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第三章 『武器』

今回も戦闘ばっかりです。申し訳無い。

諦めずに読んで頂けると幸いです。


************


ユーリたちの試合が終わる少し前、迷焦はふと思った事をディオロスに聞いてみる。


「なぁディオロス。気になったんだけどアンゴルモア様って誰? ボス? なんか前


「あながち間違っていない。付け足すと最強のガブリエルだ。そして大軍勢のガブリエルを向こうに行くよう命令したのもあの方らしい」


「またまた新発見。いいの、そんな機密情報喋っちゃって?」


「大丈夫だ。それにお前たちもすぐに無関係ではいられなくなる」


「えっ、......」


「安心しろ。その前にお前は俺が殺す」


 迷焦はディオロスの言葉を理解出来なかった。

 それでもそう告げるディオロスの瞳には覚悟を決めた者に宿る力強さがあるとわかった。

 ディオロスは嘘をつかない。迷焦はここまでで発見したディオロスの性格。

 だとしたら彼は何か知っている。これから起こるかもしれない事を。迷焦たちに関わるかもしれない事を。


「させませんけどね。とにかく決勝であんたを破ったらいろいろ質問するのでちゃんと答えてくださいね」


 迷焦はあえて今は聞かない選択をとった。

 今は戦いの前でもあり、意識を剃らされたくはない。

 ディオロスの方もこれ以上は喋らず二人は剣を取り出した。


 

 そして、迷焦たちの試合も始まった。

 

 開始早々迷焦はリオンとの距離を瞬く間に潰し、間合いに入ってから鞘に収められた剣を掴む。剣を引き抜く一瞬の間だけ移動による勢いを殺し、紫電の一閃を躊躇い無く放つ。

 抜きはなった剣先はリオンを捉えたはずだか子供はそれを軽々とかわす。ちょうどスキップをするように。

 迷焦は続く第二撃を着地の際の足を狙うがリオンは体を捻らせ滞空時間を稼ぐ。

 第三、第四と避けれないはず場所を攻めるがリオンの体はあまりにも小さずぎた。

 小さい体では剣を当てる部分が大人より必然的に少なくなる。それは迷焦だって百も承知。

 しかし、小さい体をリオンの軽々とした体捌きが最大限に活かしている。

 だから当たらない。足を払いをしたら腕で体を支え、隙が出来たと思い足を攻撃すればそのまましゃがまれでんぐり返りで避けられる。

 迷焦は苛立つ衝動を抑えただ攻撃を当てる事だけに集中する。


「わー凄い凄い」


「子供な僕は棒読みで言われても嬉しく無いんだよねぇ」


「いや何、とうとう子供まで戦いに身を投じる危ない時代になったんだなーと」


「元々だと思うけど。ちなみに喋ったら動き鈍るかなーって考えてるならその思考は捨てた方がいいよ。慣れてるからね」


 リオンは笑いながら迷焦を連撃を紙一重でかわしまくる。迷焦は冷静に剣を振るっているつもりだろうが表情に苛立ちが滲む。

 これまで迷焦は自分と同じく高い身体能力を武器にした人とあまり対戦経験が無いのだ。

 迷焦にはヒサミやラズワイト、ディルムのように卓越した技術は持たない。ましてやディオロスやユーリのように一撃当てさえすれば勝利なんて力も無い。

 それでも迷焦には氷魔法がある。

 氷魔法でリオンの足を、胴体までを凍らせる。


「寒っ! 子供な僕にこれはきつい」


「大丈夫。すぐに終わらせるから」


 畳みかける迷焦をよそにリオンは未だ笑みを崩さない。

 迷焦の剣が氷に捕らわれたリオンに刺さるその前に。

 リオンがさっきよりも増して含んだ笑みをした。


「残念!」


 刹那、見えない何かによってリオンを固定していた氷が砕ける。

 

「なッ!」


 言葉を失う迷焦にリオンは反撃を開始する。

 リオンが手を挙げた。これだけ。

 たったそれだけのアクションで攻撃が成立する。

 結果として迷焦の腕から血飛沫が舞った。

 まるで見えない剣で斬られたように。

 するっと肩が切り裂ける。

 苦痛に顔を歪ませながら後退した迷焦は傷口に手を当て、今度は困惑の色を出す。

 

(今の攻撃。剣と言うよりは鞭。いや、もっと細い。見えないとしたら空気、それともステルス? 長さは?)


