第一章 『童貞サバイバルデスマッチ』目的
ヒサミたちと別れた迷焦の前には第二、第三の敵が待ちかまえていた。極力人を攻撃したくない迷焦はそれを全て避けなければならない。
それは至難であり、縛りでしかない。それでも彼はそれをやらなければならない。
うっかり誰かを斬ってしまった場合、後々面倒なのだ。なので今は回避の腕だけを伸ばして行くしかない。
迷焦の回避名人までの旅はまだ続くのであった。
そんな回避名人見習いの迷焦に新たな敵が待ち受ける。
今迷焦は民家の屋根の上に登り、敵の攻撃を見切ろうとしていた。
辺りは夏の暖かさになり始め、日差しが躊躇なく迷焦にソーラービームを浴びせまくる。
屋根は日差しを反射し、眩しい事この上ない。
そんな中、迷焦の視界に二つの影が指す。
敵は柔軟な体を器用に使い、トリッキーな攻撃を仕掛けてくる。なおかつ敵は二人。巧みな連携で迷焦に襲いかかる。
迷焦はお得意の反射神経を駆使し必要最低限の動きで攻撃を避けるが、多彩な攻撃にどんどん追い詰められる。
迷焦がここまで追い詰められるのにはもう一つ理由がある。二人のダンサー系女子の手にはお仕置き用としてよく見る鞭が握られているのだ。しかも粘着性のある物でコーティングしてあるため、うっかり触ってしまっては捕まってしまう。
つまり迷焦は二つの鞭の動きを見ながら、彼女らの攻撃を裁かなくてはいけない。
それにはかなりの集中力と体力、俊敏さが求められるためさすがの迷焦も疲労していく。
しかし彼の顔には疲れ見えず、攻撃を避けるために神経を集中させている。なぜか不満の色合いが見えるほどだった。
幾度となく攻撃を繰り出し、それを防がれている少女たちにしてみればその顔は焦りでしかない。自分たちの攻撃が全く聞いていないと。
ダンサー少女二人は一度後退し、様子を窺った。
「どうすんの千穂ちゃん。向こう全く隙がないよ」
「大丈夫よネリちゃん。よく見なさい。あの殿方の重心が揺れているわ。つまりこのまま攻め続ければ私たちがあの殿方をゲットよ。ほら行く!」
「そんなに上手くいかないような......まあいいや」
二人は普段からハードな運動をしているのか全く息が上がっていない。そのまま直進して来る。
片方が迷焦の目の前に来るや、いきなり蹴りを喰らわす。さすがに急な攻撃は避けれないらしく迷焦は体制を崩す。急いで体制を立て直そうとするが相手はそれを許さず、回し蹴りを繰り出してくる。その後ろからも次への攻撃が待ちかまえている。
迷焦は仕方なくしゃがみ、第一の攻撃を回避。続けてくる跳び蹴りは手で弾く。
だが、二人の波状攻撃が幾度となく続き、死角となった迷焦の左後ろに鞭がおろされる。
鞭は触手のような吸い付きで迷焦の腕に巻きつき、行動を制限する。
完全にピンチな迷焦は焦りに焦る。それを見た少女たちは勝利を確信し、互いにハイタッチをする。
「やったよ。千穂ちゃん。あとはお持ち帰りとか言う奴だね」
「そうよ。ネリちゃん。その後はこの男、召使いにしちゃおうか」
「賛成! 日々の家事やらずにすむ。ヤッター!!」
少女たちは有頂天のあまり肝心な獲物から目を離していた。
そして少女たちは簡単な事を忘れていた。
______女性より男性の方が普通は力が強いと。
油断しまくっている少女たちに呆れながらも迷焦は腕に絡まっている鞭を思いっきり引っ張る。すると少女の一人が釣られてこちらに手繰り寄せられる。
その鞭で少女の体を縛り、迷焦の腕に絡まった部分は剣で切り落とす。
そこでもう一人の少女が形勢逆転していることにきずく。
「あれ? なんで千穂ちゃん捕まってるの? もしかして......失敗?」
戸惑う少女に向け、迷焦は縛ったほうの少女をもう一人の少女の方へ投げ飛ばす。
「いいか! コンビネーションは良かった。君たちに言う事は一つ。最後まで気を抜くなー!!」
そのまま二人の少女はしかしを吹っ飛ばす。
もちろんそのまま殺すほど迷焦も残忍ではない。噴水がある方に行くよう調整はした。
その後ボチャンと大きな音がしたのだった。
少女たちが噴水に落ちると同時に迷焦は意味深げに呟く。
「まだ足りない」
迷焦はこの大会で生き残る意外で目的を持っている。ずばり戦力確保だ。
迷焦たち五人だけでは最終試練は乗り越えられないからだ。以前にも大多数のチート能力者が最終試練を目指したそうだ。その数16。
しかしだめだったのだ。
だからそれ以上の戦力が欲しいのだ。もちろん質も高める。そ各地から人が集まるこの大会にもチート能力者は絶対にいるのだ。その人たちにスカウトしまくる。なんの宛もないがやれるだけの事はやろうと思う迷焦だった。
