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対人は久しぶりだな。手加減ちゃんとできるか? 追いかけて来ていた盗賊達は……十五人って所か? 全員馬面で男だ。やっぱり午奮団とは、午種族で集まった盗賊団みたいだな。取り敢えず風で加速して懐へ。
「なんだてめ……うぐっ!」
まず一人目! 午獣人の懐に潜り込み掌打で顎を打ち上げる。午獣人は馬頭鬼でも想像して貰えば良いと思う。顎が手前に長いから狙い易い。
「てめぇ! 何しやが……ぐぁああ!」
二人目は午人だ。顎を打ち上げた反動で、そのまま足を跳ね上げ蹴り飛ばす。午人は馬面で背が高く小さな耳が頭に付いている。フサフサの尻尾もあるようだ。こいつはブ男だが、人によっては男前な奴もいそうな気がする。
二人目の男は他の盗賊達の所に吹き飛び、当たり所が悪かったのか、一人巻き込んで昏倒した。これで三人か?
「きぃさまぁ! 俺達を誰だと思ってんだ! 泣く子も黙る盗賊だ……んがぁっ!」
四人目! テンプレ台詞は最後まで言わせねぇよ。側に居た午人の顎に裏拳を掠らせるように当てる。四人目の男は涎を垂らし白目を剥いて倒れこむ。
おお? 意外と対応早いな。残りの十一人は武器を構えて臨戦態勢だ。理術の行使を始める者も居る。
多対一時の基本は囲まれない事、一対一の状況を作り出すことだ。だがこの程度の相手なら構う事もあるまい。逆に理術を使う者が居るのなら、飛び込んだ方が安全だ。何故ならば同士討ちを避けるために、範囲の広い理術は使うのを躊躇うからだ。単体の理術なら……おっと火理術で起された“火球”が飛んできた。サイドステップであっさり避ける。避けるのは簡単だからな。
一斉に掃射されるのが一番困るが、練度が低いのか発動のタイミングを合わせられて居ない。散発的に飛んでくる“火球”や“風弾”を左右にピョンピョン飛んで避ける。まるで獲物を追い詰める狼のような動きだ。
体勢を低くして一番近い盗賊へ一気に接近する。盗賊は慌てふためき、剣を滅茶苦茶に振り回す。もちろんそんな適当に振り回しているものに当たる訳も無い。剣の腹を片手で捌き、そのまま盗賊の膝を踏み台にして体を駆け上がった。「ゴキッ」って音がしたな……膝折れたか? 野生の馬は足骨折すると生きていけないと聞くが……こいつ等はどうなんだろうな? などと益体も無いことを考える余裕すらある。
駆け上がった勢いをそのままに跳躍して、盗賊の集団の丁度真ん中辺りに着地した。盗賊達は、左右の動きに慣れていたため、上下の動きに翻弄され反応が鈍い。後は一人づつ当身で昏倒させて行った。……あれ? 何人倒したっけ?
二人の馬獣人が逃げていく。うん。十三人だったのな……逃げられると思っているのか? 追い掛けようとしたが、後ろから理術を行使した反応を感じた。
「はい! ドーン!」
千香華の掛け声と共に、逃げていた二人の姿がスッと消える……消えたのではなく落ちたようだ。あの距離から落とし穴を作るとは……狙ってたな? 千香華を見るとニヤリと笑った。ドヤ顔にイラっときたが、確かに良いフォローだったから何も言えないか。
兎に角、その場に居た盗賊は全て無力化した訳だが、異変は突然起こった。盗賊達の内、数人の腰の辺りから茶色い何かが飛び出してきた。何事かと思い咄嗟に距離を取る。
飛び出してきた何かは、体長三十センチ程の……モコモコとした小動物のようだった。若干長めの手を広げ此方に近付いてくる。しかしその速度は遅く。歩いていても追いつかれるような事は無さそうだった。ただ俺の目には凄く不気味に映った。盗賊から飛び出してきたそいつらは、最終的には五匹になり俺目掛けて歩いてくる。敵意は無い様なのが逆に恐ろしい。
何か解らないが下手に近寄るのは、やばいのか? 理術で吹き飛ばしてしまおう! と考えた所で千香華から声が掛かった。
「ケイ! 動かないで好きにさせてあげて。そいつらオブサロリスだよー」
は? オブサロリス? ってなんだっけか? 覚えが無いぞ?
