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第二章 『魔法の使えない魔法使いと凡人剣士の挑戦!』

 迷焦たちはフォレストキラーの近くの茂みで様子を見る事にした。

 

 フォレストキラーがいるのは木々に囲まれたこの森でも比較的開けた場所で六畳くらいの広さがある。フォレストキラーは座っていて食事中なのか大量の蜂の巣を前にしている。近くには食べ終わったであろう残骸がいくつもあるためここが寝床なのかもしれない。幸いにも迷焦たちには気づいていない。狙うなら今だ。


 ______正直言うとかっこ良くは勝てないだろうなぁ。迷焦はぼんやりとこれから殺すべき相手を見る。もちろん殺気は出さずに。あの頃の精神はまだ生き残っているらしい。顔には緊張の糸が走り、今まで以上の気合いを迷焦は入れる。手に持つ剣を槍へと変形させる。

 それから五百メートルくらい離れている、手に剣を握る栞にジェスチャーで合図をする。

(作戦開始!)


 茂みから飛び出す迷焦。そして反射的にフォレストキラーが振り向く。その重い図体を即座に起こすがその動きは遅い。その間に槍の間合いまで詰めた迷焦は肩らへんを一刺しし、氷魔法で傷口を凍らせる終えたらすぐに距離を空ける。怒ったフォレストキラーはぐおおぉと叫びをあげ迷焦に襲いかかる。

 戦闘での経験上、怒りに身を任せると動きが単純になる。

 だから迷焦は腰を落としフォレストキラーの腕をかいくぐる。そして空いたわき腹にさらに一刺し。凍らせたらすぐさまうしろに下がる。

 ヒットアンドアウェイだ。


 今のところ順調に敵にダメージを与えている。さらに傷口を凍らせる事で敵の動きの制限、体温の低下、地道な蓄積ダメージなど様々な効果を発する。

 しかし問題の方は迷焦、本人の体力だ。今の動きでかなり疲れたらしく表情は辛そうだ。息づかいも荒く大量の汗が体から滴り落ちる。


(まずいな、動きにかなり無駄がある。それに怖いの我慢してるから余計に体力も使う。もっと動きに無駄をなくせ、死を恐れるな!)


 迷焦は自分に活を入れるように頭で考える。

 手足の震えを治めるために軽くジャンプし、意識を再びフォレストキラーへと向ける。

 槍は中距離でこそ真価を発揮する。だから敵の攻撃を受けずに攻められるのだが槍の持ち主が敵の攻撃を怖かっているので上手く機能出来ていない。

 フォレストキラーの腕のなぎはらいを槍でガード、槍の角度を変えて威力を削ぐ。防ぎきれないのか反動で後方によろけるがフォレストキラーは次の攻撃モーションに入る。でもそうはさせない。迷焦は右足で地面を蹴り出し一気に距離も詰める。そしてフォレストキラーの首に狙いを定める。

 ______ここで息の根を止める。

 死ぬのは怖い。だからここで殺す。

 氷精槍アクウィールの武器クオリティは最高クオリティの神獣級の一個下の聖霊級。並大抵の物では防ぐ事が出来ない。

 迷焦は恐怖や殺意といった溢れ出る自身の感情を全て槍の穂に込め、爆発させるようにフォレストキラーの首に光の矢を放つ。


「死んでたまるかーッッ!!」


 槍は闘牛のように荒々しく鷲のような俊敏さと正確さで毛皮に守られた固い肉質を貫く。

 血しぶきが舞、氷魔法で喉元を凍らせ確実にフォレストキラーの命の灯火を削る。崩れ落ちる死闘の敵、フォレストキラーを迷焦はしかとその目でとらえた。迷焦は荒い呼吸の中、ふらつく体をフォレストキラーに突き刺したままとなっている槍に預ける。


「勝ったぁぁぁ。死ぬかと思った......」


 緊迫した戦いを終えた迷焦は力を抜く。しかし栞が必死の形相で叫ぶ。


「メイメイ避けてッ! まだ終わってない!」


 反射的に迷焦は槍に刺さっているはずのフォレストキラーへと視線を移す。

 その刹那、フォレストキラーが迷焦を押しのけ立ち上がった。首を破壊したのに生きているなんてとんでもない生命力だ。そのまま(つるぎ)の鋭さを持つ爪で今度は迷焦の首に迫る。

 迷焦はフォレストキラーの手首を掴み必死で押さえている。ただ元々の筋力の差に加え向こうは重量に身をゆだね、体重を乗せてくる。とても耐えれる物じゃない。

 ______今度こそ死ぬ。

 迷焦の脳裏にそんな言葉がよぎる。でも迷焦はここで死ぬわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。腕に力を込め抵抗する。それでも死はゆっくりと近づく。迷焦は有らん限りの声でパートナーの名を呼んだ。


「栞ッッ! よこせー!!」


 その言葉が辺りに響き、木々の隙間から一振りの剣が迷焦の元へと投げ込まれる。その剣は戦いの前に迷焦が創造魔法で生成したものだ。

 両腕が塞がっている今、操作可能な魔法作成武器でフォレストキラーの心臓を突き刺す。それこそが迷焦たちのラストアタック。これには栞がこの戦い中ずっと息を潜め、気配を気付かれないようにしなくてはならない。

