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(構わないそうです。もうあの世界には未練も無いようです。ただそれだけの事で新天地に行けるなら、喜んでそれを望むと言っていました)
(そうか……安心した。では許可を出すぞ)
(ええ、お待ちしています)
『エターナルワールドからの移民種族“エルフ族”に“森人族”及び“ドワーフ族”に“岩人族”という名称を与え、この世界の人種族として受け入れる事を許可する』
受理の光が文字を包み神力が吸い取られていく……程なくして光は収まり、設定が世界に書き込まれた事が解った。
「うん。成功したみたいだねー」
「そのようだな。神力も足りたようで一安心だ」
千香華の指摘した通りだった。
俺の課した制約とは、単純に言うと表記上のルールだった。この世界で種族名が漢字で表されるものは人種族(獣人も含む)のみで、カタカナ表記の種族名は全て魔物とした。
これのせいで千香華は魔物の名前を付けるのに苦労したと言っていたのだ。因みに固有名はカタカナでも問題無い。
つまりエルフとドワーフだと人種族として迎える事が出来ないという訳だ。
エルフを森人。長耳でも構わなかったが、卯人が居るので森の人とも呼ばれるエルフとしては此方の方が良いだろう。
ドワーフを岩人。矮人と呼ばれる事もあるが、意味が小人という意味になるので、あまりよろしくない。大地から生まれたとされ、岩穴を棲家にしていたと伝承があるドワーフが、岩の人でもおかしくはあるまい。それに冶金は岩から加工する事が殆どだから、それを扱う事に長けた物という意味合いも持たせている。
兎も角、許可を出す事は出来たのだ。その事をセトに伝えると暫く待機してくれと言われた。
どれくらい待ったのだろうか、突然俺と千香華の腕輪が微かな光を発する。腕輪に意識を向けると頭の中にセトの声が響いた。
(お待たせいたしました。今から其方に送ろうと思うのですが、広い場所にいますか?)
(ああ、かなり広めの場所を確保したから問題無いとは思う)
(私が差し上げた腕輪の座標を中心に送ります。移民の方々を宜しく頼みますね。圭吾さんと千香華さんならば上手くやってくれると信じています)
(なんか含みのある言い方だな……あっ! いやなんでも無い)
(そうですか? お気になさらずに……)
それだけ言ってセトは念話を切った。その直後に腕輪が一際大きく輝き周囲の風景が歪んでいくのが解った。遂にご対面ってやつだな?
歪んだ空間が一瞬の内に広がり気付いた時にはそこに数百人程度の人間が立ち尽くしていた。見た感じ良くあるファンタジーに居るエルフとドワーフといったところか?
エルフ……今は森人族だな。美形揃いで長身痩躯、長い耳に金髪碧眼だ。だがその目は男女共に虚ろだった。目が死んだ魚のそれのようになっている。余程酷い目に遭い続けていたのだろうか? 周りを警戒するように視線を泳がせている。
ドワーフ……今は岩人族だ。前情報の通り女は……少女だな。やはり森人族と同じく虚ろな目をしている。俺はドワーフって種族は、男も女も見た目で判断付かない者ってイメージがあったから違和感が半端無い。もし夫婦で歩いていてもお爺ちゃんと孫娘にしか見えないんだろうな。下手すると親子でもお爺ちゃんと孫娘に見えるだろ? 勿論孫娘が母親ってパターンだな。
男の方なのだが、これぞドワーフ! といったガタイの良い髭を生やした爺さんだった。短身矮躯と言われる通り背が低い。しかしその肉体は屈強であり、質素ながら武具を身に着けている。一部ではあるが他の移民連中とは違い目が死んでいない。どちらかと言うと荒んだ目をしているのだ。ギラギラとした視線を巡らせ油断なく周囲を窺っているように見える。
それぞれの状態は、前にロキに聞いた向こうの世界での扱いのせいだと思う。ドワーフの男以外は性奴隷扱いで心も折れてしまっているのだろう。小さな音にすらも過剰に反応して怯える様は、扱いの酷さを物語っていた。
ドワーフの男は戦闘奴隷と強制労働に就かされていた為、あんな荒んだ目をしているのだろう。殺したくも無い相手を殺し、自らの命も狙われる。もし裏切れば同胞の女達を殺すとか言われていたのだろうか?
