第一章 『童貞サバイバルデスマッチ』爆音寺という名のチート能力者1
御門爆音寺は1ヶ月ほど前にこの世界、ハルシオンへの小さな村へとやってきたのだ。
まだ幼いながらもチート能力のおかげもあって早くも村の最終兵器と呼ばれるのだった。
そんな爆音寺は大胆不敵。我が身一つで村に侵入する悪党の撃退という仕事を難なくこなし、時にはドリムや破綻者の討伐、神獣の撃退をも行ったのだ。
そこまでとなるともはや爆音寺の強さはチート能力だけにあらず他者を助けるという強気な意志の強さだった。
昔から困っている人を救う事をモットーとしていた彼はこの世界に来てもその意志は変わらなかった。
そんな自分の命を犠牲にしても他者を助けようとするその姿はやはり多くの人を惹きつけた。そして何人かにアプローチされたが爆音寺はハーレム展開は愚か、一人として女子をそばに置こうとはしなかった。
無論、爆音寺に変な性癖があるわけではない。純粋性に自分の近くにいる事で傷ついて欲しくないという気持ちもあった。
しかし九割を占める感情は別の物だった。
ずばり戦闘欲。少しでも上に行きたい。もっと強い敵と戦いたい。自分の限界を超えたい。
そんな感情が彼を突き動かす原動力だったのだ。
そんな爆音寺は常に強者との戦いを求めている。そのため爆音寺の日々は常に命の綱渡り状態なのだ。そんな中に他の者を庇っている暇はない。よって彼は一人での戦いを好むのだ。
もっとも、爆音寺が正しく異性を認識しているかどうかがすでに不明なのだが。
そんな人助け&強者巡りの旅は遂にここ、サンレンスへと爆音寺の足を歩かせるのだった。
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<童貞サバイバルデスマッチ当日~正午~>
サンレンス郊外に向かうための道。爆音寺はチート能力者の始まりの里の一つであるサンレンスへと足を動かす。
畑道にしてはなかなか広く道に生える草は端を除いて丁寧に刈り取られ、砂利の音か良く響く。青空は爽快の一言につきる。曇りの一点もなく晴れ晴れしている空には小鳥が伸び伸びと羽ばたき、さえずりがそよ風と共に頬を撫でる。
しかし爆音寺は少し不快そうな顔をする。彼は能力の影響で耳がとてもいい。だからこそ遠くから女の叫び声と男の罵倒が嫌というほど耳の中を駆け回るのだ。
聞くに絶えず能力を切った爆音寺は呆れた様子を見せる。
「相変わらず人は間違いを犯す名人だな」
爆音寺は声のする方へ向かうのだった。
近くまでくると男の前で女が尻餅を突き、男から逃れようとしている。対する男は女の服を脱がそうと躍起になり、レ○プしようとしているらしく腕を押さえている。
(馬鹿らしい。男は強くてなんぼだろ)
爆音寺の心の声は男に届くわけもなく男の手が服の内側へと伸ばされる。女の方は泣きながら許しをこうがあまり効果はないだろう。
今の男の顔には理性がない。もう興奮と快楽に身を任せようとしているのだ。
男の手が女のあれに触れる。
その一歩手前、女の視界から突如として男の姿が消える。
振り向くと、男は10m先で泡を噴いている。頬が変形するくらいパンチ跡が大きく残っている。何事かと女が辺りを見渡すと突如として二人の間に現れた爆音寺が倒れている男に近づく。爆音寺はぐったりとした男の胸ぐらを掴むなり、締め上げる。
「女を無理やり襲うだぁ。女々しい事してんじゃねぇよ。男なら拳で語らえ弱虫野郎!」
次の瞬間、爆音寺の豪速球ことパンチが男の顔面に炸裂する。パンチの威力だけでは説明出来ないほどの男の吹っ飛ばされように女も思わず口が開く。
