4-17
「何時まで座っているんだ? 魔物が立ち上がるまで待ってくれるのか?」
慌てて立ち上がり再びグレイブを構えるサライ。今度は向こうから攻撃させてみるか。
俺はわざと欠伸をして、目線をサライから外す。それをチャンスと見たサライは、グレイブを大きく振り被り此方に攻撃してくる。ご丁寧に「くらえ!」と声を上げながらだ。
上段から繰り出されるサライの攻撃を左手で軽く払いながら逸らす。その際に払った手で下方向に力をかけてグレイブでの攻撃を加速させた。『ドゴッ』という音がして、グレイブは地面にめり込む。
突然加速させられサライの体が完全に崩れる。ただでさえサライはグレイブに振り回されている。グレイブの重さに体の重さがつりあっていない事が原因だ。
俺は体の崩れたサライの脇腹に軽い掌底を当てた。軽いと言ってもサライの体は“く”の字に折れ少し浮き上がる。
「げほっ! ごほっ! おぇっ」
吐くものが胃液しか無いと辛いよなぁ……。それでも自分の得物は離さない所は、評価に値する。
「どうした? もう終わりでいいのか?」
悔しそうに目に涙を貯めながら此方を睨んでくるが、睨むだけで相手が倒れてくれるなら苦労は無い。
その後のサライの攻撃もお粗末な物だった。まず一番駄目なのは、一々武器に振り回されることだろう。そしてたまに理術を使ってくるが、捻りも何も無い。ただ真っ直ぐ撃ってくるだけ……近接攻撃がメインなのに身体能力の補助すらしない。
普通ならもう心が折れていてもおかしくは無いのだが、サライは「まだまだ!」とやる気を漲らせる。根性だけは有るみたいだな……。
「一つ聞きたいのだが、どうしてその武器なんだ? 技能的にも長柄武器は向いていないと思うぞ」
サライは元々限界が来ていたのだろう。突然の質問に気が抜けたのか、愛用の武器であるグレイブを支えにして膝を着いてしまった。今回はここまでかな? 根性というか闘争本能だけで立っていたのか……流石はマーロウの孫なだけある。
「あたしは! ……この武器で戦いたいんだ」
「そうか、だったら頑張るんだな」
俺は何の事も無いように言う。それをサライは目を見開き驚き聞き返した。
「え? いいのか? てっきり強くなりたかったら武器を変えろと言われるかと……」
それに越した事は無いのだが、頑なに拘るのには何か理由があるのだろう。それが他者にはくだらない事だろうとも、本人がそう決めたのならそれを貫き通す事を、本人以外が否定するものでは無いと思う。
「そんな事は言わねぇよ。ただし、戦い方だけは変えた方がいいな。お前の強みは膂力では無く。その身軽さと動体視力だ。誰に習ったか知らないが、お前の長所を消してしまっている」
サライは迷った素振りを見せたが、意を決して頷いた。「別に習った訳じゃないんだけどな……」と小さく呟いていたが、聞こえ無い振りをした。初めから深く聞く気は無いからな。
俺は訓練所の小屋に立て掛けてあった一本の長い棒を手に取った。たぶん訓練用の棍だろうと思われるそれに、土の理術を使って石製の刃先を付けた。バランスは大体サライが使っている物と同じだろう。ただサイズも重さも俺に合わせてある為、巨大で超重量だ。
グレイブと言うよりは薙刀、もしくは斬馬刀に近いだろうその即席武器を俺は振り回す。音も重量がある為ヒュンヒュンというよりもブゥンブゥンだけどな。
薙刀もグレイブもあまり使った事は無いが、まあなんとかなるだろう。
その光景を見て目を白黒させているサライに向って俺は言った。
「よく見ていろ」
俺はサライの目の前で演舞を披露する。普通の演舞ではなく、オリジナルのものだけどな。
その動きは、武器自体の重さを利用した流れるような動きだ。時に武器より前に出て自らの拳や脚で攻撃を繰り出したり、梃子の原理を利用して攻撃の速度と威力を高めたり、武器に体が振り回されるのを逆に利用した移動方法だったりと多岐に渡る。
