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それほど時間も掛からずにモルデカイの近くまで来る事ができた。行きに森の道を整備したお陰だろう。ほぼ一直線に森を縦断するその道は、普通に移動しても四日あれば十分に辿り着けると思う。
モルデカイに入る前に姿を獣人型に変えて、モルデカイのギルドへ向う。約束は三日だったが、千香華の頑張りで思った以上に早く戻る事が出来た。
「アドルフは今、会うことは出来るか?」
俺はギルドの受付にそう話しかけた。
「あっ! ケイゴさんじゃないですか。アドルフさんは執務室にいますよ」
俺か千香華が来たら何時でも良いから通すように言われていたらしく、特に待つことも無く執務室に行くように言われた。
「ケイゴだ。入っていいか?」
俺はノックをして来た事を告げ、入室の許可を求めた。程なくして扉が開かれ、エイベルが顔を出した。
「ようこそお越しくださいました。アドルフ様から聞き及んでおります。どうぞお入りください」
頭を下げて入室を促すエイベルはとても未王とは思えず、優秀な執事にしか見えない。
「ああ、ありがとう。失礼するよ」
中に入るとアドルフが書類を前に椅子にすわり、仕事を片付けている所だった。俺の方をチラリとだけ見て書類を書きながらアドルフは言った。
「三日という事じゃったが、用事はもう済んだのか?」
「ああ、急ぎの用は済んだ。忙しいようなら出直そうか?」
一瞬ピクリとアドルフは反応したが、何事も無い様に書類に筆を走らせる。
「いや、構わぬ。少し休憩を入れたいと思っていたところじゃ」
「では、お茶をお持ち致します」
エイベルはそう告げると部屋から出て行った。
「それで? これからマグヌス村の跡地に向うのかの? ……であればもう少し待って貰えると助かるのじゃが……」
アドルフは少し申し訳無さそうな顔をして言った。俺は周囲に人の気配が無いか確認してから答える。
「いや、もう行って帰って来た所だ。連れて行くと約束したから、話は道中でも構わないか?」
アドルフは疑うような視線を向けてきた。
「何を馬鹿なことを……あそこまでは森が険しく七日はかかる距離じゃぞ? それをもう行って帰って来たなど考えられん」
「道はある。四日もあれば着くだろう」
俺は事実しか述べていない。疑うのであれば好きにすれば良い。と伝えるとアドルフは腑に落ちないといった感じで言う。
「しかしそれでも一日と半なんて……いや、これ以上は実際に行ってからじゃな。もしワシの予想が正しければ、それも不可能じゃない気もするしのぅ」
アドルフが一日だけ待ってくれと言うので、俺は一旦宿へと向かう事にした。退室する時にふと書類が目に留まったのだが、計算が間違っていた。それを指摘するとアドルフは絶望を顔に貼り付け「手伝って行ってくれんかのぅ」と情け無い声を出したが、部外者である俺が手を出す訳にも行かないだろうと断った。
丁度エイベルがお茶の用意をして戻ってきたが、もう出て行く事を伝え、お茶のお礼と侘びを言って宿へと向った。
宿の部屋はそのままにしてあったので、宿の女将に取り敢えず明日まで宿泊する事を伝えた。
ヤーマッカが宿泊している部屋に行ってみたのだが、生憎出かけているようだった。今回はヤーマッカも連れて行くので、準備をしておくように伝えようと思ったのだが……ああ、訓練場か? サライの特訓を押し付けたんだったなぁ。
特訓二日目でまた中止とか言ったら、サライが五月蝿いんだろうな。俺はこの後の面倒臭いやり取りを想像して、肩を落としため息を吐いた。
◇
訓練場に来たら案の定、ヤーマッカとサライが居た。しかし予定外な事があった……サライがヤーマッカと互角の動きをしている。
俺が来たのに気付いたヤーマッカが、訓練を止めて此方に歩いてくる。気まずそうにしているが、少し嬉しそうな表情にも見える。
サライはニマニマと笑いながら今にもスキップをしそうな足取りで歩いてきた。
「おかえりなさいませ。ケイゴ様の早期のご帰還、このヤーマッカ嬉しゅうございます」
相変わらず完璧な姿勢で頭を下げるヤーマッカはやはり表情が優れない。
「おかえりなさい! ケイゴさん! あれ? チカゲさんは?」
逆にサライは元気一杯といった感じだ。これはもしかして……まさかな。
「ああ、ただいま。千香華は少し用があってな? 別行動中だ」
「ケイゴ様! 申し訳ありません……あれだけ大きな口を叩いておきながら、追いつかれてしまいました」
ああ、やっぱりそういうことか……しかしヤーマッカの速度に追いつくなんて、どういうことだ?
何故そうなったのか理由を聞いてみると、どうやらヤーマッカが千香華の教えていた事を、自分なりに理解及び解釈を加えサライに教えた所、あっという間に上達したらしい。「あんな考え方が出来るチカゲ様はやはり天才ですな」とヤーマッカは言っていたが、それを理解して教える事が出来たヤーマッカも十分に凄いと思う。
追いつかれた理由はそれだけではなく、サライが「武器持って無いと調子が出ない」と言い出し、それを許可したら更に速くなったそうだ。武器の重さ分遅くなるかと思えば、逆にその重さを利用して加速や旋回を行いヤーマッカに追いついたそうだ。
そこでヤーマッカは次の段階として、実戦形式で訓練を行っていたそうだ。ヤーマッカは攻撃方法を持たないので、回避に専念するがその回避は常軌を逸している。十分な訓練になりうるだろう。
「まさかこの老い耄れの技が、若い者へ受け継がれる日が来るとは思って居りませんでした。サライ様は逸材でございますね。……しかしながら主人のご期待に沿えず申し訳ございません。このヤーマッカ、不徳の致すところでございます」
ヤーマッカは謝罪の言葉を言い、深く頭を下げる。そこまで気にしなくても良いのだがな……。
「何を言うんだ。ヤーマッカは十分に役目を果たしてくれた。感謝している」
俺がそう声を掛けると、ヤーマッカは「恐悦至極に存じます」と言いながら目に涙を浮かべていた。そこにサライが得意満面で言ってくる。
「約束通りにあたしも連れて行ってくれるよな?」
あ! 忘れてた……そういう約束したな。やっぱり面倒な事になった……。
だが約束は約束。こいつも連れて行くしかないか。少なくともヤーマッカの様子から足手纏いにはならないだろう。
「解った。お前も一緒に来い。ただ見聞きした事は、絶対に他にしゃべらないと約束できるか?」
サライは目を輝かせ笑顔で答える。
「うん! 約束は絶対に守るよ! やったぁ冒険だ!」
嬉しそうなサライに一抹の不安を覚えるが、まあ良いだろう。ついでに日程と今回の同行者を伝えた。サライは少し嫌そうな顔を見せながら「げっ! 爺も一緒なのかよ」と言っていたが、その後とても嬉しそうな顔をしていたから特に問題はないだろう。




