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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-35


「皆! 伏せろ!」


 俺の警告とほぼ同時に飛来する矢の雨。くそっ! 何故こんなに近くまで気が付かなかったんだ……。降り注ぐ矢を払い落としながら俺は皆に指示をだした。


「物陰に隠れろ! 矢から毒物の匂いがする! 絶対に当たるな!」


 俺の声を聞き千香華も叫ぶ。


「戦えない者は地下シェルターへ! 岩人も一緒にシェルターに行って! 元の世界の奴等と戦うのは辛いだろうからね。その代わり護りは任せるよ! ケイ! ヤーマッカが……」


 火山の噴火に備えて、地下に避難所を作ろうと計画していたが、もう出来ていたのか……。

 千香華の指差す方を見ると、そこにはヤーマッカが矢を受けて倒れていた。

 馬鹿な! ヤーマッカの速さであのくらいの矢を避けられない筈は無い。俺はヤーマッカの元に駆け寄った。


「ヤーマッカ! 大丈夫か?」


 ヤーマッカのすぐ側で、まだ年若い森人の女性が震えている。


「この御老人が、私を庇って……ごめんなさい! ごめんなさい!」


 どうやらヤーマッカは、この女性を庇い矢を受けたようだ。矢には毒が塗られている。早く解毒をしなければ……くっ! 毒の構成要素が解らない……この世界の毒でもなければ、自然界の毒でも無いようだ。もしかしたら魔術で付与されている毒かもしれない。

 理術の弱点は干渉する物を理解していなければならないという事だ。下手にヤーマッカの体に干渉しても逆に毒を活性化する恐れもある。


「ケイゴ様……私は大丈夫で……ございます。お嬢さん、お怪我はご……ざいませんか?」


 自分の事よりも、庇った森人の女性を心配するヤーマッカの顔は、紫色をしていた。普通毒でいきなりこんな色にはならない。しかも毒のダメージのような物が一定時間でヤーマッカを襲っているようだ。まるでゲームのようなDoTダメージ……向こうの世界はゲームのような世界なのか?


「無理をするなヤーマッカ。誰かヤーマッカを安全な所へ、お前達が元居た世界の毒のようだ。解毒方法か対処方法を知っているなら処置してくれ!」


 混乱の最中、何処からか不快な声が聞こえてくる。


「ふひゃひゃは! 羊のジジイ一匹ゲットー! 俺様の物を庇ってくれてありがとーよ。……それよかさぁ、今撃った奴出て来いよ! お? お前か……馬鹿野郎が! 俺様のエルフちゃんに当たる所だっただろうが! シネよクソ!」


 そいつは弓を放ったであろう自分の仲間を突然殴り始めた。そして「こいつ処分しとけ」と後ろに控えていた女に言った。


「はい。お父様」


 女は躊躇無く弓を放った男の首を刎ね飛ばす。


「よお。底辺くん。初めましてだな? この俺様の物を掠め取りやがって! 万死に値するぞ? 俺様の可愛い奴隷エルフちゃんとドワッ娘を返して貰おうか? ジジイはもういらねぇからケモミミ娘となら交換してやらねぇ事もねぇぞ? うひひゃひゃひゃ!」


 何だこの不快なゲス野郎は? そいつの姿は金髪碧眼でやけに整っているが、明らかに作り物臭い顔立ちで……まるでゲームの世界でキャラクタークリエイションして作ったテンプレ顔のようだった。はっきり言って気色悪い。金色の趣味が悪い鎧まで着込んで、如何にもナイト様な姿だ。


「お前は何者だ?」


 こいつ等は、いきなり攻撃をしてきているし、ヤーマッカをやられている。しかもこいつの物言いは聞くに堪えないから本当は今すぐぶち殺したいとは思っているが、こういう時は冷静になっていないと何があるか解らない。取り敢えず相手が誰か解らないと対処しようが無い。


「底辺くんは情弱だな! 盗んだ相手の事もしらないのか? そんな獣の姿だから頭の中身も獣レベルなのか? 俺の小説は一日千PVは稼ぐ人気小説だったんだぜ? 俺様の崇高な文章はそれだけ多くの人に読まれてたって事なんだよ! 解るか底辺くん? ……チッ! しょうがないから教えてやろう! 俺様はエターナルワールドの偉大なる創造神! ナイトハルト様だ!」


 ……だから何なのだ? なんだか微妙だ。解ったのは兎に角、残念な奴って事だ。


「は? エタ世界のないとうはると? 内籐ですね。解ります」


 千香華が横からちゃちゃを入れる。空気読めよ……ああ、読まないんだったな。


「ぐっ! 何故俺様の本名を知っているんだ!」


 どうやら本名が“ないとうはると”らしいぞ? それでナイトハルト? こいつ阿呆なんじゃないのか?