「何だそれは? そんなものは知らん! 兎に角どうにかしてくれないか?」
「オブサロリスは……あれ? ケイはこの魔物知らないの?」
「知らないって言ってるだろ? なんでこいつ等俺を追って来るんだよ!」
オブサロリスは、あまり強くは無い魔物で、強い者に保護してもらって生きているそうだ。その名が示す通りおぶさるロリス……こういった千香華がデザインして、俺が認知していない魔物は沢山居る。
俺が物語に書くときは、千香華に『こういった感じの魔物が使いたいんだけど?』と話せば膨大な数から選んで『これと……これなんかどう?』と見せてくれるという形式で執筆していた。その中の一匹なのだそうだ。
こいつ等は実は有袋類で“袋の中で一族を養っている”……意味が解らないだろう? 俺も解らない。なんでもこいつの袋の中には、どんな物でも入るらしい。簡単に言うと不思議空間だ。入り口よりも大きいものが入るし、重さも無くなる。……青いタヌキのあれか?
ただし、こいつ等には限界容量があるそうだ。それを補う為にとある習性があり、その習性は、より強い者におぶさったオブサロリスの袋の中に他のオブサロリスが入り、その一族になるというものだ。中に入っているオブサロリスが増えれば、その分容量が増えるというわけだ。
つまりこいつ等が今必死に俺を追いかけているのは、他の一族を傘下に治めるための生存競争って事になるのか? そう考えると益々恐ろしい。無垢なようで腹黒く見えてくるな。勿論、千香華が説明してくれている間も、俺はそいつ等を避け続けている。
ロープ等は持っていなかったので、盗賊達を拘束する方法も無い。その為千香華が一人ずつ理術で土に埋め込んでいた。その作業をしながら千香華は言った。
「ケイー。いい加減掴まらせてやってよ。盗賊達が復活しちゃうよー?」
一応頭だけは出ているが、生首が増えていく様で気持ち悪い。
「いやいや。ご主人様は面白いお方ですなぁ」
「ちょっと待て! 爺さん! 俺はお前の主人になった覚えは無いぞ!?」
「なんですと! そんな事言わないでくだされ。ほら! 坊ちゃまも何とか言ってください!」
「誰が坊ちゃまだー!」
このまま避け続けても仕方が無いので、そんな会話をしつつも俺はオブサロリス達を観察していた。一匹だけ他のオブサロリスよりも色が薄い奴がいるのだが、そいつは押し退けられようが、他の奴に邪魔されようが、諦めずに真剣な眼で俺を追ってくる。他の奴の邪魔などしない、ただ愚直に俺に向って歩を進める。ただ他の奴よりも少し足が遅いようだ。
俺は何だかそいつの事が気に入った。俺はそいつを摘み上げ肩に乗せてやった。本来はやってはいけない事かもしれないがな。まあ、神の気まぐれって奴だ。諦めない奴には手を差し伸べてやりたくなるもんさ。
肩に乗せるとそいつは、驚く程の速度で俺の体を移動して腰の辺りに落ち着いた。定位置なのだろうか? それを見た他のオブサロリス達は、少し残念そうな顔をしながらも、俺に近付いてくる。そして足に掴まった途端に素早い動きで俺の体をよじ登り、初めに掴まった色の薄い奴の袋の中に納まっていく。
本当に全部入りやがった……明らかにこいつの体積よりも多い筈なのにな?
「オブサロリスも私も新しい主人が決まったようで、めでたい事ですなぁ」
「「お前は決まってねぇだろ!」」
俺と千香華が揃ってその言葉を否定した。




