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色々考えた上、こういった感じの文章を書いてみることにした。
『この世界では、【看破】という技能が使える。
その内容は生物に使った場合、名前、種族、職業、生命力、腕力、脚力、耐久力、持久力、敏捷性、瞬発力、器用度、知力、精神力、技能、を使用者の意識内に表示することが出来る技能である。
名前、種族、職業は対象者の現状況を客観的に示すものである。
生命力、腕力、脚力、耐久力、持久力、敏捷性、瞬発力、器用度、知力、精神力は非対象者の現段階での能力値をこの世界の平均から算出し、極大、大、中、小、極小の五つに振り分けて表するものである。
技能は対象者の持っている技術、技能の中で特に目立った成長を遂げているものを表すものである。
物体に使った場合、その物の名称、用途、所有者、を使用者の意識内に表示する事が出来る技能となる。
名称はその物の正式名称を、用途は使い方とその物が何であるかの説明を、所有者は現段階の正式な所有者をそれぞれ表示する事が出来る。
尚この技能は現時点で使用可能な者は、村瀬圭吾及び服部千香華の二柱のみとする。ただし、技能取得者が此れの使用を許可及び教授した場合は、この限りではない事とする。
この技能は後の拡張性を考慮するものとする』
よくある鑑定などのスキルをこの世界で使用可能にした感じだな。後々この世界の住民にも使わせるかもしれないことを考慮して、技能拡散の方法も書き込むことに決めた。
最後の一文は不備があった時の保険として使えるだろう。
「さーて、上手くいくかな?」
うげっ! 全文が長すぎて全部を明確にイメージするのが辛い! それでもなんとかイメージが固めることが出来たようだ。
次は全文をイデアノテに書き込む……並列思考が出来て本当に助かる。神になってからほぼ完全に思考を切り離して行動することが可能になった。常にそうしてないのは単に疲れるからだけど、これ書くときは便利だから今後もそうしよう。
っていってる間に全文書き込み完了! 文字全体が輝きだし受理されたことがわかる。
「うぐぅ……」「うぁ……」
前二回の実験時よりも多目の神気が抜けていく感覚に、二人とも呻き声が漏れる。あれ? 失敗じゃないよな?
文字の輝きが消え、完全に文章が定着したことを告げる。
「……?」
「成功かな?」
「使ってみればいいんじゃない?」
そう言われ俺は自分に向かって【看破】を使ってみることにした。流石に人の能力を覗き見ることになるので、千香華に向かって使うのは気が引けたためだ。ほら親しき仲にも礼儀ありっていうだろ?
などと考えていると「ほぉー、ケイ凄いねー」って感嘆の声が上がった。おまっ! 俺の能力見てるのかよ! とツッコミを入れると心底不思議そうな顔して「ほへ? 自分も対象者に出来るの?」だとさ。
でもその後、バツの悪そうな顔をしているところを見ると、言葉の意味を察したらしい。この猫の姿は卑怯だ……何故だか許せてしまう可愛さがある。
さて、気を取り直して【看破】してみるか。
名 前:村瀬圭吾
種 族:狼神(黒狼)
職 業:イデアノテ創造神
叙事詩世界神(派遣)
荒神
獣神
生命力:極大
腕 力:極大
脚 力:極大
耐久力:中
持久力:小
敏捷性:中
瞬発力:極大
器用度:極小
知 力:大
精神力:極小
技 能:我流格闘術
自己再生(極大)
並列思考
集中思考
荒神の咆哮(極大)
技術習得向上“模倣+最適化+効率化”
狂暴化
超嗅覚
事象干渉(物理)
看破
その他多数
ぶっは! ツッコミどころ満載だなこりゃ。
名前、問題なし。
種族、狼神、確かに本来の姿は狼だけどな。このままだと色々と拙いかな?
職業、いやまぁその通りなんだが……派遣って書かれるとなんか微妙な気持ちになるな。あと獣神はまだいいけど荒神ってなんだよ?
各種能力、これまたピーキーな能力だな。精神力が極小って……精神的に打たれ弱いってことか? 泣いていいかな? 脳味噌筋肉型で知力は大。俺は何処の豪腕家のアレックスさんだ?
技能、我流格闘術って所謂ステゴロだよな? 身に覚えがあるから性質が悪い。自己再生は神になった事で極端化されたものだと思う。昔から傷の治りが早かったしな。
並列思考と集中思考も前から自覚のある技能かな? 魔法のある世界なら役に立ちそうなのになぁ。過去の俺を本当に殴りたくなるのは仕方が無いことだろう。
荒神の咆哮はきっと前に発動したアレのことだな。威嚇とかに使えばいいのか?
