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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
1章 そして世界は動き出す
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1-2



 すっかり変わってしまった風景に、俺は少しばかりの高揚感を得ていた。

 大多数の人が物語でチート主人公に憧れるのがわかる気がするな……実際持つと尚更そう思う。『人は他者よりも優位に立つことに喜びを感じる生き物だ』とは言わないが、大なり小なり人より優れたものを持っていると余裕を持つことが出来るものなのだ。脳がそういうふうに動くから仕方が無い。

 因みに優位に立って明らかに強い喜びを感じる人は、サイコパスの疑いがあるらしい……俺はどうだろうな? あんな目玉蜻蛉(ドラゴンフライ)より強かったとしても優越感よりも忌避感が強くてよく解らない。

 既に人では無い俺達からしたらこの力でも普通かも知れないが危険な世界で『身を守る術がある』のは喜ぶべき事だろう。


 ふと我に返る。あれ? 千香華は何処だ?


「千香華! 何処だー?」


 ……。


 返事が無い、ただのs……って? マジか? 周囲を再び見渡すも影も形も有りはしない。血の気がサァーっと引いた。

 何処だ? 何処だ? 焦って探していたら意外なところに反応があった。俺の鼻にだ。何故だか『これは千香華の匂い』と理解できる。

 クレーターの淵の土砂が盛り上がった所の一角、ここだぁー! とばかりに土を掘り始める……災害救助犬のようだなと頭の片隅で考え少し苦笑いした。笑ってる場合じゃない! 急いで掘る掘る掘る……。

 一メートルぐらい掘ったぐらいで千香華は発掘された。土に塗れた猫の姿で。



「うぅ……酷いよケイ。まさか異世界最初の死の危険が、相棒の手による生き埋め事件だとは思わなかったよ……」


「すまん! 本当に悪かった!」


 不可抗力とはいえ殺しかけたのは事実だ。俺は平謝りするしかない。古来から日本に伝わる最上級の謝罪スタイルで謝る俺に千香華から疑問の声がかかる。


「でもさー、あれ凄かったねー! ドンって飛んで……埋もれる直前だったから良くは見えてないけど、手から火が出てなかった?」


「出ていたような気もする。あれは俺も解らん」


「うーん? 魔法が無いって前提だったよね?」


「そのはずなんだけど……あっ」


 一つ思い当たる理由がある。魔法は無いけど、『魔物は魔法では無い力で魔法のような現象を起す』事実先程のドラゴンフライは、火炎弾を放ってきた。あれが魔法のような現象というやつだろう。

 ということは、考えられるのは“俺も魔物と同じ扱い”か“魔物以外でもどうにかすれば魔法のような現象を起せる”ということだろう。そもそも魔物の使える力の詳細を後で考えようって書いてあったが、考えた覚えが無い。そこまで話も進めてなかったしな。


「ねぇ? 『あっ』の続きは? それケイの悪い癖だよ?」


「ああ、ごめん。魔物と同じ力を使えたのかな? って思ったんだが……」


「ケイは神じゃなくて魔物でしたってことー?」


 千香華のストレートな物言いに苦笑いで返すしかなかった。


「まぁ、なんにしても何が出来るか、理解しないといけないな」


「んー、ステータスとか見ること出来ればいいのにねー……! そうだ! ノート貸して! ノート!」


 千香華は何か思い付いたらしく、イデアノテ(ノート)を開いて何かを書き込もうとしたのだが、途端に首を傾げはじめた。未だ猫の姿のままなのでその見た目は凄く癒される。


「その姿じゃ書けないってか?」


「違うの! そうじゃなくて……」


 千香華(猫型)は器用にも前足二本使って挟む様にしてペンを握り、文字を書こうとしていた。はぁ……癒されるわぁ。


「ほら見て、元からある文字を訂正線で消そうとしても……」


 千香華が二重線で消してもグチャグチャと書き潰しても、書いた線がスッっと消えて元の字が浮かび上がる。


「ね? それと……」


 今度は余白部分に何か文字を書こうとしたが、今度はインク自体が乗らない。

 なんだこれ……俺はてっきりこれに書き込んで、設定をまともに作っていけって事だと思っていたんだけどな。


「ちょっと俺にも貸してくれ」


 納得いかないって表情で(猫顔なので雰囲気的にだけど)ノートを渡してくれる千香華に再び苦笑いで返しつつノートを受け取った。俺はこういった物の検証は結構得意だったりする。



 色々試してみた結果、いくつかの事が解った。

 まず第一に“元々書いてあることに干渉は出来ない”

 字を消す事も、元々の内容を否定する事も不可能だった。ただし、補足や追加文を書き込む事は出来そうだ。


 そして第二に、“文字を書き込むときは、明確な意思を持って書き込まなければならない”

 まず全文のイメージを強く持つ必要があるといえばいいのか? 曖昧では駄目ってことだな。もちろん途中で内容を意識的に変えると書いた全文がスッと消える。


 第三に“俺と千香華で書ける内容が違う”

 これは、元々二人で分担して話を創っていた時の名残だと思われる。俺はこの世界の生き物(キャラクター)に関わる事は書けない。千香華はこの世界の事象(世界設定)に関わることは書けない。といった具合だ。

 試しに千香華はスライムみたいな生物を創りだした。何故か高速で這いずり何処かへ去っていった。「スライムって基本かなーって思って。遅いってイメージあったから高速で活動するって設定にしちゃった」だそうだが、大丈夫なのだろうか?

 俺も試しに先程の戦闘で出来たクレーターに温泉を沸かせてみた。


『神の降り立った山の名前は高千穂といい。そこには神によって造られた枯れる事の無い温泉が湧き出している』


 イメージを明確にする為に事実に基き書いてみた。俺神だしな? ここに降り立ったのも間違いない! だから沸かせてみた! そんな感覚だ。温泉の定義は俺のイメージのまま出るようで問題ないようだ。

 千香華は土砂塗れで気持ち悪かったみたいで、今温泉に浸かっている。温度も丁度いい湯加減で沸いているようで鼻歌混じりだ。猫なのに……。


 神器発動のプロセスは、書きたい事の明確な意思及びイメージを持ちながら、尚且つ元からある設定に抵触しない範囲の言葉を選び、初めにイメージした書きたい事を最後まで書く。イデアノテに受理されると書き込んだ全文が輝き、何かが吸い出される感覚があった後に事象が起こる。

 この吸い出されている“何か”というのは、神の力だと思われる。どちらが書き込んでも二人とも同じ感覚になるし、使っている物が神器と呼ばれているものならばそう考えるのが妥当だろう。仮に吸い出されているモノは神力と呼んでおこう。


 以上を踏まえて、俺は先程の千香華の考え付いた事を実行に移してみることにした。

 それは発想の転換……というか半分揚げ足取りだな。コンセプト部分に書かれていた『能力の数値化を排除』は人や物のステータス表示を禁止するものではなく“数値”で表す事を排除していると見る。

 数値とは数量を知る上での具体的(・・・)な値であるとするのならば、具体的ではなく曖昧な表記であれば可能ということにならないのか? つまり『能力を大中小で表そう。そして可能ならばゲーム等でも良くあるステータスを見れるようにしてみよう』とそういうことらしい。

 何も考えていないようで、実は色々考えているんだな……驚いたと千香華に言ったら、少し不機嫌になってしまった。褒めたつもりだったんだがなぁ……。




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