第二章 『周りが優秀』
「いいかー。そもそも魔法とはこの世界に存在する元素、感情粒子を操作する事によって発生する現象だ。従ってお前らは元素単位で物を操る事をしなくてはならない。
魔法は難しい。君たちはそう思っているがようするにあれは念によって物体を操作するのに等しい。物によっては多大な集中力を要求されるものもあるが基本的には一緒だ。
簡単な例えならば火打ち石で火をおこせる。そしてそれを指で行うだけだ。このように」
この講義は初等にのみ行われる超基本的な事であるがなんども教える事であたかも魔法が使えるようになるという錯覚から自分に自信が付き、魔法を扱えるようになるという催眠法だ。
しかし勉強の出来ない迷焦他数名の初等にとっては別世界の用語にしかならない。この講義だけで魔法が使えるなら何度もこんな講義参加している意味がない。
「さらに魔法は連度を磨けば磨くほど精度が上がり、かつ手持ちの魔法の数も使う物を優先して少なくした方がいい。一つの魔法にかける時間が増え、結果的に効率が良くなるからだ」
(要するに多すぎると迷いが生じて生成速度が遅れたり一つに込めるイメージ力が薄くなるからだろう。ならやっぱり僕は氷魔法を優先しよう。あ、でも風魔法なら身内と共同戦闘の時に援護が出来るから捨てがたい)
唯一熱心に聞く迷焦は筆を片手に真剣に悩む。対する爆音寺はさすがの問題児っぷりを発揮し、堂々といびきをかいている。
爆音寺の能力を音魔法に分類すればなかなか優秀だ。しかしこの学院の成績とは学院に入ってからの成長率である。そのため音の能力しかない爆音寺は未だに初等なのだ。
「いいか! お前たちに足りないのはイメージ力だ。手から火を出したいとかそう言う事を考えるんだ。
そろそろ時間だ。次回までに何かの魔法の発動。それが課題だ。以上で今日の講義を終了とする、解散!」
会議室から続々と出て行くシーカーに続き、迷焦らも退出する。廊下は多くのシーカーたちで賑わい、靴音が多少うるさい。
「なぁー兄貴? なんで一々こんなかったるいの聞かなきゃいけねーの?」
「だってそりゃみんな爆音寺みたいに能力を持ってるわけじゃないし、みんな何か目標を持ってここに来ているんだからさ。あと兄貴は辞めて、僕の方が弱いから」
「いいじゃん。あと俺は目標らしい目標と言えば最強になるくらいしか無いぜ。俺が最終試練も神もぶっ殺す。それだけだぜ」
一人熱くなる爆音寺は腕を鳴らす。
そんな彼らの前に五、六人のシーカーたちが歩み寄る。
「恥を知れ腐れ能力者! ボルス様の名を貴様如きが軽々と口にしていいものではない。お仕置きが必要だな」
そう言ってリーダー格の金髪の男が前に出る。この一団はボルス教だろう。このアルカディア学院では様々なシーカーが集まる一方で様々な派閥もこの学院に存在する。そして一定の地位を獲得している派閥内の者はこうやって気に入らない者に突っかかりに来るのだ。
特に金髪の男はボルス教の派閥内で幹部的な地位を持っている。さらに魔法、武術においても成績優秀なので彼が問題を起こしても教授たちは何も言わない。
あまり関わらないたくない相手だ。
そして、さも当然のように金髪の男が爆音寺の腹に拳を放つ。何人もこれでボコボコにしたんだろう。手慣れている。
しかしそれは爆音寺によって阻まれ、手首を抑えられる。戦闘狂は目をギラギラとさせ、興奮じみた口調で喋る。
「なぁテメー。そんなに戦いたいなら相手になってやるよ。まあ俺が能力発動した瞬間、テメーの腕は塵になるだろーけどよ。さあどうする腐れ宗教者」
野獣の如き殺気を肌で感じ、ボルス教の奴らは後ずさる。
「ちぃ、引くぞお前たち!」
金髪の男は爆音寺の手を振り解くと颯爽と歩き出す。連れ違い様にいつかお前を後悔させてやるという言葉を残して。
蚊帳の外だった迷焦はそんな光景をただ見ているだけしか出来なかった。
ボルス教徒の奴らが去った後、迷焦は両腕をさすり普段ならしない武者震いをする。
「怖かったー。あれがボルス教か、爆音寺は怖くないの?」
「全然。どうせあいつら神にたよってる馬鹿な奴らだからな」
その強気な発言に迷焦は苦笑いし、一瞬暗い表情を見せる。
「......強者のセリフだよね」
「なんか言ったか兄貴?」
「何でもないよ......それより午後のパーティー練習は頑張ろ、内の殲滅アタッカー君!」
すぐにいつもの表情に戻った迷焦は次の授業へと向かった。
午後の授業は四~六人で一パーティーとして集団戦が行われる。冒険者になったときのの訓練なんだそうだ。基本的にパーティーで役割分担をし、連携の強化また実戦を行う。
下級ドリムなんかを使い、みんなで殺すという物で基本は壁役が攻撃を防ぐ間に攻撃役が攻め、ソーサラー(魔法攻撃役)が留めをさすのだ。
しかし迷焦たちのパーティーはそうじゃなかった。
林の中一匹のドリムが逃げ惑う。追っているは爆音寺だ。地面を消し去るようにして蹴り飛ばし、ドリムとの距離を一気に詰める。そして拳をぶち当てドリムの体を吹き飛ばす。
これが最後の一匹。爆音寺がドリムの群れに飛び込んでから約三分、一人で十数匹のドリムを蹴散らしてしまった。