技術習得向上は地味に嬉しい。きっと元日本人の神なら大体持ってる可能性が高い。
狂暴化? うん気をつけよう。月とか見て暴れるなんて事はないだろう……きっと。
超嗅覚に関してはそんなもんだろう。だって犬科だしな。
事象干渉、これが魔物の使う魔法のような現象を起す能力の可能性が高いだろう。しかし物理って付いてるのはどういうことだろう。物理的に事象に干渉するという意味か?
その他多数って……表示サボってんじゃねぇよ! まぁ算術とか料理とか洗濯とかそういう技術・技能まで表示されると莫大な数になるので仕方ないかもしれないが、なんともまぁファジーな世界だな! 誰の影響かしらねぇけども。
因みに神の性質とかは表示されるようにしなかった。理由はこの世界の住民に使える様にする時に必要無い項目だからだ。
色々あるがこれが今現在の俺の能力らしい。めでたくチート持ちの仲間入りを果たしたのか? いやいや、セトとかもっとやばそうだし、神としてはこんなもんだろう。他にも軍神とか破壊神とかそういったのも居そうだしなぁ。なんか今フラグたったような気がするのは、気のせいだろう。
千香華の能力も見させてもらおう。いいか? と聞いたら「いいよー」と軽く答えられた。
「あれ? 見えない?」
「ふふーり」
「……? あれ?」
「ニヤニヤ」
「口でニヤニヤ言うな! なにしたんだ?」
どうやら千香華は【完全隠蔽】なる能力を所持しているそうだ。いきなり弱点? というか対抗策発見かよ。
「ごめんごめん。解除したよー」
改めて【看破】を発動した。
名 前:服部千香華
種 族:猫女神
職 業:イデアノテ創造神
叙事詩世界神(派遣)
技巧神
狡知神
生命力:極小
腕 力:極小
脚 力:大
耐久力:極小
持久力:中
敏捷性:極大
瞬発力:中
器用度:極大
知 力:大
精神力:極大
技 能:完全模倣
完全隠蔽
危険察知
技術習得向上“模倣+最適化+効率化”
嘘と欺瞞の衣
精神異常耐性(極大)
回避能力向上(極大)
潜伏
看破
その他多数
えっと、なんて言ったらいいのか……。逃げる、隠れる、騙す……完全にシーフだな。
なんか得意げに胸を張っているので、撫でておこう。ついでに気になる事も聞いてみた。
「この嘘と欺瞞の衣ってのは?」
「ふにゃあ? それは姿変えてるやつだよー。私としてはドッキリテk」
「はい! ストップ! それアウト。ふがしさんに怒られるだろうが!」
「ふがしさん? ああ、とg」
「やめろって!」
などとくだらない掛け合いをしていると、突然周りが少し薄暗くなった気がした。あれ? まだ太陽の位置は高かったはずなのだが……。
そう思って太陽を見ると、まだ高い位置にある。しかし光量は明らかに減っていた。
「しまった! あれは太陽じゃなくて、光珠だった!」
「ん? どしたの? なんかまずい?」
「ああ、このままだと野宿決定だぞ?」
「えー、なんで? 嫌だよーさっきみたいな魔物が来たら、ゆくっり眠れないじゃん」
「この世界の太陽は光珠だ。位置は変わらずにあの光が弱くなって夜になる。このままじゃあっという間に暗くなってしまう」
「近くに泊まれる所とかないの?」
俺は鼻をヒクつかせて周囲の匂いを嗅ぎ、人里が無いか探してみた。さほど離れては居ないところで食事を作っているであろう匂いがする。もうすぐ夕飯時だったのが幸いだった。他の生活臭もするが、あまり言いたくは無い臭いがする。慣れるしかないのかと思うとウンザリだ。
「この山の麓、あっちの方向に、多分人里がある」
「へぇー、匂いで見つけたの? 犬みたいだね!」
「何度も言うが、犬ではない狼だ(キリッ)」
「そんな事どうでもいいよー早くいこう」
猫の姿から既に見慣れてきた銀髪の青年姿に早変わりした千香華は、俺の指差した方向に駆け出して行った。
余程野宿がいやなのだろう。俺もその後を追い人里を目指した。