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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-25



「シールダー盾構え! 必ず一人に三匹以上であたるんだ! ファイターは突出しすぎるなよ! アーチャーはよく狙え! 仲間に当てるんじゃねぇぞ!」


 この指示の声は岩人側では無い。向こうのゴブリンコマンダーの声だ。この世界のゴブリンは連携をもって攻めて来る。

 その指示は技能【指揮】を持っているゴブリンコマンダーが出すのだが、これが中々侮れない。基本はスリーマンセルで事に当たり、そのうちの一匹がゴブリンリーダーで、技能【連携】を持っている。

 更にそれぞれに役割があり、大盾を構えるゴブリンシールダー部隊、弓を撃って来るゴブリンアーチャー部隊、剣や槍、斧や鈍器を持つゴブリンファイター部隊などが居る。

 ゴブリン達の身長は百四十センチ位で、岩人族より少し低いぐらいだ。コマンダーだけ岩人族よりも少し大きい。


 今襲って来ているのは、シールダー五部隊、アーチャー十部隊、ファイター十八部隊の計三十三部隊とコマンダー一匹だ。つまり百匹のゴブリンの群れだな。群れというよりは最早軍隊と言って良いだろう。

 九十九匹のゴブリンがゴブリンコマンダーの指示で一糸乱れず行軍してくる。


 それに比べて岩人族の戦士達は言葉を話し、隊列を組むゴブリンを見て浮き足立っていた。


「てめぇら! 落ち着け! 所詮はゴブリンだ! 話そうが軍隊の真似事をしようが、高が知れてるだろ!」


 ラザロが大声で仲間を落ち着かせようとしているが、あまり舐めていると本当に死ぬぞ?



 結局、岩人族の戦士達はバラバラで、ゴブリン達は隊列を組んだ状態で衝突した。岩人族の戦士が斧を豪快に振り回しゴブリン達に迫る。しかしその攻撃はシールダーの大盾にあっさり阻まれる。

 ガキィンと音がして弾かれた斧は無残にも砕けていた。一方攻撃を受けた大盾は傷が少し入った程度だった。


「なに! 俺の自慢の斧が!」


「そ……そんな……馬鹿な!」


「ありえねぇ!」


 そんな声がそこかしこで聞こえる。


「敵は浮き足立っているぞ! アーチャー放て!」


 ゴブリンコマンダーの指示で矢が降り注ぐ。放たれた矢は、岩人族の戦士たちの防具を紙切れのように貫通する。


「ぐうあぁ! 俺のバックラーを貫通するだと……」


「鎧が役にたたねぇ……」


 流石に戦場で奴隷として戦ってきた岩人族の戦士達は、致命傷だけは避けたようだ。大量の矢を受けて針ねずみのようになっている。それでも動ける所を見るとタフな種族なのだろう。

 ラザロを見ると巨大なバトルアックスは、ゴブリンファイターの剣で切り刻まれ、自身も盾の間から繰り出された槍に腕を刺し貫かれている。


「クソ! こんな筈はねぇんだ! ゴブリンに負けるなんて……」


 悔しそうに言うラザロだが……潮時だ。これ以上は見てられん。


「ラザロ! 全員を下げろ! 動けない者が居たら手を貸してやれ!」


 俺はそう叫ぶと一直線にゴブリンコマンダーを目指す。ラザロが「無茶だ!」等と言っているが、そんな事を言っている暇があるならさっさと下がって欲しい。


 途中でアーチャーが矢を放ってくるが、そんなものに当たるほど俺は遅くは無い。全ての矢を避け、シールダーの構える大盾に肉薄する。

 この大盾を破壊する事も出来るが、武具はなるべく無傷で手に入れたい。俺は掌を大盾に添えて、脚から腰へ背筋を伝わり肩へと力を伝えていく。そして添えた掌から一気に力を大盾の向こう側へと打ち抜く。

 ズゥンと衝撃が伝播し、盾の向こう側のゴブリンシールダーと、その周りに居た他のゴブリン達を纏めて吹き飛ばした。


 ゴブリンコマンダーの居る所までの道が開く。俺はそのまま一気に駆け抜けた。突然目の前の配下が吹き飛び、混乱しているゴブリンコマンダーに接近する。

 いまだ混乱しているゴブリンコマンダーは右手に持つショートソードを滅茶苦茶に振り回してきた。俺は左手でショートソードの払い、体勢を低くして右の肘でゴブリンコマンダーの左腕を跳ね上げさせる。そのまま右の貫手をゴブリンコマンダーの腕に沿って腋の下辺り……鎧が無い所を狙って突き入れた。

 グジュリと肉を貫く感触が指に伝わる。腋から斜め下に正確に突き込まれた俺の指は、ゴブリンコマンダーの肋骨を押し広げ心臓まで達していた。指先に感じていた鼓動が完全に止まった。


