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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-43


 まるでホムンクルスでも造っている様なそんな光景が目の前にあった。泡の様な物は既に人の大きさ位までになっている。

 巨大な水槽の中に人影が見えた。段々と泡が収まっていき姿が見えて来たが……何か違和感がある。映画とか漫画で良くある光景だが、その違和感はすぐに解った。水に浮かぶヤーマッカは全裸……では無く、何時もヤーマッカが着ていた執事服だった。心の底からというよりは本能から執事なのだな……。


 水の中のヤーマッカが目を開け、スライムに向って視線をむけた。


「うん? もういい? 解った」


 スライムがいきなりそう言い出すと水槽になっていた体を元に戻した。どうやらヤーマッカと意思の疎通が図れるようだな。

 そして目の前に立っているのはヤーマッカだった。どこから見ても完璧な立ち姿、ピシッと張られた背筋に指先まで神経が研ぎ澄まされたかのような所作……まごう事無きヤーマッカの姿が其処に有った。

 ヤーマッカは胸に手をあて最敬礼を行い俺達に向って言った。


「私めの為にお骨折り深謝致します。このヤーマッカ、これからもお二方に仕えさせて頂きたく存じ上げます」


「勿論だ! 此れからも宜しく頼む。……それよりもこういう形でしか命を救ってやれなくてすまなかった」


 俺はヤーマッカに謝罪した。この方法しか無かったとはいえ、ヤーマッカは人では無くなってしまった。たぶん分類でいえば、魔物になる……のか? 人造人間ヤーマッカ? いや神造人間? それって人とどう違うのだろうか? 兎に角、この世界の理から大きく外れた存在となってしまったのは確かだ。


挿絵(By みてみん)


「何をおっしゃいますか。私はこの体にして頂いて感謝致しております。これでケイゴ様とチカゲ様にずっと仕えていられるのですから」


 そう言いながら笑顔を向けてくれるヤーマッカに俺は救われたような気がした。何だかんだ言っても日本人の感覚が残っている俺は、今回ヤーマッカをこのような形で復活させた事を、多少後ろめたく感じていたのかもしれない。何と言ってもやっている事は、マッドサイエンティストか悪の魔術師の類と変わらないような気がしていたからな……。


 今まで黙って事の成り行きを見守っていた千香華が突如へたり込むように地面に座り込んだ。


「うわぁあああん! 良かったよー。ヤーマッカが生き返った……」


 大泣きだった。鼻水まで垂らして泣いている。四肢が腐り落ちて今にも死にそうなヤーマッカを間近で見続け、延命作業を続けていた千香華は、ずっと気を張り詰めていたのだろう。それが一気に噴出したような感じだった。

 俺はそんな千香華の背中を摩ってやり、ヤーマッカは慌てて涙と鼻水を拭って居た。ヤーマッカは普通に服のポケットからハンカチを取り出したが……それってヤーマッカの一部じゃないのか? 涙と鼻水でグチャグチャになっているがいいのか?


 暫く経ってやっと泣き止んだ千香華は、罰の悪そうな顔をしてヤーマッカに言った。


「今度勝手に死んだら……首刎ねるからね!」


 そんな無茶苦茶な事を言う千香華に対してヤーマッカは嬉しそうな少し困ったような顔で返答した。


「畏まりました……しかし、ケイゴ様とチカゲ様が用意して下さったこの体は、ちょっとやそっとでは死にそうにございません。ご安心を……」


「もう! そういう意味じゃないよー!」


「はっ! 申し訳ございません。胆に命じます」


 そう言いながらもヤーマッカは嬉しそうだ。千香華は「解れば宜しい!」と言っているが、その顔は嬉しくて仕方が無いといった感じだった。

 何にしても本当に良かった……。



「スライム殿、この度は私に体を一部別けて頂き感謝致します。体を造る際も色々アドバイスを頂き本当に助かりました」


 ヤーマッカはスライムに向き直り深々と頭を下げて礼を述べた。


「うん? 大丈夫、幾らでも増やせるから。ボクも君から知識が流れて色々知る事が出来たよ。ありがとう」


 ヤーマッカに対して逆にお礼言うスライムを見ていると、魔物にも話せば争わずに共存出来るものが居るのではないかという考えも湧く。このスライムは少々特別なのかもしれないが、スライムと談笑するヤーマッカを見ているとその考えもあながち間違いでは無いのかもしれないと思えてくる。


「ええっと……結局、ハイスラはこの森に居るのー?」


 ヤーマッカと一緒にスライムと話をしていた千香華がそんな事を言った。というかハイスラってなんだよ? もしかしてハイスピードスライムの略か? ……名前? いいのか? そんな安易な名前で……。


「うん。ボクは此処でゆっくりして居たいんだ。他の場所にも興味は出てきたけど、やっと此処まで居心地良くしたし、争いに巻き込まれるのはごめんだからね」


「そっかー。それじゃ仕方ないねー……また遊びに来るから元気にしてるんだよ?」


「そうだな。そんなに遠くないし、来ようと思えばすぐに来れるだろう」


「うんうん。待ってるよ」


 うみょんうみょんと体を揺すり同意を示すハイスラ。それを補足してヤーマッカも言う。


「何か有りましたら私を通してハイスラ殿に連絡を取れますので問題ありません」


 そんな能力があるのか? ヤーマッカの新しい体の能力も気にはなるが、そろそろ湯幻郷に戻らねば皆、心配している事だろう。

 俺達はハイスラに別れを告げて、湯幻郷へ戻る事にした。




 兎に角これで今回の騒動は全て片付いた。色々あったが、誰も死ななくて良かった……此方の世界側だけだがな。良く考えると内藤に加担していたとはいえ、あの死んでいったエタ世界の住民達も可哀想な奴等だったのかも知れない。

 抗う事が不可能と言える絶対的な力を持った者が、あのように自分勝手に世界を牛耳った場合は、逆らって死ぬか従属するしか道が無いだろう。従った結果、他の者を虐げた事は決して許される行為では無いが、あいつ等も結局は被害者なのだ。


 俺達もこの世界の神だからと言って好き勝手にやって良い道理は無い……その事だけは胆に命じておかないといけないな。この世界は俺達、神の為にある訳ではない。この世界で生きて死んでいく者達の為に存在するのだ。



 さあ、まだまだやる事は一杯だ。まずはこの世界の新しい住人となった者達が、この世界馴染めるようにしてやらなくてはいけないだろう。そして可能ならば新しい技術を広め、もっと生き易い世界にしてやらないといけないな。

 世界が滅亡する原因はまだ解らないが、前にセトに聞いた時は、滅亡までのリミットが伸びたようだと言っていた。俺達のどの行動が影響を与えたのか知る術は無いが、この世界をより良くする事は、きっと滅亡を回避する要因となる筈だ。


 俺はこれからも頑張っていこうと決意を新たにする。俺と大切な相棒が創り出した未熟で理不尽な世界と、そこに住む人々の為に……。




 この話で4章は一応終わりです。幕間を数話挟んで5章が開始されます。

 思った以上にこの章は長くなってしまいました。書きたい事はもっと一杯あったのですが、これにて4章本編終了でございます。

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