表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/78

第一章 『お金の話長すぎ』

 迷焦は会議室から徒歩数分で着く場所へと足を運んだ。そこでは出店(主に食べ物系)が多く、平日ながらも祭りのように賑わっている。

 いわゆる料理店街だ。

 この街サンレンスは世界樹付近の聖域の森がもたらす恩恵により冒険者、商人、トレジャーハンターなど様々な人が集まり、なにかと盛んなのだ。

 辺りからは漂う美味そうな匂いがメイジの鼻孔を刺激し、食欲をそそる。なにぶん昼時なゆえ誘惑に負け、財布から硬貨を取り出そうしてしまう。


「いやだめだ。栞を探さないと」


 迷焦がここに来た理由は何も食べ歩きをするためではない。

 ちゃんとした理由がある。

 それは栞がこの世界に来て間もなく、まだ飯を食べていないケースを考えたからだ。

 先ほどの彼のように空腹に陥っているのならこのエリアがもたらす食べ物の匂いは必然的に嗅いでしまう。結果、餌に集まるカブトムシのようにまんまと来るわけだ。

 迷焦は「我ながら完璧な推測だ」とでも言わんばかりに満足げに頷く。


 しかし、問題がある。それはこの世界に置ける銀髪というのはさして珍しいものではないという事だ。

 この世界は思い込みで強くなる。つまりは外見も思い込みなどで変える事ができ、栞のような純粋な銀ならともかく、銀髪になることも可能と言うことだ。

 つまりはいちいち顔を確かめなくてはいけないということになる。

 仕方なく迷焦は行き交う人を片っ端から見る。もちろん怪しまれないように平然を装うが。


「しっかしファンタジー世界なのに人口のほとんどがヒューマンってどういう事なんだ。せめてエルフや亜人種の数を増やすべきだよ。こうも人塗れだと見つけにくいな」


 と、行き交う人しかいない現状を見てメイジは呟く。わざわざ外見を変えようとは思わないのだろう。だから一部の変異や部族を除けばヒューマンしかいないのだ。


 しばらくすると店主に金貨を渡そうとする栞が見えた。恐らく買い物だろうが危なすぎる。

 いきなり金貨を取り出すなど、お金持ってますアピールに他ならない。


「あのバカ!」


 たまらず迷焦は栞の腕を掴み、変わりに店主には相場の銀貨三枚を掴ませる。

 店主が若干悔しそうな顔をしていたのでやはり相場よりふんだくろうとしていたのだろう。


 迷焦は「いご、ふんだくろうとするなよ」という言葉を引きつる笑顔と共に店主にプレゼントした。


 その後2人は噴水の縁に座り、栞は買った(結局迷焦が払った)パフェにがっついた。幸せそうな顔で食べる姿を見てメイジも同じくパフェを注文する。

 栞は三個目にはいる辺りでペースを緩め、クリームのついた口を開く。


「腑抜けはなんでここにいるの? ワタシに危害を加えにきたとは思えないんだけど」


 腹が膨れたのかその声音には迷焦を邪険に扱うような意志は含まれていない。透き通るような緑色のヒトミが迷焦を見つめる。


「その、謝りたくて。僕は結構酷い事いったからさ。ごめん」


 迷焦は栞に最終試練のクリアは無理だといった。彼女が願いを叶えるためにこれまで生きてきたとすれば、生きる意味を奪おうとしたに等しい。


 迷焦は最初、栞の事を妖精のように人間離れしていると思っていた。しかし彼女も人であり、傷付く事もある。だからこの場で迷焦は謝って、その後で彼女にとっての最善のサポートをするのだ。


「許して貰おうとは思わない。でも最終試練への挑戦を諦めろとかももう言わない。君にこの世界を生きる術を多少教えるだけだから。だから話だけでも聞いてください」


 両手を合わせて頼み込む迷焦。その様子を見て栞はクスリと笑う。


「腑抜けっておかしな人なんだね。さっきと言ってる事が全然違うよ」


「いやそのですね、こっちも顔見知りに死なれたら嫌だっていうか、君が死ぬところなんて見たくないからね。それに君はどうあろうと挑戦を辞めなさそうだし、助言程度はしないとあっさり死にそうだもん」


 栞は見るからにか弱く、とてもドリムと戦えるとは思えない。つまりはチート能力に依存しているわけだ。どんなチートにも弱点はあり、知識のないままの戦闘は命取りだ。

 

 対して栞は敗北などはなから想定していない様子で迷焦の言葉をジョークのように聞く。


「ワタシが死ぬわけないよ」


 一間置き、栞の顔に影が差し再び口を開く。


「それに願いを叶えられないくらいなら死んだほうがましだよ。妹を生き返らせるためだけにこれからを生きるんだから」


 その瞳にはこれまでとは段違いの力強さを感じ、栞の思いの強さが言葉を通してひしひしと伝わってくる。


(ああそうか)

 