 崩れ落ちる様に倒れていく、自らの指揮官の呆気ない最後を目の当たりにした他のゴブリン達は、何が起こったのか理解するのに数瞬の時間が必要だった。


「コマンダーが殺られたタゾ! 引け! 引くンダ!」


 ゴブリンコマンダーに比べて少し聞き取り難い声を上げたのは、ゴブリンリーダーだったのだろうか? その声を聞いて漸く状況が掴めたゴブリン達は一斉に逃げ出そうとした。しかし逃がせばまた襲いに来るのがゴブリンだ。岩人族の戦士達とゴブリン達の距離が少し開いたのを確認した後、俺は後方で合図を待つ千香華に声を掛けた。


「千香華! 今だ!」


「りょーかーい。えーっと……ウィンドチョッパー?」


 返事と共に謎の理術名を告げて……なんで本人が疑問符なんだよ? 千香華は両手を指揮者のように振る。両手の指と指の間から、次から次に風の刃がゴブリン達のもとへ殺到する。

 逃げ惑うゴブリンの背後から首を目掛けて放たれた無慈悲な刃は、一匹の生存者も許す事無く全てのゴブリンの首を刎ねた。


 あー……こりゃあ相当機嫌が悪そうだな。勤めてふざける時、千香華は大体虫の居所が悪い。移民達の煮え切らない態度や、良かれと思って行動してきたのに、殺気を向けて来たりといった態度に腹を据えかねているのだろうか?

 千香華は基本的に頼られる事を嫌がるような性格では無い。もし移民達が、新天地で懸命に生きていくんだという意思を見せれば、労力を惜しまず助力したのだろうが、今のこいつ等は生きているというよりは、生かされているといった方がしっくりくる有様だ。森人は何とか生きる気力を取り戻してやらないといけない……岩人の特に戦士達は死にたがっている様にしか思えないが……。


 考えながら森人と岩人が集まっている場所へ移動したのだが「ひっ」と短く悲鳴が上がった。

 ん? と思ったが良く考えれば、今俺はゴブリンコマンダーの返り血を浴びている。しかもどうやら俺の思案顔はとても恐ろしいらしく、前に千香華にすら「何怖い顔してるの?」と聞かれたぐらいだ。

 顔が怖い事で怯えられる事は何度かあったが……助けたのにこれはねぇよな。俺は頭をガリガリと掻いた。

 理術を放つ為に、少し高くなっている場所に移動していた千香華が、丁度戻ってきた所だった。その光景を見た千香華は眉をひそめ、俺の肩に手を置いて「ケイ……」と気遣いの声を掛けてくれる。その時、唐突に理解した……千香華は俺の為に怒ってくれていたんだな。


 俺は今回の件は結構乗り気だった。何せ漸く冶金技術や研究職として、この世界を良くしていける人材が出来ると思っていた。

 それが蓋を開けてみれば、俺の姿を見てむやみやたらに怯えるか、殺気を向けてくるような奴まで居る。ただでさえ今の俺は感情の制御が利かない。そんな俺に気遣い、怒りを露にして嫌われ役を買ってくれたのだろう。


 俺は肩に乗せられた千香華の手に、自らの手を添えて言った。


「大丈夫だ。ありがとう千香華」


 だがこれだけは言わなくてはならない。俺はラザロの所へ歩を進める。ラザロはこんな筈じゃ無かったのにといった顔をしている。


「ラザロ! お前は馬鹿か? 俺達の話を全く聞いていなかったのか? お前達の世界の常識は捨てろっていったよな!」


 俺の怒りの声は大気を振るわせた。


「お前のそのざまを見ろ! 自らの力を過信して、勝てない相手に喧嘩を売って死にてぇのか! 千香華の言った意味も理解出来ないのか! 話を聞いていたなら、お前が仲間を止めるべきだろうが! 見ろ! お前のせいで出る必要の無い被害が出ている! 今のお前等はゴブリン以下だ! そのことを理解しろ!」


 俺は視線を他の移民達にも向ける。


「お前達もだ! 何時まで前の世界に居る気持ちでいやがる! お前達が酷い目に遭って居たのは知っている! 同情もしよう! お前等が言った通り、その酷い事をした神と俺達は同じ出身だ! それは認めよう! だが俺達が何時お前等を虐げた? 確かに前の世界に比べて生きにくい環境の世界ではある。しかし、この世界に今の時点でお前等を虐げるものは居ない! お前達は何の為に世界を渡ってきた? 生きる為か? 再び家畜の様に飼われるだけの為に、この世界に来たのか? 死にたかったら死ね! 腐りたかったら腐り落ちろ! 飼われて居たかったのなら元の世界へ帰れ! しかし違うと言うのなら……俺達はお前等に自由を与えてやる!」


 話しているうちにテンションが上がりすぎて【荒神の咆哮】まで軽く発動していた様で、その場に居た移民全てが竦みあがってしまっていた。

 千香華の方に振り返って見ると千香華はキョトンとした顔で此方を見ていた。


「すまん千香華……全然大丈夫じゃ無かった」


 やっぱり未だに感情の制御が下手らしい。苦笑する俺の顔を見て、千香華は笑い始めた。


「あっははは! ケイ、言い過ぎだよー。落ち着いて? でもなんかスッキリしたわ」


 そう言いながら千香華はニカッと笑う。俺はそんな千香華の頭を何時ものようにガシガシと撫でた。




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