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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-15



 俺はヤーマッカに少し待つように言い、暢気にお茶を楽しむ千香華を少し離れた木陰に連れ出し、一つの決心を告げることにした。


「ヤーマッカに俺達の事を話そうと思う」


「いいんじゃない?」


 即答かよ! 少しは迷えよ!


「え? いや……いいのか? この先も着いて来るって言うし、言わなきゃ移動にも制限がかかる。隠し通すにも面倒事ばかりだ。それに……何かあの爺さんに話しても問題ないような気がしてな」


「ん? 別に良いんじゃないの? ケイは初めから解っていると思ってたよ? 話すつもりで着いて来るのを許可しているのかと……それにケイが話しても良いって思うんならそうしたら良いんじゃない? なんかあったらフォローするからさー」


 何だかな……悩んでたのが馬鹿らしい。地球の常識で考えると「私が神だ!」とか言うと精神病院へ入れられるか、ネタでしかないのにな。事実、滅ぶ可能性が無いなら、あまり直接的に干渉はしたくないのが本音だ。

 古今東西、どの世界でも、神がでしゃばると碌な事になら無い気がする。積極的に神であることを広めるつもりは無い。この世界は、この世界に生まれた者達の物だ。創造したとはいえ、俺達があまり好き勝手するものでは無いと思うからだ。

 だが、俺達にはやらなきゃいけない事がある。この世界を滅びから救う為に必要と思うなら、神としての力は使うし、神である事を伝える必要性があるのなら、そうするべきなのだろう。

 俺は考えを固めてヤーマッカに神である事を告げる事にした。


「ヤーマッカ。少し話があるんだ。まずこれは他言無用で頼む。そして話を聞いてからもう一度本当に着いて来るか決めて欲しい」


「畏まりました。ですが私は既に貴方様に仕えると決めた身でございます。何を聞いてもその考えが揺らぐ事はありません」


「そうか、では俺に向って【看破】を使ってくれ」


 俺は【能力改竄】を無効にして本来の能力を表示出来る様にしている。その能力を見てヤーマッカの目が見開かれる。何度も何度も同じ場所を行ったり来たりしているのは、俺の職業の欄を幾度と無く確認しているのだろう。

 ヤーマッカは冷静を装いながら「チカゲ様も見て宜しいですか?」と尋ねてくる。千香華を見やると、コクンと頷く「ああ、構わない」と俺が答えるとヤーマッカの視線が千香華に向き、同じように【看破】をかけたのだろう、中空を視線が泳ぐ。


「見た通り俺達は、この世界の者ではない。俺と千香華は、この世界を創りだしてしまい、この世界を管理する為に派遣されて来た“神”と呼ばれる存在だ」


 ヤーマッカの喉がゴクリと鳴る。さて、どんな反応を示すのか……。ヤーマッカは一瞬考えあぐね、そして意を決したように話し出す。


「ケイゴ様は……この世界を創られた事を後悔なされておいでですか?」


 少し悲しそうな顔をしながらヤーマッカはそう言った。俺は確かにそう聞こえる発言をしているな。後悔していると言うか、申し訳なく思っている。


「この世界は酷いだろ? 魔物は暴れまわり人の命の価値は低い。文明もあまり発達していなくて、近年まで火を確保する事、水を確保する事、生きていく為の最低限を手に入れる事すら命がけだ……」


 俺は後悔しているのではなく……申し訳なく思うのだ。真剣に話は考えていたが、ふざけて書いた物が無いとは言えない。それがこの世界の人達に迷惑を掛けているのでは無いだろうか?

