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第三章『足の折れ具合はなかなかです」

 気づくと迷焦の体は地面から離れていた。

 突然支えが無くなった感覚が迷焦の思考に空白を生む。

 

「......えっ?」


 迷焦は体を放り投げられる形で三階層の入り口へ接近する。

 なぜ自分の体は浮いたのか、迷焦は疑問を拭えない。そのまま三階層の入り口に放り出され、さっきまで自分がいた場所を慌てて見た。

 すると、三階層へたどり着いたはずの爆音寺がニッと笑っている。


「なんで」


 それでわかった。爆音寺が迷焦を三階層へと投げたのだ。それも自分を犠牲にして。

 

「なんでだよ爆音寺......お前は......お前は最強を目指すんだろ」

 

 迷焦は必死に叫ぶが爆音寺は答えずに少し残念そうに笑う。

 二階層と三階層を繋ぐ階段が閉じかかり、迷焦は手を伸ばすがもう間に合わない。

 迷焦の手は空を掠め、それっきりだった。

 視界が壁で阻まれ、それっきり爆音寺の姿が閉ざされる。

 誰よりも戦いを好んだ者は迷焦にその座を渡してしまった。別に爆音寺は死んだわけでは無い。

 ただ、爆音寺は強者との戦いを望んだ。級友の迷焦を殺すくらいにその気持ちは強かったはずだ。

 爆音寺にとってこれからの戦いはプラチナチケットだと言うのに。

 それを迷焦に譲った。爆音寺の中で何かが変わったのかもしれない。

 でもそれは迷焦にはわからない変化だったのかもしれない。

 でも、爆音寺が何かを託した事は迷焦にも理解出来た。

 だから迷焦は進まなくてはいけない。

 

「ごめん爆音寺。最終試練っていうでっかい戦いを用意してやるからそれまでは貸しでな」


 爆音寺はディオロスとの再戦に燃える迷焦にキップを譲り、託された者はその思いに答えるために前に進む。二人は気づいていないかもしれないが、本来これを友情と呼ぶのかもしれない。

 迷焦は歩いた。剣で体を支え、ボロボロの足を懸命に動かして。

 元々、修復のために感情粒子をそのまま流し込むのは治癒効果が低い。治癒魔法が貴重なのはその効果が絶大な事もあるが同時に使える者も少ないからだ。

 大会の参加者の中にも治癒魔法を使える者は何人かいるだろう。

 だが、ここは大会だ。全員が敵となるここでわざわざ迷焦に治癒魔法をかけてくれる善人は少ない。

 知り合いの治癒魔法使いに会える事を願うしかない。

 ラルなら使える。

 ただ前提としてばったり会わなければならない。時間ギリギリで到達した迷焦よりも先に進んでいるのは明白なのだ。

 つまり救援は望めない。


「時間ギリギリまでを足の修復に費やす他無いっていうわけですか。とほほだねこれ」


 その場に腰を下ろした迷焦は足のどの辺が折れたのかを調べていく。


「ん~これ左は全損、右の方がまだ軽いな。どっちにしろ状況は悪いけど。つーか暇です。超暇です。一時間くらいをただ座って過ごすとか退屈過ぎる。こんなことなら逆立ちとか練習しとくんでした」


 文句ったれる迷焦はごろんと身を投げ出す。

 

「三階層は確か障壁の狭間。物凄く高い壁を登れさえすれば楽勝なところだったはず。足さえ回復すれば氷の足場を作ってよじ登れるから対策は必要無いよね。問題は四階層からなんだよな」


 ここから難易度はさらに上がる。前回はクリア出来たとしても今回も同じようにいけるかはわからない。

 この瞬間でさえドリムに襲われるかもしれない危険があるのだが、迷焦はつまらなそうに呆ける。

 すると、どこからか足音が聞こえる。

 小刻みであまり覇気の感じられない。女かそれとも子供、ともかくそう思える足音だった。

 

「あれ、メイメイこんなところで何してるの? メイメイの事だからもっと先にいるのかと思ってたよ」


 現れたのは迷焦の身内の一人、夢美奈栞だった。


「栞、君は哀れな僕を救う女神か」


「ちょっとメイメイの言ってる事わかんない」


「それはそうと、栞って治癒魔法使えたっけ?」


「うん、まだ不安定だけど回復魔法なら」


「それ一応同じだから。余裕があるなら僕の足に施しをしてくれないですか?」


「いいよ」


 間を空ける事無く笑顔で答える栞を見てほっと胸をなで下ろす迷焦。

 足が動くようになればこれまで通りに戦える。それに栞と共に行動すれば戦力面での問題は無くなるのだから栞様々である。

 迷焦は感謝しながら栞に治癒魔法を施してもらう。

 栞は迷焦の足を回復させながらもその傷の度合いを見て顔をしかめる。


「衝撃に耐えきれなくて砕けたっぽい。メイメイ無茶しすぎ。どうしてこうなったのかは聞かないけどメイメイにはお空を飛ぶ翼は無いんだよ。だからもっと足を大切にしなきゃ駄目なんだからね」


「ぐっ......」


「私は元々飛べるし、怪我もすぐ治るから問題無いけどメイメイにとって足は必需品なんだからね。ほんとのほんとに大切にね」


「わかったからそんなに念を押さないでよ。こっちだって怪我するのはごめんなんだから」


 若干怒り気味の栞を適度になだめつつ迷焦はふと、栞の言葉の矛盾に気がつく。


(栞って最初は魔法使えなかったよな。なんか所々大げさになってるし。でも、それ言ったらまた怒られそう)


 傷が癒え、ひょいと立ち上がる迷焦。体を動かし問題が無いのを確認する。


「栞助かった。早速だけど先に進もっか。一人よりは二人の方が安全だと思うし」


「了解だよメイメイ。ワタシは学院を短期間で上等にまで上げ、そしてメイメイのパー......

