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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-37



 白銀の軽鎧の女……名前はリリアンヌといったか? リリアンヌがこちらに向けて話しかけてくる。


「高だか畜生の神の分際で、私の父であり、私達の素晴らしい世界の父神ナイトハルト様をコケにした罪。その身をを持って償っていただきますわ。さあ! お出でなさいフェンリル!」


 何!? フェンリルだと? リリアンヌがそう告げ細剣を掲げると、魔術陣が幾重にも重なりその中央から鎖に縛られた巨大な狼が現れた。


「このフェンリルは、精霊王と呼ばれ森の守護者だったのですけど、お父様の造ったこの鎖、グレイプニルで縛られ、私の可愛い下僕になったのですわ。鉄をも引き裂くこの牙で貴方も引き裂いてさしあげますわ」


 グレイプニルは魔法の紐なのだが……形状も首輪ではなく足枷なんだけどなぁ……良く調べないで小説の設定に書き込みでもしたのだろうか? そんな間違った物で縛られているフェンリルもおかしいが、色々といい加減過ぎるだろう。

 しかし、精霊王とは何処かで聞いたことがあるような? ……ああ、森人の女性が言っていた俺と姿の似ている森の守護者か。

 そのフェンリルと呼ばれた狼は、口から涎を垂らし目は虚ろで焦点も合っていない。とてもじゃ無いが精霊の王と呼ばれるような者には見えなかった。ひでぇ事しやがる。


「やれるもんなら……やってみな!」


 俺は風理術で加速して、一気に間合いを詰めた。今のそ戒めを解いてやるからな……。その戒めの鎖を引き千切るべく渾身の力を込めて殴りつけた。ベキッという音がして鎖は一度壊れたように見えたが、その直後フェンリルが苦しそうな声をあげると同時に鎖が修復されてしまった。


「あらあら? 酷い事しますのね? その鎖はフェンリルと一体化していまして、壊れるとフェンリルの肉体を使って修復されますのよ? 無駄な事ですわ。ほら! さっさと噛み千切りなさい!」


 リリアンヌが命令するとフェンリルは、一際苦しそうな声を上げて噛み付こうとしてきた。俺は咄嗟に体を捻りその牙から逃れ距離をとる。

 ならばあの女を倒してしまえば……。俺はそう考えたがリリアンヌの言葉でそれも不可能だと解った。


「私を先に狙おうと思っても無駄でしてよ? 私が負うダメージは全てフェンリルが肩代わりしてくれるのですもの。貴方の考えなんてお見通しですわ」


 次々に攻撃を繰り出してくるフェンリルだったが、その攻撃は何処か単調で避けるのには問題ない。ただ殺すのは簡単に出来るが……何か方法はないのだろうか? そう考えながら攻撃を避け続けた。





 その頃、他の三人の行動を視る為に割いていた思考から、それぞれの戦いが始まっている事が解った。


「さあお嬢さん、私の物になるのなら痛い目を見ないで済みますよハァハァ。どうせこの世界は罰として父上に滅ぼされるのですから、早めに降参した方が身のためです。ペロペ……可愛がって差し上げますから武器を捨てなさい」


「なんだこいつ! 気持ちわりぃ……涎垂らして何いってんだ! 近寄んな!」


 サライはアルベルトとかいう変態に追い回されている。両手を広げ涎を垂らした、だらしない顔に意味の解らない事を言われながら追いかけられるのは、さぞ怖い事だろう。サライは本気で嫌そうだ。

 サライも気持ち悪さの限界に達したのだろう。グレイブを地面に突き立てその反動を利用して自らを加速させる。そのままアルベルトのがら空きの顔面に蹴りを叩きつける。しかしアルベルトは怯む事無くサライを捕まえようとした。


「つーかまえ……げふぅ」


 だが簡単に掴まるサライではなく、蹴りの反動で体を浮かせると同時にグレイブの柄の先でアルベルノの鼻面を突いた。正しい選択だな……兜も被らず顔面を曝して突っ込んで来るのだから態々他の場所を狙う意味が無い。

 それを見越して対策がしてあるなら別だが、あいつは完全に油断しきっていた。


「俺の……俺の美しい鼻が! 俺の血が!! このクソ女! 優しくしてれば付け上がりやがって! もういらねぇ……ぶっ殺してやる!」


 自業自得なのに激高して叫ぶアルベルトは父親の内藤にそっくりだ。白銀の両手大剣を抜きサライに襲い掛かった。


「へっ! 出来るもんならやってみなよ。そんな遅い動きで捉えられるものならね」


 サライは次々に攻撃を繰り出す。流れるような動きをアルベルトは捉える事は出来ない。だが大剣を構えたアルベルトは頭をきっちり護り、他の鎧を着た箇所はサライの武器では傷を付けることすら出来なかった。流石にエタ世界の最高クラス装備をしているらしい。

