第二章 『恐怖と勇気』
「僕は自分が物凄く弱くなったと知って、目の前に僕を殺そうとする化け物が居て怖かったんだ。死ぬのが堪らなく恐ろしく感じて、体が萎縮して............今まで把握出来ていた動きが急に出来なくなって、避けれた攻撃が避けれなくなって。結局僕はこの機動力に依存してたんだ。あの動きで戦っていた僕じゃ今更常人の動きを真似しても型にならない」
だから......もはや声にならない音と化したその声は迷焦の口元で空気に溶けていった。
「で、でもこの世界はイメージで強くなれるんだよね。なら自信を持ってよ。メイメイなら」
なんとか励ましの言葉を探す栞だがその言葉が言い終わらないうちに迷焦は否定的な声を出す。
「自信......持てないよ。僕はあいつに恐怖を感じたんだ。殺されるって。だから......」
人は死の淵に立たされると死の恐怖を感じる。そして普段の動きの十分の一も出来なくなる。感情が強さとなるこの世界ならなおさらだ。
そしてそれは元の世界なら当たり前の事で恥じるべき事ではない。しかしこの世界でそれは致命的なのだ。
自分に自信、勝てるじゃビジョンが見えなければ格下の相手にあっさりと負ける。ゲームのように明確な数値が存在しない世界。心臓にナイフ一刺しで人が死ぬ。それも簡単に。これは元の世界でも同じ事のはずだった。
これまで迷焦がそれに危機を感じる事なく戦ってきたのはお得意の機動力で攻撃を回避して来たからに他ならない。
だから機動力が無くなった迷焦は真っ正面から死の恐怖に立ち向かわなくてはいけなくなったのだ。
誰だって死は怖い。それが正常な答えだ。迷焦はそれに気づいたに過ぎない。
ただそれだけだ。
死に怯える迷焦はいつも何かに震えている小者にしか見えなかった。人間なんて化けの皮が剥がれれば醜い姿でしかない。誰もそんな姿を晒す人に近づこうなんて思わないだろう。
しかし栞はそれを気にする姿を見せず、縮こまる迷焦を覆うようにして抱く。いきなりの事で戸惑う迷焦だが今の彼に栞からの抱擁を拒む気力もない。栞の肩に頭を預け、迷焦は彼女の言葉を聞いた。
「メイメイは強いよ。今は少し疲れてるんだよ。だから休んで。ワタシがメイメイを守るから」
______優しく頭を撫でられると何だが自分が子供になった気分になる。栞に甘えてしまう自分が恥ずかしい、でも今はこのままにしてほしい。迷焦はその温もりの中でそっと目蓋を閉じた。
それから何分くらい経っただろうか。目を開けた迷焦は栞の腕の中で小さく呟いた。
「僕さ、人ってのはみんな正しい事をする生き物だと思ってたんだよね。でもある時クラスで劇をやることになったんだけど二人の意見が割れて喧嘩になってさ。
一人はクラスの人気者、もう一人は嫌われ者。だからみんな人気者の味方になっちゃって、実際正しいんだけど。でも後から考えたら嫌われ者の方の意見も間違いじゃなかったんだ。方法は違えどどちらも自分の考えを持っていたんだ。
それから僕は喧嘩でどちらの側につくときもお互いに正義があるって考えちゃうんだ。この世界でもそうなんだ。ドリムだって破綻者だって元を辿れば同じ人間で彼らなりの正義があるんだ。でもそんな事言って放っておいたら他の人が被害に遭う。
そうやって考えちゃったらきりがなくて............結局どちらの側にもつけなくて、どちらの正義も信じられなくなって。それに僕は両方を守る力もなくて......命を救う手の平は小さくて......」
だから......、迷焦は一間空けてからその後の言葉を紡ぐ。
「助けるのは僕が命に代えても救いたいと思う人だけに決めちゃってるんだよね。もちろん他の人も助けないわけじゃないけど。
だからかな。他の人やドリムの命の価値が僕にとってどうでもいい物に思えて......だから平気で殺せてたんだと思う。だから一度殺されかけた程度でめそめそする僕とかかっこ悪い。
今まで散々命を奪ってきてるのにね」
こんな事は他の身内にも話していないだろう。それほど迷焦は弱っているのだ。その言葉を一つ一つ聞いていた栞は迷焦の気持ちを理解したうえでよしよしと頭を撫でる。迷焦には愛が必要なのだ。人の正義に飲まれまいと他人に興味を無くすふりをして本当は辛かったはずなのだ。他人を助けたくてもそれは誰かの正義を否定してしまう。そんな環境が迷焦に人を信じさせる事を邪魔したのだ。だから一部の人以外の人とあまり触れ合おうとしない。
人は愛で成長する。でも信じられなかったのだろう。自分に向けられる愛を。
だから栞は単純な愛の形で伝える。
「メイメイは優しいね。でもあんまり考え過ぎないでいいんだよ。完璧な正解なんて無いんだから。怖いなんとのは当たり前だよ。大丈夫、ワタシが隣で支えるから。弱くても苦しくても諦めないで。メイメイは最終試練を共にクリアするための......パートナーなんだから」
それは今の迷焦にはとても眩しく暖かい物だった。体の奥で熱いなにかがこみ上げてくる。
(弱くても諦めない......か。勝てないのなら何度でも挑戦する。そうだよ、ゲームならよくある事じゃないか。たかが一回負けただけだ。負けなら何度も経験してる。死ぬのが怖いなら慣れるまで戦わなきゃ)
迷焦は顔を上げて目の前の栞の顔を見る。二人の距離は密着しているといって過言ではないほどに近い。鼻先が触れ合いそうになり、栞のどこか落ち着く匂いが漂う。
そして宝石のように綺麗なその瞳を見つめ迷焦は覚悟を決める。
「栞。僕はまだ死が怖いけど一歩踏み出してみるよ。だから力を貸してほしい。負けたままじゃ終われない。村の人に頼まれた依頼だけど今は僕を試す試練に思えるから」
迷焦は立ち上がり、栞に手を差し出す。
「僕らの新たなスタートダッシュ。ここから始めよう」
そして栞は迷焦の手を取った。
魔法の使えない魔法使いと凡人とかした平凡剣士の挑戦だ。
どうも、今回は迷焦が弱い心を見せるところでした。人にはそれぞれの正義がある。でもそんな事言ったらきりがあるません。
皆さんも嫌な事は嫌だとはっきり言いましょう!(注 作者が何かに怒っている何てことではありません)
これから短編小説を書いてみようと思います。内容はこれから考えますが掲載したらぜひ拝見してください。(まだまだミスも多いので)