身内なんだから」


 栞の表情が一瞬だが暗くなったのは気のせいか。その後、何事も無いように笑顔な栞を見て迷焦は素直に感謝する。


「ありがとう。それじゃ走ろっか。治った足のテストもしたいし」


「えっ! ちょっと待ってよ......速いよぉ」


 疾風のように駆け抜ける迷焦を風魔法を全身に纏い、体を宙に浮かせると栞は空を飛ぶようにして後を追う。

 やがて二人が足を止めると、その先は行き止まりだった。

 正確には巨大な絶壁が迷焦たちの前に立ちはだかっていた。

 

 つるりとした表面の壁は光を反射しているため遠目からでもその凹凸の無さがわかる。

 本来円型のこの部屋を二つに分断するかのようにして遮る壁に横からの隙間は無い。

 十数メートルもの絶壁を見上げれば天井との間に僅かな隙間が見える。

 あそこを通過する事で向こう側に行けるように出来ているようだ。

 ただし、この絶壁の上を通るのは簡単には行かないらしく、今も参加者の一人が十メートル辺りの場所から落ちて脱落したところだ。

 その者は壁釘を刺して足場を作りながら登ろうとしたらしい。ただ、なぜか刺してある釘が下の方から抜けている。さらには釘で空けた穴も見あたらなかった。

 そして、まだ刺さっている釘も何かに押し出されるようにして絶壁から拒絶され、落とされる。


「自己回復建造物っ感じだねメイメイ。穴を空けても内側から回復されるから時間をかけてると跡形もなく消える......学院にも同じようなのあったから懐かしく感じるよ。確かメイメイを処刑する会の囲いとして使われていたよね」


「そんな恐ろしいもんじゃ無かったけどね。ともかくこの壁の自己回復能力は周りの感情粒子を吸い取って行うものだから無形の魔法はあんまり使わない方がいいよ。栞の得意な風魔法だと感情粒子吸われてバランスを崩すから」


 そう言って迷焦はしゃがむと自分の背中を指差し、乗ってと伝える。

 最初、躊躇うような表情を見せる栞も真面目に言っているとわかると顔を赤くしながらも迷焦の背中に乗る。


「メイメイころ恥ずかしいよ。ほら、みんな見てるし」


「嫌なら下ろすけど。足を治してくれたお礼に何かしたいんだよ。方法が栞をおぶって三階層をこの絶壁を越えるくらいしか思いつかなかったもんだから」


「そう言う事ならお願いします。それに...嫌じゃないから」


 そして、小さく、


「やっぱりメイメイの背中は温かいね」


 小さく呟くと栞は顔を迷焦の背中にくっつける。

 それと同時、迷焦が超人じみた速度で動く。

 もちろん栞が風圧でやられないよう速度は抑えてだが。

 それでも疾風と呼べる速さで絶壁まで直行する迷焦。


「ちょっと、メイメイ。まさかあの壁を駆け上がるとか考えて無いよね?」


「さすがにそれはスパイダ○マンとか見たく壁をよじ登るのに特化した構造してなきゃ無理。だから壁に氷の足場を作って速攻で登りきる」


 迷焦は一気に跳躍し、落下しだしたらそこに氷魔法で足場を作る。そして、足場を作ってからそこに飛び乗り、また足場を作る。

 いくら壁が感情粒子を吸うからといってすぐに足場が消えるわけじゃない。

 だから迷焦は足場が消える前にとっとと次の足場に乗り換える。ちょうど豪雪の中、進む箇所だけの雪を掻くといった表現がただしいか。

 

「メイメイほんとに人間? ちょっと凄すぎるよ」


「一応ほめ言葉として受け取らせていただくね」


 そして、あっという間に壁を登りきる迷焦。

 反対側は滑り台のように急な坂が出来ていた。


「滑ろって事なのかな?」


「前回もそれだったから多分そうだろうね。ってことで栞の位置を変えてっと」


 迷焦が一回ジャンプすると、栞の軽い体は宙に放り出され今度は迷焦の腕の中に入る。

 ちょうどお姫様抱っこという形で。


「ちょっとメイメイ、これさらに恥ずかしいよ!」


「ちょっと我慢してて。この坂一人で滑ると絶叫もんだから」


 躊躇い無く迷焦は坂を滑る。

 滑り台やスライダー、もしくはジェットコースターでしか味わえない緊張感が栞に走る。

 急速に加速し、重力のありのままを体験するかのように落下していく感覚が馴れないために栞は迷焦の腕の中でただ耐えるように縮まる。


「きゃぁぁぁぁぁぁッッッ!!」


 躊躇い無く滑る迷焦だが彼も怖くないと言えば嘘になる。ジェットコースターだってびびっていたくらいなのだ。

 その本質は変わらない。

 徐々に迷焦の顔も青ざめていく。

 しかし、それも長くは無く、坂の最後はその勢いを殺すべく傾斜が低くなっていた。栞はなんとか口からキラキラを出す事無く迷焦の腕の中でほっとしていたのが幸いである。

 絶叫する事でなんとか乗り切ったようだ。

 

 それから目の前にある階段を登りきり、今回は何事も無く次の階層に挑む迷焦と栞だった。







今回で爆音寺が脱落となってしまいました。

でも大丈夫です。

決して出番が無くなると言うわけじゃ無いですから。

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