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プロローグ 『異世界にご招待!』

 


『本日のニュースをお送りします。今回都知事に選ばれたのはあの悲劇の政治家、無道忠義(ただよし)さんです。無道さんは四年前次男の無道静次(せいじ)さんを火事で失うも、その悲しみをバネにして政治によりいっそうの躍進を見せる方です。

 そして無道都知事の名ゼリフと言えば............』


 薄暗い部屋の中、窓が閉められ外からは一切の光が遮断されたこの空間ではテレビの中に映る女のキャスターだけが光を帯びていた。

 そしてそのキャスターの声を食い入るように見つめる少年がこの部屋にいる。

 ただ一点、画面上に映し出されるある政治家を睨めつけ、その少年はギリギリと歯ぎしりをした。


「静次......絶対に仇はとってやる」


 まだ幼いであろう少年の声は憎しみに燃えていた。

 ドタンッ。

 何か大きな音とするなり薄暗いこの部屋に新たな光が差し込む。少年が振り返るよりも先に部屋に明かりがつく。


「うわ、暗っ! こら迷焦。部屋は明るくテレビからは離れる。家の決まりでしょ、ったく何を見ているのか......あら、お父さんじゃない。今日も立派ねえ。迷焦もやっと素直になったの?」


 一人の女性が人のプライバシーとかお構いなしに息子である無道迷焦に迫る。

 迷焦は反抗期真っ盛りのようにイライラを募らせ母親である女性をにらめつける。


「僕は素直じゃないですよ~」


 わざとらしい、あからさまに嫌な顔をする。

 母親はまあ、いっかとあまり気に留めずに話を続ける。


「今日母さんね、お昼食べ終わったら例の子連れてくるから。迷焦もこれから家族になるんだから仲良くね」


 母親は楽しげに微笑む。

 逆に迷焦と呼ばれた少年の顔はいっそう険しくなる。

 連れてくる子とは先週から話していた孤児院から養子を取るというものだ。別にそれ自体が悪いわけではない。しかしその行為は明確に迷焦の怒りを引き起こす。それを押しとどめるように唇を噛む。


「穴埋めか、それとも親父の政治アピールのためか」


「まだそんな事気にしてるの? もう四年よ。そろそろあなたも大人に」


 言い終える前に迷焦は母親の言葉を遮る。


「黙れよ。逆によくのうのうと過ごせるよな。まだ四年なんだぞ。僕は許さないから、親父もあんたも。殺してやるからな」

 

 迷焦は階段を上がり自室へと消える。


「あんたそう言って前もお父さんに......あっこら。行っちゃった」


 部屋に入るなり迷焦はベッドに倒れ込む。


「結局あれから四年も経っちまった。もっと力が欲しい。むちゃくちゃ強い糞親父を殺せるくらいに」


 瞳に浮かぶ涙が滲み、迷焦は目蓋を閉じた。



 普段僕たちが住む世界。

 そこに希望はあるのだろうか。

 この世界に思いを馳せる必要などあるのだろうか。

 ここには僕が生きたいと思える理由があるのだろうか。

 僕の願いが叶うだろうか。

 

 否だ。

 そのためには僕はあまりにも無力だ。

 僕に願いを叶えるだけの力は無い。

 今の状態では決して叶える事など出来はしない。

 

 ならどうする?

 

 この世界では無いどこかに行くか、この世界に理由を見いだすかだ。


 無道迷焦は親への憎しみと亡き家族の無念を晴らすべく別の世界に希望を抱いた。

 噂に聞く異世界。それは本当に良いものかはわからない。噂でしか無い世界に行くための方法もわからない。

 だから迷焦は強く願うだけだった。



************


 この異世界“ハルシオン”に来る転生者、召還者は最終試練(グランドクエスト)を行う権利がある。それは、

《神を殺し自分が次なる神になること》

1.神への挑戦権として各大会、難解なダンジョンを突破し、“称号”を手にする事を義務付ける。

2.仲間は何人いてもよい。

3.武器の指定はない。

4.向こうの世界の法に反しなければある程度の事はしてもよい。

 

 これを行うかは個人の自由であるが、成功すれば神の力が手に入る。

 諸君らには向こうの世界で力を蓄えると同時に生活費としてそれぞれ10金貨を授ける。

 最後にその神の名は“ボルス”

 ハルシオンを作り出し、そして破壊しようとする者。


************



「本当に今の条件でいいんですか?」


 無道迷焦は今の話を聞いてすぐにでも異世界に行きたいと思っていた。

 現在迷焦はとあるピエロ男に夢の中で異世界に行けるという話を持ちかけられたのだ。普通は絶対に怪しいのだが、いかんせん場所が場所だ。


 現在迷焦とピエロ男がいる場所は一言で言うと不思議だ。周りはどこかの空間のようで光が不自然に曲がり、いろいろな色合いを見せている。まるでシャボン玉の中にいるみたいだ。

 さらにコンクリートや土はもちろんのこと迷焦ら以外に物質と呼べるような物がないのだ。

 

 これは迷焦の夢であり、他者が入ってこれるはずもないのだが、このピエロ男は「これが異世界の力です」と言わんばかりに入ってきたのだ。

そしていきなり「異世界に行きましょう」と言い出し、只今話し合い中なのだ。これは本当に異世界があると信じてしまう。

 夢の中で冒険でも何でもいい。迷焦は狭い世界から飛び出し戦いたい。

 そして力が欲しかった。物理的な力が。


 ピエロ男は異世界に行くにあたっての簡単なレクチャーをし始めた。


「まずは向こうとあなたが暮らす世界は根本的に違う事をご理解ください。これから行くのは夢の中と思って頂きたい。つまりは想像が現実となるのですぞ。そして信じる思いの強さがそのまま強さに影響するのです」