何時までも眺めていては話が進まない。声を掛けて説明をしなければならない。このイデアノテは、はっきり言って特殊だ。元の世界の感覚でいると遠からず命を落とす事になるだろう。……しかしなんと言って声を掛ければいいだろうか? ぶっちゃけ俺はこういうのが苦手だ。別に大勢の前で話せない訳じゃ無いのだが、進んで目立ちたいとか思わなかった性格だったから、極力避けて来ていたからなぁ。
そう考えていると千香華が一歩前に出て声を上げた。
「はーい! 皆ちゅーもーく!」
おいおい……物怖じしねぇな千香華は。だがそれは失敗だった……森人は全員ビクリと体を跳ねさせた後、平身低頭……所謂土下座スタイルで地面に頭を擦りつけ決して此方を見ようとしない。岩人の女も同じ様に頭を下げる者、男の岩人の後ろに隠れる者と居る。岩人の男は大半の者が此方を睨みつけ殺気まで漲らせる。
「あれ? なんでこんな態度なの? いきなり嫌われてる?」
千香華は困惑しているが、仕方の無い事ではあると思う。仕方が無いとは言え、あまり気持ちの良いものでは無いよな。森人と岩人の女は嫌っていると言うよりは、怯えているが正解だと思う。
「まあ……いいやー。まずは挨拶だよねー? 皆さんーようこそ【イデアノテ】へ。俺は千香華でこっちは圭吾だよー。この世界の創造神で、派遣管理神だよ。よろしくねー」
本当に物怖じしねぇな……まあ五十年もギルマスやってれば慣れもするか。
「圭吾だ。宜しく頼むぞ」
俺も続いて挨拶をした。しかし、千香華が話した辺りからざわつき始めていたのだが、俺が話すと頭を下げている者達は地面に埋まりそうな程に額を擦りつけ始めた。睨みつけていた奴等も多少怯える目を向けてくる者も出てくる始末だった。より殺気が強まる奴もいたけどな。俺に強い殺気を向けて来る奴に、千香華が少し不機嫌そうに眉根を寄せた。千香華の耳元で小さく「落ち着け」とだけ言っておいた。放っておくと首を刎ねそうで少し怖かったのだ。
「取り敢えず皆、頭を上げてくれないか? 話し難くてしょうがない」
周囲がざわつき始める。その中から一人の声が聞こえてきた。
「……神様を前に頭を上げるなんて滅相もございません。本来は声を出す事すら失礼に値するとは存じております。どうか罰するのは私だけにして頂けませんでしょうか?」
……なんでそうなる? 面倒くせぇなぁ。だがこいつは他の奴と違って話をする事は出来そうだ。今度はその声を発した人物に話しかけようとしたのだが、睨んでいた岩人の中から一人の男が前に出て怒鳴るように言ってきた。
「頭なんか下げる必要はねぇ! 聞くところによると、こいつ等もあのクソ神と同じ出身だって言うじゃねぇか! あのクソ溜めから出したのは、どうせ同じように俺達を虐げる為だろうよ! 二人しかいねぇんだ! ぶっ殺してしまおう!」
「ラザロ! あの世界ですり潰される所を拾ってくれたのは、紛れもなくこのお二人になんだよ? 恩を仇で返すような真似はおやめ! ……それにアンタ程度でどうにか出来る相手じゃ無いだろう?」
「しかし、バル婆! 「誰がババアさね! バルバラさんとお呼び!」」
ラザロと呼ばれた男を諌めたその人物は……少女だった。これが所謂“ロリババア”ってやつだろうか? 見た目通りの年齢では無いんだろうな。少なくともラザロよりは年寄りって事になるのだろう。
「ケイゴ神様にチカゲ神様。この馬鹿の非礼はアタシが詫びます。ですから他の者は許して頂けませぬでしょうか? この老い先短いババアで良ければ何でも致しますから」
……どうしろと? ラザロは悔しそうに此方を見ているし、バルバラはこの身を捧げますみたいな事になってるし……やばい! 本気で面倒になってきた!




