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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-28


 笑ったり泣いたり忙しい奴等だが、どうやら落ち着いてきたみたいだ。だがその時、森人達の周囲に異変が起こった。

 森人達の周りに何か半透明のモノがあふれ出してくる。その半透明の何かは、赤、青、緑、茶の四色をしている小さなモノだった。一体何事か? と思ったが、森人達はそれを見て歓喜している。再び泣き出す者さえ居た。


「一体どうしたんだ? それにこの半透明の……これは何だ?」


 俺が聞くと森人達は驚いた顔をして言った。


「ケイゴ様にも精霊が見えるのですか!? 神様なのですから当然かも知れませんね……失礼致しました。実は、支配されるようになってからずっと出てきてくれなかった精霊達が、今久方ぶりに出てきてくれたのです。こんなに嬉しい事はありません! ケイゴ様とチカゲ様の御加護のお陰だと皆、言っております。ありがとうございます」


 精霊だと? そんな存在がいたのか……森人族の中に入っていた事で、世界を越えて来たのだろうが、大丈夫なのだろうか? 俺達はその存在を認識していなくて、許可を出していないから、この世界で生きていく事が可能なのか解らない。


「その精霊っていうのは、どういう存在なんだ?」


 取り敢えず理解しなければどうする事も出来ない。俺は森人の女性に聞いてみることにした。


「精霊というのは、私達の過去であり、未来であり、現在でございます。私達と魂を共有する者といわれております。森人は精霊が集まって母の腹に宿り生まれ、死する時は精霊に還り、再び集まって母の腹から生まれると言い伝えられています」


「つまり森人は精霊で、精霊は森人って認識でいいか?」


「はい。精霊は同じ魂を共有していますので、それで間違いございません」


 ふむ? つまり森人を許可したから、同一の存在である精霊も許可したって事になるのか? まあそれで問題ないならいいだろう。

 そう思ったのだが、森人の女性は悲しそうな顔をして話を続けた。


「普段は私達の中にいて、有事の際は出てきて戦うすべとなってくれていたのですが、支配され私達の心が諦めてしまった時から、精霊達は現れてくれなくなりました。そして今、漸く出てきてくれたものの、姿は薄くなり、精霊達も力が上手く使えないと混乱しています。“精霊魔術”が使えれば、私達も役に立てると思ったのですが……申し訳ありません」


「気にするな。たぶんそれは、この世界のことわりが他とは違うからだ。この世界に魔法は無い。その代わりにことわりを理解する事によって使える“理術”というものがある。生憎と理術はこの世界で生まれた者しか使えないが、お前等の次の世代なら使えるようになる筈だ」


「そうですか……では精霊魔術は使えないのですね……」


 精霊“魔術”か……設定で存在しないと書かれているのは“魔法”だから……もしかしたら使えるかもしれない。そういう所は結構アバウトなんだよなこの世界……。


「そんな事は無いかも知れないぞ? 精霊魔術がどんな物か、何をソースとして力を行使するのか解らないが……試しに“理学”を学んでみろ。この世界の理を学び理解すれば使えるようになるかも知れないぞ? 断言は出来ないがな」


 そう伝えると森人の女性は目を輝かせて「はい! 必ずや使えるようになってみせます」と意気込みを語った。そして「仲間にもこの事を伝えます!」と言って他の森人の下へと走っていった。



 何か向こうに岩人が数人集まっている。その中心に居るのは千香華だった。何をしているのか良く見てみると、千香華は何処から持ってきたのか解らないが、L字に曲がった二本の鉄の棒を両手に持って歩いている。


