【番外編】 オ オ カ ミ 少 年 2
母さん、やめてくれ。その子はダメだ。その話をしちゃダメなんだ。
朦朧とした意識は、病室から自分の部屋に帰ってきた。俺の目線はハッキリと天井を捉えている。浮遊した意識が俺の体に戻ってきたんだ。だが、手は、口は、動かないままで、目もしっかり開くことなく、半開きのままぼんやりとした天井のみを取り込んでいた。
――ごんべー!
母さん、やめてくれよ。俺の話をしないでくれよ。
俺はもう、話を聞いた人が腫物を扱うように俺に接してくるのが嫌なんだ。俺はどんな待遇も受けない。…中学校での唯一の思い出づくりなんだって、安原先生が俺を答辞を読む人に指名してくれたけど、元生徒会長は傷ついて卒業式に来なかったらしいよ。そんなの、俺は嫌なんだ。辛いのは俺だけで充分なんだよ。
…水の中で音を聞くみたいな、どんよりとした声がやっと俺の耳に入ってきた。『ごんべー』だなんて、ダサいあだ名、呼ぶ知り合いは一人しかいない。――俺の、唯一の友達。
ショートヘアの女の子が、動かない顔の前に現れた。目はまだ開かなくて、ショートヘアの女の子の顔は見えないけど、その声、つぐみだろ?
髪、切ったんだ。似合ってるよ。可愛くなった。いや、前が可愛くなかったとか言ってないよ?前も、大人っぽくて好きだった。つぐみはどんな髪型でも似合うよ。それで、性格が優しければなぁ。
伝えたい。伝えたい。伝えたい。
目の前の女の子に、自分の心に湧き出した気持ちをぶつけたい。これが全部、長い夢だったとしても、目を開けたら病室で、中学生の『僕』のままだったとしても、自分が終わる前の走馬灯だったとしても。
言い終わったら「ごめん、…嘘(笑)」で済ませて、つぐみには何もなかったように振る舞うから、全部言いたい。意識があるうちに。
――ごんべー!大丈夫!?
つぐみの声を聞きながら、俺はまた眠りについた。ぼんやりと白かった視界が、しだいにグレー、そして暗くなっていった。水の中のようなぼんやりとした音が、遠のいて遂には聞こえなくなった。