 迷焦は栞の言葉を聞いて確信した。彼女は昔の自分によく似ていると。彼もまた、弟を生き返らせるために剣を握り死線をさまよったのだから。


 だから迷焦にはわかる。自分の好きなようにやらせるのが一番だと。

 迷焦は立ち上がり、視線を栞に向ける。


「これから森で実戦でもしない? 簡単な手順を教えるからさ」


「大丈夫。ワタシは充分強いよ。でも実戦も大事。............わかった。ワタシ行く」



******


 再び聖域の森へと足を運ぶ迷焦は栞に基本的なこの世界の常識を叩き込ませる。


「まず、ここら辺の店で金貨は見せないこと。安易に金貨ぶら下げてたら、かもられたり盗賊に取られたりするかもしれないから」


 嫌々そうに聞く栞の事はほうって迷焦はひとりでに喋り続ける。


「あと、この世界では僕らのような異世界転移者には厳しい法律が付いてるから気をつけて」


「ええ~めんどくさい。聞かなきゃ駄目?」


「駄目。例えば異世界転移者はその力を持って他の者を傷つけてはならない。また、悪さや悪徳を働くようならガブリエルが処刑しに来たりとか。

 ちなみに“ガブリエル”は僕ら異世界転移者の天敵であまりにも強すぎるから下手に騒ぎは起こさない方がいいよ」


 ガブリエルとは本来遥か上空に存在する天界に住み、この世界の守護をしているのだが、異世界転移者を毛嫌いしているため、中には殺される人もいるのだと言う。


「まあ、おかげで異世界無双だーなんて輩が消えてくれるからメリットもあるんだけどね」


「でもワタシなら倒せる!」


「今の話聞いてた? 僕も戦ったけど死にかけたし。まあそれはいいとしてここら辺は宿一泊銅貨十枚、料理なんかは銅貨五枚で一品はいけると思う。ねえ聞いてます? これ超大事な話だよ」


「えっ、聞いてるよ。でもさっきのパフェは銀貨だっけ、それで......」


「あれはかなりいいとこの素材使ってますからね。価値は金貨一枚=銀貨百枚=銅貨一万枚っとこかな。OK?」


 実は異世界転移者が最初に支給される金貨十枚にも悪意があるのだ。まず、金貨で物を買おうとすると金持ちだと思われ、いろいろひいきされるが、その後に金だけを捕られるなんて事は珍しくない。

 なにせ迷焦自身一度その手の罠に引っかかり一文無しになったことがあるのだ。


 あの苦しみを栞には味あわせたくない。迷焦はそう思うがそんな気持ちはつゆ知らず、栞は不満そうに口を尖らす。


「お金の話ばっかりもう飽きたよ。大体、もう森なんだから敵の事について教えてよ」


「ああごめん。この森は無害な動物が多いが冒険者が狙うのはずばりドリム」


「ドリム? それってスライムみたいな弱っちいのなの?」


「さすがにそれはないかな。ドリムは地球にある形のない憎しみの感情などがこの世界で形になったもの。ようはリアル妖怪みたいな。モンスターの別称だね。

 姿は亜人系が多く、強い奴はドラゴンなどの形で黒い瘴気みたいなのをだしているのが特徴だね。あとドロップする夢石は金になるから」


 この世界は感情が来る世界。よって負の感情が無数に集まり、化け物の形となって現れる。そして大半は殺意の赴くままに動き、その負の感情が強いほど強い。

 倒したら夢石がドロップされるが、より強い奴の方が感情を多く蓄積しているため高値で売れるのだ。その金額はで銅貨十枚から銀貨五枚。金貨に化ける時もある。

 この世界の物価だとなかなかにいい報酬だ。


 ただ最後に金という言葉を迷焦が強調した事で栞にあらぬ誤解が生まれそうになったのだが。


 森の奥へと進み、草木をかき分けていると一体の亜人が近づいてくる。

 人よりもやや大きいと思える体躯は白っぽい体毛で覆われ、髪にかくれた醜悪な顔がこちらを覗く。黒い瘴気を放ち、見るからに戦闘体制に入っている。


「ねぇあれって、敵よね?」


「うん、ドワーフだね。まあドリムと呼んでもいいけど。とりあえず手本を見せるよ」


 迷焦はランニングの速度でドワーフに近づく。

 本来歩いて接近、もしくは全力ダッシュで仕留めるのがセオリーだが、迷焦はその両方とも違う。

 本当に気軽に走る。


 ドワーフはゆったりと走ってくる迷焦を見て狙いやすいと思ったのか怪力と恐れられるその腕を棍棒のように振るった。

 迷焦はその攻撃をゆらりと簡単そうに避け、流れるような動きで剣を引き抜き肩口を切り裂く。

 その時間わずか一秒だったが、栞が驚くのには充分だった。


「えっと、まずしゃがんで攻撃を回避してから、すぐに立ち上がって斬る。......って、すぐには無理よ!」


「まあ僕も慣れるまでは苦労したからね。そうだ。栞の能力ってなに? それによって戦い方が変わるから」


 平然と会話しながらも目は敵を捉え、攻撃を剣ではじくなり避けるなりを繰り返す。


「腑抜け普通に強い。えーと、確か魔力増加(マジックブースト)だったはず」


(なるほど強化型か。一見平凡だが、チート能力は伊達ではない。ただの火魔法が街を包み込む程度にはパワーアップするだろうから恐ろしい)


 

「とにかく戦闘の基本。剣なら敵の攻撃を弾くなり避けるなりして開いた場所に攻撃を当てる! 魔法ならば遠距離から当てまくれ!」


 迷焦がトドメの一撃を放ち、ズバという音と共にドワーフが崩れ落ちる。その体は瞬く間に粒子となって霧散し出す。

 

「とりあえずこれが基本かな」


 剣をしまった迷焦は急いで夢石を回収する。


「これがリアルファンタジー。ワタシを出来るよね......」


 栞は想像してきたものとはまるで違うただただ殺すための戦闘に少しがっかりしていた。

 それでもこの戦闘に栞も参加しなくてならない。強くなるために。


「ワタシは願いを叶えるまで死ねない」



今日も無事投稿出来ました。今回はメイジの辛い金に関する過去が登場し、作中でかなり引きずってきましたが、本当に金とは恐ろしいものです。


主人公 メイジ 決して弱いわけではなく、作中での位置付けだと上は多いけど結構強いてきなポジションです。


ではまた次回にご期待を

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