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第一章 『童貞サバイバルデスマッチ』先輩の過ち

 突然だが無道迷焦を紹介をしよう。


 二年前、十四歳でこの世界“ハルシオン”に来た迷焦はとてつもなく(この世界で出逢った)身内を大切にしている。ガブリエルとなったディオロスに負けて以来その思いは一層強くなり、依存しているといっても良いほどになった。

 迷焦の心の支えとなっているため、身内が傷つけられたとあらば容赦なく人殺しを行う勢いなのだ。そのせいで人見知りだったりもする。

 そんな彼にもどうしていいかわからない事は存在する。


 

 無道迷焦はとある料理店の入り口で立ち尽くしていた。

 

 朝早くから大乱闘となったこの街だが今ではだいぶ収まり、夕暮れが寂しいこの時間帯になると店も再開しつつある。今日は皆羽を伸ばしているのか店はどこも満席状態となり、店の景気が鰻登りとなっている事間違いなしだ。

迷焦が入り口で立つ店内からはぐつぐつと鍋を煮込む音が店内に響き渡り、香辛料の匂いが鼻孔をくすぐり腹の胃袋を刺激する。


 さてここですでに違和感がある。なぜ、鍋を煮込む音が聞こえてしまうのか。この店も他と変わらず空席は少ない。ならなぜか。

 答えは客が皆沈黙しているからだ。注文のために定員に声をかけるものもいるが声のボリュームを最小限にし、素振りで呼び寄せるしまつだ。

 

 彼らは皆、真ん中の席に視線をやり、警戒の目を向けていた。そしてそれこそが迷焦が立ち尽くしている理由でもある。

 真ん中の席には一組の男女が向かい合いで座っているのだがどうにも重い。男の方は金髪で絶望に暮れた表情を浮かべながらも額を支える両腕には空のグラスがかけられている。

 女性の方は黒光りするほど美しい黒髪のようだが今はくしゃくしゃになっていて、うなだれているのかテーブルに突っ伏している。顔を伏せているため表情はわからないが、涙を流したらしく女性の和服には染みが出来ている。

 よくある性問題であるのだろう。この大会中は羽目を外す人が多く、レ○プ被害は後を絶たない。しかし向かい合っているはずの男性が女性から目をそらすようにしているので彼が犯人なのだろう。

 そこまではいい。無道迷焦にとってよその事ははよそでやってくれなのだ。しかし迷焦はその二人から目を離せないでいる。

 もうお気づきだろうか。


 その真ん中の席に座っている二人は迷焦の同僚にして彼の心の支えとなっている身内でもある。

 金髪変態のユーリと戦姫ヒサミだった。


******


 時は遡ること少し前、無道迷焦はガブリエルとの戦いのせいか非常に体がだるくなっていたのだ。おかげで幾度となく魔性のサキュパス(一般女性)の魔の手を命がけで回避するはめになってしまった。

 そんなわけで体ボロボロ、精神ズサズサとなった迷焦なのだが、ここで救いの手が差し伸べられる。

後輩のラルチャイリが迎えにきてくれたのだ。持つべきものは愛すべき身内だと涙を滲ませる迷焦だったが、彼女の方は深刻な表情を浮かべている。そしてラルの口からとんでもない言葉が放たれたのだ。


「......先輩、心して聞いてください。実は............ユーリ先輩がヒサミ先輩を襲っちゃったんです!」


 その瞬間、疲れがぶり返したのかもう考える事を辞めたいのか、禁断の仮病にかかってしまった迷焦はその場で倒れ込む。 実際に頭が真っ白になる感覚を覚えた迷焦はその場で現実逃避を図ろうとする。

 しかしラルがそれを許すはずがなく、魔法でぐるぐるに拘束され同じく魔法で浮遊する迷焦は救急車に搬送されるかのような形でラルに二人のいるところに無理やり連れて行かれたのだった。


 そして現在迷焦はそんな二人を見て立ち尽くしていたのだ。嘘だと言ってほしかった。冗談だと言う言葉を聞きたかった。あれは別人。そう思いたかった。

女性の方は黒光りする見事な髪を腰まで伸ばし、迷焦と会った時と同じ和服に袖を通している。間違いなくヒサミだ。しかしラルを救った戦姫も今では力なく伏せている。服は乱れ、髪はぐしゃぐしゃ。間違いなくやられている。


 斜め右横にいるラルもどうしていいかわからずその場を動こうとしない。


「なあラル、これは二人の問題だ。そっとしておくのが一番なのではないのだろうか?」


「先輩は仲間を傷つける奴は許さないとか言ってましたよね! ならなんとかしてください」


「僕だってどうにかしたいよ。ただ身内同士だと制裁を下すわけにもいかないから......とりあえず軍の人達呼ぶ?」


「もう焦れったい。先輩頼んます!」


 ラルは迷焦が自分たちの事を仲間から身内に昇格させた事を密かに喜びつつ、王立治安のラストアタッカー迷焦の背を押し無理やり突撃させる。

 突如ドスンと背中に衝撃が走るのを感じた迷焦は勢いを殺しきれずに二人の前まで来てしまう。しかし迷焦は二人の前に来たもののどうしていいかわからなかった。それほどまでにこの二人の問題は難解だ。理由はこの問題を解決するのはちょっとした政治を挟んでしまうからだ。

