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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-38



 ガギンという金属同士をぶつけた音と共に衝撃波が発生し砂埃を舞い上げる。砂埃がゆっくりと晴れていき二人の姿が見えてきた。


「お……俺の神斧メギンギョルズが……」


 それ武器じゃなくて帯だわ……せめてミュルニルなら……いや何も言うまい。ジョルジュの持つ白銀の戦斧は粉々に砕け散り柄しか残っていなかった。


「おぬしの神の加護よりも、ケイゴの加護の方が強かったようじゃの」


 アドルフの持つ青龍偃月刀は傷一つ無い。アドルフは武器をグルグルと回転させた後、柄を大地に付きたてる。


「まだやるかの? お若いの」


 アドルフは欠伸をして、既につまらなそうな表情だ。


「クソジジイ! 一体何をした! 俺の斧が……お父上殿に頂いた斧がそんな武器に打ち負ける訳が無い! 何をしたんだ!」


 実力差も未だ理解できず喚くジョルジュは最早見苦しいの一言である。アドルフは心底つまらなそうな顔で言い放った。


「全く持って見苦しい男よの? 興醒めじゃ……命のやり取りをするまでも無い。何処となりでも行くがよいわ」


 だがジョルジュもそこで引く訳にはいかないのだろう。その場に留まり「あの武器さえなければ……」と呟いている。


 その時だった。サライが戦闘している方向で、ベキッという音がした。そちらを一瞥したアドルフは迷う事無く自らの得物である青龍偃月刀を投げた。


「サライ! それを譲ってやろう。使うが良い!」


 どうやら折れたのはサライのグレイブのようだ。


「ふ……ふはははは! ジジイ貴様は俺を怒らせた! 唯一の優位である武器の差を自ら捨てるとは……捻り潰してやるぞ!」


 ジョルジュはそれを好機と見てアドルフに掴みかかり、アドルフもそれに相対する。手四つの力比べのような体勢になった。


「やれやれ……とことんつまらぬ男よのぅ」


 ゴキ! ベキリ! と音が鳴る。ジョルジュの腕があらぬ方向に曲がり……いや、ひしゃげるという表現の方が合っているかも知れない。


「うぎゃああああぁ! 俺の腕があぁあぁ! 自慢の豪腕が! あんまりだぁぁぁあぁあぁぁ!」


 ジョルジュは圧し折られた腕を抱え込み泣き叫びながら転がる。それをアドルフは冷めた目で見ると、最早完全に興味が失せたと背を向けた。


「ふひあひだふぇ! ひふぇえ! ひひい! (隙ありだぜ! しねぇ! じじい!)」


 そのアドルフの背に砕けた斧の柄をくわえたジョルジュが迫る。

 だがその不意打ちも無駄だった。アドルフの尻尾が薙ぎ払うように振るわれ、ジョルジュの横面に直撃する。ゴキッと音がしてジョルジュの首が半回転して、ゆっくりと体も崩れ落ちるように倒れこんだ。


「本当に救いようの無い男じゃったな……」





 幾度と無く攻撃を繰り返すサライだったが、鎧と大剣に阻まれダメージを与えられずにいた。アルベルトの攻撃もサライに当たる事は無いようだが、何時かはサライの動きも鈍ってしまうだろう。

 サライの動きが鈍るより早く武器が悲鳴を上げた。何度も攻撃を阻まれるうちにサライのグレイブは限界を向え遂には折れてしまった。


「俺の華麗な剣技の前に、その武器も限界を迎えた様だな! 無駄な抵抗はやめろ! 今ならまだ可愛がってやるぞ?」


 華麗な剣技も何も……ずっと亀のように防御を固めていただけじゃないか? しかも武器を持たないサライに怯え気味だ。その癖、可愛がってやるって……言ってる事がズレているよな。


