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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-13



 距離を少し離していた俺は止める暇なく。盗賊達の体は光になって消えていく。たった一人を除いて。


「千香華! お前なにやってんだ!」


 俺は突然の事に声を荒げる。千香華は何の事も無さ気に言う。


「俺を前に嘘付こうなんて、百年早いよ? 一人残ったそいつだけは、殺した事が無いなんて嘘を付かなかったし、後悔が見て取れたからね。……戻ってくるまで生きていたら証言させる為にギルドに引き渡すけどいい?」


 前半は俺に、後半は一人だけ殺されなかった男に言った。男は震えながらも何度も頭を上下させている。


「そういう事じゃない。なんであっさり殺した?」


 千香華は少し悲しそうな顔をしながら言った。


「今までこの世界に居て……この世界で当たり前の対応をしただけだよ。ギルド以外でこういった事に対処する機関なんていまだに無いからね……」


 そうか、千香華はイグニット時代に何度もこうやってきたのか……。元々こういう犯罪の無かった世界なので警察に相当する機関はまだ無い。各自で対処するか、ギルドが治安を守っているのでギルドの仕事になっているようだ。


「すまなかった……」


 俺はそれだけ言う。千香華は俺の背中をバシバシと叩きながら「気にすんなー」と言って笑った。


「それでは、やつ等のアジトに向いましょうか?」


 ヤーマッカも特に気にする事は無いようだ。先を急ぎましょうと言ってくる。

 俺もいつか人を殺す事に慣れていくのだろうか? 別に殺せない事も無いが、簡単に割り切る事は出来無そうだ。千香華も苦しんだ末にそうなったのだろう。俺はもう一度「すまない……」と呟き、二人と共に盗賊達のアジトを目指した。



 午奮団のアジトは、モルデカイとオーギュストを繋ぐ円環街道の丁度中間辺りから、外側に向った先の深い森の中にあった。ヤーマッカが思った以上に足が早く、とても爺さんとは思えない速度で移動する為、殆ど時間は掛からなかった。どれぐらい早かったかというと、普通に歩けば一日の距離を半刻と最早異常だ。


