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女子生徒Aは、自分の気持ちをデカい声で言うなり、走り去っていった。告白の名所『体育館裏』に残っている2人、ごんべーと私。
「何突っ立ってんの?初めてなの?告白されるの」
私からの問いかけに、ごんべーは中々答えようとしない。
「ねえ、私、あんたに聞いてんだけど」
「…あっ、ハイ、えぇっと…いち、にぃ…」
あー、イライラする。何なのこいつ。話しかけるんじゃなかった。ごんべーのくせに。
「人数聞いてるんじゃないの!何なのよ。自慢かよ。ごんべーのくせに私の昼寝の邪魔してくるなよ!」
「ごっ、ごめんなさ…ごん…べい?」
…言ってしまった。変なあだ名つけて遊んでたのがバレてしまった。
「あんたなんて、名無しの権兵衛。ごんべーで充分」
「ねぇ、君、さっきの子の友達じゃないの?」
「は?」
聞けば、指定された『体育館裏』で待つ2人の女子。一人は告白する子で、もう一人はその結果を聞く子、と思ったらしい。だからさっき私が、告白が初めてかどうか聞いたとき、誤魔化しながら答えて、さらに女子生徒Aからの告白も断ろうって筋書きの演技をしようとしたらしい。ごんべーのくせに、よく考えていやがる。
「俺の名前はごんべーじゃなくて、アラタ。新しいって書いて、アラタ。いい名前でしょ?それから、俺は3年。君は2年。その辺のこと、考えたらどうなの」
「さっき告白した女子生徒Aの名前すら聞かなかったくせによく言うよ」
「…それは確かにそうかも」
ごんべーは手に持ったままの小さい紙切れを、裏までよく眺めて言った。
ふと腕時計を見ると、12時25分。始業前の予鈴がなる時間だ。
――キーンコーンカーンコーン…
――ピンポンパンポーン
予鈴のチャイムが鳴り終わると同時に、立て続けで放送が入った。
――2年2組松岡つぐみ。至急職員室まで。
――ピンポンパンポーン
「私じゃん」
「へえ、君の名前、つぐみっていうんだ。覚えとくよ」
ごんべーが去るのが早いか、私が飛び起きるのが早いか、私は職員室へと駆けた。親を呼び出す等々言われたら敵わん。上履きに履き替えるロスタイムももったいなくて、靴箱の隅に下靴を脱ぎ捨てて、職員室まで靴下で駆け上った。
「失礼します!2年2組松岡つぐみです!さっきの授業では頭が痛くて寝てました!反省しております!もうしません!それでは5時間目の英語に行ってきます!」
さすが予鈴後の職員室。授業の受け持ちが少ない生徒指導の石神先生くらいしかいない。生徒指導の先生って怖いし長いし、挙句に親を呼び出すって言うから嫌いなんだよな…。
「ちょっと待て、ナメてんのか?松岡ぁ!頭が痛くて寝てただの、反省してるだの、もうしませんだの、矛盾しまくりじゃねぇか!だいたい、頭が痛くて寝ていたのに、保健室にいないんだ?おうちに帰って自分のお布団でおねんねしてたのか?あ?だいたい松岡に友達作れと強要したくはないが、自分の居場所が誰か一人にでもわかるように伝えておけ!」
「あ、あの…親を呼び出すなんてことは…」
「今日は松岡のサボり癖じゃなくて、第一回進路希望調査の面談で松岡を探してたんだ。でも次、行方不明になるようなことがあったら呼び出しだからな!」
「…ハイ」