 思考を張り巡らせる迷焦だがまだ正しい結論が出ない。

 そもそも思考を働かせるようも先にリオンの不可思議な攻撃が迷焦を襲う。

 空を切り裂くその攻撃は目に見えない。しかし、リオンの手元なら見える。


(敵が見えるなら簡単だ。球技でも良くあるように相手のモーションから武器の動きを推測すれば)


 リオンの手の動きを見ながら迷焦は仰け反るように避ける。迷焦の耳を空気が掠めると途端に地面に切り裂いた跡が出来る。

 一回避けた程度では勘としか思われていない。

 続けて第二、第三の攻撃が迷焦を襲うが立て続けにかわす。感情粒子の流れをある程度読めるようになった迷焦は余裕の出来た時間に周囲の流れを感じる。

 

(糸状の武器。それも空気に近い。わかれば間合いなんかでびびることは無い)

 

「おや? 避けられちゃいましたね。まぐれ? では無いですよね」


 さすがのリオンもこれには怪訝な顔をする。ここにきて迷焦はニヤリと笑みを含める。


「もちろん。まさしく第六感って奴ですけど。武器は糸状っぽいのは斬られてわかったし」


 迷焦は武器を剣から刀に変化させる。

 抜刀した迷焦の刀は獲物を食らう野獣のように獰猛に透明な糸を切り裂く。


「もう、手品は尽きましたか? 早くお眠りすることをお勧めするよ!」


 刀の残像が弧を描きながら横払い、溜めてからの切り上げ、回転斬りと続け様に放つが全て空を斬るに止まった。

 ここまできてもリオンの体は軽い。鬼ごっこでタッチされないように逃げる子供。本当にそんな気軽さなのだ。

 

「そろそろ斬られてくれないですか。めんどくさい」


「子供な僕に死んでくださいとかお兄ちゃん鬼だね。悪魔だね。まあ僕もここまで動けるとは。幼少期からとある二人の幼なじみと遊んでたからかな。そしたら自然と......お兄ちゃんもどう?」


「今も幼少期だよ、ね」


 刀の軌跡がリオンの横腹を狙う。惜しくも服を掠める程度になったが白髪の子供はジャンプからの捻りで避けたため次の攻撃を避ける事が出来ない。


「終わりじゃごらぁっ!!」


 口調が喧嘩腰に変わった迷焦の刀は確実に首に届く。見えない糸は動いていない事を確認した迷焦は確信していた。今度こそリオンは何も出来ないと。

 そこで、

 

 ドンッ!


 銃声に似た音が迷焦の耳に不安と焦りを呼び込んだ。


「えっ、」


 仰け反るようにして迷焦の重心が後ろにいく。それを足で踏みとどめ持ちこたえるが左手から刀が落ちた事で迷焦の心の焦りはマックスとなった。

 右手で左肩を押さえる。気づけば腕からは血が滴っている。それから流れるように血の量が増していく。

 苦痛に悶えたい衝動を抑えリオンの第二撃をギリギリかわす。

 

「銃? でもリオンに銃なんて。腰には二本のおもちゃの剣しか」


「だからさお兄ちゃん」


 迷焦の言葉を遮るようにリオンは言い放つ。

 両手にそれぞれある短剣を持て余したように宙に投げる。


「手品はまだあるんだよ。子供な僕から言わせればこのおもちゃの短剣、剣銃って呼ばれてる代物がさぁ」


 落下してくる剣短剣をキャッチしたリオンはその先端を向ける。本来は鋭く尖った刀身がある部分。しかし、細い穴が顔を覗いていた。

 

「子供な僕からのお願いだ。楽に死んでねお兄ちゃん」


 リオンが見せるとびきりの笑顔はどこか黒々と、人を殺す事への躊躇いを感じられない微かに狂気な匂いを漂わせたものだった。




************

 


 ディオロスの方も熾烈を極める戦いを行っている。

 ディオロスの筋肉がふんだんにつけられた剛腕が巨人専用と思えるほどでかい巨剣を全力でスイングする。

 ガブリエルであるディオロスに与えられた力は狂戦士アレスの怪力と闘争心だ。

 それが只でさえこの世界屈指の怪力男に更なる破壊力を追加させる。それはもはや一撃一撃が砲撃。

 振るだけで衝撃が当たりを吹き飛ばし、大地が爆発する。まるで巨神が大地を踏み抜いたようにも思えるその衝撃波は壁にまで到達し、惨たらしい裂け目をあちこちに生む。

 

 黒いマントを羽織った男は避けるも衝撃の余波が爆風と砂煙を従え呑み込まれる。

 もはやディオロスの戦いは天災とも思えるほど凄まじいものだった。

 人間の域を完全に超越している。

 