「あたしのグレイブが……」


 長年愛用してきた武器が折れ、呆然となるサライを見て、アルベルトは薄笑いを浮かべる。

 アルベルトは、言葉とは裏腹に大剣を振り上げ、サライを一刀両断しようと迫る。しかしそれはアドルフが投げた青龍偃月刀が二人の間に飛来した事により阻止された。


「サライ! それを譲ってやろう。使うが良い!」


 アドルフの言葉を聴いて我に返ったサライは、青龍偃月刀を掴む。


「アドルフ爺ちゃん! ありがとう」


 武器を何度か振り回し構えを取るサライ。アルベルトは、再びサライの手に武器が持たれた事を警戒して防御を固めた。


「同じ事だ。俺の華麗な剣技で何度でも防いでやる!」


 剣技とは一体何なのか……良く解らないがアルベルトは自信満々だ。


「すぅー……はぁー……シッ!」


 サライは呼吸を整えると、一気に間合いを詰める。今まではグレイブを理術で補強して切り付けていたが、それも青龍偃月刀ならば必要が無い。大気を蹴り紫電を纏うその姿は、俺の記憶にあるマーロウの動きを彷彿させた。


 刹那の一閃。サライが通り過ぎた後には、武器ごと真っ二つになったアルベルトが倒れていた。それでも油断無く、次の攻撃に備えていたサライは縦割りになったアルベルトを見て、拍子抜けだと言う表情を見せる。


「あ……あれ? 終わり?」





 グチャグチャの肉塊が撒かれた大地に、千香華はゆっくりと降り立ち歩を進める。


「しぶといのね……でも今のは手加減したの……代わりは幾らでもいる。……『マリオネット』」


 再び兵士達を操り自らの周りに集結させるアルメリーだったが、千香華は焦る事無くアルメリーに話しかけた。


「へぇー。代わりは幾らでもいるねえ……それはこいつ等だけに限った事なのかなー?」


 アルメリーは兵士達を操るのをピタリと止めて千香華の言葉に反応する。


「……何のこと?」


 千香華はニヤリと嫌らしい笑顔を浮かべ言葉を続けた。


「んー? アンタにとってこいつ等は、幾らでも代わりのいる捨て駒かもしれないけど……アンタ自身もそうじゃ無いと言い切れるのかと思ってねー。まあ……聞きたい事あるんだけどね? アンタまるで人形みたいだね? この操られているやつ等とそっくりだよ? アンタ本当に人間? 生きてるの? 自覚ある? あいつに捨て駒扱いされてないって証拠は?」


 千香華の言葉に反論しようとした様に見えたアルメリーだったが、瞬きした後、その目は開かれ驚愕の表情に変わっていた。


「お……お父様?」


 たぶんアルメリーには千香華の姿が自らの父ナイトハルトに見えているのだろう。ナイトハルトの姿をした千香華が更に言葉を続ける。


『使えねぇ奴だな』


『お前の代わりなんて幾らでも生ませれば良い』


『所詮は捨て駒……期待した俺様が馬鹿だったな』


『もういらねぇから捨てちまうか』


『死体にうろつかれると臭せぇしな』


 次々に罵声を浴びせるナイトハルトの姿をした千香華。アルメリーは俯いてしまいローブで表情は解らない。


 千香華はナイトハルトの姿を止めてアルメリーに話しかける。


「あれ? どこからか腐臭がするよ? 一体何処からだろうね? ねねね? 試しに俺がアンタに向ってコープスバーストを使ったらどうなるのかな?」


「や……やめて……」


 か細い声でアルメリーが言う。しかし千香華は満面の笑顔で返す。


「え? アンタが捨て駒にした兵士もそう思ってたんじゃないの? 可哀想に。だから俺もやめなーい……こーぷすばーすとー」


 千香華がその言葉を発すると、アルメリーが苦しそうに呻いた。そして腹部が膨らんでいく。理術が行使される感覚からして腹部を膨らませているのは、可燃性のガスだと思われる。アルメリーが苦しそうにしているのは、口や鼻から可燃性のガスを送り込んでいる為だろう。


「ばいばいー」


 千香華のその声でアルメリーは内部から爆発して弾け飛んだ。


「うわっ! きったねぇ花火。よくこんな魔術を好き好んで使っていたなぁ……趣味悪い」


 アルメリーに操られていた兵士達が崩れ落ちるのを背に歩き出す千香華だったが、何かを思いついたように歩を止める。


「あっ! そうだ! もう聴こえないだろうけど訂正しておくね? 兵士に同情するような事言ったけど、正直どうでも良いんだよー。ケイとケイが大切にしているもの以外は、私にとっては些細な事だからねー」


 まだ操られておらず意識のある兵士達も、その言葉を聞いて一歩も動く事は出来なかった。千香華は無人の野を行くかの如く歩き出した。




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