスを召喚するために使うらしい。もっとも、この世界のリソースでは足りないがな」
「この世界のリソースでは......つまりガブリエルたちは」
今度こそ見える。
「そうだ。向こう側の夢石の回収、いや、もっとひどい。人工的に破綻者を生み出させ、より質のいい夢石を回収している」
「人工、的に......」
破綻者とはこの世界での心の受け皿、本人がこの世界に存在する、やるべき理由という意思の方向性と外見を形作っているものが歪められ、もしくは壊され醜い心の姿を表した化け物になり果ててしまった者の事だ。
破綻者討伐専門の王立治安院にいた迷焦ならその特性となり方を良く知っている。
自身の否定、世界を呪ったりと自己の負の感情が暴走、己の存在理由とあう人の殻を壊して醜い姿となる。
まるで羽化する昆虫のように。
簡単な方法なら人々に絶望を与える一方的殺戮がある。今回のガブリエルたちが起こしたと言われる向こう側の虐殺はその過程だったらしい。
そんな事が許されていいわけがない。そんなの非人道的実験となんら変わらない。
それだけの事をしでかしたのなら反撃されて当然だ。それだけの怒りと憎しみを持って彼らはこの世界へと乗り込んだ事になる。
その怒りはガブリエルたちを全員殺しても収まらない地獄の業火となっているだろう。
そして、彼らはガブリエルたちを殺す力を求めた。破綻者になればある程度の戦力にはなるが理性が無いために脆い。
だからこそ彼らダストレーヴの者たちは環境に適合する、ガブリエルたちに負けないためにリスクを犯してまで破綻者の力を手に入れた。
迷焦が己の存在理由を書き換えたおかげでギリギリ破綻者にならなかったように。
(彼らの破綻者としての力は生き残るための術だったわけか。生き残るために)
「あんたらのしてる事は良くわかった。そのせいですでに多くの人が死ぬ。これからもどっちの世界でも」
「......」
「それで僕の身内が死ぬような事があれば僕はあなたを殺す。絶対に許さない」
迷焦は別に善人じゃ無い。だからと言ってこのままだとみんな死ぬ。力のない市民はもちろん、身内までもが危ない。
でもね、と迷焦は声音を優しくした。
「それがあなたの望んだ事で、それで大切な人が救われるのなら......僕はあなたを戦友と思った事。それは忘れないです。後悔しないです。それだけは憶えといてください」
それは窓際から差す黄金の光を浸透させたような言葉だった。
自分も大切な誰かを救うためなら他の人を犠牲にする。その立場になる可能性の高い迷焦だからこそ言える事。
有限の時間だからこそ守りたい何かがある。
それは迷焦も同じだから。
だからこそその人物の根底までは否定したくは無いのだと。
迷焦はこの場を立ち去るべくドアへと手をかける。すると、後ろから迷焦が友と認めた者の意思が伝わってきた。
「最後のピースはお前の身内の中にいる。そしてお前も」
味方にはならない。だから最後の手土産だと言葉を残す。
迷焦にとってそれだけで充分だった。明日殺し合う相手。本来なら情報をくれなくても良かったはずなのに。
そこがディオロスの優しさであるのかもしれない。
「決勝では容赦しないぞ」
「僕も。それじゃあ決勝で」
部屋を後にし廊下に立った迷焦は軽く深呼吸をとる。肺から押し出す空気を不安に重ねるようゆっくりと吐き出していく。
明日は準決勝からスタートだ。そして、優勝するにはガブリエル二人と戦う事が強いられる。
「まずは身内のみんなに『準決勝進出だよやったぜV』を言わなくては」
激戦による激戦のため疲労感がはんぱない迷焦は身内の元へ帰るのだ。
ホームシックとは違うがやはり落ち着くものなのだろう。迷焦の頬は自然と綻ぶ。
蛙ための一歩を踏み出したその時、
グラリッ......。突如、世界が歪んで見えた。まるで傾いた壁画のように世界が。
「えっ......」
しかし、違う。傾いたのは迷焦の方だった。
力の抜けた左足がバランスを崩し何かに躓いたように前屈みのまま転倒。
軽くうめき声を上げる。
這い蹲るよう立ち上がろうとする迷焦はいっててと間抜けな声を出し、その後何事も無かったように起き上がる。
「今日はちょっと疲れ過ぎたのかな?」
笑ってその場をさろうとする迷焦の顔はどこか暗示めいたものがあった。