何か別の衝撃によって攻撃された。朦朧とする意識の中、男がそう認識したときにはもう遅かった。男の体は宙を舞っているのだから。ゆっくりとした時間の流れを見つめる男の頭にはある感情があった。
奴は何者だと。そのまま頭から地面に突き刺さる。そのまま男はパタリと倒れ伏した。
爆音寺の欠点。それはとにかく加減が出来ないのだ。さらに喧嘩っ早いので敵を再起不能にする事も珍しくない。
しかし問題はそこではない。この街を知らない爆音寺にはわかるはずもなかった。この街の大会の事を知らない爆音寺は当然ルールも知らなかった。童貞サバイバルデスマッチのルール。ほとんどの罪を免除するという物を。
つまり爆音寺は無害な人を殴った事になり、本来ならこれも罪にはならない。しかしチート能力者だけに厳しい世界の法を守るもの。ガブリエルを呼び出す些細なきっかけには充分だった。
突如として空から一筋の光が辺りを包む。そして光の中から銀色の鎧を身につけた一人の騎士が舞い降りてきた。
ふわりと着地時に吹く風で騎士の金髪がなびき、治まるや唐突に罪状を突きつける。
「罪状爆音寺。お前は無害な男性に暴行した。その罪は死で償ってもらうぞ」
ガブリエルの登場だ。裁きを下す神の使者が爆音寺に死の宣告を言い渡す。
いきなり死ねと言われ、喧嘩っ早い爆音寺が黙っているはずがない。すでに戦闘態勢に入り、様子をうかがう。
女は爆音寺にお礼の一つも言わず颯爽と逃げ出した。しかしそれには構っている暇はない。
「てめーなに人の余命決めてんだよ! だいたい罪を犯したのはあいつの方だろーが」
「その汚い顔をこちらに向けるな罪人。お前は知らないだろうがこの日だけは刑罰が許される。正義のつもりにでもなったかチート能力者。お前がしたのは立派な犯罪だ」
白銀の騎士は剣を抜き爆音寺に近づいてゆく。チート殺しの剣が地面とこすれ砂利を切り裂いてゆく。
「死ね、チート能力者。せめてアンゴルモア様の糧となれ」
次の瞬間、剣はすでに振り終わっており、爆音寺は吹っ飛ばされ三つ先の畑の中を転がった。
起き上がろうとする爆音寺はまたも吹っ飛ばされる。何事かと爆音寺が見ると白銀の騎士がすでに目の前に立っていたのだ。
爆音寺は吹っ飛ばされてここまできたのだ。なのにもう追いついているなんておかしい。それに白銀の騎士は走った様子を見せない。何をした?
だが爆音寺の思考を騎士の攻撃が途絶えさせる。
白銀の騎士は愉快そうに爆音寺が吹っ飛ばされる様を見届ける。
「どうした。お得意のチート能力を使ったらどうだ? 人がせっかく剣の腹で叩いてやっているのになにもしないのは無礼だろう?」
騎士の言葉に苛つきを覚える爆音寺だが今はそんな感情に浸る暇はない。騎士が使った力の正体を探るのだ。
(テレポートの能力? だとしたらなぜ奴だけなんだ)
爆音寺は白銀の騎士の後ろ。彼の通ってきたであろう足跡を探す。テレポートの能力なら足跡は残らない。もし相手がテレポートだとすれば体内にテレポートされてそのまま死ぬ。
でも違うなら。まだ勝ち目もあるかもしれない。
そして足跡は見つかった。
白銀の騎士はつまらなそうな顔をしながら倒れ伏したままの爆音寺を見下ろす。すると爆音寺の目がなにかを捉えるようにして動いている。長年の戦いから爆音寺の目が何かを探しているのだときずく。
「まだ諦めてない潔の悪さは認めよう。お前が探したかったのは我が能力。そうだろう。
これも俺の流儀だ。死ぬ前に能力について話そう。我が」
しかしその言葉を爆音寺が遮る。
「いらねぇよ。だいたいはわかったぜ。テレポートではない。それだけで十分だ」
「なるほど。観察は出来、自分の能力に絶対の自身を持つ。悪くはないが、甘い」
起き上がろうとする爆音寺にためらいなく剣を振り下ろす。
剣は確実に爆音寺の首を斬った。______はずだった。
