第二章 『初等』
迷焦と栞の最終目標は最終試練(神殺し)を成功させ、互いの願いを叶える事だ。しかし二人
の戦闘能力は下位にも等しく、栞に至っては魔法すら使えない。迷焦もガブリエルとの戦いの際、何らかが原因により身体能力が平凡になってしまったのだ。
そんな二人は一から戦闘技術等を学ぶために魔法都市ソロモンの武芸者育成学校、
『ノウレッジアルカディア学院』通称アルカディアへと通うのだった。
ここでは魔法を学ぶ者、冒険者を目指す者、騎士団としての力を磨く者、貴族出身など様々だ。そして生徒の事は“シーカー(探求者)”と呼ばれ、学院では初等、中等、上等、特等と成績や能力に応じて待遇が変わる。
例えばシーカーたちの寝る寮は塔の中にある各部屋を六人一組で使う事になっているのだが特等ともなれば学院内の敷地に存在する別荘に住むことが許される。
そして無道迷焦が寝る場所は当然別荘
______ではない。
迷焦は初等であり、学院に入学してから早い物で二週間が経つが未だに塔の最上階を往復するのには慣れなかった。
辺りは寝静まり、月明かりが夜の風と共に窓から差し込み少年たちの寝顔を優しく照らす。そんな片隅ではっきりと目立つ灯火の光が石畳の床を染め、一人の少年を映しだす。
迷焦は蝋燭の仄かな灯りを浴びながら使い古されたであろう年期の入った椅子に腰掛け、魔術本を読みふけっていた。
そしてベッドでグウスカ寝ている少年たちを一瞥し軽くため息をついた。
元々この部屋は男子六人いるのに対し、ベッドは全部ドッキング、なおかつ広さが四人分しかないのだ。だから日々ベッドをめぐって争いが起こるのだが今日も迷焦が一番に転げ落ちてしまったのだ。
迷焦としては再びベッドを奪い返そうという気にはならないらしく、隣の自習用の机と椅子を拝借したというわけだ。しかし椅子は固いし、軋むしととてもだが寝れる場所ではない。床は石畳で夜は冷たいし、毛布なんとものは初等に用意されているはずもない。
肌寒いと感じながらも迷焦はこの時間が嫌いではなかった。今日も誰かが来てくれる事を祈り、迷焦は魔術本を読みながら待ち望んでいた。
不意に木で出来た扉が音をたてて開かれる。
そこから覗く人影は蝋燭の灯りによってその見事な銀髪が輝くようにして揺れる。
「メイメイ起きてる?」
栞は女子塔からわざわざ男子塔の最上階まで登ってきたのだ。
迷焦は椅子から立ち上がると懐かしむような顔で手を振る。
「大丈夫だよ。外行こっか」
わざわざ階段を降りるのはとても面倒だ。さらに栞をこれ以上疲れさせたくない迷焦は通路にある壁をくり抜けただけの窓の前に立ち、創造魔法でロープを作りそれを使って二人で降りた。
寮塔の横には憩いの場として庭がある。月明かりを帯びる芝生は風に吹かれてたなびいてゆく。草原を思い出すかのようなこの光景はどこか落ち着きを感じる。
二人は近くのベンチに座り、夜に流れる風に吹かれるのが日々の楽しみとなっている。
栞は風で揺れる髪を押さえながらそのエメラルドに似た綺麗な瞳で迷焦を見る。
「今日は何か覚えた?」
「いや、全然。相変わらず魔法じゃクラス最下位層。にしても凄いよ栞は。この短期間でもう中等になってなおかつ使える魔法の数が日に日に増えてくなんて。こりゃ完全に越されたなぁ」
苦笑いする迷焦は空を見上げる。星々が煌めくこの夜空はほんとに綺麗だ。迷焦が手を伸ばしても決して触れられないくらいに。どんどん高くなって行く。
「そんな事は無いよ! メイメイは創造魔法が使えるし、それに......メイメイすぐ前に出ちゃうから前衛としての技術を磨いた方がいいと思う」
「確かに、そうだね。でもやっぱり何でもそつなくこなせるようになりたいじゃん。僕らのパーティーはまだバラバラだからさ。まあとにかく僕は筋トレして体力つけないと」
腕を伸ばし、ニャハハと笑う。
その後栞を女子塔へと送り、迷焦も自分の部屋へと戻り固い椅子で一夜を過ごした。
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カンカンカン。
朝の日差しが昇る頃、寮主のフライパンが奏でる金属音が寮内に騒がしく響き渡る。
「起きろクソガキ共ッ!! 飯の時間に遅れるなどシーカーにあってはならんッッ!!」
その落雷にも似た大音量が塔を揺るがし、いやでも起こされてしまう。
各部屋の扉が一斉に開かれ、シーカーたちが慌ただしく一番下にある食堂へと駆ける。
遅れて迷焦が最上階の扉を開ける。
「行くぞ爆音寺! お前いくら能力で寮主のエクスプロレーションボイス(うるさい怒鳴り声)を相殺出来るからって遅れたら食事抜きだぞ」
迷焦が扉の外で地団駄を踏んでいると後からボサボサ頭の少年、爆音寺が眠たそうな目をしながら這い出てきた。
「だいたい俺にかかればあいつら全員フルボッコだっつーの。兄貴なら余裕だろ......ふぁぁ」
「いやいや、僕は出来れば争いたくないし......それにあの時力は平凡になったって言ったよね! それより早く行くぞッ!」
同じ部屋に住む迷焦の同僚で1ヶ月前くらいからここにいる爆音寺はあの時のガブリエルとの戦いで迷焦を尊敬してしまったらしい。
しかし迷焦の方は遅刻大王というあだ名がついた問題児こと爆音寺のお目付役にされてしまい朝は二人で寮主に怒られるという素晴らしい習慣が根付いてしまったのだ。
迷焦たちが食堂につく頃には料理が無くなっており、二人で腹の鳴るお腹を押さえたのだった。
仕方なく胃袋空っぽな二人はそのまま授業に参加した。
教室は大学の講義室のように黒板の周りを囲むように席が置かれ、外側になるほど段差が高くなるというものだ。
二人はここの前の席に座り授業へと参戦する。後ろの席が教授に指名されやすいとあう事を迷焦はこの頃気づき始め、食堂組がくる前に席を確保する事に成功する。
このアルカディアでの一日の授業は午前中が魔法、戦闘についての基礎を学び、午後に実践、体術、武器の操作、パーティーを組んでの特訓を主にする。
そして今回初等が受けるのは魔法の理論という最も基礎的な講義の復習だった。
どうも。入学の部分は省いきいきなり一週間後から書いてみました。




