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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-24



「あー……うん。取り敢えず代表者を何人か出してくんない? 話が進まないし、皆疲れているでしょ? バルバラだっけ? それと……さっき声を上げたエル……森人の……」


「サイラスと申します」


「……んじゃサイラスとバルバラは決定ねー。後は話聞ける人をよろしくー」


 千香華の意見により代表者を出してもらって、まずはそいつ等に話をする事にした。




 代表者は結局三人だけだった。サイラスとバルバラそれにラザロの三人だ。他の者は皆、断ったみたいだな。一体どんな事をしたら此処まで酷い事になるんだか……見た事も無いが、エタ世界の神に怒りすら覚えるな。


 サイラスは一言で言うと、金髪碧眼のイケメンだ。年齢は推し量る事は出来ない。整った顔立ちをしているのだが、何処か影があり、決して視線を合わせようとしない。

 バルバラはたぶん一番落ち着いている。髪も目も茶色、髪を二つに別けて三つ編にしているのだが、髪が多い為、しめ縄のようになっている。見た目は十歳前後だが、先程の発言でかなり年齢を重ねている事が解っている。

 ラザロは片方の目に大きな傷があり、隻眼の厳つい顔をした爺さんといった所だ。髭も髪もボサボサになっている。いまだに鋭い目付きで睨みつけてくるが、その度にバルバラに諌められる所を見ると孫に嫌われたくないお爺ちゃんにしか見えない。


 俺は一つ気になっていた事を口にした。


「これで全部なのか? 思った以上に少ない様に見受けるのだが?」


 俺の質問に答えたのは、意外にもサイラスだった。


「……畏れながら申し上げます。私ども……森人族は、元々数は多くなかったのです。しかし、度重なる侵略と……奴隷としての生活で大きく数を減らし、今は百五十名程度しか残っておりません。同じように岩人族も数が減ってしまい種族全体で六百名程だったのですが……逃げてくる時に、戦士の方々が自ら犠牲になって奴等を食い止めて下さいまして、今では二百名残っているかどうか……」


「そうか……辛い事を聞いたな。すまない」


 俺がそう言うとサイラスは慌てて頭を下げて言った。


「滅相もございません。私なんぞにそんな勿体無いお言葉……」


 エルフってプライドの高い種族ってイメージだったのに、サイラスのへりくだり方は異常と言っても良いくらいだ。他の森人に比べれば、まだましな方ではあるのだが……どうにか出来ないものかね?



 まずはこの三人に移民を受け入れる事になった経緯を話した。特に他意などは無くて頼まれたから引き受けた。同じ出身だからこそ俺達の世界で受け入れてやるべきだと思った事、出来れば発展途上であるこの世界に、新しい技術も取り入れたい事など、事実のみを淡々と告げる。

 その次にこの世界の状況、元の世界との違いなど、生きていく上での必要な知識等を話した。要は普通と違う点ばかりだから、常識に囚われ過ぎずに注意して世界の事を知ってくれという事なのだが、三人は話す内容に一々目を白黒させていた。岩人二人は不安を覚えていたようだが、サイラスだけは新たな知識に興味を持ったようだ。

 まだまだ遠慮がちではあるが、逆に質問してくる。やはりエルフという種族は、知識欲が旺盛な種族であるようだ。流石にテンプレ世界から来ただけはあるのか? 心が折れてしまっている以外は、想像するエルフと大差は無い様に思う。


「それで……アタシ達は何をすれば良いのかな?」


 今まで大人しく話を聞いていたバルバラが小首を傾げながら言う。なんかしゃべり方が違うんだが……なんでだ?


「バル婆……なんでそんなしゃべり方なんだ?」


 ラザロが訝しげな表情でそう言った。俺もそれは聞きたかったが敢えてスルーせずに言うとは……。


「バル婆って呼ぶな! バルバラさんと呼べっていっただろうが! 折角こんなアタシ達に好条件で話をしてくれているんだ。媚を売っとくのは当然だろう? そんな事も解らないのかねぇ……それに何をされるのか事前に知っておいた方が心構えができるだろう?」


 この婆さん……あざといな。というか抜け目が無い。たぶんこの中で一番油断ならない人物かもしれない。


「特に何かして欲しい訳じゃ無い。敢えて言うならば……お前等らしく生きていけ。それだけだ」


 打算が無いわけじゃない。こいつ等が其れらしく生きていくという事は、エルフの知恵が広まり、ドワーフの冶金技術が広まるって事だ。敢えて此処でそれを言う必要は無い。必然的にそうなる事は解っている。


「それは……どういう意味でございますか?」


 サイラスがオドオドしながら聞いてくる。そのままの意味なのだが……これ以上どう言えばいいのだ?


「好きに生きろって事だよー。もうキミ達を奴隷化する奴は居ないし、俺達は神といっても必要以上に干渉する気は無いからね。だけど場所だけ与えて放り出す程鬼じゃ無い。暫くの間は面倒を見るけど、その後は自分達で考えろ! それで? キミ達の方こそどうしたいの?」


 千香華は少し冷たくそう言い放つ。


「勝てもしない相手に喧嘩売って死ぬの?」


 ラザロを睨みつけて言う。


「オドオドと腐ってそのまま死ぬの?」


 サイラスを冷たい目で見ながら言う。


「人を疑って厚意も素直に受けられず、嘘を付いて生き延びて、老いさらばえて死ぬの?」


 バルバラを卑下する目で蔑むように言う。


「選べよ。ケイはどうだか知らないけど、俺はどっちだって良いんだ」


 千香華は、決して怒鳴っている訳ではなく、静かにただ淡々と告げる。しかしその言葉は、それなりに離れている末端の者にも聴こえたのだろう。全ての者が押し黙り、場を静寂が包んだ。

 気まずい空気が流れる……誰一人として言葉を発する事は無い。


 千香華が再び口を開こうとするのを俺は「千香華!」と声を掛ける。千香華は止めるなといった風に俺を見るが、別に止めようとして声を掛けた訳では無い。

 その直後だった。絹を引き裂く様な悲鳴が端の方から聞こえてくる。周囲は途端にパニックに陥る。そしてそれに拍車をかけたのは誰かの叫び声だった。


「モンスターだ! モンスターが襲ってきたぞー!」


 使い古された表現だが『蜘蛛の子を散らす』とは、まさにこの事だった。我先にと悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。その中で岩人の戦士達が立ち上がった。


「俺達に任せろ! お前等は下がれ!」


 襲ってきていたのはゴブリンだった。岩人の戦士達は口々に「ゴブリン程度すぐに殲滅してやる」と言っているが、それは間違いだ。普通のゴブリンは、スライムに並ぶ程の初期雑魚モンスター扱いだが、あくまでそれはテンプレとしての評価。俺達の世界の魔物、ゴブリンは一筋縄ではいかない。こいつ等でもオーク位ならなんとかなるかも知れないが、ゴブリンは無理だろう。何せこいつ等はこの世界の金属(・・・・・・・)の武器防具を装備しているのだ。


「いくぞ、千香華」


 そう告げて俺がゴブリン達の所に向おうとするのを止める者が居た。


「アンタ達も下がっていてくれ! 俺達の実力を見せてやる!」


 ラザロは自前の武器であろう巨大なバトルアックスを手に、ゴブリン達の所へ走っていった。

 無理だと思うんだがなぁ……。言っても聞きそうに無いし、致命傷を負う前には助けよう。




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