「あの……チカゲ様? それは何をやっておられるのですか?」


「んー? ダウジングー」


「……だう……じんぐー?」


「そそー。ダウジングしてるよー」


 説明になっていない……。やはりというか岩人も訳が解らず聞き返している。


「そのダウジングというのは、なんなのでしょうか?」


「んー? 何だろうね? でもこれで水脈を探せるんだよー……お? 開いたー。こうやって水平にしたL字棒の先が開いた所に水脈がある可能性が高いんだよ」


「ほぉ。そんな技術があるのですか……」


 ダウジングというものは、人によって迷信だとか霊的な何かで動いているとか様々な意見があるが、あれはそういった物では無いと思う。

 生物の原始的な本能で、生きる為に水のある場所を察知する事が出来る様になってるらしい。人はその能力が退化してしまっているが、やはり水のある場所で、微妙に脳が反応して筋肉が収縮するそうだ。道具を使う事によってそれが顕著に現れるようにした物がダウジングなのだろう。

 まあどういう原理とかどうでも良いが、見つかるから仕方ない。それで良いんじゃねぇか?


「まあ見ててー……ドリルー」


 千香華は土の理術でそこに穴を開けて水を出そうとしているらしい。だが俺はそこにあるのがただの水脈では無いと匂いで解っていたから慌てた。


「皆! 下がれ! そこから離れるんだ!」


 そう言いながら俺は千香華に駆け寄った。そのまま体当たりするように千香華を抱えてその場を離れた。

 その直後、千香華の開けた穴から大量の熱湯が吹き上がった。千香華は何が起こったのか解らず「え? えええ?」と驚いている。他の者は飛沫を多少浴びたらしく「あっちぃ!」と言っていたが、直撃は誰もしていないようだ。


「これ温泉? やっほぃ! 井戸掘ろうとしたら温泉がでちゃったよー」


 その通り。俺が感じ取った匂い……それはただの水ではなく温泉だった。この辺りは火山が近く、地下に眠る水脈はことごとく温泉なようだ。千香華にその事を話すと、とても残念そうに言った。


「温泉は嬉しいけど、生活用水には使えないね……というかケイは匂いで水脈解るの!? だったらダウジング意味無いじゃん!」


 とても悔しそうだが、それどころでは無い。噴出した温水が辺りを侵食している。それに勿体無い! 俺は取り敢えず溜池を造ることにした。

 造り方はとても簡単、地面に拳を打ち込んでクレーター状にして、土理術で周囲を固める……ほい! 完成! 間欠泉の様に噴出していた温泉も貯まるに連れて段々低くなり、最後は“湧き出ている”程度にまでなった。これで一先ず問題ないな。

 しかし温泉として入浴するには温度が高すぎるなぁ……何処かから水を引いてこないといけない。


 一連の騒ぎを見ていた森人と岩人は、目を白黒させて口も開きっぱなしだ。その中で一人の森人の男が尋ねてくる。


「あの……オンセンとは一体……」


「温泉はお風呂だよー。自然に湧くお湯で、体にも良いしすっきりだよー」


「おお! 風呂ですか! 王侯貴族が入る物だとは聞いていますが、水浴びとは違うのですか?」


「勿論! しかも風呂よりも、もっと凄い温泉だー。ラッキーだね!」


「そうなんですか……あちっ!」


 森人の男は不用意に温泉に手を入れてしまい、とても熱そうだった。俺はすぐに理術で水を出してやり冷やすように言った。


「これ、水で埋めないと熱すぎるね……ケイどうにか出来ない?」


 俺は鼻をひくつかせて匂いを探る。……あった! 温泉では無い水源がある。これを引き込めば……。


「なんとかなりそうだ。少し遠いが水を引いてくる。千香華はこの辺りの整備を頼めるか?」


「りょうかーい。任せてよ!」


 俺はロリスに言い、此処の森を切り開いた時の木を取り出してもらった。大量の丸太が堆く積まれる。まだ枝すら払っていない木々は、ロリスの袋から次々に取り出された。


「このくらいでいいよー」


 千香華がそう言うのを聞いたロリスはそこで手を止めた。まだ全体の量からすると十分の一にすら届いて居ないが、それでも十分すぎるだろう。




 8月15・16・17日の三日間、更新をお休みします。

 詳しくは今日の活動報告をご覧下さい。

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