「ヤーマッカ……足が速いな」


「執事として当然の嗜みでございますよ」


 俺は執事と言うものが解らなくなってきた……。追っ手だった午種族は確かに足の速い種族だが、追いつけなかったのはおかしい事じゃなかったんだな。


「そろそろでございます。此処からは慎重に行きます故……」


「いや、いいよー。ヤーマッカは此処で待っていてね。ケイの鼻が、もう奴等を捉えたみたいだからさー」


 千香華の言う通り、俺の鼻は既に奴等の匂いを捉えていた。種族により独特の匂いがあるのだが、それ以前に先程の匂いを覚えていた為、特定は楽だった。


「畏まりました。では私はこの辺りでお待ち申し上げております。御武運を……」


 そう言って深々と頭を下げるヤーマッカを置いて、俺達は午奮団のアジトを襲撃に向うのだった。



 アジトは洞穴に手を加えた物だった。洞穴の前には、五人の見張り役が何かを話している。やはり午種族のようだ。

 千香華が小声で話しかけて来る。


「ねねね? あの洞穴って他に出口あると思う?」


 俺は臭いの拡散具合から答える。


「空気の取り入れ口が二箇所あるが……人が通れそうな穴は無いな」


「そっかー。じゃあ、ケイはあの五人をよろしくー。中の盗賊は任せて」


 ヤーマッカの話では他に捕まっている者も居ないらしい。多少は手荒になっても構わないだろう。俺は一つ頷くと、タイミングを計って飛び出した。


 風理術で加速して、一瞬で五人の所へ辿り着く。それとほぼ同時に洞穴の入り口が岩によって包まれていく。千香華の理術だろう。


「なんだ! てめ……」


 五人目の盗賊はそこまでしか言葉を発する事は出来なかった。他の四人は既に意識を失い倒れている。


 千香華の方はどうなったかな? と洞穴の方向を見たと同時に耳をつんざくくような爆音が辺りに響いた。洞穴の空気孔からは炎が吹き上がっている。


「は?」


「え?」


「え? じゃねぇよ! 何をしたんだ!」


 千香華は予定外という表情をしている。


「えっと……さっきケイがアンモニアを作って盗賊達に嗅がせたじゃない? 酸素酔いって聞いた事があったから……真似して酸素送り込んだら何故か爆発した……」


 ……頭痛い。なんて恐ろしい事するんだ。酸素酔いは一気圧下では起こりにくいが、七十%以上の濃度なら酸素酔い起す可能性は高くなる……。そもそも酸素は有害で多量に吸引すれば、めまいがおこり痙攣の後に意識喪失、最終的には死に至る。酸素濃度が高すぎれば目がやられ失明もする。それを説明すると千香華は驚いて言う。


「え? 酔ったようになるんじゃないの?」


「それは窒素酔いだ……しかも普通の状況下じゃ滅多にならない」


 それに爆発するのも当たり前だ。空気孔を作っているのは中で火を起すという事だ。煮炊きか何かをしていたのだろう。その状況で酸素濃度が一気に上がれば……後は言わなくても解ると思うが『ボン』だ。


「慣れない事をするもんじゃ無いね……逆に酷い事になっちゃった……」


 怒られた猫のように、しょんぼりとする千香華の頭をグシグシと撫でながら思った。たぶん俺に気を使って殺さない様にしようと思ったのだろう。

 別に俺はこいつ等がどうなろうと知った事では無いのだが……こいつ等だって人を殺してるし、その理由が金だったりするからな。もしも理由があろうとも、他人を蹴落として自分の利益にしようなんて考える奴等に、同情心なんてこれっぽっちも湧いてこない。

 俺は千香華の変化に戸惑っていたんだろうと思う。やっぱり五十年という人生経験の差はでかいのかもしれないな。


 兎に角だ。やってしまったものは仕方が無い。これで依頼完了だな……あっ! 奪われた貨幣の回収がまだか? 回収……! 俺はいまだに熱の篭る洞穴を見る。そのまま目線を千香華に向けると、撫でられたのが褒められていると勘違いしているのか、得意気な表情に変わっていた。俺は千香華の頭を掴み少し力を込める。


「痛い痛い! なになに? 爪が食い込んで痛いよ!」


「殺ってしまったものは仕方が無いが……貨幣の回収はどうするんだ?」


「あ!」


 あ! じゃねぇよ! 更に力が篭る。


「痛い痛い!! 足浮いてるって! 暴力はんたーい! ケイは女の子に暴力振るわないんじゃなかったの?」


 ちらっと千香華を見る。そこには小憎らしい表情の銀髪の男が、足をプラプラさせている。


「さあな、俺には男にしか見えないが?」


「ぎゃあー! 男の姿をしている弊害がこんな所に!! そろそろ首が抜ける! 抜けちゃうよー!」


 痛がりながらも何だか少し嬉しそうな千香華から手を離してやり、俺は軽くため息を吐いた。


「一応見てみるか……たぶん吹き飛んでしまっていると思うけどな」



 洞穴を塞いでいた土理術で作り出した岩を砂粒に変えて、入り口を開ける。中から凄い熱波が伝わってくる。これは駄目だろうな……全部消し炭になっているに違いない。

 奥に進むと、盗賊であっただろう人型の炭が複数転がっている。調度品らしき物も吹き飛び全て炭と化していた。


「!」


「今……何か動いたよね?」


 黒焦げの死体辺りで、何かの影がのそりと動いた。それも一つでは無く複数だ。その影は緩慢な動きで此方に向ってくる。


「ぎゃー! 何あれ! 何あれー! お化け? 幽霊? 地底人?」


 悲鳴をあげる千香華。お化けと幽霊は一緒だろ? それに最後の地底人って何だよ? 慌てる者が近くに居ると逆に落ち着くって本当だな……。

 というか、俺は匂いでそいつ等の正体に気付いたから、落ち着いているんだけどな。しかし、この状況でも生きているなんて……守って貰う必要性無いんじゃないのか? 下手すると俺よりも耐久力ある気がするしな。


「何落ち着いているのさ! 逃げよー? 此処から出ようよ!」


 なんか面白いから、正体が解っている事はもう少し黙っていよう。




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