しかし実際には剣が爆音寺の首のところで止まっている。騎士が力を加えるがそれ以上剣が進む事はない。顔をしかめた騎士は瞬時に後方に下がった。
「お前の能力ってなんなんだ。硬質化か? でもそれじゃあさっきの攻撃を喰らう必要はない。まあいい。我が時間加速の前ではお前は勝てない」
起き上がった爆音寺はニヤリと顔に笑みを浮かべると足で垂直に地面を蹴る。すると足に接している地面が砂に変わりたちまち砂煙が辺りに舞始める。砂煙が二人の視界を狭める中、爆音寺が進むと砂が避けるという不思議な事が起きる。
「時間加速の倍率にもよるがお前じゃ無理だ。なんせ今ので殺せないんだからなぁ!」
砂と化し続ける地面を爆発させるように蹴り飛ばし、一気に騎士との間を詰める。
そのまま顔面に向け腕を振りかざす。しかし時間加速によって速度を増した騎士に避けられる。しかし次の瞬間爆音寺は騎士の移動中速度に追いついた。これにはさすがに驚きを隠せず白銀の騎士は目を開く。
しかしガブリエルともあろう者がこれくらいで動揺はしない。さらに速度を上げ、爆音寺の反応速度を超えた動きで蹴りを喰らわす。それも爆音寺が体勢を整える前に連打する。連打、連打、連打。爆音寺の動きがスローモーションとなるほど速度を上げた白銀の騎士は容赦なく拳と蹴り。騎士の得意とする格闘技を叩き込む。
しかし騎士の表情は苛つくばかりだ。さっきから騎士の攻撃は見えない何かによって威力が軽減され、上手く当たった気がしないのだ。
(本当になんなんだ。こいつの能力は。地面を蹴ったら砂煙が出来る。一時だが我が速度について来れた。さらに不快なバリアときた。わからない。この私がこんな小僧ごときに劣るだと......誇りあるガブリエルのこの私が......ふざけるなよ、これだから......)
「これだからチート能力者はッッ!!」
白銀の騎士は憤怒の感情を拳に込め、全力のパンチを爆音寺に放つ。
しかし騎士の攻撃が届く前、すぐ横で、何もないはずの場所で突如爆発が起きた。
それはあまりにも突然で騎士は避ける間もなく爆風をもろに浴びる。そのまま吹っ飛ばされた白銀の騎士は倒れることなくなんとか踏みとどまる。ここまでやられて法を守護する者が黙っているはずがない。
騎士の顔には有らん限りの憤怒が込められ、もはやその顔を見るだけで恐怖と絶望を覚える。それほどガブリエルの一人である白銀の騎士を怒らせたのだ。
白銀の騎士は大きく、それも長く息を吐く。
素手のままガブリエルはある魔法を唱え始める。囁くように唱えられる言葉にはどこか謎めいて、そしてそれを唱えさしてはいけないと本能が爆音寺に告げる。
爆音寺はすぐさま攻撃しようとするも軽くいなされる。ついさっきまで互角に見えた相手に容易く攻撃を防がれてしまう。さっきまでとは明らかに違う。別次元にいるようにすら思える。
ガブリエルが本気を出す。それは終わりを意味する。ガブリエル一人いれば一つの国ともやり合えると言われるのだ。その強さはもはやただの人間が叶う相手じゃない。相手は神の力を扱えるのだ。
騎士は唱える最後の言葉を怒りを込めて言い放った。
『エリア範囲7万5000m。私とあいつ以外の物全てを対象として発動! 時間を止めよクロノス!!」
直後、世界の一部分が二人を除いて全ての物が、粒子すらも完全に静止した。
白銀の騎士の最終奥義、
『時の支配者』
どうも。なんとか1日更新守れそう?!
今回はガブリエルとチート能力者の戦い。ガブリエルの方がチートな気がする......。
さて爆音寺の能力皆様にはわかりましたでしょうか? 次回のお楽しみなんですがやはり異世界こと夢の中なので細かい法則は無視しそうですがw