それだけでは無く、切り落とし、切り払い等の基本の攻撃。突きからの切り上げ等の連続攻撃も見せておく。どちらかと言えばグレイブの扱いというよりは、日本武術の薙刀術と中国武術の棍術を足したような物だ。
サライは始め驚いていたが、すぐに真剣な表情で俺の演舞を見ていた。
「次は速いぞ。瞬きせずに見ていろ」
そして俺は理術も使う。マーロウが得意としていた風の理術を使った動きだ。天地関係無しに縦横無尽に駆ける。複数の空気が爆ぜる音と共に攻撃は速く鋭くなっていく。反動を利用し武器を振るう。体は常に一定の場所に留まらず次の攻撃が出来る様に動いている。
不意に後方から拍手の音が聞こえる。
「おおー。相変わらず凄いねー。何がどうなってそんな動きになるのか俺にはサッパリ解んないよー」
「流石はケイゴ様! 私では目で追う事すら困難な動きでございました。それでいて美しい流麗な動き、このヤーマッカ感服いたしました」
現れたのは千香華とヤーマッカだった。漸く千香華が目を覚まし、行動可能になったのだろう。
「やあ、サライちゃん。参考になった? ケイは人間辞めてるからあんな動きするけど、サライちゃんも頑張ればきっと出来る様になるよー」
それはサライに人間辞めろって言ってるのか? というか俺、既に人じゃないから笑えない……。
「うん! あたし頑張るよ!」
頑張るのかよ! サライは目を輝かせて此方に駆け寄ってくる。
「ケイゴ! いや師匠! 師匠と呼ばせてください!」
「断る」
俺は間髪いれず断った。なんかこんなやり取り覚えがあるなぁ。確か同じようにヨルグにも師匠になってくれとか言われたっけ……懐かしいな。
「え……。なんで? あたしに才能がないから?」
サライは泣きそうな顔で言う。なんでこいつはプライドが高いのに自分に自信が無いんだ? 才能だけで言うなら、マーロウとサライの血を受け継いでいるので、低いなんて事は無い。実際能力もこの若さでこれだけ有れば十分な程強いはず何だがな。
「あー。ケイは師匠とか弟子とかそういうの嫌いなんだよー。教えはするけど師弟関係っていうの? そういうのが嫌いなんだって」
千香華がフォローを入れてくれる。
俺は師弟関係が嫌いだ。そもそも良い師というものが良く解らない。
小さな頃から知識を蓄える事が好きだった俺は周りの大人に良く質問した。しかし不運な事に疑問に答えてくれる大人は居なかった。褒めてくれるのだが、俺が欲しいものはそんな反応ではなく、俺の疑問に対する回答だ。それどころか嫌な顔をする者さえ居た。今思うと疑問の内容が、普通の大人には答える事が困難なものだったのだろう。
俺は何時しか質問する事を辞めた。どうせ答えてはくれないのだ……自ら本を読み納得いくまで調べた。興味のある事は善悪関係なく全てだ。敢えて言うならば俺の師匠は本とインターネットであり、自分自身だった。
弟子というものも良く解らない。俺が本気で教えると大概の者は、理解できずに文句を言う。独自に効率の良い方法で物事を覚えたりする為、理解が追いつかないそうだ。
だから俺は人に教える時は、結果を見せてから理論を教える……つまり教本だ。武道の教本には写真が入ってる物がある。型を写真で見せて、解説文で理解させる……実に解り易い。
そんな俺が本気で教える義務を負わなきゃいけない弟子など取る訳が無いのだ。それにもし俺が弟子と認めた奴が俺の教えた事で他人を傷付けたとしたら……教えが足らずに死んでしまったりすれば等と考えると……いや、単に面倒臭いだけなのかもしれないけどな。
「でも教えてはくれるんだろう? だったらあたしが勝手にそう思うだけだから問題ないよね」
問題あるだろ? ……本当に面倒臭い奴だ。