「お前等は二人で一柱の半人前の神なんだってなぁ? そんなゴミみたいなお前等が、この俺様の持ち物を盗むなど絶対に許される事じゃないんだよ! 時代はテンプレだもんなぁ? 欲しくなるのも解るけどよ。俺も綺麗なエルフちゃんや可愛いロリドワッ娘ちゃんを片っ端から奴隷にして、うはうはハーレムをしていた訳よ。それを盗んだ泥棒野郎が! お前等に残された道は大人しくエルフちゃんとドワッ娘ちゃんを返して、俺様に殺されるしかない! と言いたい所だが……同郷の者として慈悲をくれてやろう。さっき言ったようにケモミミ娘を差し出して、土下座して俺様の下僕になるんなら許してやらない事も無いぞ?」


「言いたい事はそれだけか? 黙って聞いていれば好き勝手言いやがって……こっちはお前から盗んだ物など無い。それにお前にくれてやる物も無いぞ? 勿論謝る意味すらない。さっさと帰れ。先程から人間を物扱いしやがって! 確かに造ったのはお前かもしれないが、そこに住む者はお前の持ち物じゃねぇだろうが!」


 我慢が限界に達した俺は、吠えるように声を叩き付けた。その瞬間、俺達の周りに居た湯幻郷の住民達の姿が掻き消える。


「あー、ケイの咆哮は消しちゃうんだってばー……まあ避難も終わっているしいいけどさ? 流石にこの範囲でこの人数の認識を誤魔化すのは疲れたよー」


 千香華がやれやれと言ったポーズを取りながら言った。ただ黙って聴いていたのではなく、住民達を避難させる為の時間を稼いでいたのだ。見えていた住人達は千香華の『嘘と欺瞞の衣』で造り出したもので、本物達はヤーマッカを連れて地下シェルターとやらに逃げ込んだ筈だ。

 この場に居るのは、俺と千香華、それにアドルフとサライだけだ。この場でまともに戦えそうなのはこの四人しか居ない。それに対して俺の鼻で感じ取った向こうの戦力は、一万を超えていた。本当はアドルフとサライにも隠れていて貰いたかったが、流石にこの数は二人で相手するには多すぎる……四人でも多すぎるがな。


「アドルフ、巻き込んですまない……いけるか?」


 アドルフは得意気に青龍偃月刀を振り回し言った。


「うむ! 腕がなるわい! 異世界の侵略者から世界を護る! ……ワシかっこいい!」


 問題無さそうだ……。


「サライ! お前も巻き込んでしまってすまなく思う……しかしお前ならやれる! だが無茶だけはするな」


 サライもアドルフのようにグレイブを振り回し言った。


「当然だよ! あたしはこういう奴をぶっ倒して、アドルフ爺ちゃんのように皆を護れるようになる為に頑張って来たんだ! それにヤーマッカ爺ちゃんの仇もとるんだ!」


 随分と頼もしくなったものだ。しかしヤーマッカはまだ死んでない、死なせる気も無い。早くこいつ等を倒して解毒の方法を探らねば……。


「千香華! やりすぎるなよ?」


「あいよー……って何で俺だけ?!」


 千香華の反応にこういう場面だが頬が緩む。こいつら程度に千香華をどうにか出来る訳が無いと信じているからな。千香華のにやけ顔を見ると、どうやらその事を解っているようだ。


 どうやってこいつ等がこの世界に来たのか解らないが、人の世界に土足で踏み込んだ事を後悔させてやる。




内籐=オンラインゲームでのナイトの蔑称。すぐにwwwwwwといった草を生やす。壁役を果たさない。盾を持たず両手剣等を持つなど色々あるが、一番の特徴は自己中であることだと思う。


DoT=Damage over Timeの略時間経過で受けるダメージ。オンラインゲーム等でいう毒や火傷などの持続型ダメージの事。

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