 ここまではいいですかな?、ピエロ男がゆったりとした(しかし声音がキンキンとする)声で言葉を続ける。


「そして向こうの世界での法則は他にもありますぞ。例えば物の質量、味、性質なんかはこの世界の元素、感情粒子の種類、多さによって決まるのです。魔法なんかの源も感情粒子なのですぞ。なのですぞ。そしてより多くの感情粒子を内包する物ほど質がいいと思って頂ければわかりやすいでしょうか」


「まあ。その感情粒子? ってのが僕の世界でいう元素全てをまかなう物だということは」


 頭がそこまで良くない迷焦にはいきなり世界の法則など言われてもわからない。あやふやながらもなんとか話について行く。

 そもそも夢の中にまできて雑学の勉強とか嫌に決まってる。

 そんな事は学者になる人だけに言えー!と内心思う迷焦だが一応聞いておいて損はない話のはずなのだ。

 というより超重要、チュートリアル無視とか操作方法のわからないゲームを延々とやらされるようなものだ。聴くべきなのだろう。


 ピエロ男は一人で脳内議論をする迷焦を微笑ましい表情で見つめながら一枚の札を取り出す。


「そして異世界転移者にはチート能力を与える儀式があるのです。といっても想像の世界。その能力を使えると信じさせるための儀式ですが」


 ______おい、ならそれを僕に言うなよ!せめて夢を見させてよ。

 内心でもう抗議をするがあくまでも冷静を装う。顔がひきつっているので感情ダダ漏れなのだが。

 とにかくその札を受け取り、自分が使いたい能力の名前を記入していく。後はひたすら儀式というなの思い込みのトレーニングが始まる。


 それを終えると残るは転移の準備だ。ピエロ男は迷焦を送るべく最後の雑談を始まる。お喋りが好きなのだろう。ちゃっかり自分の要求も添える。


「メイジ様よ、私の願いは一つなのですぞよ。もしあなた様が神の座に疲れた時、私たちの教徒の勢力を広げてくれさえすればいいのですぞよ」


 ピエロ男はマスクの奥から覗かせる赤い瞳でもう一度僕を見る。


「......本当にあのお方に似ておられる」


「あの、何か?」


「いや、何でもないぞよ。ではメイジ様の幸福をお祈り申し上げます」


「といっても僕以外にも参加者沢山いるんですよね」


 迷焦はそう言って苦笑いを浮かべる。このピエロ男はこうやっていろいろな人に声をかけ、その中の誰かが神になればいいの考えていに違いない。

 ピエロ男の顔(上半分は仮面で覆われている)を伺うが、向こうは当然だと言わんばかりの表情を見せる。


「もちろんですぞよ。みんなチート能力持ちで。まあ能力はその、本人の中二力にかかっていますので」


 それから一間開け、ピエロ男は口を動かす。


「メイジ様が行くのは夢の世界。つまりは心だけが行くのです。そして向こう側では心の強さと想像力が何よりの武器なのですぞよ。それをお忘れなきよう」


「ってことは、誰にでもチャンスがある。まあ僕はただ強くなりたいだけですから」


 迷焦は嬉々とし、その後も説明が続いたようだが頭の中には親父への復讐の事しかなく、半端聞いていなかった。

 

「では、メイジ様お時間です。いってらっしゃいませ。なお、地球への帰還のさいは記憶の大半は消えるので悪しからず」


 ピエロ男がいきなりパチンと指を鳴らすと迷焦がいたはずの底が崩れだし、瞬く間に迷焦は底なしとも思える穴へと落ちていった。

 上を見上げるとピエロ男が手を振っているがその姿はどんどん小さくなり、やがて視界から消えてしまった。

 

 次第に迷焦の意識が薄くなりだし目蓋が閉じようとするその前、彼はこれから行く世界に希望と願いを持っていた。

 無道迷焦には弟がいる。いや、いたといった方がいいだろう。今は亡き存在。しかし地球と違う法則が働く異世界なら、もしかしたら生き返らせる事が出来るかも知れない。

 異能力が手に入るかもしれない。


 ******

 

 こうして迷焦は二年前、一人の神が作り出した世界“ハルシオン”へとやってきたのだ。弟の蘇生と新たな能力、復讐など様々な動機を持ちながら。


 しかし、現実はそう甘くはなく、なぜか迷焦にはチート能力が使えなかった。さらに様々な事があり、一つ、また一つと当初の願いを諦めていった。そして安定の就職までもしてしまった。


 人は人生の中で色々な道を選択する。しかし、それは同時に何かを切り捨てる、諦める事を意味する。人の手のひらは小さく、全部の願いなど叶えられるわけがない。

 迷焦はそれを思い知らされることとなった。

 

 この世界での最終試練が彼の前に大きく立ちふさがったのだった。



 

多分始めまして。今日から『夢界交差のハルシオン』を書いていきます。

 初心者同然の文章ですので指摘などを貰えるとありがたいです。

 本作品は「感情粒子よ空に舞え」のリメイク番になります。(......向こうは途中なのですが)


1.2日に一回のペースで書いていきたいと思います。これからよろしくお願いします。

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