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体育館の壁と、学校の敷地を囲む大きなブロック塀。
その間に挟まれた空間が通称『体育館裏』。暗くて、ジメジメしていて、なおかつ、体育館のドアへとつながるコンクリートの階段部分に寝っ転がってみれば、遮るものは何もなく、開放された青空が見える。
ここが、私のお気に入りの場所。ましてや今は昼休み前最後の授業中で、真面目な生徒さんたちは教室で先生の話を聞いたり、机に突っ伏して寝たりしているはずで、そもそもここに人がくるはずがない。私は居心地のいいこの場所で寝てしまっていた。
私が目覚めたのはたぶん昼休みも十数分過ぎたころ。聞こえるはずのない足音が、体育館で遊ぶ人たちの体育館シューズの音とは程遠い足音がして、飛び起きた。
――誰かいる。
見れば、制服をきちんと着こなした清楚な女子だった。制服をきちんと着こなした清楚な女子――仮に、女子生徒Aとする――は、そわそわとなんだか落ち着かない様子だった。腕時計で数秒ごとに時間を確認しては、鏡を見て前髪を触って、そしてスカートのプリーツをなでる。
フム、告白か。さて、困ったことになった。女子生徒Aは緊張のあまりこちらの存在には全く気付いてないのだが、私は状況を察して逃げてあげようにも女子生徒Aの逆側の道は行き止まりなのだ。妙に木の後ろに隠れようとして見つかったり女子生徒Aの前を通り過ぎて緊張を高めたりするよりかは、堂々とこの場所にいるのが得策か。
なんて、私が真顔で思考を巡らせていたら男のほうがやってきた。――仮に、名無しの権兵衛とする…長いな、ごんべーでいいや――ごんべーは、おそらく体育館裏に来い、とか来てね、とか書かれているであろう小さい紙を、困り顔に風を送るようにしてぱたぱたと仰ぎながらやってきた。ごんべーのほうも緊張しているのかキョロキョロと落ち着かない様子だ。
…と思ったら、さすが堂々としている私。ごんべーとバッチリ目が合った。ごんべーは混乱したのか、目が合ったと思った瞬間に目をそらした。ふうん、いい度胸してる。
「…ずっと前から気になってました。――付き合ってください!」
ごんべーの姿が見えるなり、女子生徒Aは割と大きな声で言った。
桜城高校普通科2年2組松岡つぐみ。私は人生初、人の告白現場に遭遇してしまった。