現在迷焦のいるパーティーには問題がある。
爆音寺一人でドリムを殲滅してしまうからだ。他にも栞ともう一人いるのだがそれぞれがドリムを個々で撃破してしまうため連携と言うものが無かった。
「なぁ、爆音寺。もう少し連携しない?」
迷焦の言葉を聞いても他の人たちは首を傾げるだけだ。みんな連携という物がわかっていないらしい。迷焦としても王立治安の頃はヒサミが指揮を執っていたわけで迷焦は統率など取れるわけもない。
「だってさ~あいつらが弱すぎて俺一人で片付いちまうだぜ。連携なんか必要ねえよ」
爆音寺は豪快に笑う。
「うちは~栞たんに癒やしを貰ってるから何でも良いんだけどねえ。男共は勝手に頑張ってればええんじゃない」
怪しげなフリル付きの服を纏う少女は栞に抱きつきながら迷焦たちをうざったそうに見る。
なんといってもその服は特徴だ。赤、黄色とカラフルなフリルをこれでもかというほど付けているため、傍目からは怪しく見える。
フードを被っているがそこからこぼれる金髪のロングは絹のようで垂れた目つきはのほほんとしたオーラを放っている。
極めつけには額に角を生やしている、稀に見る亜人だ。
少女の名は ノエルレイド・テオス・ユニコーン。通称ノエルだ。
ノエルは上等でありながらも生活態度が悪く、魔法の才能がありながらも処女が好きという変わった性癖を持っている。そのため迷焦たちのパーティーに入ったものの栞に夢中になっているため戦力としては活躍出来ないのだ。
「あの、ノエルさん? あなたも参加していただけると大変嬉しいんだけど」
栞の背に隠れながらブーブーと文句っ垂れる。そして隠れて接近してくるドリムたちを手を振りかざす事し、光魔法で後も残さず消滅させる。それを悟られぬようにしてのほほんとしながら呟く。
「うちは処女のために生きるんや。ユニコーンの性質やな。だから男のために動きたくな~い」
(このレズ野郎。さらっとドリムを蹴散らしやがって)
何かの糸がプチっと切れるような音がして迷焦の顔が引きつる。
これが現在のパーティーの現状なのだ。一人一人の力が強すぎるのだ。そのため連携の糞もない。唯一平凡な迷焦は統率の取れない無力さと力の無さで劣等感に襲われていた。
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休日は一週間に一度あり、迷焦は世界魔法図書館に栞とやってきた。
図書館は壁一面に本で埋まっており、広さも東京ドームくらいある。空中にも本棚が浮かんでいるためファンタジーであることを思い出させてくれる。全体的に暖かい雰囲気を漂わせ、老若男女がここに訪れる。
お年寄りにも優しいこの場所では魔法で動く絨毯があり、それで移動出来るのだ。
迷焦は真っ先に館内の見取り図を見て、最終試練に関係のあるコーナーを探した。
当然そんなコーナーは存在しなく自力で探すしか無いため手当たり次第に迷焦は探し出した。といっても的は絞る。普段は入れない場所を重点的に探す。
迷焦は普段は入れない場所なのだが以前にある大会で一定のエリアなら入れるパスをゲットしたのだ。迷わず迷焦は突入する。
場所は本棚の隠し通路のようになっており、中は本で囲まれており、狭いが秘密基地を思わせる。ここから最終試練に必要な情報を探し出すのだ。しかし問題がある。
そこは埃っぽい上かび臭かった。臭いのなんのってそこの部屋は別世界にでもなっているのか人間の住む世界では無いとさえ思えてしまうくらいに臭いのだ。到着して早々迷焦は誰かの陰謀なのではという考えに襲われる。
創造魔法でガスマスクを作成し、中へと突入した。
本の種類は多いのだか最終試練のためになりそうな本は見当たらない。
仕方なく待たせているであろう栞との待ち合わせ場所に戻る。
外にあるテラスで迷焦は手を振る栞の方に向かう。栞はショートケーキを食べているらしく口をモゴモゴさせている。
迷焦も席に座ると、とりあえず大人ぶってコーヒーを定員に頼む。
「で、栞の方は何か面白そうな本見つかった?」
「うん。回復魔法についての本でしょ、それからボルス教が広めるボルス神話とか」
笑顔を振りまく栞に迷焦は複雑な顔をする。最終試練に関して迷焦はかなり探し回った方だと思う。なのに栞があっさり見つけてしまうのでちょっと悔しいのだ。もの探しの魔法を覚えたのかもしれない。
「ボルス神話か......よし読みますか!」
元気に迷焦は自分を奮い立たせた。
戦力評価
<無道迷焦> 氷精剣アクウィールを持ち、魔法は創造と氷が使える。それ以外は平凡。
欠点→平凡であるが故多人数には弱い。身内に依存。魔法の才能は未だ発掘されていない。
<夢美奈栞> 成績優秀、現在進行形で使える魔法の数が増えている。威力の弱さを魔法増加という能力でカバーしているためかなり優秀。
欠点→体力、筋力が無い。
<帝爆音寺> 音魔法の能力者で一人で無双出来る。出来る事は《空気の壁》、《高周波音爆弾》、《超振動付与》などである。
欠点→集団行動が苦手。早起き。
<ノエル・テオス・ユニコーン> 上等であり、時間のかかるはずの魔法を瞬時に発動出来る天才。
処女好き。
欠点→やる気が無い。