 なぜ難解なのか、簡単に説明しよう。


1.ヒサミ咲蓮は咲蓮家と言われるなかなかご立派なお家柄の一人娘であること。

        ↓

2この場合、ユーリは責任をとって婿になる。

        ↓

3.しかしユーリにはすでに彼女がいる。


 となるのだ。これが他の男ならすぐにでも斬り殺すのに、と迷焦は愚痴りながらもユーリに事の発端を聞いてみた。


「俺がぁ酔っちまってぇぇ、気づいたらこの有り様なんだよぉぉ。神様ぁぁ俺を過去からやり直してください」

まだ酔いがさめていないのかストレス溜まりの中年親父化したユーリはしくしくと運ばれてきたビールに手を着ける。こんな状況でもビールを飲める精神力は尊敬する。まあこんな事になってしまったからやけ酒だと思うが。


 不意に迷焦は不気味なボイスを耳にした。


「殺す殺す殺す殺す殺す(以下省略)」


「ちょ、ヒサミ先輩落ち着い......いや、ここでユーリ先輩がボコボコにされるのがもっともな和平交渉なのではないのだろうか?」


 壊れたカセットテープみたいに延々と繰り返されるヒサミの殺意がもうどうしようもなく、ユーリに全てをぶつけてもらう事にした迷焦。

 ヒサミは即座に抜刀するなり、ユーリに斬りつける。間一髪で避けたユーリは酔いが吹っ飛び、慌てて後ろに下がるがお客さんたちが退路を絶つ。


「おい若いの。逃げちゃあ行けねえな。こういう時は黙って斬られとけ。悪いことは言わん。若さ故の過ちだからな」


 突如として見知らぬおっさんが喋り出し、ユーリの腕を押さえる。ユーリは筋力こそこの街で上位だが、そんな彼もどこぞのおっさんに腕をがっしりと掴まれれて身動きが取れないでいる。


「ちょっ、待て早まるなヒサミ! つーかおっさん握力強すぎだろッッ! わぁわぁ頼む、......助けて......」


 ユーリは目の前にちらつく一振りの刀を見て、恐怖心でもう抵抗する気力も無くなっていた。そんな彼にヒサミは制裁のごとき一撃を放つ。


「ギャアアアアアアアアッッッ!!」


 その後、一人の男の血で店の中が赤色に染まった。ユーリの叫び声は、賑わうこの街の男たちに恐怖と女性への忠誠心を植え付けたのだった。

 そして迷焦は治癒魔法の出来るラルにお願いして、死にかけのユーリ先輩を三途の川から引き戻す作業を行った。


 こうして災厄は免れた。一人の男が自ら体を張ったお陰で。


       ー完ー


 とはいかず、迷焦の戦いはまだ続いていた。

 空を黒い闇が進行しだし、太陽を始めとする明るい空たちが逃げるようにして空の色が変わってゆく。

 それと共に現れた冷気が突如としてこの街に吹き寄せ夏の夜を演出させる。


 ようやく後半戦なのだ。朝早くから始まった童貞サバイバルデスマッチは午前中だけで多くのものを奪っていった。だが迷焦は奪われるわけにはいかない。

 迷焦の横にはでかでかと『童貞』と掲げられた光る魔法が、暗くなる夜の街で不自然に目立つ。周りに同類はいなく、迷焦一人がチェリーボーイとして見せしめを受けられてもだ。

 例え周りの人達が「あいつ生き残りだぜ。プッ。」とか言ってもだ。恐らくこの年での童貞が迷焦一人だけになったとしても......


「だあああっ! 恥ずかしすぎだろ!!」


 迷焦は河辺の草原で羞恥に悶えているらしくゴロゴロと転がっている。幸いにも河辺には通りかかる人はおらず、気にせずコロコロと転がれるのだが状況は好転してくれはしない。

 

 早寝早起習慣ちゃんの迷焦にはこの夜を寝ずに過ごすとか無理な話なのである。かといって自宅にはサキュパスの残党共が待ちかまえているかも知れないため、帰るに帰れないのだ。

 ラルは自分の家に泊まっていっても構わないとか言っていたが両親がいて、相手は女の子。論外とばかりに断った。

 

 仕方なく別の方法を模索しだす。この大会中はなにをしても法律には引っかからないため、(男女のいざこざは本人たちで解決してくれ)ちょっとした要塞でも作ろうかと考える迷焦。

 しかしすでに思考回路が覚束ないのか、魔法を発動する事が出来ない迷焦。素直に安全圏の王立治安院の会議室へと向かうのであった。


 一眠りすればすぐに大会は終了しているはずだ。迷焦はそう思いつつ、仮眠用の寝袋にのそのそと入るのであった。


 どうも。迷焦は最後まで童貞を守れるのか?!


 童貞サバイバルデスマッチが終わり次第、第二章に入って行きます。

 さて、次回を待て!!


 誤字、脱字とうが御座いましたらお知らせください。最近になって読み返した後でも誤字が多い事に気づいたんですよねw......はい、頑張ります。

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