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第二章 アルカディアシーカー編 『旅立ち』

<サンレンス南郊外の端>


 ここは家畜産業が盛んで馬小屋が至る所にある。悪臭が鼻につくのが気に入らない者もいるが慣れれば比較的住みやすい。ここでは馬のレンタルをやっているので別の所に行きたい人は大抵ここによる。

 そしてまだ辺りは暗く夜明けを迎えていないこの時間、一台の馬車が出発を待つばかりとなっていた。

 


 無道迷焦は只今馬車に座り、身内にしばしのお別れを告げていた。隣にはこれから学校に通う事になるであろう夢美奈栞が興奮を抑えれずに足を端つかせている。

 そんな栞に耳打ちをするようにヒソヒソとラルが話す。


「(......いいですか、先輩は身内のためなら何だってやりかねません。ですからブレーキ役をお願いします)」


「(......うん、頑張る。ちゃんと魔法を使えるようになるから)」


 ラルは安心したような表情を見せ、最後にもう一言囁く。


「(......あと、先輩を襲わないでくださいね)」


「(......それはないよ......)」


 そんなやり取りをする二人の少女の耳に鈴の音が盛大に鳴る。時間だ。

 迷焦が身を乗り出し三人の顔をそれぞれ見る。


「行ってきます!」


 その声と同時に手綱を引き、馬車を動かした。馬の蹄が地面をえぐり瞬く間に馬車の姿が小さくなる。

  その姿を見届けてた三人は静かに手を振った。


******


 馬車も数時間走ればこの殺風景な道の風景もだいぶ変わってくる。空には澄み切った青さが広がり、畑道だった世界も林へと変わっている。

 そしてその林を抜けた先に小さな村が広がっていた。

 この村はディクライン、かつてここには地下ダンジョンがあり、冒険者達で賑わいを見せた。ダンジョンが陥没した事で村の客足は途絶え、観光や冒険者の消耗品などで収入を得ていたこの村は衰退の一歩を辿ったらしい。

 まだ青空が広がっているのでまだここで休憩は早い。念のため地図を確認するとその村の近くにはこれといった集落がなく、次の村につく頃には夜になってしまうのでここで泊めてもらう事にした。

 馬車に何時間も揺らされた疲れか腰をさする迷焦は隣で眠りこけている栞の体を揺らして起こす。


「栞起きて。今日はここで泊めさせてもらえるようお願いしに行こう」


「ふぇ。わかったぁ」


 眠い目をこすりゆっくりとだが立ち上がる。

 その仕草が子供だな、と疑似父を体験する迷焦はつくづくそう思った。


 そして村に一晩泊めて欲しいと頼むと快く引き受けてくれた。さらに簡単な依頼をこなせば宿泊費無料というオプション付きだ。


 その依頼を受ける前に荷物の整理のため一度宿舎へと向かう。

 部屋の中は質素なベッド一つに冒険者産業が栄えた時の名残なのか武器の置き場が設置されている。木材の床は年季が入っているのか味わいがある。というかそう言わなきゃやっていけないほどにはボロボロだった。

 迷焦は特に不満そうな顔をせず、床に荷物を下ろす。栞のほうも虫が居ない事を確認すると安心してベッドに飛び込んだ。

 

「おーい栞、ベッドで寝るのは後。まずは依頼をこなして宿泊費を無料にしてもらわなきゃ」


 騒ぐ栞を抑え、無理やり引きずる。


「いいか栞。学校のある魔法都市ソロモンまであと二週間はかかる。手持ちのお金は出来るだけ残したい。だからここの宿泊費が無料になるというのは素晴らしくありがたく、やらなきゃいけない事なんだ」


 そして説得を終えた迷焦と渋々参加の栞は宿屋の店主に依頼の事を詳しく聞かせてもらう。

 店主の話によれば近くの森でドリムが出るから退治してほしい。という比較的簡単なものだった。

 ただ、村の者で冒険者がいないため村のあちこちに被害が出ているらしい。

 それを快く引き受け、迷焦達は森にいると言われるそのドリムの退治へと向かった。RPGらしい展開に少しだけ興奮する栞に平然とする迷焦。二人は森に向かう途中、村の様子を見ることとなった。


 家は全部木で出来ており修復の箇所が多く見れる。村に活気はなく人通りも少ない。度々見かける人も元気とは言えないようで何というか空気がどんよりとしている。

 しかし酒場はどこも似たようなものらしく、人の塊は出来ていた。迷焦たちの視界に酒場の様子が入る。ここも賑わってはいるが客の顔に生気がない。何か辛いことがあったかのようにため息をつきながら酒を飲んでいる。

 この村の異様さに気づいた栞は迷焦の裾を引っ張る。


「ねぇメイメイ?」


 迷焦の方は冷静でさして気していない様子で、いつもの調子で答える。


「こんなの普通だから気にしないで。そんな事よりあんまジロジロ見ない方がいいよ。喧嘩の意思があると思われるかも知れないから」


「メイメイこれが普通だって言うの? 全然普通じゃないよ! 村の人たち助けないと」


 

 栞が抗議するが迷焦の足は止まらない。


「これがこの村の現実だよ。でも僕らに彼らを助ける事はできない。村の事は村の人がやらなきゃ意味ないんだよ......ただ......」


 続けて迷焦は言う。


「手伝いくらいなら出来る。この村には戦える人が少ない。だから僕らが村に被害を与えるドリムを退治する。僕らにはこれくらいしか出来ないけどやらないよりはましなはずだよ」


 栞の方も納得したのかニコニコと笑う。

 

 迷焦はだいぶましになった足で道を歩く。ガブリエルとの戦いの後からどうも体の調子が悪い。それに剣が妙に重く感じる。

(まあ下級のドリムくらいなんとかなるだろ)


 迷焦は不安感を出さないようにしながら森へとたどり着いた。


どうも。とうとう第二章スタートです。迷焦の不調の理由は何なのか?


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