 戦いは膠着状態に陥ったようだ。





「うざいなぁ……」


 千香華は少し苛立っているようだ。その理由は、次々に押し寄せる敵集団のせいでアルメリーとかいうローブの女に近付けないでいるからのようだ。


「……いきなさい……『マリオネット』」


 アルメリーはエタ世界の兵士達を魔術で操り、次々と千香華を襲わせる。その兵士達は魔術により意思を失い恐れを知らぬ狂戦士のように無表情で突撃を繰り返している。

 千香華もただ黙ってやられる訳も無く、理術で応戦をしているのだが、その数の多さに押され気味のようだ。広範囲高出力の理術は位置関係上、俺達を巻き込む恐れがある為か放てないでいるようだ。

 高圧力の水で首を刎ね、真空の刃で首を刎ね、土で造ったギロチンで首を刎ねる。怖いよ千香華……なんで首を刎ねる事に固執するんだよ……。

 だがその理由はすぐに解った。ギリギリ首を刎ねられずに腕を失った兵士は、痛みに悶える事も無くただ突撃してくる。足を失った者も跳ねる様にして、下半身が無い者であっても這いずるようにして攻撃を仕掛けて来るようだ。唯一頭を刎ねられ、頭部を失った者だけが動かない。


「まったく……俺にだって罪悪感くらい……あれ? 湧いて来ないや? こいつ等は自業自得だし、興味も湧かないねー。首刎ねたら只の肉塊だし」


 まったくはこっちの台詞だ……他の奴にはとても聞かせられないような事言いやがって。駆け引きの為の嘘だよな? あれ? 嘘だよね?


 千香華の言葉に反応して同意する者がいた。ローブの女アルメリーだ。


「私もそう思うよ……死んだら肉塊……でも私と父様の役に立ってくれる肉塊……『ネクロフィラス』」


 アルメリーが魔術を行使すると、千香華が首を刎ねた死体が一斉に起き上がる。そして起き上がった死体は千香華のもとに殺到した。


「ばいばい……銀髪が綺麗だから死体が残っていたらコレクションに加えてあげるね……『コープスバースト』」


 血肉を伴った爆風が辺りを包む。爆発の前に千香華が上空に飛び上がるのが解ったので慌てはしないが、少しヒヤッとした。


「きったない花火だなー。そんなの一回見てるから通用しないよ? あっ! でも良い事考え付いちゃったー」


 千香華が邪悪な顔をして笑っている……きっと碌でもない事を考え付いたんだろうな。





「おうらぁ!」


「中々やるのぅ。手が痺れてしもうたわい」


 ジョルジュという名前の大男が白銀の戦斧をアドルフに向って振り下ろす。アドルフは真正面から青龍偃月刀で受け止めた。ドゴォンという轟音が鳴り響くが、それを受け止めたアドルフは言葉とは裏腹に涼しい顔をしている。


「まだまだぁ!」


 ジョルジュは何度も叩きつける様に戦斧を振るうが、アドルフは一歩も引かずに全てを受け止めた。


「でっかい体をしていてもこの程度かの? 見掛け倒しの筋肉じゃの」


 アドフルは辰獣人であり、背は高いが細身の体をしているのだが、対してジョルジュはアドルフを超える身長で筋骨隆々といった具合だ。しかしジョルジュはアドルフに完全に力負けしている。


「クソがぁ! ありえねぇ……俺がこんなジジイに力で負ける訳がねぇんだ! 卑怯者め! その武器だろう? それに絶大な力があるに違いない! そうでなくては負ける理由がねぇ!」


 なんだよこいつ……実力の差も解らないのか? アドルフはただ受けているだけでは無く、力を綺麗に逃しているのに気が付く事も出来ないなんて……。

 確かにアドルフの武器は“神代武器”と言って良い武器だが、同じ太さの木の棒でも同じ事が出来ると思うぞ? しかも殺し合いで卑怯もクソも無いだろうに……。


「だがそれも此処までだ! 喰らえ! 『ウエポンブレイク』」


 そう言ってジョルジュは、戦斧を大きく振り回しアドフルの青龍偃月刀に当てるように攻撃を仕掛けてきた。


「ふむ? 武器破壊かの? 受けて立つわい」


 アドルフはジョルジュの戦斧に、真っ向から青龍偃月刀をぶつける様に振るった。




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