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第一章  『神を倒したい?~僕らの忠告を聞いてくれ ~』

 その後迷焦は栞をこの森から連れ出した。途中、ラルが通信魔法を使って探してくれたとこまでは良かったのだが、「先輩、誰なんですかこの美少女は! 先輩酷いです。この上ない糞やろうです!」と、帰り際ずっと彼女の罵倒を浴び、迷焦の顔は連戦の終わりよりも疲れているようだった。


 そして先ほどの会議室へと一堂は集まり、栞の自己紹介が始まったのだが、


「ワタシは夢美奈栞です。神を倒して願いを叶えるためにこの世界に来ました。なのでどなたか神の元まで連れて行ってくれませんか?」


「はぁ?」

 

 迷焦は「えっ、こんなキャラなの?!」と思わず声をだし、他の三人は反応に困ったのか沈黙している。

 端から見れば中二病だが、この世界でならそうは行かない。彼ら異世界転移,召還者の最終試練なのだから。

 だから栞の気持ちは本気なのだ。


 しかし4人は栞の気持ちが本気だとわかっていても首を縦には振らなかった。振れなかった。栞の言葉を聞いた途端に彼らは表情を暗くした。

 

「栞さん。もう少しこの世界に馴れてからでもいいのでは」


「いえ、出来るだけ早くクリアしたいので今すぐがいいです」


「ほら、俺も異世界転移してきたけどさ、マジで強いんだって。......だから俺らだけじゃまだ数が足りない」


 ヒサミとユーリは栞にまだ早いと留めようとするが、栞は絶対の自信があるようで表情を変えない。その純粋な志は誉めるべきだ。

 

 しかし、ヒサミたちは絶対の自信を持つチート持ちが何人も挫折するのを見てきた。出来るだけ栞を傷つけないように最終試練への挑戦を諦めてもらう。1人を覗いてヒサミたちはそう思っていた。


  「クリア出来ないよ」


 唐突に迷焦が言い放った。当然のように皆が迷焦を見る。栞は首を傾げ、三人は顔をしかめる。しかし三人のその表情にはどこか安堵の色が伺える。それは他の者の心を代弁する言葉でもあり、穏便に済ませようとした空気を壊す良いとも悪いとも思える発言だったからだ。

 

 

「大丈夫ですよ。ワタシのこの能力があれば絶対です。皆さんは援護だけでいいのです。ですから」


「命の無駄使いだよそんなの。チート能力だけで勝てるようならとっくに誰かクリアしてますよ。君はこの世界についてなにも知らない。残酷かもしれないけど夢から早く覚めたほうがいい」


 栞の言葉をピシャリと遮る迷焦。彼の瞳には恐怖と諦めが宿っている。そんな気が微かにする。


 さすがにそこまで否定的に言われて栞もかんに障ったのか、少し顔を強ばらせる。ここまで否定されるとは思わなかったのだろう。栞は最終試練についてただ簡単にクリア出来るものだも考えている。チート能力がそれを可能とするからだ。

 それが神にどの程度通じるかはわからない。しかしチート能力とは絶対の自信を持って初めて使えるようになるのだから信じてみない事には始まらない。

 それに栞は、願いのために真剣な眼差しを向けているのだから。

 

「ワタシはこの命に代えても願いを叶えたいんです。どうしてわかってくれないんですか。なんで皆さんさっきからワタシが最終試練に挑戦するのを止めさせようとして。なんなんですか!」


 栞は迷焦の顔を見る。最初に彼を見たとき、この人は死に物狂いで努力をした人間だと。この人は協力してくれる。栞はそう思えたのだ。しかし、今の迷焦をみる限りでは、そうは思えなかった。