 しかし、そこで爆風が二つに切り裂かれた。

 男の手には振り下ろした後の剣が握られている。それだけだ。

 男にダメージは入っていない。

 ディオロスはそれを確認するなり怪訝そうな顔をする。

 業物には見えない剣を使って防がれた事がでは無い。

 逆に防げるはずがないのだ。何かある。

 そう考えたディオロスは目を凝らして良く見る。

 男が握るどこにでも売っていそうな剣を。


「お前のその武器、姿を変えれるのか」


「......」


「やはり。神獣級並みのクオリティーはありそうだ」


「だとしたら」


「破壊するまでだが」


「そうか」


 会話はそれっきりだった。男が剣を地面へと突き刺す。

 人によってはこれが休戦の合図に見えるかもしれない。

 だが全く違う。地面に突き刺した剣を変形させたのだ。巨大な棍棒へと。

 そして、棍棒を難なく振りかざす。

 直後、再び衝撃波が男を襲う。

 ディオロスの攻撃だ。

 ディオロスははなから男と話すつもりはない。何か嫌な予感がするからだ。

 男の瞳は目蓋が下がりかけていてやる気を感じられない。

 それがディオロスに違和感を起こさせる。

 男はディオロスを見ていない。違う何かを見ている気がするのだとガブリエルの一人は直感する。

 だからこう思う。

 この男は危険だと。

 

「名を聞こう怪しき者よ」


 ディオロスは巨剣を構え次の一撃のために呼吸を整える。

 男の方は武器の形態を初期の剣に戻し、ただ静かにディオロスを捉えた。


「零夜」


 短く告げる男の名前を聞き、ディオロスは「そうか」と呟く。

 それが動き出す合図だった。

 ディオロスの鍛え上げられた足が突如として足下を爆発させる。動き出すだけでこの衝撃。

 筋繊維一本一本が盛大に働く。血液が体中を全力で駆け巡り、最大限に体が活性化する。

 (攻撃するは男のみ。一点集中!)


「うおおおおおっ!」


 地面を壊しながら零夜に迫るディオロス。その姿は鬼神の如く凄まじい。

 荒ぶる力、それは戦争の神にして狂乱を象徴とするアレスを思わせる。

 実際、ディオロスの攻撃が辺りさえすれば大半の者が肉片となることだろう。

 だがそうはならなかった。


「エクスカリバー」


 零夜の呟いた一言で戦況が変わった。

 零夜の剣が黄金の輝きを発したと思うや突如として一筋の黄金の光の柱が周囲の色を奪い、ディオロスの方へ放たれた。

 それはあまりにも神々しい光だった。神の裁きと言われてしまえば納得する。もはやそう言う領域の話だ。

 視界が光で覆われ会場内を黄金の光で染め上げる。

 その黄金の光の柱はディオロスを飲み込んみ、そのままバビロンの外壁を貫いた。

 衝撃音は感じられなかった。その前に光と爆音が全てをかき消したからだ。

 あまりにも圧倒的な放出量。莫大な光が消えるまでに数秒かかり、黄金の光が通った道筋はオレンジ色に溶けていた。

 

 幸いにも負けた参加者たちは退場したのでそれほど被害は無い。

 だけれどもあの黄金の破壊光線をまともに食らったディオロスはただではすまなかった。

 息はあるものの体中がボロボロで生きているのがやっとと言うくらいな状態で膝を地についている。むしろあれを受けて生きている事が奇跡なのだ。それを五体満足とはディオロスの頑丈さは相当なものらしい。

 巨剣を盾にしたらしくオレンジ色に溶解しかかっている。

 零夜の方は消し飛ばなかったディオロスを見て不快そうにするが、それは一撃で倒せると思ったモンスターがなぜか一撃で倒れなくてまた攻撃のために時間と労力を削くことへの惜しみによるものだ。

 どの程度力が残っているかを確かめるように言葉をかける。


「まだ、生きてたか」


「まだ...やられるわけにはいかないの...でな。まさかエクスカリバーとは。それだけじゃないな。さっきの棍棒はヘラクレスのものか。つまりお前の武器は伝説上の武具になれると言うものか?」


「で、死にかけが何を?」


「いや何。あまりにもチートすぎる武器だなとな。お前もチート能力者か。それもチートは武器とは変わっている」


「あっそ。死ね」


 すぐに手持ちの剣を槍に、ポセイドンが使うと水を支配するとされる三又の矛に姿を変える。

 しかし、それを見ても諦めないディオロスに零夜は少し苛ついていた。さらに壊れなかった巨剣にも。

 それに気づいたディオロスは巨剣を大きく振り上げる。それですら今のディオロスにはつらそうだが彼はそれを止めない。


「この巨剣は頑丈さと重さだけに重点を置かれた俺好みの武器だ。いくら神獣級とはいえ簡単に破壊出来ると思うなよ」


「黙れよNPC」


 零夜が振りかざした槍から大量の水が、それも三本に別れた海流の渦となって放たれる。

 ポセイドン海の支配者だ。

 そして、水とは時に金属すらも切断する。

 その槍から圧倒的な水量の海水が爆発的な勢いでディオロスを襲う。


  

 


 


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