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「遅い!松岡ぁ!今回はちゃんと保健室に行くって先生に言ったらしいな!山方先生から聞いたぞ!やっぱり松岡は友達に話すより先生に報告する方を選んだか!松岡らしいぞ!」
生徒指導室に入ると、持ってないけど、木刀を持った石神先生が待ち構えていた。木刀なんて持ってないけど。…持ってないけど、怖い。それよりものすごく先生は嬉しそうだ。言葉は怖いけど、声のボリュームというか何というか、すこぶる威圧感を感じるけど、たぶん…きっと…私が人との関わりと持てたというのが嬉しいのか…な。それにしては馬鹿にされている気分になるのは何故だ。
「昨日渡した紙はちゃんと埋めてきたか?」
私はポケットに入れた、ぐしゃぐしゃにして、少し伸ばして、また八折りにして、そこからぐっしゃぐしゃに丸めた書類を取り出した。石神先生は怪訝な顔をして受け取って、そしてちまちまと広げ始めた。
「…白紙か」
「ちゃんと名前を書いてあるので、白紙ではないですよ」
「そんな言い訳言ってる場合じゃない!お前なぁ、やりたいことの一つや二つ、ないのか?」
私はまた、考えて、首を傾げた。
「松岡つぐみ、よく考えろ。俺も娘を持つ親としてはあまり言いたくないが、親離れするなら大学進学や就職なんだぞ。それでコケてみろ、実家で親のすねをかじる生活だ。松岡の姉ちゃんみたく家を出たいなら、真剣に考えろ。親の立場の俺としては何だ…親離れは永遠にしてほしくないものなんだがな。とにかく!自分の将来は自分でちゃんと決めろ。勉強もしろ。授業をサボるな。以上!」
石神先生は最後寂しそうだった。もう娘さんは家を出てるのかな。石神先生はママよりもっと年とってそうだし、きっとそうなのかもしれない。でも、私が家を出ていくなんて…今は私に対する束縛で済んでいるのに、もし私が居なくなったら?もしその不安が自分に向いちゃったら?寂しくてママが死んじゃうなんてこと…ありえなくない。
――私はママにどんなことされてても、だいじょうぶだよ。ママはわたしがねているあいだ、あたまをなでていてくれるから…すき。
5時丁度、私は帰宅した。
「5時…2分…フフ、昨日より1分早い…ネェ、明日も私のところに帰ってきてくれるでしょ?」
ママは私の肩に手を置いて強く揺するんじゃなく、今日は強く抱きしめてくれた。少し、苦しい。『もう逃がさない』っていうメッセージが聞こえてきそうで、怖い。
――ママ、もうだいじょうぶだよ。わたし、かえってきたよ。
私はママの背中に手をまわして、ポンポンと軽く叩いた。安心しているようなゆっくりとした呼吸。ママはゆっくり腕を緩めてくれた。
――ママ、きょうもねむれますか?きょうはわたしがママのせなかをなでてあげる。あのころ、まいにちママがしてくれていたみたいに、やさしく、あたたかく。