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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-29



 すでに俺達のやる事に驚かなくなって来ていたラザロ達はは、その木々を見てこういった。


「ケイゴ様やチカゲ様にばかり頼ってちゃわりぃと思うん……悪いと思うのですが、俺達に出来る事はねぇの……出来る事は無いですかい?」


 慣れないんだろうなぁ敬語……。俺は「そう硬くなるな。普通にしゃべってくれて構わない」と告げて、ロリスの袋の中から、先程倒したゴブリンの斧と、モルデカイで買って置いた大工道具を取り出した。


「千香華。枝払いとか加工とか出来る事をさせてやってくれ」


「あいよー。理術で全部やっても良いけど、自分達も参加した方が愛着湧くかもねー」


 千香華の返答に「うむ」と短く返事をして、俺は水の匂いのした方向へ歩き出そうとしたのだが、途中でサイラスが目に留まり歩を止めた。隣にはバルバラも居た。


「二人ともこれを皆に配ってくれ」


 俺はそう言うとロリスに命じて、モルデカイで買っておいた毛布や服や布等の物資を出した。


「これは!?」


 その大量に置かれた物資を見て驚きの声を上げるサイラス。


「着の身着のままで逃げて来たのだろう? それにお前等酷い匂いだ。すぐに風呂に入れるようにしてやるから、それを皆に配れと言っているんだ」


「ああ……感謝致します。我々の為に此処までして頂いて、どうお礼を述べればいいのか。そしてそんなお二人を疑って居たなんて……お詫びのしようもございません」


 バルバラが泣きながら頭を下げてくる。年齢はかなり高いのだろうが、見た目は十歳の女の子なのだ。泣きながら頭を下げられると、どうにも居心地が悪い。


「これは別にお前等だけの為じゃない……俺は鼻が良いのでな? 清潔にして居て貰わねば、此方も困るのだ」


 半分本当、半分は冗談のつもりだったのだが、二人は自らの臭いを嗅いで顔を真っ青にしていた。


「では私が責任を持って、此方を平等に分け与えます」


 そう言うサイラスは微妙に距離が遠い。バルバラは「加齢臭? 加齢臭がするのか?」と真剣な顔をして自らの臭いを嗅いでいる。俺は苦笑を浮かべ、今度こそ水源に向って歩き出すのだった。





 俺達が用意した土地、マグヌス村跡地から山脈側に向かう。この辺りは、イデアノテでも外周部付近にあたり本来なら極寒の地だ。

 山脈に隔たれた向こう側は極寒の世界なのだが、こちら側は高い山脈により遮られ、しかも火山の地熱により比較的過ごし易い気温である。

 山脈の頂上付近は白く凍り付いているのだが、中腹辺りから広大な森林が広がっているようだ。この広大な森林を支えているのは、あの山脈の雪解け水に違いない。この辺りの地層は恐らく火山灰が堆積したものだろう。雪解け水も雨もすぐに大地に染み込むだろうから、地下には膨大な水源が存在する筈だ。


 暫く歩き丁度良い場所を見つけた。火山灰で作られた台地と岩で出来た大地の境目だと思う。此処に沿って地下の水が流れているのを匂いで感じ取る。此処からマグヌス村跡地まではずっと岩盤が続いている。

 俺は地面に手を当てて地面の下を理術を使い様子を探る。理力の波は干渉をするだけでは無く、ソナーのように使う事が出来る。

 ……ここか! 俺は土理術を行使した。先程千香華が「ドリルー」とか言っていた物と同じ……いや少し違う。敢えて名前を付けるとしたら“ボーリング”だろう。

 トンネルを掘る時の所謂、シールド工法と謂うやつだ。円筒状に岩盤をほぼ真横に穿つ。

 地面の下で行われているから見えはしないが、土理術を使い周囲の岩盤から生み出したカッタービットと呼ばれる“おろし金”のような細かい刃が高速回転して、岩盤を砕き進んで居るはずだ。砕き削られた岩盤は、土理術で押し固められ、セグメントの代わりに壁面を補強している。


 地下十数メートルぐらいだろうか? そこまで深い訳では無いが、これを普通に掘るのはまず無理だろう。理術を使いながら歩くのはそこまで辛くないが、元々理力量が少ない俺にはマグヌス村跡地まで持つか解らないぐらいの消耗量だ。傍目から見ると、のんびり歩いているようにしか見えないというのが悲しいがな。



 少し頭痛が始まった頃、マグヌス村跡地の近くまで戻ってくる事が出来た。千香華のように理力量が多ければ、もっと楽なのになぁ。さてと最後の仕上げだ。まだ距離はあるがこの辺りに溜池を造って川のように流せば終了だ。予め水路と溜池も造っておいてくれと千香華に頼んだが……もしかしてこれか?


 そこには、セメントで塗り固められたような立派な溜池……寧ろ小型のダムのようなものが鎮座していた。そこから伸びる水路は、三つに別れている。

 一つは村の建設予定地の外周を堀のようにぐるりと囲み、一つは温泉が出た方向へ伸び、もう一つは、村の中心部になるであろう場所へ続いている。


 あの短時間でここまでするとは……というか此処までやれとは言って無いんだけどなぁ。俺は理力低下による頭痛とは別の精神的な頭痛を感じながら、千香華を探す為に村予定地に歩いていった。



 驚いた! 温泉が湧き出している所に囲いが出来ている。しかも露天風呂のようになっていて小さな庵まで付いていた。ちゃんと男女別になっていて、脱衣所まである。それどころか小さいながらも家族風呂のようなものまであった。中を覗いてみたが千香華は居ない。

 しかし、あの短時間で此処まで造るとは……他の奴等の唖然とした顔が目に浮かぶようだ。


 村の中心部辺りに行くとそこには……三重塔が建っていた。

 本気で意味が解らん……何故にこんな物を造ったのか? 頭を抱えながら塔に近付くと岩人族に囲まれている千香華が居た。


「だから此処は木組みで……「ほぅ」自重により抑えられて……「なるほど!」貫が……「おお!」和釘代わりに槍の穂先で……「それは気付かなかった」木釘は湿気で膨張……」


 講義中らしい。そういえば千香華は、五重塔の模型を作っていたなぁ……割り箸で。

 彫刻刀とか色々駆使して“ほぞ”を削りだしたり、婆娑羅継ぎとか言う良く解らん木組みを試してみたり……俺は知識としてはあるが、はっきり言って実際にあんな根気の要るような作業はしたくない。


 講義を聞く岩人の中で特に熱心なのは、なんとラザロだった。真剣な表情でメモ(物資の中に入れておいた)を取っている。興奮して鼻息が荒く暑苦しい。頑張れよ……千香華。

 俺は少し離れた所に居た他の岩人を捕まえ、水路はもう完成しているのか聞いた。どうやらもう水を流しても問題ないようだ。

 俺は水路に水を流す為に、そっとその場を離れて溜池と人工水脈を接続する為に戻ったのだった。



挿絵(By みてみん)


 ※作中のシールド工法こんな感じ。

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