 怯えている。逃げだした者の目だ。そう、栞は結論付ける。


「わかりました。あなたがこんな腑抜けだったなんてがっかりです。よくわかりました。だったらワタシがクリアして願いを叶えるのを指を加えて見ていてください」


 栞の声は最初に会った時と同じく小鳥のさえずりのような綺麗で静かな声だったが、明らかにその口調に熱が籠もっている。


 迷焦を罵倒する言葉を聞いて真っ先にラルが立ち上がった。


「先輩に謝ってください! 先輩の事をなにも知らないで......勝手な事を言わないでください!」


「ラル、落ち着いて。あれは僕が弱いのがいけないんだよ。逃げたとも事実と言えば事実だし。チート能力もないし、今まで培ってきた物だって、二年程度だし。僕はたしかに腑抜けだからね......」


 それ以上ラルが何か言おうとしたので慌てて迷焦が抑える。


「お邪魔しました。それでは」


 栞の言葉が暗くなったこの部屋に響く。そしてドアの開く音が聞こえたかと思うともう彼女の姿はここにはなかった。


「先輩。なんで言い返さないんですか。腑抜けなんて......先輩は腑抜けなんかじゃないですよ......私がいけないんです。あの時、私が......」


 尊敬する迷焦を侮辱された悔しさとそれをメイジの前で言わせてしまった自身の不甲斐なさでラルはその瞳に涙を浮かべる。ラルは頭を迷焦の胸に埋め、嗚咽を洩らす。


 迷焦が最終試練への挑戦を諦めたのは自分のせいである。本当のことはわからないがラルは負い目を感じていた。


 そんなラルの頭に迷焦は手を置き、子供をなだめるよう優しく撫でる。しかしその眉は細まっており、やはり迷焦も不服だったようだ。


「ごめん、悲しい思いをさせて。ただ似てるんだ彼女。初めてこの世界に来た僕に。だからどうしても彼女の心が折られる前に諦めさせようとして......その、言い過ぎた。これは僕の責任だ」


 ラルを一旦はがし、ヒサミたちの方を向く。


「すみません。せっかく穏便に済ませようとしてくださっていたのに」


「気にすんなよ後輩。どうせ、失敗に終わっただろうしな。だろ、ヒサミ?」


「ええ、それに迷焦君の気持ちも理解出来ます。昔のあなたも絶対の自信をもってましたものね」


「能力ないですけどね。それに僕も言い過ぎました。過去の自分に重ねてしまいました。だから謝ってこようと思います」


 (栞がこの先、最終試練をクリアするかなんて関係ない。確率でいったら99.99%無理なのだから。それで挫折しても自分で決めた事だ。それを他者があれこれ言うなんて間違ってるよね)


 迷焦は自分の一時の感情で彼女を傷つけてしまったことを悔やむ。扉を開けたその時、ヒサミが思い出したように呟いた。


「なあ、栞さんはどこに行ったと思う」


「それを探しに行くんじゃないですかヒサミ先輩」


「もしだが、栞さんが自分の力を試そうとしていたら。たった今あの森に“破綻者”が出たとの報告書があったぞ。となると」


 迷焦はその後の言葉を聞かなくても言いたい事がわかってしまった。栞はまだこの世界の仕組みを知らない。つまりはドリムの強さも戦い方も。

 それでいて彼女の能力が支援系だった場合、最悪の場合、栞は死ぬだろう。さらにドリムよりたちの悪い破綻者と出くわしたら......


 「やっぱり行ってきます!」


 迷焦は顔を青ざめ、全力で森へと走り出した。


「知った顔の奴が死ぬとこなんかみたくねぇぞ。死ぬなよ」


 毒づきながらも速度は維持する。

 例え罵倒を言われようと迷焦には助けないと言う言葉はない。

 他者の命を大切にする。その優しさが最終試練を諦めた原因だったとしても。




今回はなんか嫌な展開。そう思っている方。わかりますその気持ち。僕自身もそう思ってしまいます。ですが、こういう回があって、物語が進んでくんです。でもさすがに展開が急すぎたかな。


 ざっとまとめると

 

 最終試練を勝てると自身の能力に絶対の自信を持つ栞。

弱気すぎるメイジたちを見て、呆れるが、それは過去の出来事が原因で......

みたいな。

 

 1日更新していくのでぜひ楽しんで読んでください。

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