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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-36



 湯幻郷の入り口には橋が架かっている。その橋は村の周りを流れる水路の上に架かっているのだが、その幅は案外広くその外観は五条大橋のようだ。水路の幅も広い為、湯幻郷に入る為には、この橋を渡るか、水路を泳ぐしかない。

 幾ら万の軍勢だとしても、一斉に此方を攻撃する事は出来ない。もし水路を渡ろうとしても……。


「あばばばばっ!」


「くそ! 水路に入るな! 電流を流してくるぞ!」


「ばかな! レジスト出来ないだと!?」


「それぐらい対策してるよー。あんまり甘くみないでねー?」


 千香華がすかさず雷理術で水路に電流を流す。向こうは魔法ではなく魔術というものを使ってくる。電撃魔術に抵抗できる魔術があるようだが、理術は本物の電流を直接発生させて流す為、絶縁でもしない限り防げはしないだろう。魔術的な電流と普通の電流の違いは良く解らないが、あいつ等の魔術は自然界にあるものとは別の物を発生させているようだ。


 俺は今思考を複数に別けて、俺以外の三人をそれぞれ視ながら戦っている。少ない数で対応する為に俺が司令塔となって指示を出す為だ。


「サライ! 出過ぎるな! 囲まれて身動きが取れなくなると不利になるぞ!」


「はい! ケイゴさん!」


 サライはその速い動きで、突出してきた敵を次々に屠る。しかし段々と敵集団に近付き過ぎてしまうために注意を促した。


「千香華! 右前方魔術師だ!」


「あいあいー。ウィンドチョッパー!」


 相手の遠距離攻撃の要は、魔術師の攻撃だが長い詠唱が必要な挙句、詠唱中は魔術陣の様な物が周囲に現れる。そこを千香華が風理術で首を刎ねて撃たせないようにする。


「アドルフ! 正面を頼む! 矢がくるぞ!」


「あの程度の矢は届かぬよ! うおりゃ!」


 アドルフは橋の真ん前で敵の攻撃を抑えている。矢が降り注ぐが青龍偃月刀を一振りすれば、矢は全て叩き落されて飛んでこない。


 俺は俺で、迫り来る敵を殴り飛ばし蹴りつける。やはり大した装備では無い様だ。一撃殴れば鎧はひしゃげ、武器も簡単に折れる。この程度なら幾ら来ても負けることは無さそうだ。


 自称偉大なる創造神内籐は自分の取り巻きを連れて今は下がっている。自らの仲間をまるで捨て駒のようにしているが、何も手出しをして来ないのが逆に不気味だ。


 良く観察すると今戦っている奴等は、亜人系の種族ばかりだ。その目は意思の光を宿して居ない。まるで操られる人形のように表情が乏しい。

 敵の後方部隊の中心辺りで、魔術陣が光る。そして静かだが、此処まで聴こえる程の通る声で魔術名が告げられる。


『コープスバースト』


 くそ! テンプレならこの魔術名は……。


「千香……」


 間に合わない! しかも皆の足元にも死体がある。これしかないか……俺は懸命に理術を行使する。複数の理術を同時に行使可能な俺にしか出来ない。

 その直後周囲にある敵の死体が一斉に爆発した。橋は崩れ落ち水路は瓦礫で埋まった。


「皆! 大丈夫か?」


 俺が聞くと全員返事が返ってきた。


「うおお? 吃驚したー!」


「はい。何とか大丈夫です」


「大丈夫じゃ!」


 奴等が何をしたのか解った千香華は言う。


「ケイの理術が間に合わなかったらやばかったね……」


 俺はあの一瞬で俺を含む四人全員を水理術で覆い、その周辺を風理術で空気の断層で遮断して保護したのだ。お陰で俺の少ない理力は大幅に減ってしまった。まだ頭痛は起こっていないが、もう一回あれが来たらやばいだろう。


 あれは死体を爆破してダメージを与える魔術だと思われる。一つや二つなら問題ない爆発だが、あの数で一斉に爆破されれば、只では済まなそうだ。

 それに仲間の死体を爆破するなんて普通は考えられない。周りに居た他の奴等も一緒に吹き飛んでいるし、自分の世界の人間を何だと思っているんだ……。


「あれ? 一人も死んでないじゃないか! つっかえねぇな……折角この為だけに連れて来たのによぉ! もういいや。お前等は帰ったらお仕置きな? 我が子等よ。お前達は俺様を失望させねぇよな?」


「はい。お父様」


「はっ! 父上の御要望に通りに」


「任されよ。お父上殿の手は煩わせぬ」


「……オーダーを遂行します」


 そう答えたのは、内藤に付き従っていた四人だった。


 一人はエルフの血を継ぐだろう女性。金糸の髪を結い上げ、白銀の軽鎧を着込んでいる。その腰には意匠を凝らした細剣が下がっている。その美しい顔に何処か嗜虐的な笑みを浮かべていた。


 一人は内籐にそっくりの金髪碧眼の男。短く刈り込まれた髪で精悍な顔立ちをしているのだが、お世辞にも爽やかとは言えないゲスい笑顔が奴の息子だと証明している。装備は白銀のフルプレートアーマーなのだが、兜は被っておらず、身の丈を越える両手大剣を背負っている。


 一人は浅黒い肌をした身長が四メートル程の大男。伸ばし放題の長い金髪を頭の後ろで結んでいる。その双眸は獲物を狙う獣のように爛々と輝いている。装備は白銀の腰当と肩当のみで手には巨大な斧を携えていた。


 一人は頭からフードを被りその顔は見る事は出来ないが、小柄な……たぶん女性だろう。フード付きのローブは他の者と同じく白銀で作られていると思われる輝きを発している。派手な装飾のワンドを持っている所を見ると、先程の魔術はこいつが放ったものに違いない。



 その中の一人短髪の男が内藤に向き直り言った。


「父上。あの虎猫耳少女貰って良いですか?」


「あ? 俺が味見した後ならな」


「有り難き幸せ! あの子の相手は俺だ。下手に殺してしまうと面白く無いからな」


「あら? アルベルトは相変わらずね。じゃあ私は、お父様に失礼な言葉を吐いた獣にしましょう。たっぷり後悔させて調教いたしますわ」


「リリアンヌ姉さんこそ相変わらずではないか! 俺は一番強そうな蜥蜴にするぞ! 楽しめそうだからな」


「……ジョルジュ兄、ずるい……私は余り者のあいつで決定?」


「アルメリー、ガキはガキ同士で丁度いいじゃないか。一番下なんだから我慢しろ」


 あの親あってこの子達か……碌でも無さそうだ。内籐はまだ高みの見物を決め込むらしいな。すぐに引き摺り出してやるから覚悟しておけ。

 とは言った物の、俺の相手はあの女か? 女相手は戦い難い……なんて言ってる場合じゃないか。



 他の者達は一斉に下がっていき、変わりにその四人が此方に向けて歩いてくる。大した自信だが、確かに今までの奴等とは違うようだ。身に着けている装備も加護が掛かっているのか、やたらと輝いている。


「千香華、油断するなよ? アドルフ、サライ、無理はするな。足止めだけでも頼むぞ」


「倒してしまっても良いのじゃろ?」


 アドルフ……それは死亡フラグというやつなのだが。……まぁ良い。この世界にはフラグやテンプレは通用しない所を見せてやれ。




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