迷焦はすでに複数の人に誘おうとしたのだ。
例えば周りの者に能力者に対してのヘイト値を上げる。そしてその効果を受けた者の攻撃は効かない。というゲームめいたなかなかのチート能力だった。
しかし本人は女と遊べればいいと断わられた。
後は平和に行きたいが6、すでに国の勢力となっていた者が2。
後者の二人に聞いたところ様々な国の勢力は最終試練に挑もうとしているらしい。
これは重大な発見だ。さらに主な勢力の情報を迷焦は入手する事に成功した。
1.“オリハルコン”
南らへんの小国を中心とした勢力。チート能力者は現在7名。勢力拡大のために中心の王都に進行中。
2.“マグナファクトゥム”
西で活動する最大級の勢力。世界で二番目に勢力のあるラディウス家が後ろだてしている。
チート能力者は23名で、最も攻略に近いとされる。
3.“攻略組”
チート能力者がおもしろ半分で作ったパーティー。ゲーム感覚で行動するため民間人からの苦情が絶えず、しょっちゅうガブリエルのお世話になっている。腕はたつらしい。
チート能力者は13人。
さらに邪魔になりそうな勢力もある。
“ボルス宗教”
文字通り最終試練のボスであるボルスを信仰するこの世界最大級の宗教集団。
彼らはボルスの安泰を願うため最終試練に挑み、ボルスを殺そうとする者を排除しようとする。
“ガブリエル”
チートキラーの異名も持ち、目立ったチート能力者を粛正する。チート能力者の天敵。
ここら辺が大きな勢力と言えるそうだ。他にもひっそりと力を蓄えている勢力は多い。
チート能力者を雇う仕組みは単純。
それなりの環境や地位、女、食い物を与えて手懐ける方法。それが無理そうならチート能力者を勇者として王道の道へと言いように利用、交渉などの手段がある。
『サポートをするから報酬を分けろな』など
国の人たちはぜがきでも手に入れたいんだと思う。
最終試練をクリアした時に手に入るといわれる神の力。なんでも願いが叶うといわれるのだから無理はないだろう。
それを使えば国のバランスが崩れるだけじゃんすまないだろう。
迷焦はこの情報が正しいのなら北と東を中心に仲間を集めようと思っている。それに東にはヒサミの故郷があるのだ。望み大だ。
高くまで昇った太陽を見ながら迷焦は残りの時間を生き延びると誓うのだった。
迷焦は郊外の道端をぶらぶらと歩き、まともな昼食にありつけていないのかぐうぐうなる腹を押さえていた。
今のところ仲間になってくれそうな人はいない。しかし今はそれどころではない。生死のピンチなのだ。
基本的にこの世界のカロリー、栄養基準は食べ物に詰まった感情粒子の純度、多さに比例する。つまりは迷焦の腰にある剣でもいいのだ。
まあ堅すぎるし、本人は拒むが。
とにかく飢え死に三歩手前の迷焦は10km先まで見通せるという脅威の身体能力を身につけていた。
そしてその目で上手そうな動物を見つけようとした迷焦は思わぬ者を見てしまった。
爆発が起こり、辺りに砂煙が舞う。そして煙の中から飛び出す一つの影。人だ。
そしてはるか上空に鎧を纏った人が浮いている。どうやら戦っているようだ。
鎧の方は大体わかった。この世界であんなに派手な鎧を着ているのはガブリエルしかいない。つまりもう一人はチート能力者という事になる。そいつは高々と笑っている。
それを見た迷焦は唖然とした表情でその戦いを見た。
「あれ、あの人ガブリエルを圧してる?!」
チート能力者の方が攻めまくり、ガブリエル
は防戦一方になっている。互角に見えるようでじわじわとチート能力者が勝り始める。
その時の迷焦はというと目を光らせながら「あの人スカウトする!」と呑気に観戦していた。
しかしそこへ新たな攻撃がチート能力者を襲う。第二のガブリエルが来たのだ。さすがに二人のガブリエルは無理だろう。このままでは今の人は殺される。
そう思った時には迷焦の足が動いていた。
(人が殺されるのを見過ごすわけには行かない。それに借りをつくれば協力してくれるかもしれない。そうすれば食べ物も分けてもらえるかもしれない......そうに決まっている!)
動機が善意から欲に変わる迷焦だったが見過ごさないだけましだろう。
迷焦はこの日。一年ぶりとなるガブリエルと戦いを行うのだった。
どうも。今回は最終試練に挑もうとする人が結構いることがわかりました。
迷焦たちとの対立はあるのか。
次回は新たなるキャラ。チート能力者を増やします。