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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
1章 そして世界は動き出す
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1-4



 暫く千香華を追いかけて走っていると、前方で千香華が立ち止まっているのが見えてきた。なにかあったのだろうか? だがその姿をよくみて見ると、小脇に何かを抱えている。嫌な予感しかしないが、取り合えず聞いてみることにしよう。


「どうした? というかそれは何だ?」


「獲物ー」


「はぁ!?」


「餌ー」


「うん? 誰のだ?」


「ケイのー」


「食わねぇよ!」


 まったくこいつは……よくよく見ると小脇に抱えられているそれは、黒い髪の日本人系の子供、ただし尻尾が生えている。身体的特徴から推察するに申人さるびとの子供だと思う。

 因みにこの世界の住人は黒髪日本人顔がベースだ。なぜかって? ファンタジーだからって大半が金髪碧眼だったりピンクや青だったりと思うなよ! ってくだらない理由からの設定だ。

 申人の子供はガタガタと震えている。可哀想になぁ、そりゃいきなり銀髪の男に攫われたら怖いよな。


「それどっから攫ってきたんだ? 元の所に返して来なさい」


「攫ってないよー、拾ったの」


「拾った? 何処で?」


「そこの藪で、膝を抱えていたんだー。多分迷子だと思うよ」


「そうか……おい、小僧! 家はこの先か?」


 一言も発さず子供は震えるばかりだ。え? もしかして怖がられてるの俺?


「もう、ケイってばそんな聞き方じゃ怖がるに決まってるだろー? ねえねえ、ぼくー? お家どこかなー? お姉さんに教えてー?」


「お前……お姉さんって……」


「あん? おばちゃんだって言いたいのかなー?」


「……いや、今の姿を考えろよ」


「あ、そうだったー。ごめーん。んじゃあ、お兄さんに教えてくれるー?」


 それでも一言も話さない子供を見て、二人して肩をすくめる。どうせこの辺りで人が居そうなのは、先程匂いで見つけた人里だけなのだ。連れて行っても問題あるまい。

 そう考えた俺は、千香華が抱えている申人の子供をひょいと持ち上げると肩に乗せてやって歩き始める。それを見て千香華が「いいなー、俺も乗せてー」などと言って来るがスルーすることにした。人前では一人称を“俺”にして、なるべく男言葉にするつもりらしい。その方が良いと思う……余計な誤解は受けない方が精神衛生上良いに決まってる。



 少し歩くと魔物にも出会った。「うーん? トレントだったかな?」と千香華が教えてくれた。

 お? まっとうそうな魔物かな? と思っていたら、やはり少しおかしかった。

 動く事は出来ないが、枝の腕を振り回して攻撃してくる。ここまでは普通に居そうな魔物だが、こいつは白い仮面のような顔があって、その口に当たる部分に人のような歯が生えているのだ。その歯で咀嚼して獲物を飲み込む。内部のうろに消化液が溜まっているらしい。ウツボカズラみたいなもんか?

 そいつがダブルヘッドセンチピードという名前の魔物を手で引きちぎって捕食していた。手? ああ、よく見ると枝の中に白い手が付いてるんだよ。気持ち悪いだろ?

 ダブルヘッドセンチピードは頭が二つある以外に目立った所が無い巨大なムカデだ。ただし、Y字型というムカデでは移動も困難そうな形だ。

 近付かなければ問題無さそうだが、気持ち悪いので倒しておく事にした。なんだが出来そうだったので、少し離れた位置からサッカーボールキック気味に蹴りを放ってみたら、カマイタチのように風の刃が飛んでいってトレントを縦に真っ二つにした。近付かなくて良いから楽だな。

 

 トレントは、この世界で標準的な木材って設定だったと思い出した。という事は、書いていた小説の木材を入手するって話で、主人公の幼馴染の娘が主人公の目の前で喰われたってエピソードの魔物だ。

 やっとの思いで枝を切り払って、仮面のような顔を引き剥がし、洞の中から助け出す。しかし幼馴染の顔は半分溶け出していて、既に手遅れでしたって話だったな。幸せそうな描写の直後だったから、本当に胸糞悪い話だ。

 実際にその魔物を見ると罪悪感はあるが、今更どうする事も出来ない。洞の中から人骨が出てこなかった事に何故だかホッとする自分がいた。



 他に道中変わったことは無かった。十体ほど視界に入ったトレントを中距離から伐採して行く楽な仕事をしたくらいだ。

 更に子供の怯え方が酷くなったのは俺のせいじゃねぇぞ? 多分。


 そう時間の掛かることなく開けた場所に出る事が出来た。多分あれが集落かな? 遠目に見た限りは、思ったよりしっかりした家が並んでいる。柵もそれなりに高いものが設置されていて、外敵に備えているのが見て取れる。

 自分で設定した覚えは全然ないので、此処が“生きた世界”だと実感する事が出来た。ああやって人が生きて創造主(俺達)があずかり知らぬ所で、世界の歴史は紡がれていっている。

 きっと世界の其処彼処そこかしこに村や町が有って、人が暮らしているのだろう。


 ガタガタ震えていた申人の子供は、見慣れた風景に安堵したのか震えが治まっていた。やっと俺達が怖くないってわかったのか? 交互に俺と千香華の顔を見ている。だからニコっと微笑んでやったら、目をスッっと逸らされた……あれぇ? おかしいな?

 しかし、本当に一言もしゃべらない子供だよな。恐怖で失語症になったりするらしいけど、まさかそんなことないよな?



 程なく集落の前まで辿り着いた。申人の子供は、俺の肩から体を伝う様に、スルスルと地面に降り立った。おおー、子供とはいえ流石に申人だな。などと考えていたら、子供は一目散に村の中に駆け込んでいった。

 はぁ、これだからガキは……頭くらい下げていけよな。別に見返りが欲しくて連れて来た訳じゃないが、礼儀は大切だぞ?


「まったくー。お礼くらいは言っても良いのにねー。次は助けてあげないぞー?」


 冗談めかして千香華はそんなことを言っているが、顔は良かったねーお家帰れたねーといった感じの笑顔だ。

 俺は千香華の頭を軽く撫で、「俺達も行くぞ」と促した。




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