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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-19



 俺達がギルドに赴くと、すぐにアドルフの所へ通された。話が早いことは良いことだ。


「はいるよー」


 こら! ノックぐらいしなさい! 仮にもギルドマスターの部屋だろ?


「おう、来たか! 随分と遅かったが、今日もサライの修行かの?」


 全く気にしないこの爺さんも問題あると思うんだが……これでいいのか?


「ああ、遅くなってすまない」


「いやいや、遅くなってすまないのはこっちだ。思ったよりも時間がかかってしもうたの」


 まあ、用途不明の土地をいきなり融通しろなんて普通に考えたら無茶もいいところだろう。


「ねねね? それで結果はどうなったの?」


「結果から言えば、問題なしじゃが……」


 ん? なんか歯切れが悪いな? 何か問題でもあるのか?


「お前さん達は、この前の貨幣奪還でこの都の恩人という事になっているから話はすんなり通ったんじゃ、ただ……一つだけ問題があってのう」


「問題と言うのは?」


「此処からかなりの距離があっての……大体一週間ぐらいの距離じゃ」


 そう言いながらアドルフは地図を指し示す。モルデカイから外周部へ向い森を抜けた先の山の麓に“マグヌス”と書かれそこにはバツ印がしてあった。


「ん? 此処に書いてあるマグヌスというのは? バツが書いてあるが何かあるのか?」


 俺の疑問に答えたのは、エイベルだった。


「そこには昔マグヌスという名の村がありました。近くの山が突然火を吹き上げ、約四十年前に赤く燃える川に飲み込まれ破棄せざるを得なくなったのでございます。そこであれば、あなた方の条件に完全に一致する上に、他に誰も近付く事も無く、自由に使える土地でございます」


 ふむふむ……火を吹き上げる山に、赤く燃える川ね。つまり火山と溶岩の事だろうな。地図を見る限り広大な森があり、山の麓で岩場がある。そして火山か……かなりの好条件じゃねぇか?


「そこを自由にして良いんだな?」


「はい。勿論でございます」


 良い条件の場所が見つかったな。まだ実際の場所を見て無いから何とも言えないが、移民はエルフとドワーフだという話だから、森が深くて、火山まである場所なら問題ないだろう。俺が持っているエルフやドワーフのイメージと同じならばだけど……まあ、俺達の世界のように常識外れた設定の所なんてそんなにないか。


「ありがとう。とても良い場所だ」


「そこへ向う時は、準備はしっかりしていくんじゃぞ? この辺りは比較的魔物が弱いが外側は魔物の数が多い。それに四十年ほったらかしじゃ。何が潜んでいるとも解らん……本当はワシも一緒に行きたいのじゃが、流石に往復で半月以上ギルドを留守にするわけにはいかんからのぅ」


 一緒に来られても困るからそれは構わないんだがな。準備か……俺達は食べなくても良いが移民が来た直後は暫く援助しないといけないからな。食料類とか日用品は大量に持っていくか……。

 盗賊退治して良かった。オブサロリスが居るし輸送も問題ない。報酬と盗賊の持ち物でお金も心配しなくて済みそうだ。


「心配しなくても良い物を見つけたら報告するよー?」


 千香華が意地の悪い笑みを浮かべて言う。それに対してアドルフは慌てたように言葉を返した。


「いやいや! そういう意味じゃないんじゃが……ワシも一応はギルドマスターじゃからな? 報告はしてくれると助かるのぅ」


 ああ、そういう意味か。冒険者ギルドはどっちかというと企業に近いもんな? 利益がある物なら抑えて置きたいだろう。たぶん凄い利益を生むと思うぞ? なんたって“異世界の人員”と“異世界の技術”だからな。

 上手い事この世界に順応させる為には、一番近い都であるモルデカイに否が応でも利益が流れる事だろう。書類仕事でアドルフが苦労するのが目に浮かぶけどな。





 再度礼を述べてアドルフの執務室を出た。

 まずは都の食料品を売っているマーケットのような所で大量の食料を買い込んだ。オブサロリスはやはり便利だ。生き物の中に食料品を仕舞うっていうのが少し引っかかるが、元々オブサロリス達は自分達の食料を大量に確保しておく習性があるようで、保管後の衛生面もしっかりしているようだ。(食料品店の親父談)

 言い聞かせておけば、自分達の分と保管用をきっちり仕分けてくれる。俺はロリス達へのお礼の意味も込めて、保管用とは別に大量の食料を渡してやった。


 日用品は盗賊達が使っていた物もあったが、気分的に嫌だったので、新しく服や布、鍋や食器、毛布等の最低限の物をこれまた大量に買っておいた。他に何が必要か良く解らないが、一週間の距離だろうが俺が走れば日帰りも可能な為、必要な物を聞いた後に俺が買いに戻れば問題ないだろう。


 すぐにマグヌス跡地に向おうと思ったのだが、訓練場にサライとヤーマッカが居るのを思い出し、訓練場に一度寄る事にした。

 サライには悪いが修行を見るのは、取り敢えず今日までにして貰おう。ヤーマッカはどうするかな? 何があるか解らないし、この都で待っていて貰った方が何かと都合が良いのだが……。

 ヤーマッカはまだしもサライは一緒に来るとか言いそうだな。


「えぇ! じゃあ、あたしも一緒にいく」


 予想通りの反応だ。


「却下だ!」


 連れて行ける訳が無い。俺は途中で本来の姿に戻る予定だから、こいつとのんびり歩いていくつもりは無い。


「私はお二人が行く所でございましたら、何処であろうとも同行する所存でございます」


 予想外の反応だ。

 俺はヤーマッカにだけ聴こえるように声を落として言う。


「今回は連れて行けない。サライの面倒を見てくれ」


 ヤーマッカは姿勢を正し、胸に手を当てて頭を下げて言う。


「畏まりました。ケイゴ様。察する事が出来なくて申し訳ありません」


 神としての行動だと気付いたヤーマッカは、あっさりと引き下がり気付く事が出来なかった事を詫びてきたが、俺は「気にするな」と手を振った。

 後はサライをどう説得するかだが……。


「あのねー? サライちゃんは全力で走る俺達について来れないでしょ? だから駄目ー」


「そんな事は……」


「あるでしょ?」


 千香華は暗に足手まといだと言う。それに反論しきれないサライは悔しそうな顔をしているが、諦めきれないようだ。


「ではこういうのはどうですか? 今回は諦めて私と訓練を致しましょう。最低限、私に追いつく事が出来なければ、ケイゴ様とチカゲ様について行くこと等出来ないと思います」


 ヤーマッカがサライに提案するが、サライ笑いながら言い返した。


「あははっ! あたしがヤーマッカ爺さんよりも遅い訳がないだろ? じゃあ、今此処で勝てば問題無いってことかい?」


「出来るものならば」


「よし! 言ったな? ケイゴさん、勝ったら一緒に行ってもいいですね?」


「その時は連れて行ってやるが、もし負けたらヤーマッカに勝つまで修行も無しだ」


 急遽ヤーマッカ対サライのスピード勝負が開始される事になった。今回は移動速度の勝負なので、訓練場の周囲十周勝負となった。要するに“かけっこ”だな。




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