 迷焦は剣をフォレストキラーの心臓に狙いを定め、一気に突き抜ける。雷光にも似たその一撃はフォレストキラーが動く前にその背を貫き迷焦の頬を掠めた。危機一髪だ。

 今度こそ命の灯火を失ったフォレストキラーは崩れ落ちた。押しつぶされないようなんとか脱出した迷焦は座ったまま木々の上にいる栞にガッツポーズを送る。栞の方も無事に終わった事がわかった様子でお疲れと身振りで伝える。


 迷焦は疲れたのかへなっと仰向けに倒れ込むとそのまま晴れ渡る空を眺めることにした。

 体を撫でる風が気持ちよく、生きている事を感じさせてくれる。

 

「一歩前に......なんとか踏み出せたよ」


 迷焦がそのまま眠ってしまった事はのちの寝息から栞が確認した。



******


 村の宿へと戻り、依頼をこなした事を店主に告げると凄く感謝された。


「ありがとうございます。ありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか」


「いいですよ。軽いトレーニングですから」


 愛想良く笑う迷焦だが服がボロボロで汚れまみれなのでとても軽いトレーニングだとは思えない。それは店主にもわかるほどであったらしく申し訳なさそうな顔をする。


「本当にありがとうございました。あのフォレストキラーはこの村を頻繁的に襲っていたものでしたから。これで村の人達も安心して暮らせます」


 それから感謝のあめを浴びた迷焦の眼前には未だ店主の顔は申し訳なさに溢れている。むしろさっきよりも強くなっている。逆に申し訳なくなってきた迷焦たちは早々と部屋に戻るのだった。

 部屋に戻るなり焦ら栞はベッドにダイブし、迷焦は破れた服の直しに入る。布の切れ端で破れた部分を覆い、服の破れた後がきれいさっぱりに無くなるよう想像する。

 創造魔法もやはり媒体となる物があるほうが完成度が高くなりやすく、疲れて頭を働かしたくない時迷焦はよく使うのだ。

 服と格闘している迷焦に栞が嬉しそうに話しかける。


「メイメイ店主さんにたくさん誉められたね。これで村にも少しは貢献出来たかな?」


「出来たさ。まあこれからが本番だろうけどね」


 窓から差すオレンジ色の光が迷焦の黒髪を照らし、彼の苦笑いがはっきりと映し出される。

 なぜ苦笑いをしたのか疑問に思う栞だが今日は疲れていたので軽い食事を済ませた後そのまま寝る事にした。


 次の朝。窓から明るい日の出が顔を出す頃、迷焦の絶叫が宿内に轟く。絶叫と共にのそのそと起き上がる栞は何事かと開けられない目蓋のまま絶叫する主の方に向く。


「栞大変だ! お金が......お金が無くなっちまった」


 迷焦顔を真っ青に染め、慌てた様子で荷物をあさる。迷焦の言うお金とは魔法都市ソロモンに行く費用と入学金、その他食事などを賄うためのもの。二人の全財産なのだ。それが無くなると言うことはこの後の旅の存続に関わる一大事だ。しかし栞は慌てる様子もなく普段通り(?)に顔を洗いに行く。


「メイメイ落ち着いて、例えお金が無くても死んだわけじゃないんだよ。大丈夫だよ。きっとなんとかなるよ」


「なるのかなぁ! 畜生っ! 金取られたのは二回目だよ。ほんとに嫌だよ!! 宿の人に容疑をかけようとする疑心暗鬼になっちゃうから。

 恐れていた事が起きてしまったッッ!! 落ち着け落ち着け、僕には栞がいるから大丈夫。僕には栞がいるから大丈夫」


 お金を取られたとあうトラウマを持つ迷焦は自己暗示を開始しだし、栞はそれを笑顔で眺めた。


 チェックアウトの時、店主の顔がかなり申し訳なさそうだったのでお金を取ったのはこの人で間違いないだろう。さっきから二人の顔を見ていない。


 そんな店主に栞は無邪気に微笑みかける。


「すみません、朝起きたらワタシたちのお金が無くなっちゃったんだよ。それでね......」


 ギクギクと反応する青ざめた顔の店主の顔を真っ直ぐに栞は見る。


「もしそのお金を見つけた人がいたらそのお金......使っていいよって言ってあげて」


「「えっ?!」」


 迷焦と店主が同時に驚く。その反応は予想外だったらしい。驚きのあまり店主は口をあんぐりと開けている。


「お金を見つけた人はね、きっとお金が必要なんだよ。それが無いと今日の食事もとれないくらいに。だからいいよ。少しでもこの村のためになるのならぜひそのお金を使って役立ててね」


 その後店主は手で顔を覆ってしまったため、後にどんな表情をしたのかわからない。

 店を出た二人は馬車へと向かう。幸いにも馬車もその中身も取られていなかった。

 馬車に乗り込むと迷焦は少し不機嫌な顔で栞の満足そうな笑みを覗く。


「本当にあれで良かったの? 僕らのお金あれで無くなったけど」


「良いんだよあれで。メイメイも言ってたじゃん。この村の手伝いなら出来るって、お金はまた稼げば良いんだよ」


 子供のような満面の笑みを迷焦に向ける。この笑顔は迷焦の心を和ませてしまうのだからずるい。

 そっか、一言だけ呟いた迷焦は納得したかのように前へと向き直り、馬車を走らせた。 


 宿に残された店主は静かにその場で泣き声をあげた。


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