 そうヤーマッカに告げると、少し困った顔で言われた。


「私は他の世界は解りません。だからかも知れませんが、私にはこの世界はそう悪い物には思え無いのです。ケイゴ様は、この世界がお嫌いですか?」


「いや、そんなことは無い。俺と千香華にとってこの世界は……子供のようなものでもある」


 だからこそ、俺はこの世界を嫌う事は出来ない。例え酷い世界だろうとも、周りの世界を巻き込む可能性があろうとも、生み出した者として、責任を取らなくてはならないと考えるのだ。


「それはようございました。私はお二人が創ったこの世界が好きですよ。そんな世界を創られたお二人に仕えさせて頂けるなど、最高の栄誉です。私は執事として最高の主を得ました」


 微笑みながらそんな事を言うヤーマッカに俺は少し涙を流しそうになっていた。

 誤魔化すように後ろを向き、こう告げる。


「そうか……ありがとう。これからも宜しく頼むぞ」


 そして移動のために本来の姿に戻る。体長三メートルはある真っ黒な狼の姿だ。別に泣きそうになっている情け無い顔を隠すためじゃないぞ。


「そうと決まれば、さっさとモルデカイに戻るぞ! さあ、乗れ! 今日中には帰り着くぞ」


 そう言ったが、何時まで経っても背に乗ってこない。どうしたのかと後ろを振り返れば、千香華とヤーマッカが、何かを言い合っている。


「我が主人で神であるケイゴ様の背に乗るなど……そんな畏れ多い事、私には出来ませぬ」


「そんな事言っても、後ろを走って行く訳にもいかないでしょー?」


「いえ! 頑張って走って着いて行きます。もし遅れるようであれば、置いていって下さい。どれだけ掛かろうとも必ず追いつきます」


 ああもう! 面倒臭いな……。俺は振り向くと、ヤーマッカが背負っているバックパックを咥えて、自らの背中に放り投げる。「うひゃあぁ」とらしくない情け無い声を出し、宙を舞うヤーマッカ。俺は上手い事背中でキャッチする。ストッと背中に座ったヤーマッカは言葉にならない声を上げているが、俺は聞く気も無い。こうでもしなきゃずっと問答を繰り広げそうだ。

 千香華は俺の背中に漸く乗ったヤーマッカを満足げに眺め、自らも俺の背中に乗って「出発進行ー」と言いながら風の理術を使い自分達を空気の壁で覆った。


「では行くぞ!」


 俺は一路モルデカイへ向けて走り出した。



 そう時間も掛からずに俺達はモルデカイに帰り着いた。勿論、途中で証人となる盗賊も拾ってきた。この姿を見られる訳にもいかないので、気を失わせてヤーマッカが持っていた縄と布で拘束及び目隠しをしてだ。


 ギルドに帰り着くと、そこにはサライが待っていた。


「何処に行っていたんだよ。二人とも盗賊討伐の依頼を受けたって職員から聞いて、あたしも連れて行って貰おうと待っていたんだよ? 出発は何時? 明日向うのか? 十日は掛かるだろうから、その間にでも少し修行をつけてくれよ」


 しまった! 普通なら日帰りはおかしいだろう。でもなぁ……もう終わらせてしまったんだよなぁ。


「ん? その爺さんと……縛られている男は誰なんだい?」


 ……あー。どういい訳しようか。面倒臭ぇなぁ。

 俺が言い淀んでいると千香華が割り込むようにサライに話した。


「この人は俺達に仕える事になった執事のヤーマッカだよー。こっちの縛られてるのは、盗賊の生き残りで証人になって貰うんだー。って事で盗賊討伐はもう完了したんだよ?」


「え? でも盗賊団が出没するって場所は……」


「それはね……このヤーマッカが盗賊団の所から逃げ出して、総出で追いかけて来ていたみたいでね。結構すぐ近くに居たんだよー。ビックリだよねー? お陰ですぐに討伐終わってラッキーだったよ」


 なんとも適当な誤魔化しだな。でもこれを信じちゃうんだよな……。酷いチートだよ本当に。

 案の定、サライはあっさりとその言葉を信じた。しかし、一緒に行きたかったの何だのとずっとブツブツ言っていた。

 まあ、エイベルの返事待ちの間はこの未都に居るから、修行くらいは見てやると宥めると途端に機嫌を直し「絶対だからね!」と言っていた。


 ギルドの職員にも同じように話し、依頼の完了を告げたのだが、少し待たされた挙句に、アドルフに呼ばれた。当然だよな……流石に午奮団と繋がっていた男も放置する訳には行かないだろうしな。きっちり話を聞いて対処しないといけないから、ギルドマスター自ら話を聞かなければいけないのだろう。

 いい加減ゆっくり休みたい……。




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